公職選挙法で示されている「合区」の解消を憲法的に実現しようとする自民党の改憲案を検討する。
合区解消に関する自民改憲条文案 2018/02/16
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たたき台は、国政選挙について法律で定めるとしている47条に、選挙区の区割りは行政区画などを勘案するとの条文を追加。さらに参院議員が「広域的な地方公共団体の区域から少なくとも一人が選出される」などのただし書きを加える。
また憲法に都道府県の記述がないことから、92条に都道府県と市町村を地方公共団体とする条文を追加する。国会議員を「全国民の代表」とする43条と「法の下の平等」を定めた14条は改正しないため、両条文に基づく「投票価値の平等」と、都道府県からの選出を義務づけるたたき台が矛盾する可能性もある。自民は今後具体的な条文作成に入るが、「1票の格差」の是正策は各党の溝が大きく、他党から異論が出そうだ。
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年内集約断念 参院合区解消は大筋了承 2017年11月16日
「合区解消」の自民改憲案たたき台
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第47条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める 。
(第1項などとして追加)
〇 各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない。
(ただし書き)
〇 参議院議員の全部または一部については、改選ごとに各広域的な地方公共団体の区域から少なくとも一人が選出されるよう定めなければならない。
第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める 。
(追加)
地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域的な地方公共団体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。
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出典は上記と同じ。
合区解消は、「公職選挙法」と「地方自治法」の法改正で全く対応できる。それらの条文を詳しく見てみよう。
公職選挙法
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別表第三(第十四条関係) 下線部分が合区にあたる
選挙区
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議員数
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北海道
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六人
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青森県
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二人
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岩手県
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二人
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宮城県
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二人
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秋田県
|
二人
|
山形県
|
二人
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福島県
|
二人
|
茨城県
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四人
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栃木県
|
二人
|
群馬県
|
二人
|
埼玉県
|
六人
|
千葉県
|
六人
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東京都
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十二人
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神奈川県
|
八人
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新潟県
|
二人
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富山県
|
二人
|
石川県
|
二人
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福井県
|
二人
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山梨県
|
二人
|
長野県
|
二人
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岐阜県
|
二人
|
静岡県
|
四人
|
愛知県
|
八人
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三重県
|
二人
|
滋賀県
|
二人
|
京都府
|
四人
|
大阪府
|
八人
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兵庫県
|
六人
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奈良県
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二人
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和歌山県
|
二人
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鳥取県及び島根県
|
二人
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岡山県
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二人
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広島県
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四人
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山口県
|
二人
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徳島県及び高知県
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二人
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香川県
|
二人
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愛媛県
|
二人
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福岡県
|
六人
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佐賀県
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二人
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長崎県
|
二人
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熊本県
|
二人
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大分県
|
二人
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宮崎県
|
二人
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鹿児島県
|
二人
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沖縄県
|
二人
|
また、上記の改憲案の言う『各広域的な地方公共団体の区域』というのは、もう一つの改憲案である「地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域的な地方公共団体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。」のことを指しており、その種類は結局法律で定めるのである。
『広域的な地方公共団体』というものを基準として選挙区をつくろうとする考え方であるようであるが、その基準となっている『広域的な地方公共団体』には、地方自治法6条の「都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、法律でこれを定める。」の規定が適用されるのである。
となると、『広域的な地方公共団体』の境界線を基準として「選挙区」を配置するのか、「選挙区」を基準として『広域的な地方公共団体』の境界線を確定するのかというだけの問題であることに行き着く。
その両者は結局は国会の立法する法律によっていかようにも変更ができるのである。
つまり、現在の法律でそのようになっているものを、憲法規定として追認することだけを目的とした改憲案なのである。しかも、法律規定のまま置いておけば法分野の簡潔性を保てるものを、無理に憲法規定へと明記しようとするだけのものである。その弊害として、法分野ごとのコンセプトが乱れ、法体系の簡潔な整理を損なうものである。それに明白な意義を見出すことはできないのではないだろうか。
上記記事においても、「国会議員を『全国民の代表』とする43条と『法の下の平等』を定めた14条は改正しないため、両条文に基づく『投票価値の平等』と、都道府県からの選出を義務づけるたたき台が矛盾する可能性もある。」との記載がある。
これは、【人権規定】である14条の規定と、【統治規定】である43条・改憲する47条の規定が競合する問題である。投票価値の不平等に関する訴訟が起こされた際、公職選挙法の規定について裁判所で違憲審査がなされることとなり、適用する憲法上の条文をどの規定とするのか判断がなされることとなる。
その際に、条文の性質がどのような考え方で適用されるのか考えてみよう。
〇 【人権規定】である14条は、具体的な人権として保障されることになると考えられる。
〇 【統治規定】である43条と47条については、『制度的保障説』が採用されることとなると考えられる。
このように、【人権規定】と、【統治規定】が競合した場合には、その条文の優劣を決める必要がある。この際、【総則規定】である第10章「最高法規」に記載された97条の実質的最高法規の規定が適用され、【人権規定】が【統治規定】に対して優越する形で適用されることとなると考えられる。なぜならば、97条の趣旨より、憲法は人権保障を目的としてつくられた法であり、【統治規定】の手続きや制度はその手段に過ぎないものとされているからである。
☆ 制度的保障について、詳しくは「『憲法』芦部信喜(高橋和之)」がおすすめ。
<書籍の目次より>
第二部 基本的人権
第五章 基本的人権の原理
三 基本的人権の内容
3 制度的保障
☆ 実質的最高法規について、詳しくは「『憲法』芦部信喜(高橋和之)」がおすすめ。
<書籍の目次より>
第一部 総論
第一章 憲法と立憲主義
四 憲法規範の特質
3 最高法規
(抜粋)
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このように、憲法の実質的最高法規性を重視する立場は、憲法規範を一つの価値秩序と捉え、「個人の尊重」の原理とそれに基づく人権の体系を憲法の根本規範(basic norms)と考えるので、憲法秩序の価値序列を当然に認めることになる。この考えが、人権規定の解釈や憲法保障の問題においてどのような役割を果たすかについては、後に述べることにする(第五章━第十三章・第十八章)。
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Wikipediaもチェックしておこう。
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最高法規と国法秩序
実質的最高法規性
憲法の最高法規性の実質的根拠は、憲法が自由の基礎法として、人間の権利・自由をあらゆる国家権力から不可侵なものとして保障するという理念に基づきその価値を規範化したものという点にある。
憲法の実質的最高法規性を重視する立場では、人権体系を憲法の根本規範と解し、憲法規範には価値序列があることを認める。
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憲法(最高法規性と国法秩序) Wikipedia
【動画】【司法試験】<無料体験>2023年合格プレミアムコース開講!伊藤塾長の講義を体験しよう~基礎マスター憲法1-3~ 2023/04/11
そうなると、投票価値についての訴訟が提起された場合、裁判所の憲法審査において【統治規定】の第四章「国会」に記載する合区解消を目的とした改正47条の規定は、【人権規定】の14条「法の下の平等」の規定によって無効化されることとなると考えられる。すると、何のために改憲したのか意味が分からなくなってしまうのである。合区の在り方を是正しようとして改憲したはずなのに、47条は裁判所の憲法審査において死文化するのである。規定の効力が失われてしまうことから、結局、意味のない規定となってしまうと考えられるのである。
このような問題を解決しない限り、この改憲案はまともに労力を費やして改憲を目指すべきものとは言えないだろう。そもそも、合区の解消を都道府県単位の選挙区とすることで是正しようという発想に問題があるのではないだろうか。
現実の不具合を憲法理念に従って法律的・政策的に解決するのではなく、現実の不具合を正当化するために憲法を改正しようという発想なのである。これは、不正行為を正当化するためにルール変更を試みるような発想に近いものがある。
まず、合区を解消し、選挙区を都道府県という枠組みを保つことについて、「投票価値の平等原則」を上回る程の合理的必要があるかどうかについて徹底的に証明を行う必要があるだろう。それがなされていない段階での改憲は、やはり不正と言わざるを得ないのではないだろうか。
理念が乱れた改憲議論であるからこそ、発想に歪みがあり、様々な不都合が現れるのである。まずは憲法議論以前に、法律論・政策論として、基本的人権の尊重、立憲主義、国民主権、民主主義の観点から再考する必要があるだろうと思われる。
もし憲法議論としたいのであれば、深い理解によって生まれる妥当性の高い憲法理念を確立し、その理念から派生する形で導き出した案を提示するべきだろうと思われる。この提案では、憲法という役割を、単なる上位法として正当化のためだけに使う道具としてしか見ていないように思われる。
憲法の正当性がいかなる認識によって生み出されているのかという部分に対する理解が欠けており、憲法という高い位にある権威を「もともとそういうものだ」と安易に信じてしまっているように見えるのである。憲法の正当性の権威性がどこから生まれており、なぜ上位法として君臨しているのかという実質的最高法規性の観念に対する理解が必要となると思われる。
【人権規定】と【統治規定】の競合を、【総則規定】の97条「実質的最高法規(人権保障のための法であるが故に最高法規である)」の趣旨に鑑みて【人権規定】を優先的に適用する考え方について、詳しくは当サイト「11条と97条は重複なのか」でも紹介している。
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「選挙区などは法律で定める」としている憲法47条を改正し、「改選ごとに、都道府県から少なくとも1人は参議院議員を選出することができる」などと規定する考え方が示されました。
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自民 憲法改正案取りまとめへ議論再開 2017年11月16日
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推進本部執行部の提案は、国政選挙に関する47条に、各都道府県から改選ごとに1人以上選出できる、との趣旨を盛り込み、地方自治体の組織・運営に関する92条も改めるというもの。都道府県を選挙区の基礎単位とする内容で、異論は出なかったという。たびたび区割りが変わることに不満が根強い衆院選への適用を検討すべきだとの声も出た。
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合区解消へ、47条と92条改憲の方針 自民の推進本部 2017年11月16日
想定される改憲案
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第4章 国会
〔議員の選挙〕
第47条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
(改憲案1)
第47条 改選ごとに、都道府県から少なくとも1人は参議院議員を選出することができる。
(改憲案2)
第47条 各都道府県から改選ごとに1人以上選出できる。
第8章 地方自治
〔地方自治の本旨の確保〕
第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
(改める)
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この改憲案は、憲法の【統治規定】である第四章「国会」と第八章「地方自治」の章の条文の改正を試みるものである。
上記の図の「茶色の法律名」はクリックできます。e-Govの条文へジャンプします。
この改憲案では、憲法の規定以外にも、「地方自治法」と「公職選挙法」が関わります。
まず、「都道府県」という用語や単位は、現行憲法の中には存在しない。これらは地方自治法(1条の3 2項で定められた用語や単位である。
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第一条の三 地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。
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憲法中では、「地方自治」、「地方公共団体」という言葉より詳細な単位は記載していない。それは、憲法事項ではなく、法律で定めることにしているからである(92条、93条、94条、95条)。
直接の関係はないが、そのような方針から、当然に選挙区に関しても法律で定めることを想定していると考えられる(47条)。
「都道府県」という単位の定義が、地方自治法1条の3 2項に存在しているのに、その法律の文言を根拠に憲法中に都道府県という単位を設けるというのは、憲法の最高法規性の序列関係から見てもおかしなものとなる。
また、「都道府県」という文言を憲法中に加える場合、その区域とは一体何かという問題も発生する。なぜならば、「都道府県」の区域についても、地方自治法に定められたものだからである。
地方自治法
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第二編 普通地方公共団体
第一章 通則
第五条 普通地方公共団体の区域は、従来の区域による。
○2 都道府県は、市町村を包括する。
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このように、「都道府県」という文言を憲法中に書き込んだ場合、「都道府県の区域については、法律でこれを定める。」などの文言も必要となってくるのである。
そうなると、そもそも「都道府県」という単位や区域の線引きは一体何だったのかということになってくる。「選挙区」の線引きを変えようとしているのにもかかわらず、「都道府県」という線引きを法律で変更できるのであれば、合区であったりなかったりという問題の根本は、結局は「都道府県の区域」か「選挙区の区域」のどちらかを法律改正で変更してしまえば同じことであり、何のために「都道府県」という文言を憲法中に書き込むのか意味が分からなくなってしまう。
地方自治法では、「都道府県」や「市町村」などの区域や境界の変更について、下記のように定めている。
地方自治法
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第六条 都道府県の廃置分合又は境界変更をしようとするときは、法律でこれを定める。
○2 都道府県の境界にわたつて市町村の設置又は境界の変更があつたときは、都道府県の境界も、また、自ら変更する。従来地方公共団体の区域に属しなかつた地域を市町村の区域に編入したときも、また、同様とする。
○3 前二項の場合において財産処分を必要とするときは、関係地方公共団体が協議してこれを定める。但し、法律に特別の定があるときは、この限りでない。
○4 前項の協議については、関係地方公共団体の議会の議決を経なければならない。
第六条の二 前条第一項の規定によるほか、二以上の都道府県の廃止及びそれらの区域の全部による一の都道府県の設置又は都道府県の廃止及びその区域の全部の他の一の都道府県の区域への編入は、関係都道府県の申請に基づき、内閣が国会の承認を経てこれを定めることができる。
○2 前項の申請については、関係都道府県の議会の議決を経なければならない。
○3 第一項の申請は、総務大臣を経由して行うものとする。
○4 第一項の規定による処分があつたときは、総務大臣は、直ちにその旨を告示しなければならない。
○5 第一項の規定による処分は、前項の規定による告示によりその効力を生ずる。
第七条 市町村の廃置分合又は市町村の境界変更は、関係市町村の申請に基き、都道府県知事が当該都道府県の議会の議決を経てこれを定め、直ちにその旨を総務大臣に届け出なければならない。
○2 前項の規定により市の廃置分合をしようとするときは、都道府県知事は、あらかじめ総務大臣に協議し、その同意を得なければならない。
○3 都道府県の境界にわたる市町村の設置を伴う市町村の廃置分合又は市町村の境界の変更は、関係のある普通地方公共団体の申請に基づき、総務大臣がこれを定める。
○4 前項の規定により都道府県の境界にわたる市町村の設置の処分を行う場合においては、当該市町村の属すべき都道府県について、関係のある普通地方公共団体の申請に基づき、総務大臣が当該処分と併せてこれを定める。
○5 第一項及び第三項の場合において財産処分を必要とするときは、関係市町村が協議してこれを定める。
○6 第一項及び前三項の申請又は協議については、関係のある普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない。
○7 第一項の規定による届出を受理したとき、又は第三項若しくは第四項の規定による処分をしたときは、総務大臣は、直ちにその旨を告示するとともに、これを国の関係行政機関の長に通知しなければならない。
○8 第一項、第三項又は第四項の規定による処分は、前項の規定による告示によりその効力を生ずる。
第七条の二 法律で別に定めるものを除く外、従来地方公共団体の区域に属しなかつた地域を都道府県又は市町村の区域に編入する必要があると認めるときは、内閣がこれを定める。この場合において、利害関係があると認められる都道府県又は市町村があるときは、予めその意見を聴かなければならない。
○2 前項の意見については、関係のある普通地方公共団体の議会の議決を経なければならない。
○3 第一項の規定による処分があつたときは、総務大臣は、直ちにその旨を告示しなければならない。前条第八項の規定は、この場合にこれを準用する。
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他にも、「都道府県」は憲法規定とするが、「市町村」は法律規定とするというのであれば、なぜ「都道府県」という地方自治の単位だけを憲法規定として特別扱いするのか明確な理由も必要となる。地方自治を法律改正によって「都道府県」よりも大きな単位である「道州制」を導入したり、「都道府県」という分類と対等な新たな分類を設けたり、「準都道府県」や「都道府県群」、「広域特別指定地域」、「市町村」よりも細かい単位として「集落」、「団地」などを設けるなどの可能性にも地方自治法の改正によって柔軟に対応しようとする趣旨が失われてしまうのである。
合区解消は、公職選挙法と地方自治法の法改正で全く対応できるものであり、むしろその方が将来の変容する国政の状況に柔軟に対応していくことのできる法形式であると言えるのではないだろうか。憲法規定として硬性化し、政策的に区域や境界の変更が必要な際に、かなりの国費を消費してしまう国民投票を実施しなくてはならないこととするのは、必ずしも国益に沿う結果となるとは考えられない。
この案は、またしても「憲法と法律の役割をどこで線引きするか」という憲法コンセプト全体に関わる問題である。なぜ憲法規定としなくてはならないのか、その必然性が明白でないのである。
「憲法と法律の役割をどこで線引きするのか」という憲法コンセプトが国民や政党、法学界で明確となっていない状況で安易に改憲を行うことは、他の項目の改憲を重ねていく際に憲法の役割を広げていく前例となり、合理的に計算された憲法コンセプト全体の体系的な整理を損なっていくことが考えられる。
そうなると、法学を学習する際に法律規定との重複部分や守備範囲の競合、法分野ごとのコンセプトの混乱などが生じ、憲法の全容が分かりにくくなる。すると、国民の多くは法学を学ぶ疲労感や負担感が大きくなり、法への拒絶反応が今以上に大きくなってしまう。この事態は、法が社会に広まり、秩序を生み出していく法の効力それ自身を弱めてしまうことに繋がると考えられる。
憲法の「アクセシビリティ(見やすさ、分かりやすさ、使いやすさ)」を保つことは、国民が憲法の理念や考え方を理解していく際に重要なことである。なぜならば、理解のしやすさという魅力を保つことは、法の秩序を形成するために法の内容を広める際に、人々の意識の中に受け入れられやすく、広まりやすいからである。憲法コンセプトに乱れを生じさせ、アクセシビリティの整った法形式を失わせてしまうことは好ましいものとは言えないだろう。
この程度の改憲でアクセシビリティに大きな影響はないと考える者もいるとは思う。しかし、小学生や中学生などの成長段階にあるレベルの者や、学習を十分に受けることができなかった者、人生の中で大変な学習嫌いになってしまっている時期にある者、日本語の得意でない外国人など、様々な境遇の人々が存在していることを考えると、法分野のコンセプトが理解しやすいというアクセシビリティにも十分な注意を払い、受け手の負担を減らして理解を導くことができるようによく考えてつくり上げていくことは大切なことであると思われる。
これらのことから、憲法のコンセプトが十分に整理されていない段階で、合区解消を目的としたこのような改憲案を持ち込むことは、憲法の体系的な美しさや法分野の切り分けの簡潔性を保つためにも問題が多いと言えるだろう。
まだ分析中ですが、お読みいただきありがとうございました。
<理解の補強>
合区解消、改憲「呼び水」に=自民―公明や野党は距離 2017/11/17
自民改憲案のたたき台と現行条文 2017/11/16
自民の合区解消改憲案 「参院論」が単純に過ぎる 2017年11月20日
自民党憲法改正推進本部の再開など 石破 茂 2017年11月17日
参議院一人区 Wikipedia
参議院合同選挙区 Wikipedia
参議院議員通常選挙 Wikipedia
第3回 「合区」解消へ「改憲」? 法学館憲法研究所 2016年8月8日
第20回 「全国民の代表」とは? 法学館憲法研究所顧問 2016年5月9日
第19回 「一票の格差」と「地域格差」 法学館憲法研究所顧問 2016年4月5日
木村草太の憲法の新手(65)昨年参院選「合憲」判決 現在の合区、一部の県だけを犠牲に 2017年10月1日
「参院合区解消」の条文案示す 自民党改憲本部役員会 2018.2.15
合区解消案、16日提示=自民改憲本部 2018/02/15
自民改憲推進本部、条文の素案を初提示 「合区」の解消 2018年2月15日
自民、「合区」解消条文案を了承 都道府県に1人以上 2018年2月16日
「一票の平等」原則と矛盾はらむ 合区解消を改憲条文化 2018年2月17日
脱「人口比」を優先 揺らぐ「投票価値の平等」 議員向けのお手盛りだ 高見勝利・上智大名誉教授(憲法)の話 2018年2月17日
(社説)憲法70年 「合区」改憲、筋通らぬ 2018年2月17日
自民の合区解消案 憲法との整合性が問われる 2月19日
参議院合区解消のための改憲を言い出す自民党の党利党略 2018/02/17
憲法は自民党のオモチャじゃない 2018年02月18日
<社説>自民「合区」解消 憲法改正とは関係ない 2018年2月20日
合区解消改憲案 法の下の平等に反する 2018年2月20日
自民合区解消案 参院の権限の議論が足りない 2018年02月21日
参院選合区解消 憲法改正が必要な問題か 2018年02月23日
憲法の岐路 参院審査会 発議できる状態に遠い 2018年2月24日
参議院の合区問題を考える 2018.2.17
強い参院権限見直しも 連続視標「自民改憲条文案」4回続きの(1)合区解消 2018年3月24日
【講演会動画あり】自民改憲案に警鐘 そのポイントは? 木村草太教授が沖縄で語る 2018年3月28日
(動画は1時間11分頃より合区解消について)
青井未帆さんに聞いた(その1):自民党の「改憲4項目」を、改めて検証する 2018年3月28日
【詳しい】緊急意見書 「安倍改憲は戦争への道」 自民党改憲素案を批判する 2018年4月12日 PDF
(緊急意見書 「安倍改憲」は戦争への道 ―― 自民党改憲素案を批判する 2018年4月12日 PDF)
投票価値の平等前提に 参院選制度で井上氏 2018年4月17日
(社説)憲法70年 権力の均衡を取り戻す 2018年4月22日
3 参院合区解消/教育 「国民の代表」と矛盾も 1票の平等、揺らぐ恐れ 2018年5月3日
時代の正体〈600〉改憲のための改憲は愚 憲法学者・南野森さん(下)合区と教育 2018/5/19
No. 63~参院合区と憲法の関係について~ 2018.7.1
知っていますか 合区をめぐる問題 2020.1.30
【動画】参議院 政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会 2021年5月12日
民主主義を否定する参院「合区解消」案は人口減少地域の既得権を守るため 2021/12/01
【壊憲・改憲ウォッチ(3)】「教育無償化(充実化)」「合区解消」について 2022年3月2日
【動画】伊藤真弁護士の「考えよう!自民党改憲4項目」 批判的考察 Part 3 2022/04/22
【動画】緊急事態条項を立法事実から考える~受講生・受験生の皆さんへ第182弾 2023年5月25日
【自民党憲法改正案の問題点:第47条2項】「一票の格差」を合憲に 2020.12.15
憲法改正案 憲法草案 改憲案 加憲案