◇ 憲法前文の第一段落「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、」
◇ 97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、」
このように、自由を由来として人権概念を創造している。
◇ 憲法の前文の第一段落「ここに主権が国民に存することを宣言し、」
人権を根本規範として主権(最高決定権)を持つ主権者が生まれる。
◇ 憲法の前文の第一段落「この憲法を確定する。」
この主権者が憲法を制定することによって、統治権(国家権力)が構成され、国家が形成される。
流れ
〇 一人一人に「人権」という概念が存在するという合意
↓ ↓ ↓
〇 「人権」を有する一人一人の国民に「主権(最高決定権)」が存在すると考える
↓ ↓ ↓
〇 「主権(最高決定権)」を行使して統治権を構成し、その正当性を裏付ける
↓ ↓ ↓
〇 統治権に国民一人一人の「人権」を保障させる
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㈡ 人権の根本規範性 近代憲法は、本来、「人は生まれながらにして自由であり、平等である」という自然権の思想を、国民に「憲法を作る力」(制憲権)が存するという考え方に基づいて、成文化した法である(第一章四2参照)。
この人権(自由の原理)と㈠にふれた国民主権(民主の原理)とが、ともに「個人の尊厳」の原理に支えられ不可分に結び合って共存の関係にあるのが、近代憲法の本質であり理念である(第三章一2参照)。したがって、憲法改正権は、このような憲法の中の「根本規範」とも言うべき人権宣言の基本原則を改変することは、許されない(前頁の図を参照)。もっとも、基本原則が維持されるかぎり、個々の人権規定に補正を施すなど改正を加えることは、当然認められる。
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憲法 第七版 芦部信喜 高橋和之 2019/3/9 (P410) (下線は筆者)
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主権の保持者としての国民が、その権能を行使し、憲法を制定する場合は、その行為は、国家の行為として、国家に帰属せしめられる。したがって、この場合の国民は、国家の機関としての地位が認められ、その法的根拠をなすものは、根本規範である。そうして、主権の保持者として、憲法を制定する国民は、もっともすぐれた意味において「国権の最高機関」である。
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憲法Ⅰ 清宮四郎 法律学全集3 有斐閣 (P94) (太字は筆者)
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わが日本国憲法は、その前文で、民主制の原理は、「人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」といっている。民主制の原理を、根本規範、憲法の憲法とみて、明治憲法を排して日本国憲法をつくったのも、この立場からであり、将来の行為についても、民主制の原理に矛盾する内容のものは、いっさいその成立を排除し、憲法改正の方法によるものでもこれを許さないというのである。
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憲法Ⅰ 清宮四郎 法律学全集3 有斐閣 (P324) (太字は筆者)
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近代憲法は、沿革的にも、人間の自然権を保障する永続的な規範に国家権力を服せしめるために制定されたものである。憲法が法律と質的に区別され、最高法規たる性格を与えられる実質的根拠は、そこにある。この憲法の理念、すなわち基本的人権を保障することによって国家権力を制限し、かつ国家権力に一定の形体を与える立憲主義(法の支配)の原則は、古典的な自然法の理論をはなれて独立に意味をもつ憲法の本質とも言うべきものであろう。国民の制憲権の思想は、かような人権の憲法的保障をかちとるための手段として、アメリカ独立革命・フランス大革命に至ってはじめて体系的に主張され、憲法制度にもとり入れられたイデオロギー的概念であったのである。この立憲主義と国民主権(制憲権)との相互補完または目的・手段の関係は、現代においても基本的には少しも変わらない。自由と平等、自由と生存は民主的政治秩序に不可欠の前提であり、また民主政治秩序においてのみ自由と平等は権力の濫用からみずからを防衛し、真の生存が確保されるからである。私がかつて、基本的人権を最高の法価値とする近代憲法の根本規範は、実体化された超実定法として、「制憲権が自己の存在を主張するための基本的な前提であり、制憲権の活動を拘束する内在的な制約原理である」と述べた(本書四一━四二頁)趣旨は、そこにある。そうだとすれば、人間人格の自由な発展と尊厳を犯す人権保障規定の変更、および人権の保障にとっての必須の━━その意味では日本国憲法前文のいう「人類普遍の原理」としての━━民主制の原則の変更を憲法改正権によって行なうことは、法理上不可能というほかなかろう。
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憲法制定権力 芦部信喜 1983/1/1 (P100~101) amazon (下線・太字は筆者)
「国家」という共同体の単位(枠組み)を定めている要因は、対内的な「最高性」と対外的な「独立性」にある。これは「主権(最高独立性)」と呼ばれている。
この「主権(最高独立性)」は、「統治権」に付随して発生する。
その「統治権」は、憲法を制定することによって構成される。
その憲法は「主権(最高決定権)」によって正当性を裏付けられる。
その「主権(最高決定権)」は、一人一人に備わっているとする「人権」という概念から導き出した概念である。
国家という単位
↑
主権(最高独立性)
↑
主権(統治権)
↑
憲法制定
↑
主権(最高決定権)〔国民主権〕
↑
人権〔根本規範〕
これを反対から見ると、下記のようになる。
一人一人に「人権」が備わっているという前提から、人々に「主権(最高決定権)」〔国民主権〕が発生する。
その「主権(最高決定権)」に基づいて憲法を制定し、「統治権」を構成し、その「統治権」の正当性を裏付ける。
その「統治権」は対内的な「最高性」と対外的な「独立性」を備え、「主権(最高独立性)」が発生する。
これにより、国家が誕生する。
人権〔根本規範〕
↓
主権(最高決定権)〔国民主権〕
↓
憲法制定
↓
主権(統治権)の発生
↓
主権(最高独立性)
↓
国家の誕生
そのため、この「国家」という共同体の単位は、究極的には「人権」という概念から生み出されており、人権を保障することを目的としてつくられた頭の中の合意事としての単位ということである。
<理解の補強>
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(ロックの自然権思想から政府をつくり上げるという社会契約説について)
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(アメリカの独立宣言と自然権・社会契約による政府・抵抗権について)
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主権の意味
「主権」の意味は、大きく3つある。
① 統治権 〔対内主権〕
国民および領土を統治する国家の権力のこと。「統治権」
② 最高独立性 (最高権)〔対外主権〕
他国の支配に服さない最高独立性のこと。国家の構成要素のひとつで、最高・独立・絶対の権力。
③ 最高決定権 (最高機関の地位)〔最高決定力〕
国家の政治のあり方を最終的に決める権利のこと。「国民主権」、「君主主権(天皇主権)」など。
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一般に、「主権」及び「国権」という言葉は、必ずしも一定の意味で用いられているわけではなく、「主権」という言葉は、第一に国家の意思の源泉、言い換えれば国家の政治の在り方を最終的に決定する力、第二に国家の意思が最高、独立であること、第三に国家の意思、第四に統治権というような意味で用いられ、「国権」という言葉は、第一に国家の意思、第二に統治権というような意味で用いられているところと承知している。
お尋ねの憲法上用いられている「主権」という言葉のうち、前文第一段落及び第一条の「主権」は、右で述べた主権の意味のうち国家の意思の源泉というような意味で、前文第三段落の「主権」は、右で述べた主権の意味のうち国家の意思が最高、独立であることというような意味で用いられていると考える。
また、お尋ねの憲法第九条及び第四十一条の「国権」は、右で述べた国権の意味のうち国家の意思というような意味で用いられていると考える。
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日本国憲法における国権と自衛権との関係に関する質問に対する答弁書 平成14年3月8日
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○角田(禮)政府委員 主権という概念は、もともと必ずしも一定の意味に使われてないと思います。また、学者の説くところもいろいろございます。したがいまして、私がここで断定的に申し上げることはできませんけれども、学者の説くところをおおむね総合してまいりますと、主権という言葉には通常三つの意味があるというふうに言われます。
第一の意味は、国の最高の意思という意味であります。これは、国民主権とか、わが憲法で言えば前文の一項だとか第一条に書いてあるような意味でございます。
それから第二の意味は、国家権力が最高、独立であることという意味であります。これは憲法で言えば前文の第三項に、他国の主権を害してはならないというのでしたか——正確に申し上げます。(稲葉委員「いいよ」と呼ぶ)そういう意味がございます。これは主権国家というような場合にもそういう言葉が当てはまると思います。
それから第三の意味では、単純な統治権というような意味に使われると思います。これは憲法の上には、そういう言葉は直接には出ておりません。そういう意味の言葉は出ておりませんが、立法、行政、司法、三権についてそれぞれ章が設けられて権限が規定されておりますが、ああいう三つの権限を総称したものとして統治権という言葉を主権という言葉で言うことがあると思います。なお、旧憲法には「天皇ハ」「統治権ヲ総攬シ」という言葉がございました。
第四の施政権という言葉でございますが、これはただいま稲葉委員が御指摘になりましたように、国際法上の概念としては、国連憲章に出てまいる——直接には「施政権者」という言葉で出てまいります。つまり、人民が完全な自治を行うに至っていない地域について立法、司法、行政を行う権限としてそういう意味が使われていると思います。ただ、施政を行うとか施政を行う権限というような意味で、先ほど申し上げました第三の統治権に近い意味で使われることは常識的にはあるかと思いますが、正確には、国際法上の観念としては、先ほど稲葉委員が御指摘のとおりだと思います。
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第93回国会 衆議院 予算委員会 第2号 昭和55年10月11日
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宮沢も含めて、彼以降の憲法の教科書では、主権には3種の意味があると説明されている。第1に、国家権力の最高性・独立性という意味。第2に、国家権力(統治権)という意味。第3に、国の政治のあり方を最終的に決定する権威または力、という意味で使われることがある。国民主権か君主主権かが問われるときは、第3の意味で主権ということばが使われているとされる(宮沢俊義『憲法』〔改訂5版〕(有斐閣、1980)7-8頁)。
こうした主権ということばの用法の説明は、美濃部達吉に遡ることができる。『憲法撮要』〔改訂5版〕(有斐閣、1932)41頁以下で美濃部は、「第一の意義に於ては主権は最高又は独立の意に用いらる」、「第二の意義に於ては主権は国家の意思力の意に用いらる」、「第三の意義に於ては主権は統治権の意に用いらる」、「第四の意義に於ては国家の最高機関意思の意に用いらる」とする(漢字・かなの旧字体を改めている)。
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その8 八月革命の「革命」性 2017/8/31 (リンクは筆者)
【参考】主権 Wikipedia
【参考】国民主権の意味-主権の多義性
【参考】主権 コトバンク
【参考】「主権の概念を明確にした上で、」 Yahoo知恵袋
【参考】憲法研究者に対する執拗な論難に答える(その2)――「国家の三要素」は「謎の和製ドイツ語概念」なのか 2017年10月18日
③ 主権(最高決定権)〔国民主権〕
① 主権(統治権)
② 主権(統治権に付随する最高独立性)
◇ ③の主権(最高決定権)について、国民主権原理を採用していない国家の場合には国民に存するわけではない。大日本帝国憲法では天皇主権(最高決定権が天皇にある)であり、天皇は「統治権」の総覧者でもあったため、①②③の主権の位置が、ほぼ重なり合っていた。
◇ 統治権について、三権分立の統治原理を採用していない国家の場合には、「統治権=三権」を意味するわけではない。例えば、国王がすべての権力を保有しているならば、国王の権力が「統治権」(①の主権)となる。恐らく、その国王は「最高決定権」を有しているため、③の主権も有している。「統治権」が対内的にどの権力にも勝る最高性を有し、対外的に他の国家からいかなる干渉も受けない独立性を有しているのであれば、「最高独立性」である②の主権も有することとなる。
下記で、「主権」の文言の使用例を確認する。
〇 主権(最高決定権の意味) と 主権(最高独立性の意味)
日本国憲法 前文
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日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
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◇ 「主権が国民に存することを宣言し、」の『主権』とは、上図③の「最高決定権」の国民主権の意味の主権である。
◇ 「政府の行為」や「その権力は国民の代表者がこれを行使し、」に見られるものは、上図①の「統治権」である。この統治権も、『主権』と呼ぶことがある。
◇ 「自国の主権を維持し、」の『主権』は、上図②の「最高独立性(対外的独立性)」のことである。
〇 主権(最高決定権の意味)
日本国憲法
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第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
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〇 主権(統治権の意味)
ポツダム宣言 (データベース『世界と日本』) (ひらがなをカタカナにしている)
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八、「カイロ」宣言の条項は履行せらるへく又日本国の主権は本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるへし
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日常の政治において、「主権(最高決定権)」を有する国民によって信託された形で「統治権」が行使されている。
人々が「統治権」を構成し、国家という単位をつくる際に持っている「主権」も、「最高決定権」〔国民主権〕の意味である。
日本国憲法では前文で「主権が国民に存する」や1条で「主権の存する日本国民」と記載されている。これは、「最高決定権」としての主権は国民にあることを意味している。
日本国憲法のいう「国民主権」の概念は、人権概念を基盤として形成されたものである。
「国民主権」に基づいて「統治権」が生み出され、その「統治権」に付随する形で国家の「最高独立性」が確立する。
現在の統治システムに言う「国家」という共同体の単位は、もともと地球上には存在しなかったものである。
「国家」という枠組みは、「主権(最高決定権)」を有する「人(個人)」を基準として人為的に生み出した共同体の概念である。
「国家」という共同体は、あくまで「人権保障」を目的として集っている共同体の一つの形に過ぎないものである。
この「国家」という共同体の単位は、踏み越えることができない絶対的なものというわけではない。地球上には、国境を越えて活動する企業や団体があるように、国際的な共同体の単位も存在する。
【参考】国境は人権保障の手段なのだ 木村草太教授が登場 2017.12.17
一部の改憲勢力は、「人権は、国の歴史や文化、伝統などから導き出されるとするべき」と主張している。しかし、これは誤った認識である。
日本という国(ここでは共同体程度の意味)は古くから続いてきた。日本の地域における歴史的な連続性の中では、日本国憲法が制定される以前にも、「統治権」としての主権や、「最高独立性」としての主権は存在していた。権力を持っている様々な者たちが、古くから統治者として人々を支配し、それぞれにまとまった共同体を形成していた。
しかし、日本国憲法の法秩序の体制は、人権概念を基盤として国民主権の概念が形成され、それを行使することによって、国民主権に基づいた形で「統治権」を生み出し、統治機関を構成するという仕組みである。
この流れ(過程)から、「統治権」の国民の人権を保障することを目的として創設されている。
日本国憲法が構成する統治体制は、人権保障を実現することをベースとした統治体制であり、統治機関に対して人々の人権を保障するように命令を下す仕組みとなっている。
この明確な「人権保障のための立憲主義」という統治システムを採用したのは戦後である。これは、それまで存在していた国家の統治体制とは根本的に性質が異なっている。
人(国民)が人権を有しているとする前提を基に導き出される「主権(最高決定権)(国民主権)」を行使することによって憲法を制定し、「統治権」が生み出され、統治機構のシステムが構築される。そしてその統治権に付随する「最高独立性」によって「国」という共同体の単位がつくり出されるのである。
日本国憲法が国家の統治機関の有する権力の源泉としているものは、「主権(最高決定権)」を持った国民からの「厳粛な信託」によるものとされている。この権力は、人権概念から導き出されていることに正当性の基盤がある。
そのため、「国」という単位を基にして人権概念が導き出されるわけではない。
この現代の「国」という統治システムができる以前の「集落」や「村」、「くに」などという共同体の単位は、人権保障を実現するための統治機構を有していない。これは、近代立憲主義の憲法が想定している人権保障のための統治システムを意味する「国家」とは性質が異なる。
たとえ、そこに王朝や朝廷、幕府などの統治権力が存在していても、それは現在の人権保障を実現するためにつくられた統治権力とは性質が異なる。
現在の日本国の領域(領土)の上では、歴史上、古くから続く天皇を中心とした国家の考え方や、大名や幕府などの体制の国家も存在していたが、それらは人権保障のためにつくられた国家とは性質の異なるものである。
それらは、近代立憲主義に基づく憲法の想定する「国」とは別のものである。
日本国憲法は、伝統的な天皇の制度を取り入れている。ただ、そこには実質的に法的な権力基盤は存在しない。
天皇は国民統合の象徴として、古くから続く伝統や文化などの振興に力を入れたり、国家の繁栄のために努めているように見えるとしても、それは人権保障のためにつくられた法の秩序が関わる部分とは別の面で行われている活動である。
これを見極めておかないと、いつの間にか伝統や文化などの象徴的存在が、あたかも国家の法秩序のすべてであるかのような錯覚に陥ってしまい、法制度の中に歴史や伝統、文化を持ち込む改憲勢力が生まれてしまうことになる。
もしそのような法秩序に変わってしまうことがあったならば、国民の権利救済を行う際に、国会や裁判所においても歴史学者や文化芸術学者の判断を仰ぐ必要が出てきてしまうことになり得る。
そのような事態となれば、現代の法体系が崩れてしまうことを理解する必要がある。
人権保障を実現するために行われる法による統治の体制は「法の支配」、「立憲主義」、「法治主義」の理念に基づくものであり、歴史や伝統、文化などを基にする統治体制ではない。これを混同してはいけない。
【動画】【司法試験】5月生本開講!塾長クラス体験講義 基礎マスター憲法1-3~伊藤塾長の最新講義をリアルタイムで体験しよう~ 2021/05/14
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本日、日本国憲法を公布せしめた。
この憲法は、帝国憲法を全面的に改正したものであつて、国家再建の基礎を人類普遍の原理に求め、自由に表明された国民の総意によつて確定されたのである。即ち、日本国民は、みずから進んで戦争を放棄し、全世界に、正義と秩序とを基調とする永遠の平和が実現することを念願し、常に基本的人権を尊重し、民主主義に基いて国政を運営することを、ここに、明らかに定めたのである。
朕は、国民と共に、全力をあげ、相携へて、この憲法を正しく運用し、節度と責任とを重んじ、自由と平和とを愛する文化国家を建設するやうに努めたいと思ふ。
朕は、日本国民の総意に基いて、新日本建設の礎が、定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第73条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる。
御名 御璽
昭和21年11月3日
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日本国憲法 参議院