自民党 改憲案 9条 私案 法的分析等




自民党 石破茂 私案


 この案は、9条を2項だけでなく、1項も含めて全面改正するものである。

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第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、侵略の手段としての武力による威嚇行び武力の行使を永久に放棄することを、厳粛に宣言する。

2 我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため、陸海空自衛隊を保持する。

二 自衛隊は法律の定めるところにより、その予算、編制、行動等において国会の統制に服する。

三 自衛隊の最高指揮官は、内閣総理大臣とする。

四 自衛隊に属する自衛官その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国家機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、最高裁判所を終審とする審判所を置く。
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日本国憲法第9条の改正について BLOGOS 2018年2月26日
日本国憲法第9条の改正について 石破茂ブログ 2018年2月26日
日本国憲法第9条の改正について 石破茂 PDF


 この改憲案の全体の印象として、意図は分かりやすく、憲法体系に沿わせるバランス感覚も高いと思われる。ただ、改善の余地はまだあると考える。また、この改憲案だけに言えるものではないが、現在の言う『平和主義』とは違うものとなるため、前文にも影響が出ると思われる。


 前文と9条の関係について、政府見解を確認する。


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二について

 憲法の基本原則の一つである平和主義については、憲法前文第一段における「日本国民は、・・・政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」の部分並びに憲法前文第二段における「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」及び「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」の部分がその立場に立つことを宣明したものであり、憲法第九条がその理念を具体化した規定であると解している。
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参議院議員福島みずほ君提出集団的自衛権並びにその行使に関する質問に対する答弁書 平成26年4月18日 (下線は筆者)


憲法前文の「平和主義」の意味 PDF


〇 現行9条1項は「永久にこれを放棄する。」としている。この改憲案は9条を全面改正しようとするものであるため、この1項も改正の対象とするものである。「永久放棄」を宣言する条文を改正することは、その「永久」を宣言した『憲法制定権力』の意志を『憲法改正権力』が損なわせるものであるため、新しい憲法を『憲法制定権力』として立ち上げる「革命」となると思われる。つまり、基本的には96条の「憲法改正権」の限界を超えており、改正不能と考えられるのである。


 ただ、現行9条1項の趣旨を完全に残した内容で改正を行うことは、その「永久」の趣旨を完全に受け継ぐこととなるため可能とも思われる。この規定を改正する場合、この「永久放棄」の対象となっている意味内容はどのようなものなのか、相当の議論が必要だろう。少しでも反対意見が出るような状態であれば、「永久」の文言を改正し、新たな条文へと受け継ぐことはできないと思われる。「永久」に含まれた、他の規定と差別化された何か(要素)について考察を深めていく必要がありそうである。

 

「憲法第9条改正問題」 憲法改正の限界  PDF

 

〇 13条の趣旨の下に現行憲法9条2項の「陸海空軍その他の戦力」に当たらない範囲で設立が許容されていると解釈する行政機関が「自衛隊」であるわけであり、この改憲案は2項を削除しているため、現在の意味での「自衛隊」とは全く異なるものである。法的には素直に「軍」や「国防軍」などの軍隊である。

 恐らく「軍」という言葉のイメージの与える負の印象を軽減するための政治的な意図であると思われるが、完全な意味の「軍」と言って間違いないだろう。

 ただ、法的には整合性や統制可能性が重要な要素であるため、政治的な意図は排除して考えていく必要がある。「自衛隊」の文言にするならば、英訳したときに「The Self-Defence Forces」を使い続けるのだろうか。法的には現在の意味の自衛隊ではないのであるから、それと区別する意味でも「軍」と素直に名乗った方がいいだろう。


 1項で侵略戦争は放棄しているようなので、侵略はできない。大日本帝国憲法では恐らく侵略も可能であったと思われる。ただ、条約を締結して国際法で違法化していたようである。)しかし、現行2項の「陸海空軍その他の戦力」」を削除改正したことから、この改憲案の言う「自衛隊(軍)」は、防御だけでなくある程度の攻撃能力を備えたり、他国への攻撃があった際に要請を受けてその他国のために完全な集団的自衛権を行使することができる。

 「完全な集団的自衛権を行使するかどうかは、法律でどのように整備するかの問題であり、国会で選択が可能である」との意見もある。しかし、憲法上の制約がなくなるため、当然に集団的自衛権を行使する法律を立法できる状態に置かれることとなるのである。


 2項を削除していることから、保持する実力の制限はなくなり、「軍」となる。下記の図のような、2項維持の【加憲案】としての別枠の自衛隊とも異なる。(2項維持の【加憲案】は『自衛隊』という名称である限りは2項の効力が及ばないという別枠を設けるものである。よって、2項を無効化するものであり、整合性がないことは押さえておきたい。)



 

〇 2項の「陸海空自衛隊」の文言であるが、「宇宙」は入れなくていいのだろうか(国際法で禁止しているかもしれない)。「成層圏」や「地底」、「サイバー空間」は対象にはならないのだろうか。


 大日本帝国憲法では、11条、12条で「陸海軍」と記載され、もともと「陸軍」と「海軍」の二つしか想定されていなかった。しかし、日本国憲法では9条2項で「陸海空軍その他の戦力」と記載し、「空軍」を追加するだけでなく「その他の戦力」として他の軍事組織が生まれることも想定している。技術の進歩や組織の編成によっては、「陸海空軍」以外の軍事組織を創設することもあり得ると考えているのである。この「陸海空自衛隊」の文言では、50年後には既に時代遅れになっている可能性が考えられる。

 このことから、「陸海空自衛隊その他の戦力」と記載した方が、良いのではないだろうか。いや、もう「陸海空」を取り除き、「自衛隊」のみで良いのではないだろうか。「自衛隊」と名乗りながらも実体は軍隊であるから、「軍」や「国防軍」とした方がいいようにも思われる。

 ただ、憲法中に具体的な組織名を書き込むことは、「準軍事組織」などが設置される際に、どのように取り扱うのか問題となりそうである。「軍」か「軍でない機関」か、という二者択一の議論がよくなされるが、実際には、「親衛隊」「自衛団」「国境警備隊」「武装警察」など、軍よりも下位の武力組織も存在しうるのである。他国ではこのような機関を保持する国家も存在しているため、「軍」を憲法中に位置づけたからと言って、必ずしも武力組織のすべてを憲法上で統制できるとは限らないことを押さえておくべきである。


 この改憲案の内容であれば、法律規定でも十分に統制できるものであるとも考えられる。必ず憲法規定としなければならない必然性が見出しづらいものがある。


〇 9条を全面改正したことから、1項はあるものの、現在の意味の『平和主義』は損なわれることとなる。他国の憲法は三大原理として『平和主義』などというものを基本的に掲げていないことから、それらの憲法と似たものとなり、日本国憲法独特の個性は失われると言える。新たな意味での「平和主義」を名乗るつもりなのかもしれないが、対外的に「平和主義」を名乗る程の個性はなくなった。

 ただ、法的には、2項を残したまま「自衛隊」や「必要最小限度の実力組織」などという文言を書き込んで、十分な整合性がないにも関わらず『平和主義は変わらない。』などと言い張ろうとする加憲案よりは、素直な内容であると思われる。


〇 条文全体としては、一応9条を全面改正する形であるため、第二章「戦争の放棄」の章の名称変更を行えば意味は通るかと思われる。



〇 この改憲案の内容は、第二章の9条として配置するのではなく、第六章「司法」と第七章「財政」の間に新たな章を設けた方がいいのではないかとの感覚を抱かせるものである。


 第二章に配置することは、第一章「天皇」の章に非常に近いものがあり、この改憲案の意図とは違うものだからである。


 以前の大日本帝国憲法では、主権を持つ天皇が軍事権限を有していた。第一章「天皇」の11条(統帥権)、12条(編成等)、13条(宣戦布告等)である。


 しかし、日本国憲法では「天皇主権」から「国民主権」に変わり、『主権』が国民に移行した。これに伴い、天皇の有していた『天皇大権』「立法権」「行政権(執行)」「司法権(正確には〔天皇の名に於て〕裁判所が有していた〔明憲57条〕)」「統帥権(軍事権)」などをすべて削除し、天皇は「国政に関する権能を有しない(現憲4条)」存在となった。


 「立法権」「行政権」「司法権」などは、それぞれ第四章「国会」、第五章「内閣」、第六章「司法」に移されたのであるが、「統帥権」などの軍事権はこの三権には属させず、完全に削除されたのである。


 しかし、主権を持った日本国民は、軍事権について削除だけで終わらせるのではなく、第二章に「戦争の放棄」の章を設け、新しく創設される国家(統治機関)の権限を強く制限したのである。


 この現行憲法「9条1項(戦争等の放棄)、2項前段(戦力不保持)、2項後段(交戦権否認)」の規定は、明治憲法から削除された「11条(統帥権)、12条(編成等)、13条(宣戦布告)」に対応してつくられた規定であると思われる。


大日本帝国憲法(カタカナをひらがなにしている)
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第11条 天皇は陸海軍を統帥す(①)
第12条 天皇は陸海軍の編制及常備兵額(②)を定む
第13条 天皇は戦を宣し(③)和を講し及諸般の条約を締結す
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 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
日本国憲法
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第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争(①)と、武力による威嚇又は武力の行使(④ 国連憲章2条4項と同じ文言)は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力(②)は、これを保持しない国の交戦権(③)は、これを認めない
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① 大日本帝国憲法では「国権 = 天皇主権の統帥権」であったが、日本国憲法では、「国権 = 国民主権によって信託された統治機関の権限」に相当すると考えられる。

② 大日本帝国憲法の「陸海軍の編成及常備兵額」は、日本国憲法の「陸海空軍その他の戦力」に相当すると考えられる。

③ 大日本帝国憲法の「戦を宣し」が、日本国憲法の「国の交戦権」に相当すると考えられる。
④ 日本国憲法の「武力による威嚇又は武力の行使」は、国連憲章2条4項の「武力による威嚇又は武力の行使(the threat or use of force)」と同じ文言である。


日本国憲法 Japanese Law Translation

Chapter I Charter of the United Nations

国際連合憲章 Charter of the United Nations  PDF


 この改憲案は、1項の「侵略の手段としての武力による威嚇行び武力の行使を永久に放棄」の意図は、現在の第二章「戦争の放棄」の趣旨と一致していることは理解できる。しかし、2項から続く規定は「国会」「内閣」「裁判所」の統治規定に対応したものであり、明治憲法の「天皇(=国)」の権限を意識したと思われる第一章「天皇」の規定とは関係がないのである。


 よって、第一章に近い第二章の位置に配置することに意図がなく、唐突なものとなるのである。

 9条の全面改正を試みるのであれば、憲法体系そのものを整備し直すことも視野に入れてもいいのではないだろうか。

参考 (大日本帝国憲法の改正 権限の移行と削除)



 

〇 この改憲案2項について、最初の文が(「一」)となり、2つ目から「二」「三」「四」と続いているようである。ただ、憲法7条では、1項の最初の文とは分けて、「一」「二」「三」~「十」となっており、73条でも1項の最初の文とは分けて「一」~「七」を置いている。正確な表記の方法を調べた方が良さそうである。

日本の法令の基本形式 Wikipedia

柱書 weblio辞書
柱書とは 2015-11-14


〇 自衛隊の統制について、2項2号に「国会関係」、3号に「内閣関係?」、4号に「裁判所関係」の順番に条文を配置した意図は理解できる。憲法の章の配置順序である第四章「国会」、第五章「内閣」、第六章「司法」の章に沿っているからである。


〇 1項の「日本国民は、」という主語から、2項が続くが、2項の「保持する」の主体は恐らく「日本国民」である。この「日本国民」が保持するとして国に信託し、2項2号「国会」、3号「内閣」、4号「裁判所」が統制すると思われる。


 (ただ、『内閣総理大臣』が最高の指揮権ではあるが、『行政権は、内閣に属する。(65条)』の『内閣』ではなく、『内閣総理大臣』であるため、『内閣』とは関係ない権限なのかもしれない。)


 この改憲案の言う「自衛隊」は、内閣総理大臣が最高指揮権を持つとされるが、恐らく行政権とは違う権限でもって行使されることとなるため、通常の行政機関とは違うものとなる。なぜならば、行政権であれば第五章「内閣」の章の中に配置することが妥当であると考えられるからである。

 よって、三権の統制を受けるが三権とは違う権限であるため、その「保持する」主体が「日本国民」であることは、かなり議論の争点になると思われる。三権以外の権限となると、現在の日本国憲法下では存在しない権限であるため、講学上どのように整理されるのかかなり学ばなくてはならない。どうなるのか筆者も時間をかけて勉強します。


 2項4号であるが、自衛行動を行った内閣や国会の権限は、裁判所で統制できるのだろうか。2号の言う「国会の統制」、3号の言う「内閣総理大臣の最高指揮権」の内容は、法律によって規定されるのであれば、現在と同じように、裁判所が違法性の審査や違憲審査などを行うことができるのかもしれない。

 ただ、「内閣総理大臣の最高指揮権」が法律ではなく憲法上の権限となることから、内閣総理大臣の行った開戦行為や戦闘行為が改憲案9条1項に違反していると裁判所が判決を下した際に、内閣総理大臣が改憲案2項1号の「我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため」の文言を根拠として最高指揮権を発動し、自衛隊を使って裁判所を包囲したり、判決の取消を強行したり、裁判機関を破壊したりする可能性が生まれることとなる。


 そのような事態になったとしても、裁判官は「憲法及び法律にのみ拘束される(76条3項)」ことから、裁判所は、内閣総理大臣が自衛隊の最高指揮権を使って自衛隊に裁判所を包囲させたり、裁判官に対して「我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため(改憲案2項1号)」に必要な合憲判決を無理やり書かせるという圧力をかけることを否定し、阻止する術がないこととなる。憲法上の権限となるということは、三権に対する抑制均衡の原理にも影響を及ぼす問題となるのである。


〇 もしこの改憲案の言う「自衛隊」が、行政権の下で活動することを想定しているのであれば、2項2号、3号、4号の規定は、それぞれ第四章「国会」、第五章「内閣」、第六章「司法」の章に組み入れてもいいのかもしれない。憲法中の機関に割り振られた権限の中に組み込むことで、体系的にも整うのではないだろうか。


 その場合、2項1号は、なくてもいいと思われる。なぜならば、2項1号の我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため、陸海空自衛隊を保持する。」の条文に含まれた『自衛隊』の文言が、実は『軍』であることをしっかりと明らかにしたならば、「我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため、」などという長々とした文言は不要だからである。


 この長々とした文言を設ける意図は、この改憲案の言う『自衛隊』という文言が実は『軍』であることを覆い隠すかのようにマイルドに表現するための意味しか持たず、非常に政治的な思惑が強いと考えられるのである。これは『軍』を保持することの正当化根拠を示すものとなっているが、「この改憲案独自の意味の『自衛隊』が一体何か分からない」との批判に応えようとするために設けた意図が強いと考えられる。『自衛隊』の文言を止めて『軍』と記載すれば不要であり、それで済む問題だと思われる。


 第四章「国会」の章で軍は国会が統制する旨を、第五章「内閣」の章で軍を内閣が指揮する旨を、第六章「司法」の章で軍の法令審査する旨を書き込めば、「保持する。」などという文言も不要なのである。

 憲法の法的なメカニズムの本質を体系的に整備し、法学上実用的な条文とするためには、このようなドレッシーな(着飾るような)文言は非常に煩わしいものとなることが多い。

 例えば、「参議院は良識の府であり…」などと一つ一つ解説していては、法典の文字数は何倍にも何十倍にも膨れ上がり、全体として何が言いたいのかも分からなくなってしまう。そぎ落とせるものはそぎ落とした方が、憲法の条文体系に馴染むものとなり、技術的に運用する際には都合がいいと思われる。

 そもそも、2項を削除すれば法律によって軍を保持できるわけである。また、国会が立法しない限りは内閣は行政権を行使して法律上の根拠のない事務を勝手に行うことはできないわけである。よって、国会の統制は現在の憲法体系でも既に存在しており、国会の立法権が内閣の行政権から分離している三権分立の構造である限りは、憲法中に「国会の統制」などという文言も不要である。審判所についても、行政機関の下部組織であるならば、憲法規定とする必要性はなく、現在の法体系でも設置できるものである。


〇 この改憲案は2項3号にて、内閣総理大臣に最高指揮権があることを明示しているが、自衛隊がそもそも行政権として活動するのか明らかでない。一般的な活動や事務作用についてはどの機関が担当するのだろうか。


 「65条の行政権の下に内閣があり、その内閣の下に国家行政組織法があり、その国家行政組織法の下に防衛省設置法があり、防衛省設置法の中に自衛隊が特別の機関として存在しており、自衛隊法が規定されている。」という現在の形とは異なるのである。

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   <現在>

65条「行政権は、内閣に属する。」 ⇒ 内閣 ⇒ 国家行政組織法 ⇒ 防衛省設置法(特別の機関〔自衛隊〕) ⇒ 自衛隊法

   <改憲案2項3号(推測)
65条「行政権は、内閣に属する。」 ⇒ 内閣 ⇒ 国家行政組織法 ⇒ 防衛省設置法
改憲案9条2項3号「自衛隊の最高指揮官は、内閣総理大臣とする。」 ⇒ 自衛隊(軍)
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 現在は、内閣が防衛省を自衛隊の上級行政機関として、行政権(65条)として指揮監督し、自衛隊の最高指揮権も内閣総理大臣は内閣を代表して最高指揮権を持つのである(自衛隊法)が、改憲案は内閣総理大臣が単独で自衛隊(軍)を指揮するようにも見えてしまう。

 自衛隊法7条にある「内閣を代表して」の文言がないことから、防衛大臣の権限はどうなるのだろうか。内閣総理大臣の権限が行使される際は改憲案2項3号の権限であるが、防衛大臣の権限が行使される際は65条の行政権で行うのだろうか。となると、改憲案2項3号の権限と、65条行政権の競合が問題となりそうである。「防衛省と自衛隊」の「上級行政機関と下級行政機関」の関係も整理する必要がある。

 権限基盤の整備が十分でないように思われる。そもそも、この「最高指揮官は、内閣総理大臣とする。」の文言は不要なのではないだろうか。現在の自衛隊法のように法律で規定すれば良いようにも思われる。「シビリアンコントロール(文民統制)を書き込まなければならない」などという主張がよく見られるが、行政権である以上は現在の法律規定で既に機能しているはずであり、そもそも憲法中に設ける必要はないようにも思われる。もし行政権でないのであれば、確かに文民統制の条項は必要であると思われるが、それであれば行政権(65条)の属する『内閣』の一員である防衛大臣の行使する行政権の位置づけと、内閣総理大臣の権限が競合する事態はおかしなものである。


 もしかすると、防衛大臣を設けず、明治憲法の11条の天皇の統帥権に類似した内閣総理大臣単独の軍事権として規定する意図なのかもしれない。そのような場合でも、明治憲法12条の軍の編成権、13条の宣戦布告などについては、改憲案2項2号の国会が担当するような感じとなるようである。


 ただ、行政権であれば、65条「行政権は、内閣に属する。」とあるように、「内閣」に属しているわけであり、内閣総理大臣が単独で指揮権を有するような形式とすることには問題がある。憲法上、閣議による必要がないこととなるのである。よって、「内閣」という複数の大臣が全会一致(慣例)で決定する合議制の機関を通さなくてもよいことから、66条3項「内閣は、行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負ふ。」の規定も及ばないこととなる。この結果、この改憲案2項3号の言う内閣総理大臣が単独で行使する最高指揮権は、国会に対しての連帯責任が及ばないものとなる。明治憲法での『天皇大権』のように、『内閣総理大臣大権』とでも言うような独立した単独の権限となり得るのである。


憲法

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〔行政権の帰属〕
第65条 行政権は、内閣に属する

〔内閣の組織と責任〕
第66条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ
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 この事例を読み解く上で参考になるのは、『内閣』の有する衆議院の解散を決定する権限(通称:解散権)がある。これは法的には『内閣総理大臣』に与えられたものではない。メディアではあたかも内閣総理大臣に与えられた権限であるかのように取り上げられ、内閣総理大臣の思惑を常々推測するような報道がなされることがある。しかし、憲法上は内閣総理大臣一人に与えられた権限ではなく、内閣に与えられた権限なのである。


 ただ、内閣を構成する国務大臣を、内閣総理大臣が任命し(68条1項)、任意に罷免することができる(68条2項)ことから、内閣総理大臣の意に反する国務大臣は内閣総理大臣の決定でもって罷免できる仕組みであり、このことから衆議院の解散を決定する権限は最終的には「内閣総理大臣の意思が強く影響するものとなっている」というだけのものである。


憲法

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〔国務大臣の任免〕
第68条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる

〔不信任決議と解散又は総辞職〕
第69条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

〔内閣総理大臣の欠缺又は総選挙施行による総辞職〕
第70条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

〔総辞職後の職務続行〕
第71条 前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。

〔内閣総理大臣の職務権限〕
第72条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
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 加えて、衆議院の解散を決定する権限を持つのは『内閣』であるが、実質的に衆議院を解散させることができるのは、「内閣の助言と承認(7条)」によって「国事に関する行為(7条)」を行う『天皇』である。こういう細かい部分も把握しておくべきだろう。

憲法
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〔天皇の国事行為〕
第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

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 これらの過程を飛び越えて、『内閣総理大臣』に単独の権限として最高指揮権を与えるような書きぶりには問題があると考えられる。

 さらに加えると、このような改憲案2項3号のような規定は、「内閣総理大臣が欠けたとき(70条)」に、どの地位にいる誰に指揮権が移され、いつまでその権限を行使できるのかも想定されていない。


 もし軍事権としての新たな権限ではなく、内閣の有する行政権(65条)の範囲のものであれば、現在の法整備で権限の移行は対応できそうではある。


 しかし、行政権の内部に含まれた権限として現在と変わらないものを意図したものであるならば、この改憲案2項3号は第五章「内閣」の章の65条以下に加えるべき規定である。第二章「戦争の放棄」の章に置くことは混乱を招くものとなり、体系的な整理を損なうものとなってしまうからである。


 ただ、行政権であるならば、『国家行政組織法』の下にある防衛省(防衛省設置法)の特別の機関として配置されている組織の一つである「自衛隊」という部隊だけを、憲法中に書き込むことには違和感が出てくる。行政法上の行政組織の「上級行政機関」と「下級行政機関」の指揮命令系統の上下関係が乱れるからである。

 このような憲法上に位置づけた組織とすると、第七章「財政」の章の90条に位置づけられた『会計検査院』のように、『内閣』からも独立した組織となるため、新たな問題を引き起こしてしまう。


憲法
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〔会計検査〕
第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
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会計検査院法
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   第一章 組織
     第一節 総則

第1条 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する
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 すると、この改憲案で憲法規定として位置付けた『自衛隊』という実質的な軍隊は、この改憲案2項3号によって『内閣総理大臣』だけに最高指揮権を与えているため、65条の行政権が及ばない内閣総理大臣単独の権限となるのである。


 十分な整合性は練り込まれていないようである。



 下の図で確認する。

〇 天皇の国事に関する行為は「天皇(本人)」に属している。(皇室に属しているわけではない。)
〇 立法権は「国会(衆議院・参議院)」に属している。

〇 行政権は「内閣」に属している。(総理大臣に属しているわけではない。)

〇 司法権は「最高裁判所と下級裁判所」に属している。


 憲法中で内閣総理大臣に最高指揮権などを与えると、行政権の属する内閣から独立した「内閣総理大臣個人に属する大権」となってしまうのである。



 


〇 2項4号に「最高裁判所を終審とする審判所を置く」とある。これは、現在の行政機関としての審判所と同じ性質のものであるように思われる。


審判所 Wikipedia

 国税庁の特別の機関として「国税不服審判所」、国土交通省の特別の機関として「海難審判所」、防衛省の特別の機関として「外国軍用品審判所」があるが、それと同じか、類似したものだろう。


 現行憲法76条2項には、「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」とあるが、この規定は最高裁判所を終審としているため、問題はないのではないかと思われる。ただ、この改憲案の言う『自衛隊』が行政権とは違う可能性があるため一概には言えないが、
現在も行政機関としてではあるが審判所が存在していることからすると、憲法規定として必須なのかと言えば、そうでもないように思われる。法律で設置しても違憲とはならないだろう。
「統治機構に関わる機関をすべて憲法中に明記しなければならない」などという法原則は存在せず、審判所を憲法規定とする必然性を見出すことができない。


 また、現在の審判所は「行政権」の下にあるため、【司法権】の「判決」ではなく、【行政権】の「審決(処分)」や「裁決」の形式であると思われる。


 確か、この【行政権】の「審決」や「裁決」に不服がある場合に、【司法権】に移行し、行政事件訴訟法などを使って「審決等取消訴訟」や「処分取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)」、「裁決取消訴訟(行政事件訴訟法3条3項)」などを行うこととなる。


 この改憲案の「審判所」は、最高裁判所を終審とすることから、直接【司法権】の下部機関になるようにも読み取れる点で問題がある。もし行政機関ではなく、司法機関であるならば、現在の行政機関の審判所ではなく、最高裁判所以外の下級裁判所となり、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所と同列の裁判機関となる。

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   <現在>

【行政権】 「審判所〔審決、処分、裁決など〕」

 ↓ ↓ (不服がある場合) ↓ ↓

【司法権】 「下級裁判所〔判決〕」 ⇒(上訴)⇒ 「最高裁判所〔判決〕終審

行政事件訴訟法=

   <改憲案2項4号(推測)>

【司法権】 「審判所?〔下級裁判所・判決?〕」 ⇒ (上訴) ⇒ 「最高裁判所〔判決〕終審

行政事件訴訟法?
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 このような状態では、現在の行政権の審判所とは全く異なるため、現在の言う行政機関としての「審判所」と同じ名称を使うことには問題があると思われる。

参考例
海難審判 Wikipedia

海難審判法 条文

裁決の閲覧について 海難審判所

審決等取消訴訟とは

 この加憲案の言う審判所が、司法権の中の司法機関であるならば、下級裁判所となり、現在の意味の行政機関を指す言葉である「審判所」の名称は避けるべきである。混乱を招くからである。


 行政権の行政機関であれば、法律規定によって現在の法体系でも設置できるものであり、憲法規定とする必要性がない。他の審判所を差し置いて憲法規定とすることは、法体系の混乱を招くこととなる。


 軍事権の特別の審判所であるならば、76条2項の「特別裁判所は、これを設置することができない。」に該当する可能性がある。76条2項後段の「行政機関は、終審として裁判を行うことができない。」の条文があるが、軍事権として考えると行政権と区別された権限であるので、許容されるものではないと考えられる。



 

 この図の分類からも、「審判所」の文言は、準司法手続きを行うが、分類としては行政機関に使われている用語であることが確認できると思う。

 

 この加憲案2項4号の加憲案には「審判所」という文言から「行政権」に属しているのか、「最高裁判所を終審とする」との文言が入っていることから「司法権」に属しているのかが問題となる。


 国会に属する「弾劾裁判所」では「裁判所」の文言が使われているが、これは「司法権」に属する裁判ではないとされている。だからこそ、通常であれば第四章「国会」、第五章「内閣」に合わせて、第六章の名称を「裁判所」とするはずのところを、『司法』としているようである。


日本の弾劾制度
特別裁判所 Wikipedia
行政裁判所 Wikipedia

皇室裁判所 Wikipedia



〇 上記のように全体を見てみると、


◇ 1項 現行憲法9条1項が「永久」との文言が含まれていることから改正が非常に困難である。


◇ 2項1号 「陸海空自衛隊」としているが、実質は『軍』である。「我が国の独立と平和及び国民の安全と自由並びに国際社会の平和と安定を確保するため、」の文言も、『軍』と正直に名乗れば不要と思われる。そもそも、現行憲法2項の「陸海空軍その他の戦力」の文言を削除するだけで軍の保持は解禁される。


◇ 2項2号 行政権であれば、国会による「予算、編制、行動等」については、現在の自衛隊でも国会の立法した法律に従って行動する内閣の下、既に法律によって統制されており憲法上に設ける必要はない。行政権とは別の軍事権であるならば、3号の規定の問題が発生する。


◇ 2項3号 行政権であれば内閣総理大臣と防衛大臣との権限の関係が競合する。行政権以外の軍事権であれば、内閣総理大臣の単独の権限となり、行政権しか行使できない防衛大臣の権限は失われる。

◇ 2項4号 行政権であれば、現在でも行政機関の審判所の設置は可能であり、憲法上に設ける必要はない。軍事権の審判所であれば、設ける必要があるかもしれないが、3号の規定の問題が発生する。また、審判所という名称であるならば、最高裁判所の下部機関の下級裁判所の中の一つであるかのような改憲案には問題がある。


 この改憲案のスタンスは、基本的には現行憲法を「2項削除」した場合と同じ状態であると思われる。現在の意味の「自衛隊」と同じようなものを想定するのであれば、行政権の下にあるため、2項1号、2号、3号、4号はすべて不要である。2項は憲法上独特の規範的な意味はないと思われるので、法律規定で十分であるように思われるのである。


 軍事権であるならば、まず『軍』と名乗るべきであるし、内閣総理大臣と防衛大臣、防衛省などの機関の権限や立ち位置を整理する必要があると思われる。

 

 大日本帝国憲法での「天皇大権」と同じように、「内閣総理大臣大権」とでも言うような新たな軍事大権を設けることには慎重であるべきだろう。



 日本国憲法では、「憲法」と「法律」の役割分担をどの程度のラインで線引きしようとしたのか、規律密度のコンセプト(設計思想)を念入りに考える必要がありそうである。この改憲案だけ規律密度を高めようとする発想は、現在の日本国憲法の規律密度の程度を越えるものであり、設計思想に馴染むものではない
。現在の規律密度の程度にどのような意図があるのかも押さえておくべきである。規律密度の低さが可変性の難しさによる規定の重さ、憲法の硬性性、一時の民意や政治状況によっては揺るぐことのない安定的な人権保障システムを構築している原因となっていることも忘れてはならないだろう。


 法が本来的には人々の心の中にある意識の産物である以上は、人々の心の中にどのような印象を与えるのかという部分が法の効力基盤に影響を与える問題となる。この規律密度の設計思想によって、憲法や法律などの法令の効力自体の心理的な重さや軽さを決める原因の一つとなり得るのである。人々の心理感覚という法の存立根拠となっている効力基盤を、規律密度を高いものとして安易に可変性の高いものへと変更し、憲法改正手続きで必要な主権を持つ国民の民意の振れ幅に頼るものとすることは、法秩序の安定性を乱し、人々の人権保障の質を下げる恐れが大きい。この点にも注意するべきだろう。

 憲法の統治機構の規律密度の設計思想について、憲法機関に対応して立法された法律(憲法付属法)と共に見ておこう。


下記の図の茶色の法律名
はクリックできます。法令データ提供システムの条文へジャンプします。

 

 




<現在の自衛隊の位置づけ>


〔憲法制定権力の意志の観念により憲法を制定〕
   ↓
  憲法 (第五章「内閣」⇒ 65条「行政権は、内閣に属する。」)

   ↓

  内閣法
   ↓

  国家行政組織法

   ↓

  防衛省設置法 e-Gov

   ↓
  自衛隊法 e-Gov


〇 大日本帝国憲法の軍事規定も見ておくと参考になると思われる。基本的に天皇が軍事に関する権限を有していることが示されており、この改憲案に見られるような「保持する。」とかそういう類のものではない。恐らくこの改憲案は現行憲法9条2項の「保持しない。」の文言に影響されて、その逆を採ったものと思われるが、この規定自体が不要である。9条2項を削除するのであれば、その2項の面影もさっぱり削除した方がスッキリとするのではないだろうか。(ただ、2項を削除や削除改正した時点で前文との整合性の問題はスッキリしないこととなる。)


 この改憲案だけに言えるものというわけではないが、統治機構である三権に軍事に関する権限を割り振れば、それで解決する問題である。現行憲法の第二章に軍事の規定を組み入れようとする発想自体が妥当でないように思われる。

 



 分析に時間をかけたいので、今後もゆっくり検討してみます。お読みいただきありがとうございました。




<理解の補強>


石破茂元幹事長 ブログで9条改正私案を公表 2018.2.26

裁量労働制など 2018年3月2日
「自衛隊」と「国防軍」のちがい 浦部法穂・法学館憲法研究所顧問 2013年2月7日

「やらねばならない」次期総裁選 石破茂衆議院議員 2018年03月13日
石破氏、総裁選「無投票はあり得ない」 2018年8月2日
安倍政権、自民党憲法「改正」草案9条の恐怖。軍法会議の設置まで規定している。 2016年07月08日


憲法学者が論じない、誤訳された「9条の自衛権」 2016/7/24

 注意:日本国憲法が立法過程において英語で書かれた文章を参考としていたとしても、日本国憲法は日本語の憲法として公布され、効力を有している。そのため、英文の日本国憲法は、あくまで日本語の憲法が英語で訳されただけのものであり、法的な効力が存在しないものとして扱われる。タイトルに「憲法学者が論じない、~」とあるが、まともな憲法学者はその前提を弁えているため、英文から意味を読み解こうとしないことは当然である。ただ、9条1項を改正しようとするならば、この意見も参考となるだろう。


石破氏、「9条2項維持」容認示唆 自民改憲案が前進へ 2018/2/27
9条2項維持「党決定なら従う」 石破氏、改憲めぐり 2018年2月27日
石破氏一問一答 「イシバノミクス、絶対やめて」 2018/2/27
石破氏、9条の2段階戦術描く 「2項維持」自民案容認 総裁になれば削除めざす 2018/2/28

 2項維持の加憲案が容認されたとしても、恐らく後にその加憲条項と2項の両方を一度に削除することを狙うと思われる。ただ、そもそも2項維持の加憲案は整合性がないことは押さえておくべきである。


 ただ、『整合性がない』という関連で言うと、安保法制による限定的集団的自衛権の行使容認についても、昭和47年政府見解の憲法解釈と整合性がない。整合性を追求する姿勢は大切であるが、それ以前に現在の法整備の整合性をしっかりと考える必要があると考える。そこを誤ると、自らの行動に整合性がないこととなる。このような整合性がない行動は、法治主義ではなく、人治主義となってしまうのである。2項維持をしようとするにせよ、2項を削除しようとするにせよ、法の支配、立憲主義、法治主義を損なわせることがないようにする必要があるだろう。


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 信義則から派生する原則として、

禁反言の法理 自己の言動に矛盾したことを行うことは許されない

や、

クリーンハンズの原則 法により保護を受けようとするなら、法を尊重しなければならない

などが挙げられます。
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信義則と権利濫用 ウィキバーシティ

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禁反言の法則(エストッペルの原則)
 自己の行為に矛盾した態度をとることは許されない。例えば、(1)自ら所有する建物に抵当権を設定しておきながら、建物の立つ土地の賃借権を登記しても、抵当権者に対抗することはできない、(2)債務者が、債務について消滅時効が完成した後に債務の承認をした場合は、その後に時効消滅を主張することはできない、というものである。日本民法398条(抵当権の目的である地上権等の放棄)参照。

クリーンハンズの原則

 自ら法を尊重するものだけが、法の救済を受けるという原則で、自ら不法に関与した者には裁判所の救済を与えないという意味である。具体的条文への表れとしては、日本民法130条(条件成就の妨害)、日本民法708条(不法原因給付)がある。
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信義誠実の原則 Wikipedia

 2項維持の加憲案は整合性がない。ただ、整合性がないことを理由として2項削除をするのであれば、それ以前に安保法制の整合性を正してから行うことが望ましいと言えるだろう。


【石破茂氏総裁選出馬表明会見詳報】(6)「竹下登元総理の忍耐、勉強、心配りに驚嘆した」 2018.8.10

【石破茂氏総裁選出馬表明会見詳報】(7)「自衛隊は違憲と言う学者がいるから(憲法9条を)変えることは、優先順位が高いと思わない 2018年8月10日

石破氏「イスから落ちるほど驚いた」首相の改憲案発言に 2018年8月16日




自民党 衛藤征士郎 私案


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第2章 戦争の放棄


第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

(改正)
2 日本国は個別的及び集団的自衛の固有の権利を有し、国際平和に貢献する。


(加憲)

3 日本国は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を守るため、自衛隊を保持する。自衛隊は、内閣総理大臣を最高指揮官とし、その任務を遂行するに当たっては、法律の定めるところにより、文民統制に服する。

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https://twitter.com/etoseishiro/status/907801405020184577 2017年9月12日
https://twitter.com/etoseishiro/status/907804082559082496 2017年9月12日



 2項にて、「個別的自衛権」と「集団的自衛権」を行使できることを明確にしている。

 これは、「自衛のための必要最小限度の実力」を越える装備の保持も可能となると考えられる。こうなると、それは既に現行法上の「自衛隊」とは本質的に異なるものである。

 3項に「自衛隊」と書き込んではいるものの、これは一般に言う国防軍である。もはや「自衛隊」ではないのである。となると、なぜ「国防軍」と正直に言わないのか疑問である。名前だけ残したいとの思惑を感じさせるものである。

 2項であるが、「個別的及び集団的自衛の固有の権利を有し、」から、「国際平和に貢献する。」という文言になっている。これは、素直に読んでも意味が通じていないように思われる。国際平和に貢献することと、個別的自衛権及び集団的自衛権は関係がないからである。


 「国際平和に貢献する」というのは、『外交』の分野である。そして、「個別的自衛権」や「集団的自衛権」については、『防衛』の分野である。これは、省庁で表現するならば、外務省と防衛省をミックスしたものとなってしまっているのである。これらを一つの規定で表現することは相応しくないだろう。



 「固有の権利」の意味は、国連憲章51条で記載された文言を採用しているものと思われる。「本来持っている権利」の意味で使いたいものと思われる。

 しかし、国連憲章に記載されている「固有の権利」の意味は、国際法上の法主体としての地位を有する「国家」に対して付与される『権利』の意味であり、日本国の統治権の『権限』とは異なる。

 また、国連憲章は国連に参加する国が加盟することによって承認されているものであり、日本国憲法よりも下位の規定である。なぜならば、それぞれの国家は国連を脱退することも可能であるからである。

 国際法上で使われているこの「固有の権利」という文言を憲法中に持ち込むのはその意味を間違えているのではないだろうか。


集団的自衛権 Wikipedia


 また、趣旨は違うが、日本国憲法15条1項の規定の「固有の権利」とも混乱を招くと考える。


日本国憲法
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第15条1項 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
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 この点、どのような解釈が導かれるのか明らかにしてもらいたいところである。



 3項の、「日本国は、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を守るため、自衛隊を保持する。」との規定であるが、憲法中では「保持しない。(9条2項)」という禁止規定は存在するものの、三権分立の外に特定の機関を保持することを宣言している規定は極めて特異なものとなる。この点、憲法規定の通常の感覚として違和感を覚えるものとなっているように思われる。

 具体的に憲法中では通常どのように機関の設置が想定されているかを見てみよう。


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<天皇>

〔天皇の地位と主権在民〕
第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

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<国会>

〔国会の地位〕
第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。


〔二院制〕
第42条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。


〔弾劾裁判所〕
第64条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
<内閣>

〔行政権の帰属〕
第65条 行政権は、内閣に属する。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
<司法>


〔司法権の機関と裁判官の職務上の独立〕
第76条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
<財政>


〔会計検査〕
第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
<地方自治>

〔地方自治の本旨の確保〕
第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

〔地方公共団体の機関〕
第93条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
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 3項の、「内閣総理大臣を最高指揮官とし、その任務を遂行するにあたっては、」とあるが、これは『行政権』に分類されるのだろうか。その点、明確でない。三権分立の統治原理に配分された権限基盤に裏付けられておらず、憲法の権限統制の作法を弁えていないように見える。

 


 自衛隊法には、内閣総理大臣の有する自衛隊の最高指揮権について、「内閣を代表して」の文言が存在している。


自衛隊法

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(内閣総理大臣の指揮監督権)
第七条  内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する。

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 つまり、現行の自衛隊の指揮監督は、憲法65条の「行政権は、内閣に属する。」の規定から導かれる『行政権』に該当するものとしてつくられているのである。


日本国憲法
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65条 行政権は、内閣に属する。
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 しかし、この改憲案では内閣総理大臣が独立して行使する独占的な権能となってしまっているのである。内閣の『合議体の執行機関』としての作用を通さずに、内閣総理大臣が直接指揮監督することとなるのである。これは行政権でないことから、三権分立の抑制均衡の作用外の権限であり、立憲主義の統治原理を破壊することに繋がるものとなる。

 これは、議院内閣制を採用している憲法下においては、行政作用としての組織というより、最高権力者個人を守ることを専門とした武力組織である『親衛隊』に近い印象となってしまうと考えられる。

親衛隊 Wikipedia

親衛隊(ナチス) Wikipedia


武装親衛隊 Wikipedia
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アドルフ・ヒトラーが政権奪取後、国家唯一の兵器の保有・携帯を許される組織(Waffenträger der Nation)である国軍の反逆から、あるいは国内の騒乱から自身を守らせるために設けた、軍ではなくまた警察でもない、政治的に信頼できる親衛隊員から成るナチスの武装部隊である。
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 内閣総理大臣の警護は、警視庁警備部警護課警護第1係のSPで足りるはずである。


セキュリティポリス Wikipedia

警護要則(国家公安委員会規則) 条文
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(警護対象者)
第二条  この規則において「警護対象者」とは、内閣総理大臣、国賓その他その身辺に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者として警察庁長官(以下「長官」という。)が定める者をいう。
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 これは、国家公安委員会規則で定めらるものであり、内閣総理大臣の警護を内閣総理大臣が自身の直接の権限として行使するものではない。



 この私案の文言上、行政権の権限でなく、自衛隊の指揮権が『内閣』に所属することを規定していないことから、予算についても国会の議決による統制が及ばなくなってしまうこととなると考えられる。(もしかすると、裁判所の予算も財務省が担当しているようなので、国会の統制は効くのかもしれない。財政法に詳しい人に分析を求めたい。)

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〔予算の作成〕
第86条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

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 しかし、国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査(90条1項)することから、その検査報告に含まれる内閣総理大臣の権限によって自衛隊に使われた財政措置は、内閣を通して国会に提出することとなる。そして、国会の議決はないものの、内閣を通して国会及び国民に対して報告されることとなる。


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〔会計検査〕
第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。


〔財政状況の報告〕
第91条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

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会計検査院と特定秘密保護法――憲法90条の今日的意義



 もしかしたら、この私案の規定はアメリカ合衆国憲法の『大統領の権限』を参考にしているのかもしれない。そうであるならば、この私案の規定は日本の「議院内閣制」と、アメリカの「大統領制」とを混同しているものと思われる。


アメリカ合衆国憲法 Wikisource

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第2条


第1節 行政権は、アメリカ合衆国大統領に帰属する。(以下略)


第2節 大統領は、合衆国の陸海軍及び合衆国の軍務に実際に就くため召集された各州の民兵の最高司令官である。(以下略)

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 行政権が「内閣」に属している日本と、行政権が「大統領」に属しているアメリカでは、制度が異なるのである。そのため、内閣総理大臣を自衛隊の最高指揮官として憲法中に明記することは妥当でないと考える。


 それにしても、アメリカ大統領の軍に関する権限でさえ、合衆国憲法「第2条」の行政権の中にセットで配置されている。それをなぜ自衛隊について「内閣」の章ではなく、「戦争の放棄」の章に規定を設けようとするのか分からない。

(参考:合衆国憲法「第1条 立法権」「第2条 行政権」「第3条 司法権」「第4条 各州」)


 さらに、日本国憲法とアメリカ合衆国憲法とでは、憲法に記載されている事項の情報量が全く違う。そのため、国民の人権を定めた規定についても、情報に違いがある。そのようなことから、憲法中に三権以外の機関として「自衛隊」などと機関名を設けることは、日本国憲法の仕組みとしては体系的な整理を損なうこととなる。


 この点、他国憲法を参考として取って付ければよいとの発想では、憲法の統治原理の権限基盤を揺るがすものとなってしまうことを理解する必要があると思われる。




 3項の、「文民統制に服する。」の文言であるが、現行憲法66条2項の規定と重複することとなる。


日本国憲法

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66条2項 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
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日本国憲法第66条 Wikipedia

 そもそも、なぜ重複するような事態になるかと言うと、「第五章 内閣」の章に配置するべき権限の規定を、無理やり「第二章 戦争の放棄」の章に配置しようとしているからだろう。この点、アクセシビリティが低く、憲法体系全体を見渡す視野で改憲案を練っているようには感じられない点である。三権分立の統治原理の基礎から学び直す必要があると思われる。

 

 自衛隊が内閣の下に設置される機関であるならば、「第二章 戦争の放棄」の章ではなく、「第五章 内閣」の章に配置するべきものである。そのことをよく表す規定として、「第四章 国会」に設けられた機関である弾劾裁判所がある。

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第四章 国会


〔弾劾裁判所〕
第64条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める
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 ただ、自衛隊を「第五章 内閣」の章に配置するとしても、9条2項の「戦力」という規定との整合性には十分に検討する必要がある。憲法の体系的な整合性を損なわせることとなっては、法の支配、立憲主義、法治主義を損なうこととなるからである。


 この改憲案でもそうであるが、やはり2項も3項も第二章の「戦争の放棄」とは趣旨を異にしているものである。章のタイトルと条文の中身が違っているのである。憲法の体系をよく見渡してみると、おかしな規定となっていることに気が付くことができるだろう。

 

その他の衛藤私案


https://twitter.com/etoseishiro/status/877447861260005376 2017年6月21日

https://twitter.com/etoseishiro/status/865138866407170049 2017年5月18日

 



 お読みいただきありがとうございました。





自民党 佐藤正久 私案

 

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第2章 戦争の放棄

〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(新設)
9条の2 日本の国家、国民を守るために内閣総理大臣の指揮のもとに自衛隊を置く。
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佐藤個人としては、「9条の2」という条項を新設し、自衛隊の目的と文民統制も分かりやすく規定したらいいと思う。「日本の国家、国民を守るために内閣総理大臣の指揮のもとに自衛隊を置く」など、分かり易く、かつ国民に受け入れてもらえる文言を考えていきたい。

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議論を加速させ、自衛官が誇りを持って国を守れる体制へ! 2017年9月12日

 

 

 この私案についても、上記と大きな違いはないと思われる。当サイト内の下記の自民党案でも同じようなポイントについて解説している。比較いただければと思う。

憲法改正案 憲法草案 改憲案 加憲案