自衛のための必要最小限度



 2014年7月1日閣議決定以降、政府は「必要最小限度」の意味を使い間違っている。ここでは「従来の政府解釈」を確認し、「2014年7月1日閣議決定以降の政府解釈」の誤りを明らかにする。





「必要最小限度」の意味


 「必要最小限度」の文言が異なる次元で使われており、意味を誤解しないよう注意する必要がある。



━━━━━【衛のための必要最小限度】━━━━━   ← 三要件(旧)の全てを含む意味
「武力の行使」の旧三要件
① 我が国に対する急迫不正の侵害があること

② これを排除するために他の適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと     ← 第三要件の程度・態様の意味
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①② 「武力の行使」の発動要件  『性質』  (ユス・アド・ベルム / jus ad bellum に相当)

   武力行使するかしないかを判断するためのもの 「ユス・アド・ベルム」(戦争する理由の正当性)


③  「武力の行使」の程度・態様  『数量』  (ユス・イン・ベロ / jus in bello に相当)

   武力行使すると決めた後のやり方 「ユス・イン・ベロ」(戦争の方法・様態の正当性)
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【参考】Twitter



   【『自衛のための必要最小限度』と『我が国を防衛するため必要最小限度』】


 「自衛のための必要最小限度」と「わが国を防衛するため必要最小限度」は同じものである。政府は基本的に「自衛のための必要最小限度」を用いようとしているが、「自衛権の行使にあたっては、」などと、一文の中に「自衛権」の文言が含まれた場合に、それと区別するためか「我が国を防衛するため必要最小限度」の文言を用いているのではないかと思われる。ただ、同一文中に「自衛権」の文言があっても、「自衛のための必要最小限度」の文言を用いている場合もあり、統一したルールはないと思われる。





従来からの政府解釈

 

 三要件(旧)の基準のすべてを意味する「自衛のための必要最小限度」と、三要件の第三要件を意味する「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の違いについて、政府解釈を漏れなく読み解く必要がある。


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○鳩山国務大臣 私が先ほど申し上げましたことで、憲法を改めなくても自衛力が持てると申しましたのは、言葉が足りなくて誤解を招きましたが、その真意は、自衛のため必要最小限度の防衛力を持てると申したのでありまして、決して近代的な兵力を無制限に持ち得ると申したのではありません。また自衛のためというのは、他国からの侵略を受けた場合に、これを排除するため必要な限度という意味で申したのであります。吉田内閣当時、戦力という言葉を解しまして、近代的戦争遂行能力というふうに言っておられましたのは、もちろん傾聴すべき見解と思うのでありますが、私は戦力という言葉を、日本の場合はむしろ素朴に、侵略を防ぐために戦い得る力という意味に使っていまして、こういう戦力ならば自衛のため必要最小限度で持ち得ると言ったのであります。その意味において、自由党の見解と根本的に差はないものと考えております。独立国家としては主権あり、主権には自衛権は当然ついているものとの解釈に立って、政府は内外の情勢を勘案し、国力に相応した最小限の防衛力を整えたいと考えているのであり、従ってその限界は、国力の現状においてはきわめて限られたものになるのでありまして、他国を脅威するような原水爆等の攻撃的武器を持つ考えもなく、また憲法を改めない限り持てないものであると考えております。
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第22回国会 衆議院 内閣委員会 第23号 昭和30年6月16日


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憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が・・・・平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第 13 条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであつて、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、だからといつて、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまで外国の武力攻撃によつて国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最少限度の範囲にとどまるべきものである。そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであつて、したがつて、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。
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集団的自衛権と憲法との関係 参議院決算委員会提出資料 内閣法制局 昭和47年10月14日 PDF (P63)

参議院への政府提出資料

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━━━━━【衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること我が国に対する武力攻撃が発生したこと

〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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 国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利を有しているものとされている。
 我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであつて、憲法上許されないと考えている。

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 御指摘の答弁は、その答弁に係る事態について、我が国の自衛権の行使が認められる余地があるという趣旨のものではない。このことは、同答弁の直前において、「わが国に対する武力攻撃があつた場合に日本の個別的自衛権は限定された態様で発動できるというだけのことでございますから」と述べていることからも明らかである。
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「憲法、国際法と集団的自衛権」に関する質問に対する答弁書 昭和56年5月29日

  【参考】「わが国に対する武力攻撃があった場合に日本の個別的自衛権は限定された態様で発動できるというだけのことでございますから」の部分について

第68回国会 参議院 内閣委員会 第11号 昭和47年5月12日

第94回国会 衆議院 法務委員会 第18号 昭和56年6月3日


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(一) 憲法第九条の下において認められる自衛権の発動としての武力の行使については、政府は、従来から、

   ① 我が国に対する急迫不正の侵害があること
   ② これを排除するために他の適当な手段がないこと
   ③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
   という三要件に該当する場合に限られると解しており、これらの三要件に該当するか否かの判断は、政府が行うことになると考えている。

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 我が国が自衛権の行使として我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することのできる地理的範囲は、必ずしも我が国の領土、領海、領空に限られるものではなく、公海及び公空にも及び得るが、武力行使の目的をもつて自衛隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであつて、憲法上許されないと考えている。

 仮に、他国の領域における武力行動で、自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考える。

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 国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利を有しているものとされている。
 我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲とどまるべきものあると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであつて、憲法上許されないと考えている。

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    他方、我が国は、国際法上自衛権を有しており、我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然に認められているのであつて、その行使として相手国兵力の殺傷及び破壊等を行うことは、交戦権の行使として相手国兵力の殺傷及び破壊等を行うこととは別の観念のものである。実際上、我が国の自衛権の行使としての実力の行使の態様がいかなるものになるかについては、具体的な状況に応じて異なると考えられるから、一概に述べることは困難であるが、例えば、相手国の領土の占領、そこにおける占領行政などは、自衛のための必要最小限度を超えるものと考えられるので、認められない。

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憲法第九条の解釈に関する質問に対する答弁書 昭和60年9月27日


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○津野政府委員 お答えいたします。
 自衛力の行使についての憲法上のいわば制約がどういうものかというお尋ねかと思いますが、まず第一に、憲法第九条におきまして我が国が主権国として持つ自衛権はこれは否定していない、されているものではないということでございます。そして、この自衛権の行使を裏づける自衛のための最小限度の実力、つまり自衛力を保持することは、したがいまして第九条の禁ずるところではございません。憲法第九条第二項で保有することを禁止している戦力といいますのは、自衛のための必要最小限度の実力を超える実力をいうということでございます。
 そして、このような自衛力の行使につきまして、政府が従来から、いわゆる自衛権発動の要件ということで三つのことを言っているわけでございます。一つは、我が国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち、武力攻撃が発生したこと、二番目に、この場合にこれを排除するために他の適当な手段がないこと、三番目に、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、こういったような自衛権発動の三要件を満たす場合に限りまして憲法上自衛権の発動が可能であるものと解しているということでございます。
 したがいまして、以上のような考え方から出てまいります自衛権及びそれの行使についての具体的な制約の二、三の例を言いますと、一つは、例えば集団的自衛権でございますけれども、これは、我が国が国際法上集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然でありますけれども、憲法第九条のもとにおいて許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲内にとどまるべきものであると解しておりまして、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと解しているところでございます。
 二つ目は、具体的な例の二つとして、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣する、いわゆる海外派兵でございますけれども、これは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものでありまして、憲法上許されないものと解しているところでございます。
 大体それぐらいでございますが、さらに例えばもう少し細かな話をしますと、性能上専ら他国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられるいわゆる攻撃的兵器でございますが、これを自衛隊が保有することは、これによりまして我が国の保持する実力が直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなることから、いかなる場合にも許されない、というふうに解しているというような、いろいろな制約があるということでございます。
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第126回国会 衆議院 予算委員会第一分科会 第2号 平成5年3月5日

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○折田政府委員 政府のこれまでの見解をまとめさせていただきますと、まず個別的自衛権でございますが、我が国が個別的自衛権、それから次の集団的自衛権でございますけれども、これを有していることは主権国家である以上当然であるということ、国際法上そうなんですが、我が国の憲法は、独立国家に固有の自衛権は否定しておらず、自衛のための必要最小限の武力を行使すること、すなわち個別的自衛権は認められているということです。ただし、憲法第九条のもとにおいて許容される自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものと解されているので、集団的自衛権を行使することは、ここにバツとなっておりますが、その範囲を超えるものであって憲法上許されないということになっております。
(略)
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第131回国会 衆議院 安全保障委員会 第1号 平成6年10月20日

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○秋山政府特別補佐人
(略)

 それから、御質問の後段の、憲法解釈において政府が示している、必要最小限度を超えるか超えないかいうのは、いわば数量的な概念なので、それを超えるものであっても、我が国の防衛のために必要な場合にはそれを行使することというのも解釈の余地があり得るのではないかという御質問でございますが、憲法九条は、戦争、武力の行使などを放棄し、戦力の不保持及び交戦権の否認を定めていますが、政府は、同条は我が国が主権国として持つ自国防衛の権利までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の実力を保有し行使することは認めていると考えておるわけでございます。
 その上で、憲法九条のもとで許される自衛のための必要最小限度の実力の行使につきまして、いわゆる三要件を申しております。我が国に対する武力攻撃が発生したことこの場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと、それから、実力行使の程度が必要限度にとどまるべきことというふうに申し上げているわけでございます。
 お尋ねの集団的自衛権と申しますのは、先ほど述べましたように、我が国に対する武力攻撃が発生していないにもかかわらず外国のために実力を行使するものでありまして、ただいま申し上げました自衛権行使の第一要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていないものでございます。
 したがいまして、従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの第一要件を満たしていないという趣旨で申し上げているものでございまして、お尋ねのような意味で、数量的な概念として申し上げているものではございません。
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第159回国会 衆議院 予算委員会 第2号 平成16年1月26日

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━━━━━【衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること我が国に対する武力攻撃が発生したこと

〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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〇 海外派兵に関わる「自衛のための必要最小限度」

 「海外派兵」に関して使われている「自衛のための必要最小限度」の意味を確認する。

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○政府委員(角田礼次郎君) 御指摘のように、各国の憲法の中でいわゆる侵略戦争の放棄ということをうたった規定が多々あることは御指摘のとおりだと思います。むろんわが国においても、そういう意味の侵略戦争が放棄されておるというか、禁止されておるわけでありますが、しかし、その反語として、直ちにわが憲法においていわゆる自衛戦争が許されるというような言い方は、政府としてはしていないわけであります。自衛権の行使という場合においても、わが国は御承知のような憲法の上では自衛のための必要最小限度の実力行使しかしない、専守防衛とかそういうふうなことばで言われることもあります。
 それからまた自衛のための措置として、私どもは必要な実力組織を保有することは必要最小限度で許されると言っておりますが、これまた自衛のためであればどのような実力組織を持つことも許されるというような、そういうほかの国の何といいますか、実力組織の保有のしかたとは違うわけでありまして、憲法上の制約としては最小限度のものでなければいけない。たとえば、先ほど防衛庁長官から御説明申しましたようないろいろな、徴兵制であるとか、海外派兵ができないとか、あるいは侵略的、攻撃的な脅威を与えるような兵器は持てないとか、そういう意味におきまして規範的な拘束力があるわけでございますから、単に各国の憲法と比較しまして、各国の憲法ではそういう意味の規範がないという意味におきまして、私どもはやはり質的に違っているというふうに考えております。
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第71回国会 参議院 内閣委員会 第29号 昭和48年9月18日


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○津野政府委員 お答えいたします。
 自衛力の行使についての憲法上のいわば制約がどういうものかというお尋ねかと思いますが、まず第一に、憲法第九条におきまして我が国が主権国として持つ自衛権はこれは否定していない、されているものではないということでございます。そして、この自衛権の行使を裏づける自衛のための最小限度実力、つまり自衛力を保持することは、したがいまして第九条の禁ずるところではございません。憲法第九条第二項で保有することを禁止している戦力といいますのは、自衛のための必要最小限度実力を超える実力をいうということでございます。
 そして、このような自衛力の行使につきまして、政府が従来から、いわゆる自衛権発動の要件ということで三つのことを言っているわけでございます。一つは、我が国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち、武力攻撃が発生したこと、二番目に、この場合にこれを排除するために他の適当な手段がないこと、三番目に、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、こういったような自衛権発動の三要件を満たす場合に限りまして憲法上自衛権の発動が可能であるものと解しているということでございます。
 したがいまして、以上のような考え方から出てまいります自衛権及びそれの行使についての具体的な制約の二、三の例を言いますと、一つは、例えば集団的自衛権でございますけれども、これは、我が国が国際法上集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然でありますけれども、憲法第九条のもとにおいて許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲内にとどまるべきものであると解しておりまして、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと解しているところでございます。
 二つ目は、具体的な例の二つとして、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣する、いわゆる海外派兵でございますけれども、これは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものでありまして、憲法上許されないものと解しているところでございます。
 大体それぐらいでございますが、さらに例えばもう少し細かな話をしますと、性能上専ら他国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられるいわゆる攻撃的兵器でございますが、これを自衛隊が保有することは、これによりまして我が国の保持する実力が直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなることから、いかなる場合にも許されない、というふうに解しているというような、いろいろな制約があるということでございます。
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第126回国会 衆議院 予算委員会第一分科会 第2号 平成5年3月5日

 ここで、「自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲内にとどまるべきものであると解しておりまして、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと解している」で使われている「我が国を防衛するため必要最小限度」とは、三要件(旧)を満たす「武力の行使」のことである。「集団的自衛権の行使」は、この三要件(旧)の第一要件を満たさないことにより、憲法上許されないとの論理である。

 「いわゆる海外派兵でございますけれども、これは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものでありまして、憲法上許されないものと解している」で使われている「自衛のための必要最小限度」とは、三要件(旧)を満たす「武力の行使」のことである。「海外派兵」は、三要件(旧)の「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)」するための「必要最小限度(第三要件)」を一般に超えるものと判断することにより、憲法上許されないとの論理である。

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○政府委員(大森政輔君) 自衛隊の海外派兵についてのお尋ねでございますが、日本国憲法第九条のもとにおきましても、我が国を防衛するための必要最小限度の武力行使は禁止されていないところでありますが、それが現実に許されますのは、我が国に対する急迫不正の侵害、すなわち武力攻撃が発生した場合において、これを排除するために他に適切な手段がなく必要最小限度の実力の行使にとどまるときに限られると解しているところでございます。
 いわゆる海外派兵とは、一般的に申しますと、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することである、このように定義されているわけでございますが、このような海外派兵は、一般に、今述べました自衛のための必要最小限度を超えるものであり、許されない、従前から申し上げてきているところでございます。

(略)

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第144回国会 衆議院 本会議 第2号 平成10年11月30日


 ここでは、「我が国を防衛するための必要最小限度の武力行使は禁止されていない」と述べた後、それが許容されるのは三要件(旧)を満たす場合であることを提示し、「海外派兵は、一般に、今述べました自衛のための必要最小限度を超えるものであり、許されない」と述べている。

 つまり、「海外派兵」が「自衛のための必要最小限度を超える」理由となるものは、「武力の行使」の三要件(旧)を満たさないことによるものである。


〇 「我が国を防衛するための必要最小限度」 ⇒ 旧三要件を満たす武力行使は禁止されていないことを意味する

〇 「自衛のための必要最小限度」を超える ⇒ 海外派兵は許されない


「我が国を防衛するための必要最小限度」と「自衛のための必要最小限度」は同じ意味と解される。)

 

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政府委員(高辻正巳君) 海外派兵ということからも言えると、簡単に言えばそれでいいのだと思いますけれども、もう少し良心的に申し上げますと、海外派兵ができるかどうか、それからまた先ほど来お話がありました自衛隊の装備といいますか、それがどの程度できるかどうかというのは、実は根本に自衛権の限界の問題があるから出てくるわけです。したがって、その自衛権の限界ということを抜きにして海外派兵ということは考えられない。そういうわけで、海外派兵ができないからどうかというのは、私どもの厳密な考え方から言いますと、どうも飛躍がありそうに思います。……(略)……

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政府委員(高辻正巳君) 確かに自衛権の限界との関連における問題としてわれわれはとらえておりますし、また、従来国会におけるいろんな論議が、ここに中心が置かれて問題になってきた経緯がございます。したがって、自衛権の限界と無縁に海外派兵ということが問題になったということを私は申し上げることができません。確かにそういうことになれば、自衛権の三要件に該当するものであれば、いわゆる海外派兵もできることになるではないかという御指摘でございますが、私がさっき述べましたように、自衛権の限界を越えた海外における武力行動という定義を下すことになれば、自衛権の限界を越えないものはよろしいし、こえるものこそが海外派兵になるということにおのずからなるわけです。

 ついでながら、いま仰せのとおりに、自衛権のいわゆる発動の三要件に該当するものであれば、敵の基地をたたくこともできるという議論がありましたことは御承知のとおりで、これは鳩山内閣でもありましたし、岸内閣でもあったことで、いま、要するにそれが自衛権発動の三要件に該当する場合であるかないかだけにかかる問題であろうと思っております。

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第61回国会 参議院 予算委員会 第9号 昭和44年3月10日


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○福田国務大臣 国連憲章四十二条及び四十三条に基づく国連軍につきましては、これまでの憲法九条の解釈、運用の積み重ねがございます。
 すなわち、まず第一に、自衛隊については、我が国の自衛のための必要最小限度実力組織であり、したがって、憲法第九条に違反するものではないこと。
 第二、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないことである。
 第三、我が国が国際法上、集団的自衛権、すなわち自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力をもって阻止する権利を有しているということは、主権国家である以上、当然であるが、憲法九条のもとにおいて許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しておりまして、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないこと。
 第四に、国連の平和維持隊への参加は、当該平和維持隊の目的、任務が武力行使を伴うものであれば、国際平和協力法におけるいわゆる五原則のような格別の前提を設けることなくこれに参加することは憲法上許されないこと。
 以上のような憲法九条の解釈、運用の積み重ねから推論すると、我が国としてこれに参加することについては憲法上疑義がある、こういうふうに考えているわけであります。
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第154回国会 衆議院 武力攻撃事態への対処に関する特別委員会 第3号 平成14年5月7日 第3号 平成14年5月7日

 






〇 政府解釈の体系

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憲法と自衛権

1.憲法と自衛権


 わが国は、第二次世界大戦後、再び戦争の惨禍(さんか)を繰り返すことのないよう決意し、平和国家の建設を目指して努力を重ねてきました。恒久(こうきゅう)の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持及び交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。
 政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています。このような考えの下に、わが国は、日本国憲法の下、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきています。


2.憲法第9条の趣旨についての政府見解

(1) 保持し得る自衛力
わが国が憲法上保持し得る自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならないと考えています。
自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有していますが、憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」に当たるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題です。自衛隊の保有する個々の兵器については、これを保有することにより、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かによって、その保有の可否が決められます。
しかしながら、個々の兵器のうちでも、性能上専(もっぱ)ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。したがって、例えば、ICBM(Intercontinental Ballistic Missile)(大陸間弾道ミサイル)、長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されないと考えています。

(2)自衛権発動の要件
憲法第9条の下において認められる自衛権の発動としての武力の行使については、政府は、従来から、
 ①わが国に対する急迫不正の侵害があること
 ②この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
 ③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
という三要件に該当する場合に限られると解しています。

(3)自衛権を行使できる地理的範囲
わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られませんが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概には言えません。
しかしながら、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えています。

(4)集団的自衛権
国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているとされています。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然です。しかしながら、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えています。

(5)交戦権
憲法第9条第2項では、「国の交戦権は、これを認めない。」と規定していますが、ここでいう交戦権とは、戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であって、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領などの権能(けんのう)を含むものです。
一方、自衛権の行使に当たっては、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然のことと認められており、その行使は、交戦権の行使とは別のものです。

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憲法と自衛権(2014年7月1日閣議決定以前の過去のページ) (下線・太字・色は筆者)

  (2 憲法第9条の趣旨についての政府見解 2006)

  (憲法と自衛権 2013)


 「専守防衛」の定義も確認する。


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1 専守防衛
専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう。
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3 基本政策 1 専守防衛 平成30年版 防衛白書 (色は筆者)

 




 上図のように、三要件(旧)の基準をすべて満たすことを「自衛のための必要最小限度」と呼んでいる。

 また、三要件(旧)の基準を用いて9条1項、2項前段、2項後段のすべてに抵触しない旨が示されている。
 これは、三要件(旧)の基準である「自衛のための必要最小限度」は、「武力の行使」の限度を示すだけでなく、


◇ 「武力の行使」を行うことができる「地理的範囲」の限度を画する基準

◇ 9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に抵触しない「自衛力」の限度を画する基準

◇ 9条2項後段の「交戦権」に抵触しない「自衛行動権」の範囲を示す基準


となっているということである。


 「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」に関する「海外派兵」の論点で、「海外派兵」が「一般に自衛のための必要最小限度を超える」とされている。

 これは、「海外派兵」については、一般に三要件(旧)の「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」という目的を達成するための「武力の行使」の範囲を超えるという意味である。

 「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)」したならば、それ以上の「武力の行使」は憲法上容認されないことから、「海外派兵」は「一般に自衛のための必要最小限度を超える」とされているのである。

 

 また、「憲法上『集団的自衛権の行使』は許されない」との結論が導かれているは、「自衛のための必要最小限度(我が国を防衛するため必要最小限度)」という基準を超えることが理由である。

 これも、「集団的自衛権の行使」は、三要件(旧)の「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」という目的を達成するための「武力の行使」の範囲を超えることから、憲法上許されないとされているのである。


 このように、「自衛のための必要最小限度」の意味は、三要件(旧)をすべて満たすことを意味しており、この基準によって限度が画され、9条に抵触しないことが示されていた。

 
 この三要件(旧)をすべてを満たす意味である「自衛のための必要最小限度」は、憲法に抵触しないことを示すための基準となるものであるから、「憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」を意味する「専守防衛」の概念を説明する際にも用いられている。

 




 このことから、もしこの三要件(旧)の基準が損なわれた場合、同時に「(1)保持できる自衛力」、「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」、「(4)交戦権」で使われていた基準も損なわれることを意味し、実力組織の実態が9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触し、その活動の「海外派兵」が解禁され、9条2項後段の禁じる「交戦権」にも抵触して違憲となる。


 さらに、この三要件(旧)の基準が損なわれた場合、「専守防衛」の定義に示された「相手から武力攻撃を受けたとき」の文言や、二回出てくる「自衛のための必要最小限」の文言を満たさなくなるため、「専守防衛」からも逸脱することになる。




2014年7月1日閣議決定の前後の比較


 2014年7月1日閣議決定によって新三要件の「存立危機事態」が定められた。

 政府は、2014年7月1日閣議決定の前も後も「自衛のための必要最小限度」という文言を同じように使っている。

 また、政府は2014年7月1日閣議決定の後においても「自衛のための必要最小限度」という基準が変わらない旨を述べている。

 「海外派兵」についても、「一般に自衛のための必要最小限度を超える」との基準を用いることは全く変わらない旨を答弁している。
 「自衛のための必要最小限度」の基準は、2014年7月1日閣議決定において新三要件が定められた後においても、「保持できる自衛力」、「自衛権を行使できる地理的範囲」、「交戦権」のそれぞれの解釈を示す際に、そのまま用いられている。


 下記で、「自衛のための必要最小限度」の文言が<従来の政府解釈>と<2014年7月1日閣議決定後の政府解釈>の中でどのように使われているのかを確認する。


従来の政府解釈
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憲法と自衛権

1.憲法と自衛権


 わが国は、第二次世界大戦後、再び戦争の惨禍(さんか)を繰り返すことのないよう決意し、平和国家の建設を目指して努力を重ねてきました。恒久(こうきゅう)の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持及び交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。
 政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています。このような考えの下に、わが国は、日本国憲法の下、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針として、実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきています。


2.憲法第9条の趣旨についての政府見解

(1) 保持し得る自衛力
わが国が憲法上保持し得る自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならないと考えています。
自衛のための必要最小限度の実力の具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面を有していますが、憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」に当たるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題です。自衛隊の保有する個々の兵器については、これを保有することにより、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かによって、その保有の可否が決められます。
しかしながら、個々の兵器のうちでも、性能上専(もっぱ)ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。したがって、例えば、ICBM(Intercontinental Ballistic Missile)(大陸間弾道ミサイル)、長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されないと考えています。

(2)自衛権発動の要件
憲法第9条の下において認められる自衛権の発動としての武力の行使については、政府は、従来から、
 ①わが国に対する急迫不正の侵害があること
 ②この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと
 ③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
という三要件に該当する場合に限られると解しています。

(3)自衛権を行使できる地理的範囲
わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られませんが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概には言えません。
しかしながら、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えています。

(4)集団的自衛権
国際法上、国家は、集団的自衛権、すなわち、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利を有しているとされています。わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然です。しかしながら、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、他国に加えられた武力攻撃を実力をもって阻止することを内容とする集団的自衛権の行使は、これを超えるものであって、憲法上許されないと考えています。

(5)交戦権
憲法第9条第2項では、「国の交戦権は、これを認めない。」と規定していますが、ここでいう交戦権とは、戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であって、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領などの権能(けんのう)を含むものです。
一方、自衛権の行使に当たっては、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然のことと認められており、その行使は、交戦権の行使とは別のものです。

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憲法と自衛権(2014年7月1日閣議決定以前の過去のページ) (下線・太字・色は筆者)

  (2 憲法第9条の趣旨についての政府見解 2006)

  (憲法と自衛権 2013)


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2014年7月1日閣議決定後の政府解釈
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憲法と自衛権

1.憲法と自衛権


 わが国は、第二次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことのないよう決意し、平和国家の建設を目指して努力を重ねてきました。恒久の平和は、日本国民の念願です。この平和主義の理想を掲げる日本国憲法は、第9条に戦争放棄、戦力不保持、交戦権の否認に関する規定を置いています。もとより、わが国が独立国である以上、この規定は、主権国家としての固有の自衛権を否定するものではありません。政府は、このようにわが国の自衛権が否定されない以上、その行使を裏づける自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法上認められると解しています。このような考えに立ち、わが国は、憲法のもと、専守防衛をわが国の防衛の基本的な方針として実力組織としての自衛隊を保持し、その整備を推進し、運用を図ってきています。


2.憲法第9条の趣旨についての政府見解


(1)保持できる自衛力
 わが国が憲法上保持できる自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならないと考えています。その具体的な限度は、その時々の国際情勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面があり、毎年度の予算などの審議を通じて国民の代表者である国会において判断されます。憲法第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」にあたるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題であって、自衛隊の個々の兵器の保有の可否は、それを保有することで、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かにより決められます。
 しかし、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。たとえば、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないと考えています。

(2)憲法第9条のもとで許容される自衛の措置
 今般、2014(平成26)年7月1日の閣議決定において、憲法第9条のもとで許容される自衛の措置について、次のとおりとされました。
 憲法第9条はその文言からすると、国際関係における「武力の行使」を一切禁じているように見えますが、憲法前文で確認している「国民の平和的生存権」や憲法第13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏まえて考えると、憲法第9条が、わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは到底解されません。一方、この自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限度の「武力の行使」は許容されます。これが、憲法第9条のもとで例外的に許容される「武力の行使」について、従来から政府が一貫して表明してきた見解の根幹、いわば基本的な論理であり、1972(昭和47)年10月14日に参議院決算委員会に対し政府から提出された資料「集団的自衛権と憲法との関係」に明確に示されているところです。
 この基本的な論理は、憲法第9条のもとでは今後とも維持されなければなりません。
 これまで政府は、この基本的な論理のもと、「武力の行使」が許容されるのは、わが国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると考えてきました。しかし、パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威などによりわが国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様などによっては、わが国の存立を脅かすことも現実に起こり得ます。
 わが国としては、紛争が生じた場合にはこれを平和的に解決するために最大限の外交努力を尽くすとともに、これまでの憲法解釈に基づいて整備されてきた既存の国内法令による対応や当該憲法解釈の枠内で可能な法整備などあらゆる必要な対応を採ることは当然ですが、それでもなおわが国の存立を全うし、国民を守るために万全を期す必要があります。
 こうした問題意識のもとに、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、わが国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至りました。
 わが国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然ですが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要があります。憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合があります。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれますが、憲法上は、あくまでもわが国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものです。

■憲法第9条のもとで許容される自衛の措置しての「武力の行使」の新三要件
 ・わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
 ・これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
 ・必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

(3)自衛権を行使できる地理的範囲
 わが国が自衛権の行使としてわが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使できる地理的範囲は、必ずしもわが国の領土、領海、領空に限られませんが、それが具体的にどこまで及ぶかは個々の状況に応じて異なるので、一概には言えません。
 しかし、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されないと考えています。

(4)交戦権
 憲法第9条第2項では、「国の交戦権は、これを認めない。」と規定していますが、ここでいう交戦権とは、戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であって、相手国兵力の殺傷と破壊、相手国の領土の占領などの権能を含むものです。一方、自衛権の行使にあたっては、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然のこととして認められており、たとえば、わが国が自衛権の行使として相手国兵力の殺傷と破壊を行う場合、外見上は同じ殺傷と破壊であっても、それは交戦権の行使とは別の観念のものです。ただし、相手国の領土の占領などは、自衛のための必要最小限度を超えるものと考えられるので、認められません。

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憲法と自衛権 (下線・太字・色は筆者) (憲法と自衛権

  (憲法と防衛政策の基本 2016)



前後のまとめ

 政府は、「(1)保持できる自衛力」、「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」、「(4)交戦権」について説明する際に、同じ「自衛のための必要最小限度」という文言を使っている。そして、それぞれ「自衛のための必要最小限度」の範囲を超えることを基準として憲法上禁じられる範囲を確定している。


従来の政府解釈
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(1) 保持し得る自衛力
⇒ 攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなる


(2)自衛権発動の要件
  (ここで記載している三要件が「自衛のための必要最小限度」の具体的範囲である)


(3)自衛権を行使できる地理的範囲
⇒ 海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
(4)集団的自衛権
⇒ 自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきもの
  集団的自衛権の行使は、これを超えるもの

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
(5)交戦権
⇒ 自衛権の行使に当たっては、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然のこと
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2014年7月1日閣議決定後の政府解釈
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(1)保持できる自衛力
⇒ 攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなる


(2)憲法第9条のもとで許容される自衛の措置

  (新三要件が定められた)


(3)自衛権を行使できる地理的範囲
⇒ 海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの


(4)交戦権
⇒ 自衛権の行使にあたっては、わが国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することは当然のこと
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 (2014年7月1日閣議決定の後は、『(4)集団的自衛権』の項目がなくなっている。)

 



 

 上記のように、2014年7月1日閣議決定の後においても、三要件(旧)の基準がそのまま残ったままになっているのである。


 これにより、政府は2014年7月1日閣議決定以降も、「保持できる自衛力」は三要件(旧)の範囲であり、「自衛権を行使できる地理的範囲」も三要件(旧)の範囲であり、「『交戦権』に抵触しない自衛行動権」についても旧三要件の範囲のままということになるのである。


 このように「自衛のための必要最小限度」という基準が維持されているのであれば、「武力の行使」の範囲を決する基準はすべて「自衛のための必要最小限度」という基準が用いられていることになるのであり、「集団的自衛権の行使」の可否が決せられる際にも、同様の基準が用いられているはずである。

 
 すると、「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の基準をすべて満たすことが必要となるから、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」は、従来と同様に三要件(旧)の第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」を満たさないことから、行使できないこととなる。


 この「自衛のための必要最小限度」の意味するところを従来の政府見解と整合性をもって素直に読み解くならば、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や、「存立危機事態」での「武力の行使」については、2014年7月1日閣議決定後においても行うことができないとの結論に至るのである。

 

 このように、「自衛のための必要最小限度」が維持されているのであれば、これが三要件(旧)の基準を意味するものであるために、たとえ新三要件が定められたとしても、この三要件(旧)の範囲を超える部分については違憲となるため行うことはできないのである。



 それにもかかわらず、政府は2014年7月1日閣議決定以降、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」を容認しようとしている点で、論理的整合性が保たれていない。


 また、新三要件が制定され、第一要件、第二要件が変更されたとしても、従来から用いられている「自衛のための必要最小限度」を超えるか否かという基準を用いていることは、新三要件と旧三要件が競合していることとなり、法解釈として成り立っていない。


 2014年7月1日閣議決定の後、政府は「必要最小限度」の意味を使い間違えており、論理的整合性が保たれなくなってしまっているのである。




〇 補足


 2014年7月1日閣議決定によって新三要件が定められ、「自衛のための必要最小限度」の内容が三要件(旧)から新三要件に置き換わったのではないかと考える人がいるかもしれない。
 しかし、三要件(旧)の基準のことを「自衛のための必要最小限度」と呼んでいるのであり、9条の制約の下に「自衛のための必要最小限度」という数量的な枠がもともと存在していて、その中に三要件(旧)を当てはめているという性質のものではない。

 9条の制約の下では三要件(旧)を満たす場合の「武力の行使」に限られており、この三要件(旧)の枠のことを「自衛のための必要最小限度」と呼んでいるだけである。

 そのため、「自衛のための必要最小限度」という言葉だけを取り上げて、9条の制約があたかも数量的な意味であるかのように考え、そこに新しい要件を当てはめることでそのままその新しい要件を正当化できるという性質のものではない。


 9条は規範性を有しており、努力義務の規定というわけではない。

 そのため、9条の制約は政府の恣意的な行為を制約しようとする規範として機能することが求められるている。

 そのことから、9条の制約の限界が数量的なものであるかのように考えることは、それを実現することができなくなるため、解釈として妥当でない。

 9条の下では、政府の恣意的な行為を制約しようとする趣旨を生かした解釈が求められるのであり、9条の制約の趣旨を具現化し、「武力の行使」の限度を画し、その範囲を確定する基準となるものが必要となる。

 三要件(旧)については、第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という基準が、これを満たすものと考えられる。

 これは、1972年(昭和47年)政府見解に「わが憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られる」と書かれている部分に対応するものである。

 これを満たさない中で「武力の行使」を行うことは9条に抵触して違憲となる。


 これに対して、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」の場合を検討する。

 

 まず、2014年7月1日閣議決定でも、前提として1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分を維持していると説明されている。

 ただ、「基本的な論理」と称している部分の「自衛の措置」の限界を記した規範部分には「あくまで外国の武力攻撃によつて」の文言が存在しており、これは「我が国に対する武力攻撃」の意味に限られている。

 なぜならば、1972年(昭和47年)政府見解は第二段落で「集団的自衛権の行使」が「自衛の措置の限界をこえる」と説明しており、「あくまで外国の武力攻撃によつて」の文言は、その「自衛の措置」の限界の規範として示されたものであり、ここに「集団的自衛権の行使」を可能とする余地のある「他国に対する武力攻撃」の意味が含まれているはずがないからである。

 そのため、1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分の中に、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」は当てはまらない。

 これにより、「存立危機事態」での「武力の行使」は、1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分の「自衛の措置」の限界をこえ、9条に抵触して違憲となる。 

 他にも、新三要件の「存立危機事態」は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃(新第一要件)」を「排除(新第二要件)」するために「武力の行使」を行うものである。これは、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための活動であることから、それを実施する実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。


 新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」は、国際法上の「集団的自衛権」という違法性阻却事由の『権利』を得ることによって行おうとするものである。

 しかし、「集団的自衛権」の適用を受けるためには、『武力攻撃を受けた他国からの要請』が必要となる。

 この『他国からの要請』に基づいて「武力の行使」を行うということは、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」となるのであって、それを実施するための実力組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。

 さらに、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」は曖昧不明確な内容であり、政府の恣意性を排除することのできる基準となるものを有していない。

 具体的には、「武力の行使」を発動できるか否かや、「武力の行使」を発動した場合における目的の範囲を画する明確な基準となるものが存在しない。これによって、「武力の行使」の程度・態様についても、その限度を画することができないものとなっている。

 これらの内容は、9条に抵触しない旨を明らかにするための政府の恣意性を排除することのできる基準となるものが存在しておらず、9条の規範性が損なわれ、9条に抵触して違憲となる。
 具体的には、新三要件は「(1)保持できる自衛力」の限度、「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」の限度、「(4)交戦権」に抵触しないための限度を画することができず、
新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を実施する実力組織は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触し、その活動の地理的範囲は「海外派兵」が解禁されており、その行動は9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。

 このため、「自衛のための必要最小限度」の内容が旧三要件から新三要件に置き換わるとの主張は成り立たない。


<メモ>

 2014年7月1日閣議決定以降、政府は「海外派兵」について新三要件の第三要件を満たさないことにより禁じられると述べている。

 しかし、従来より「海外派兵」は一般に憲法上許されないと判断されているのは、9条の下で許容される「武力の行使」は三要件(旧)を満たす場合に限られており、「海外派兵」は一般に三要件(旧)のすべてを満たす「武力の行使」とは言えないことが理由である。つまり、「海外派兵」は、一般に「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」という目的を達成するための範囲を超えることから憲法上許されないということである。

 2014年7月1日閣議決定によってこの三要件(旧)の内容を変更しようとし、第一要件、第二要件の内容が変わっているにもかかわらず、「武力の行使」の程度・態様を示す基準である新三要件の第三要件を満たさないことによって「海外派兵」が禁じられるとの主張は、「必要最小限度」の意味を取り違えたことによる誤った主張である。


 新三要件の「存立危機事態」は「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための活動である。そのため、要件上はその「他国」の領域などに踏み入ることも容易に想定することができる。これにより、「自衛のための必要最小限度」の内容が旧三要件から新三要件に置き換わったと考えようとした場合には、その「自衛のための必要最小限度」という基準によって「海外派兵」が一般に許されないとの結論が導かれる根拠となる基準は存在しなくなってしまい、論理的整合性が成り立たなくなるのである。



 2014年7月1日閣議決定の以降、政府は「必要最小限度」の意味を勘違いしており、論理的整合性の保たれた説明は存在しない。

 新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」に基づく「武力の行使」は違憲である。 



<メモ>

集団的自衛権における「必要最小限度の実力行使」に関する質問主意書 平成27年6月16日







誤った答弁

 これより下記に記載した政府の答弁は誤った認識であり、整合性が保たれていない。



安倍晋三

〇 内閣総理大臣 安倍晋三

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○安倍内閣総理大臣 

(略)

 つけ加えて言えば、その後、岡田委員との間で、集団的自衛権についてはそれはあり得るのかという話でございましたが、その際、私は、邦人を輸送する場合に、守るために武器の使用、武力の行使をすることはあり得るという話をしたわけでありますが、そもそも、個別的自衛権においても、現在の解釈においては、武力行使の目的を持って、武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣する、いわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解しているというのが、今もこれは変わらない立場でありまして、今後もそうでございますので、個別的自衛権においてもこのような制約があることを踏まえれば、仮に集団的自衛権の行使が認められるとしても同様の制約がかかることは当然のことである、このように考えております。
 このため、シーレーンにおける機雷の掃海や船舶の護衛といった事例については検討していく必要が考えられますが、海外派兵は一般には許されるものではないというふうに考えているところでございます。
 このように、我々も、あらかじめ検討する上においては制約を課しているということでございます。
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第186回国会 衆議院 予算委員会 第16号 平成26年5月28日


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○内閣総理大臣(安倍晋三君) イラクのサマワに派遣した例は、これは戦闘行動に参加することを目的に参加したのではなくて、既に戦闘が終わった段階においてイラクの国の再建に協力をしたということでございます。
 そして、今私たちが何を検討しているかということでございますが、そこで、今委員からは、こうした海外での武力行使に参加するのではないかということでございますが、現在の憲法解釈において、武力の行使の目的をもって武装した部隊を他国へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないと解しているところでございまして、仮に集団的自衛権の行使が認められるとしても同様の制約が掛かるというのが私たちの立場でございます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第186回国会 参議院 外交防衛委員会 第19号 平成26年5月29日


 上記、「一般に自衛のための必要最小限度を超える」の意味は、旧三要件を超えることを意味する。そのため、「同様の制約が掛かる」のであれば、新三要件を定めた後でも旧三要件に基づいて制約をかけていることになる。

 

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(安倍総理)

(略)

 今回の閣議決定は、現実に起こり得る事態において、国民の命と平和な暮らしを守ることを目的としたものであります。武力行使が許されるのは、自衛のための必要最小限度でなければならない。このような従来の憲法解釈の基本的考え方は、何ら変わるところはありません。したがって、憲法の規範性を何ら変更するものではなく、新三要件は憲法上の明確な歯止めとなっています。

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安倍内閣総理大臣記者会見 平成26年7月1日

 

 上記、「自衛のための必要最小限度でなければならない。」のであれば、旧三要件の範囲を超えることができないことから、「集団的自衛権の行使」としての新三要件に基づく「存立危機事態」での「武力の行使」を行うことはできない。

 

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○安倍内閣総理大臣 はっきりとお答えをさせていただきたいと思います。

 従来より、政府は、いわゆる海外派兵、すなわち、武力行使の目的を持って、武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない、こう解釈をしてきたところでございまして、この自衛の中には、当然個別的、集団的両自衛権が入るわけでございまして、新三要件のもとでも、この見解には全く変わりはない。いわば、閣議決定を行う上において、これは政府として統一的な考え方を既に示しているとおりでございます。

(略)

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○辻元委員 もう一回さかのぼってその前の質問に行きますが、はっきりここはしておきたいと思うんです。
 湾岸戦争やイラク戦争に未来永劫行きませんというのは、法理的に、例えばさっきの機雷の除去みたいな場合は、先に戦争が起こっていて、そこに、新三要件が当たるからといって日本が行くわけですよ。そこで戦闘になるかもしれない、攻撃されるかもしれない。先ほど総理がおっしゃったように、日本が近海で自衛権を行使していて、その後、集団安全保障措置に変わったじゃないんですよ。違う場合もある。その違う場合も含めて、法制局長官は、新三要件に当たれば多国籍軍等の集団安全保障措置にも参加できるということを御答弁なさったわけですよ。
 ですから、総理にもう一度お聞きしますね。
 イラク戦争や湾岸戦争に行かないとおっしゃっているのは、これは法理上、絶対に新三要件に当たらないから行けないとおっしゃっているのか、法理上は行けることもあるが、政策上行けない、そんなことは日本はしませんよとおっしゃっているのか、どっちですか。これははっきりさせておいた方がいいですよ。

○安倍内閣総理大臣 既にもうはっきりさせていると思いますが、もう一度答弁をさせていただきます。

 これは、従来より、政府は、いわゆる海外派兵、すなわち、武力行使の目的を持って、いわばアフガン戦争、イラク戦争、湾岸戦争に参加するというのは、これはまさにこれに該当するわけですね、武力行使の目的を持って武装した部隊を送ることに、これはまさに該当するわけでありますから、明確に申し上げられる、このように思うわけでございますが、武力行使の目的を持って、武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない、このように理解をしているわけでございまして、これは新しい新三要件のもとでも変わらないということでございますから、いわば、憲法上それはできないというのが我々の考え方でございます。

○辻元委員 法制局長官にお伺いします。

 先ほどから、集団安全保障措置には、法理的には新三要件が当たれば行けると。しかし、行くか行かないかは政策判断だと思うんですよ。法理的には行けるということでよろしいですね、新三要件が当たればですよ。

○横畠政府特別補佐人 新三要件に当たればというもちろん前提でのお尋ねだと思いますけれども、なかなかこの新三要件は厳しいものでございまして、先ほどの海外派兵の問題でもありますとおり、一般に自衛のための必要最小限度を超えるようなもの、そのようなものには憲法上もちろん参加することはできません。

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第189回国会 衆議院 予算委員会 第13号 平成27年3月3日

 


 下記で議論となっているのは、政府見解の「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」の事例である。この「地理的範囲」に関する「必要最小限度」の意味は、旧三要件のすべてを満たすことを意味する「必要最小限度」である。

 しかし、下記で安倍総理が話している「必要最小限度」の意味は、安倍総理の認識によれば新三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の文言に使われている「必要最小限度」である。

 中谷元が不規則発言で「第一、第二は判断しない」と話したようであるが、そもそもこの「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」の事例の「必要最小限度」の意味が旧三要件の第一、第二、第三要件のすべてを満たす意味で使われているものであるから、「第一、第二を判断しない」との認識は法解釈を誤っている。


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○小川委員 では、逆にお尋ねしますが、必要最小限度の反撃にとどまる反撃であれば、イラク戦争や湾岸戦争、アフガン戦争のような事態に際しては行使し得るということを今おっしゃったんですね。

○安倍内閣総理大臣 それはもう今まで何回も、何回も何回も何回も申し上げておりますように、つまり、例えばアフガニスタンに行って、あるいはイラクに上陸をして、部隊を送って、そこで武力行使をするということは、これは必要最小限をそもそも超えている。つまり、武力行使を目的として海外に出かけていって、武力行使を目的としてですよ、海外に出かけていって、いわば、そこで空爆を行ったり戦闘行為を行うということは、必要最小限を超えているということでございますから、それはできないということは明らかではないか、このように思います。


○小川委員 総理、質問に答えてください。

 必要最小限内にとどまる反撃であればできるということ、加えて、このアフガン戦争やイラク戦争のきっかけになった事態は、日本にとって存立事態に当たり得る、つまり、第一の要件は満たす可能性があると今おっしゃったと私は受けとめましたが。(発言する者あり)

○大島委員長 議員の皆さん、非常に大事な議論ですから、特に後ろの方と山尾君、ちょっと静かにしなさい。


○安倍内閣総理大臣 今お答えをさせていただきたい。これは同じお答えでございますから……(発言する者あり)


○大島委員長 誰なの。自分の席に座りなさい、あなた。(発言する者あり)パネル……。それでも後ろの方に座りなさい。自分の席じゃないところはだめだよ。静かに聞いていればいいけれども。


○安倍内閣総理大臣 同じ答えでございますから、申し上げたいと思います。

 まさに、海外に出かけていって、いわば武力行使を目的として他国の領土に入っていくということはできないということでございます。
 ですから、これはアフガン戦争にしろ、湾岸戦争にしろ、そこに自衛隊の部隊を送るのは、これは武力行使を目的に行く、いわば、そこで、上陸をしていくという、戦闘状況が起こっているときには、武力行使を目的にして行くに決まっているじゃないですか。
 基本的に、それ以外においては、例えば後方支援という考え方はございますよ。後方支援という考え方については、これは武力行使と一体化していませんから、一体していないことしかできませんから、それは武力行使ではないということでございます。
 今……(発言する者あり)でも、これは明らかじゃないですか。これがわからない人は、私、どうかしていると思いますよ。こんな理路整然とした御説明をさせていただいているところでございます。
 何回も御説明をさせていただいておりますように、湾岸戦争やアフガン戦争やイラク戦争に参加しない。参加できるんですねと今、小川委員がおっしゃった。参加できないということは、今申し上げましたように、武力行使を目的として、武力行使を目的としてアフガニスタンやイラクに上陸していくことはできないし、まさにそれはできないということでありますから、これはできないということは明らかである。
 今、小川淳也さんは、何ができると言おうとしているんでしょうか。それをまずは明確にしていただかないと、それ以上のお答えはできないということでございます。

○小川委員 残念ながら時間ですので、また改めたいと思いますが、これは、総理、極めて大事な議論なんですよ。日本が戦争をどういうときにするのかしないのかの、ぎりぎりの議論なんですよ。

 必要最小限の実力行使にとどまるからできないとおっしゃるということは、第一、第二の要件には当てはまるということをおっしゃっているんです。そこをぜひ、物すごい大事な論点ですから、総理。
 私、今の総理の説明がわからないならどうかしているなら、どうかしているで大いに結構ですよ。国会でどう言い逃れるかじゃなくて、国民に対して、どういうときに日本は戦争するのか、どういうときにしないのか、このぎりぎりの事例を話し合っているわけですから、これはしっかり説明をしていただきたい。
 残念ながら時間ですから、機会を改めますが……(発言する者あり)

○大島委員長 答弁されますか。もうよろしいですか。


○安倍内閣総理大臣 今、私は、第一、第二の要件を満たしているということは申し上げておりません。第三の要件を満たす必要がいずれにいたしましてもあるわけでありまして、第三の要件についてはまさに満たしていないということを申し上げているとおりでございます

 第三の要件は満たしていないわけでありますから、これはできないということは明々白々であるということでございます

○小川委員 もう終わりにしますが、今、中谷大臣が閣僚席から不規則発言で、第一、第二は判断しないとおっしゃった。それは、つまり、武力を出すかどうか、武力行使するかどうかは白紙委任、ブラックボックスということだ、この要件は。何のための新三要件かわからない。そのことを申し上げて、質疑を終わります。(発言する者あり)


○大島委員長 静かに、静かに。ちょっと後ろの方、星野君も、それから宮崎君もちょっと静かにして。中谷さんも余り余計なことを言いなさんなよ。

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第189回国会 衆議院 予算委員会 第15号 平成27年3月6日
 (【動画】「武力行使の新3要件なんて集団的自衛権行使の歯止めにはならないってこと」 Twitter)


 従来政府が「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」について「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と説明してきたのは、三要件(旧)のすべてを満たす意味での「必要最小限度」である。これは、三要件の第三要件の「必要最小限度」によって決せられているわけではない。なぜならば、第三要件の「必要最小限度」だけが「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と考える基準となると考えるのであれば、9条の規定を解釈する作業において、数量的で曖昧な「必要最小限度」という基準を持ち出していることになり、規範性を設定していない点で憲法解釈として妥当性を失ってしまうからである。
 この「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」を決している基準は、数量的で感覚的なものに基準を設定しているのではなく、三要件の全てを満たす中での「武力の行使」しか行うことができないとする基準なのである。これを「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と説明しているのである。
 また、三要件(旧)の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」についても、この「必要最小限度の実力行使」の範囲は第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除するため(第二要件)」のものである。この「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除」したならば、それ以上の「実力行使」は当然、「必要最小限度」を超えると判断されるのであり、第三要件の基準も第一要件と第二要件がかかっていたのである。

 これにより、「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵」が、「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」との結論が導き出される理由は、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除するため(第二要件)」の「必要最小限度の実力行使(第三要件)」に含まれないことが根拠となっているのである。


 それにもかかわらず、この三要件(旧)の第一要件と第二要件を改変し、新三要件として「存立危機事態」を加えたことにより、従来の「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃)」を「排除するため」の「必要最小限度の実力行使」ではなく、「他国に対する武力攻撃」や「自国の存立」と「国民の権利」の危険を排除するための「必要最小限度の実力行使」を行うとするものなのである。
 しかも、その説明の中では、「海外派兵」はこの新三要件の第三要件の「必要最小限度」を超えているとの説明を行っているのである。

 しかし、従来は三要件(旧)すべてを満たすことを「必要最小限度」と呼んでおり、この中には第一要件と第二要件が含まれていることによって規範性が保たれていたからこそ、「海外派兵」は「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」との説明になっていたところを、新三要件の第三要件の「必要最小限度」の文言を用い、「自衛のための必要最小限度を超えるもの」と判断しているのである。
 しかし、この新三要件の第三要件の「必要最小限度」を意味するのであれば、これは結局、第一要件、第二要件にかかる意味での「必要最小限度」なのであり、「他国に対する武力攻撃」や「自国の存立」と「国民の権利」の危険を排除するための「必要最小限度」である。これは、「他国に対する武力攻撃」や「自国の存立」と「国民の権利」の危険を排除するためであれば、「海外派兵」も行うことができると容易に判断を変更できるものである。つまり、憲法解釈上の法規範として明快な境界線を設けているものではないということであり、「海外派兵」を否定することは法論理によるものではなく、政府が現段階で主観的にそう判断しているというだけとなっているのである。(そもそも新三要件が違憲と解されるものではあるが)

 「海外派兵」を否定する法論理としての説明とはなっておらず、安倍総理の認識は誤りである。

    【参考】7.1閣議決定の「からくり」図解 PDF



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○内閣総理大臣(安倍晋三君) まだ正式に決定を、与党で正式に決定をしておりませんので、まだ検討中ということで、それを前提に答弁をさせていただきたいと思います。
 憲法上武力の行使が許されるのはあくまでも新三要件を満たす場合に限られるわけでありまして、これは国連決議の有無に関わりがないわけでございます。その上で申し上げれば、政府は従来から、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないと、こう解しているわけであります。
 この考え方は新三要件の下でも全く変わらないわけでございまして、自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘、すなわち敵を撃破するために大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加することは明らかに自衛のための必要最小限度を超えるものであると、すなわち新三要件を満たすものではなく憲法上認められないと、このように考えております。

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○内閣総理大臣(安倍晋三君) これはまさに、先ほど法制局長官が答弁をさせていただいたように、武力の行使と見られる、これは国際法上に武力の行使と見られるということにおいては、これは停戦合意がなされていなければ武力の行使となるわけでございます。
 そして、この下の段でありますが、これは我々、そこで、私はその際にも答弁をしておりますが、まさにここに書いてあるわけでありますが、武力行使の目的を持って、武装した部隊を他国の領土、領域、領空へ派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるということでありました。これは、言わば一般における海外派兵は禁止されていると、こう申し上げたわけでございます。
 他方、機雷の掃海というのはまさに限定的、そして受動的な行為でございます。そこにまかれた機雷、まさに危険を除去するという行為でございますが、しかし、これは国際法上は武力の行使と、こう判断される中において、我々は三要件に当たる可能性があるのではないかと、こう考えたわけでございます。
 一方、言わば空爆を行う、多数の部隊を陸上に派遣して攻撃を行うということはまさに三要件の中の必要最小限度を超えると、こう判断しているものでありますから、それには当たらないということでございます。
 あくまでも三要件がこの憲法との関係においては当てはまるということが大切であろうと、こう考えているわけでございますから、それはこの一番も二番も、両方ともこれは相矛盾しない。これを二つとも併せて考えていただきたいと、こういうことでございまして、二番目に言っているのは、まさに、言わば一般的に考えられる武力行使を目的として、つまりそれは、部隊を陸上に派遣して他国の部隊を撃滅をする、あるいはまた空爆を行うと、こういう最初からこうした武力の行使というか戦闘作戦行動自体を目的として行うものではないということは、もう今まで何回か申し上げてきたところでございますが、機雷の掃海についてはまさに限定的であり、受動的であるので、この最小限度を超えないと、こう考えているところでございます。
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第189回国会 参議院 予算委員会 第10号 平成27年3月20日


 ここで「空爆を行う、多数の部隊を陸上に派遣して攻撃を行うということはまさに三要件の中の必要最小限度を超える」との説明があるが、誤りである。憲法上「海外派兵」が一般に許されないとしてきたのは、旧三要件を超えることを意味しているのであり、第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の意味の「必要最小限度」による制約とは異なるからである。



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○内閣総理大臣(安倍晋三君) そして、いわば存立事態でございますが、この存立事態のまず要件についてでありますが、この存立事態において、いわば三要件に当てはまらなければ我々は武力行使をしないということは明白になっています。
 この三要件がとても大切なんですが、新三要件というのは、我が国に対する武力攻撃が発生したこと、または他国に対する武力攻撃が発生し、そのことによって我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があることということがまずあります。これが前提としてある。その次に、これを排除するために他に適当な手段がないことであります。そして最後に、必要最小限度の実力行使にとどまることと書いてあるわけであります。
 必要最小限度の実力行使にとどまることがこれは重要なことでありまして、必要最小限度の実力にとどまることというのは、これはかつてからの古い三要件にもあるわけでありまして、その中において、今、岡田代表がおっしゃったように、一般に海外派兵は認められていないという考え方、これは今回の政府の見解の中でも維持をされているということであります。
 つまり、外国の領土に上陸をしていって戦闘行為を行うことを目的に武力行使を行うということはありませんし、あるいは、大規模な空爆をともに行う等々のことはないということははっきりと申し上げておきたい、このように思います。(発言する者あり)もう再三申し上げますが、議論をしているときに後ろの方でどんどんやじをするのはもうやめてもらいたいと思いますよ。(発言する者あり)
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 今私が申し上げたような三要件に当てはまらなければ武力行使は行わないということであります。
 そして、同様の質問を私は再三再四国会で受けてまいりました。その際に申し上げたように、一般に海外派兵は行わない。これは最小限度を上回るということで、我々は行わない。この立場は全く変わっていないということであります。
 ですから、我々は、外国の領土に上陸をしていって、それはまさに戦闘作戦行動を目的に武力行使を行うということはしないということははっきりと申し上げておきたい、こう思うわけであります。
 だからこそ、私たちの集団的自衛権の行使については、一部の限定的な容認にとどまっている。この三要件があるからこそ限定的な容認にとどまっているわけであります。

(略)
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
○内閣総理大臣(安倍晋三君) それは、先ほどから申し上げておりますように、三要件の中には、最後にはっきりと書いてあることでございますが、「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」ということが書いてあります。そこから導き出される結論として、今までと同様、いわば海外派兵は一般に禁止されている、認められていないということは、これはもう今まで何回も私が申し上げているとおりでございます。
 その中で、今、岡田代表がおっしゃったように、他国の領土にいわば戦闘行動を目的に自衛隊を上陸させて武力行使をさせる、あるいは領海において領空においてそういう活動をする、派兵をするということはないということは申し上げておきたい、このように思います。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 我が党の議員はみんな静かに岡田さんの議論を聞いているじゃないですか。少しは皆さん、ちょっと静かにしていただきたいと思いますよ。安住さん、ちょっと指導してください。
 その中にあって、先ほどから申し上げているのは、三要件という明白なこれは要件がかかっている。これはまさに、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険と書いてあるわけであります。
 それはすなわちどういう状況かといえば、他国に対する攻撃があって、武力を用いなければ、武力を用いて対処をしなければ、これはまさに我が国が攻撃されたと同様の、そして、深刻重大な被害をこうむることが明白な状況であるということを明確にこれは述べているわけでございます。
 その中において我々は集団的自衛権の一部を行使することになるわけでありますから、日本と関係がないにもかからず、今はアメリカの例を挙げられましたが、アメリカとどこかの国が戦闘をしていて、そこに我々が自動的に、例えば助けてくれと言われても、ここに行くということはあり得ないわけであります。つまり、三要件にこれはしっかりと照らして、それに合致をしなければ、この三つとも合致をしなければあり得ない。
 その中で、最終的に必要最小限度を超えるかどうかということについて、一般に海外派兵は許されていないということは、これはもう何回も何回も申し上げていたわけでございまして、当然、その中から導き出されるのは、武力の行使を目的として、あるいは戦闘行為を目的として海外の領土や領海に入っていくことは、これは許されない。
 機雷の除去というのは、これはいわば一般にということの外において何回も説明をしてきているところでございます。
(略)
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第189回国会 国家基本政策委員会合同審査会 第1号 平成27年5月20日


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○内閣総理大臣(安倍晋三君)
(略)

 海外派兵についてお尋ねがありました。
 政府としては、従来より、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解しています。
 ただし、機雷掃海については、その実態は、水中の危険物から民間船舶を防護し、その安全な航行を確保することを目的とするものです。その性質上も、あくまでも受動的かつ限定的な行為です。
 このため、外国の領域で行うものであっても、必要最小限度のものとして、新三要件を満たすことはあり得るものと考えています。

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○内閣総理大臣(安倍晋三君)

(略)

 政府としては、従来より、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領域に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解しています。これは、従来から一貫した答弁であります。

 先日の党首討論では、この海外派兵の一般禁止という従来の見解を申し上げたものであります。

 繰り返し申し上げているとおり、自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することは、明らかに、必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されません。

 他方、機雷掃海については、一般にということの外と申し上げたように、その実態は、水中の危険物から民間船舶を防護し、その安全な航行を確保することを目的とするものです。その性質上も、あくまでも受動的かつ限定的な行為です。

 このため、外国の領域であっても、新三要件を満たすことはあり得るものと考えています。

(略)

 

【筆者】

 「海外派兵」は「一般に自衛のための必要最小限度を超える」ことによって禁じられている。この「自衛のための必要最小限度」とは旧三要件の基準を意味する。

 新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」については、「自衛のための必要最小限度」という旧三要件の基準を超えることから、それだけで行使することができない。

 論者は「一般に」の意味も正確に理解できていない。

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第189回国会 衆議院 本会議 第28号 平成27年5月26日


 上記、下線部の「必要最小限度のもの」の意味は、三要件(旧)を満たす意味なのか、第三要件の意味で用いようとしているのか特定できないが、論者の他の答弁を見れば、第三要件の意味と思われる。しかし、これは誤った認識である。


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○安倍内閣総理大臣 自衛隊が、武力行使を目的として、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘、すなわち、一般の方々が思い浮かべるような、敵を撃破するために大規模な空爆や砲撃を加えたり敵地に攻め入るような行為に参加することは決してないと昨年来委員会でも繰り返し申し上げてきたわけでありますが、これは海外派兵の一般的禁止の典型例として申し上げているわけであります。
 すなわち、政府は従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解している、こう申し上げてきているわけでありまして、政策論ではなくて、いわばまさに第三要件そのものに反していれば、これは憲法違反ということになるわけであります。この三要件そのものを法律に明記しているわけでありますから、当然法律違反にもなる、こういうことであります。
 このような従来からの考え方は、新三要件のもと、集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらない。これは個別的自衛権でも変わらないわけでありますが、新三要件から論理的、必然的に導かれるものであります。
 これは、私の意思や政策判断ではなくて、武力行使の目的を持ってそのような戦闘に参加することは明らかに、新三要件のうち第三要件に言う、必要最小限度の実力の行使に該当するとは考えられず、このような実力の行使が憲法上認められるとは考えていないということでございます。

 

【筆者】

 「一般に自衛のための必要最小限度を超える」の意味する「自衛のための必要最小限度」とは、旧三要件のすべてを満たすことを言うのであり、三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の意味ではないため、誤りである。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第3号 平成27年5月27日



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○安倍内閣総理大臣 御指摘のとおり、武力行使を目的として、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することは、これは政策判断ではなく、憲法上許されないと解しております。
 従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないと解してきているわけであります。
 このような従来からの考え方は、新しい、この新三要件のもと、集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わりはありません。これは新三要件から論理的、必然的に導かれるものでありまして、自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘、すなわち、一般の方々が思い浮かべるような、敵を撃破するための大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加することは、自衛のための必要最小限度を超える、よって、憲法上許されない、我々は明確にそう判断をしております。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第17号 平成27年7月3日


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○内閣総理大臣(安倍晋三君)
(略)

 武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解してきています。このような従来からの考え方は、新三要件の下、集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらず、新三要件から論理必然的に導かれるものです。
 繰り返し答弁しているとおり、外国の領域における武力行使については、ホルムズ海峡での機雷掃海のほかに現時点で個別具体的な活動を念頭には置いていません。
 また、自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争での戦闘、すなわち大規模な空爆や砲撃を加えたり敵地に攻め入るような行為に参加することは、必要最小限度自衛の措置の範囲を超えるものであって、憲法上認められるものではありません。したがって、航空優勢、海上優勢を確保するために大規模な空爆などを行うことは新三要件を満たすものではないと考えています。
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第189回国会 参議院 本会議 第34号 平成27年7月27日


 上記、ここで意味する「必要最小限度」とは、「一般に自衛のための必要最小限度を超える」と表現する場合の「必要最小限度」であり、これは旧三要件のすべてを満たすことを意味する。「新三要件を満たすものではないと考えています。」との認識は誤りである。



 下記の答弁でも、「海外派兵」を否定する局面で「一般に禁じられている」としているが、これは従来、旧三要件を満たさないことから来るものであり、憲法が直接的に禁じているかのような認識は誤りである。

 そして、安倍総理は「海外派兵」ができない理由を第三要件の「必要最小限度」を超えることを理由としてていると話しているが、これは「必要最小限度」を読み誤ったことによる勘違いである。この認識違いにより、最後まで論理的整合性が保たれていない。

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○福島みずほ君 社民党の福島みずほです。
 まず、被災された皆さんに心からお見舞いを申し上げます。
 総理、日本が武力攻撃を受けていないにもかかわらず、他国の領域で武力行使ができるようになるということでよろしいですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 三要件を満たせば武力攻撃が、武力行使ができるということでございます。それは、我が国の存立を全うし、国民を守るためのものでございます。


○福島みずほ君 三要件を満たせば他国の領域で武力行使ができるということでよろしいんですか。


○内閣総理大臣(安倍晋三君) 他国の領域、その領域というのがちょっとよく聞こえなかったんですが、領域においては、これは一般に海外派兵は認められていないわけでございまして、武力攻撃、武力行使を目的として自衛隊を外国の領土、領海、領空に派遣することは一般に禁じられているということでございます。


○福島みずほ君 一般とおっしゃいました。例外があるわけですね。例外の要件は何ですか。


○内閣総理大臣(安倍晋三君) この存立危機事態においては、一般に、存立危機事態におきましても一般に海外派兵は禁じられているわけでございますが、その中におきまして、ホルムズ海峡における機雷の敷設に対しましては、この敷設された機雷を、これを排除をしていくことは限定的、そしてかつ受動的であると、これは必要最小限度の範囲内にとどまると、このように理解をしているわけでありまして、念頭にあるのはこの件だけであります。


○福島みずほ君 分かりません。

 例外の要件は何ですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) この例外は、まさにこの三要件に当てはまるということでございます。


○福島みずほ君 三要件は集団的自衛権の行使です。私が聞いているのは、他国の領土、領域で武力行使ができる、我が国が攻められていないのに、その例外的要件、総理は例外とおっしゃいますから、その要件は何ですか。


○内閣総理大臣(安倍晋三君) まさに集団的自衛権の行使というのは武力の行使でありまして、今、福島委員が言われた武力の行使に当たるわけでございますが、この三要件に当てはまるものが、これは憲法の範囲内ということでございます。その中におきまして必要最小限度にとどまるべきもの、それが要件でございます。


○福島みずほ君 全く分かりません。

 要件は何ですか。他国の領域で武力行使ができる要件は何ですか。その例外の要件を言ってください。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) それが今申し上げました三要件が要件であるわけでありますが、その中で、三番目の必要最小限度というのにこれは当てはまるかどうか、必要最小限度を超えるかどうかということでございまして、その中で判断をしていくことになります。


○福島みずほ君 全く答えていません。

 日本が攻められていないのに他国の領域で武力行使ができる、これが極めて、今回の法案の極めて問題のあるところです。
 要件言わないじゃないですか。新三要件は要件にならないですよ。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 三要件は要件であると申し上げております。


○福島みずほ君 新三要件は集団的自衛権の行使の要件です。私がお聞きしているのは、例外の要件です。他国の領域で武力行使ができる要件は何かということです。


○内閣総理大臣(安倍晋三君) 三要件の、まさに第三要件である必要最小限度の実力行使にとどまるべきことということに対しましては、これはまさに武力行使を目的として外国の領土、領海、領空に自衛隊を派遣をすることは、これは一般に禁止されていると、この三要件目において我々はそう理解をしているわけでありますが、今例外として挙げたものは、これは例外として、これは受動的、限定的であることによって、この第三要件の必要最小限度の範囲内にとどまると、このように考えているわけでありまして、三要件はまさに、今、三要件はまさにそのことによって要件であるということは明確ではないかと思います。(発言する者あり)


○委員長(鴻池祥肇君) 止めないでください。

 福島みずほ君、どうぞ。

○福島みずほ君 例外が新三要件というのは納得できません。一般があって例外があるんですから、例外の要件を教えてください。


○内閣総理大臣(安倍晋三君) これは個別的自衛権においての旧三要件も同じことでありまして、必要最小限度を超えることによって、従来から、個別的自衛権におきましても一般に海外派兵は禁じられていると、こう政府は一貫してお答えをしてきたところでございます。

 そして、今回の新三要件において申し上げているこの必要最小限度の実力行使にとどまるべきことということは、これはその実力行使の様態も含めて、これは要件として決めているわけでございます。
 そこで、まさにこの第三要件目においては、一般にこれは海外派兵は禁じられているという、この要件によって海外派兵は禁じられているわけであります。一般に海外派兵は禁じられているわけでありますが、その中において、その中において言わば機雷を除去するということについてはこれは限定的であり、そしてまた受動的であることによって必要最小限度の範囲内にとどまるということでございます。それはまさにこの三要件の中で当てはめていることでございます。

○福島みずほ君 日本が武力攻撃を受けていないのに他国の領域で武力行使ができる、憲法違反だと思いますが、物すごいことですよ。これができる要件について答えていないじゃないですか。新三要件なんて聞いているのではありません。要件は何かと聞いていますよ。


○内閣総理大臣(安倍晋三君) これはもう要件としては、今までお答えをしているように、新三要件であり、そして、この三要件目の必要最小限度の実力行使にとどまるべきことということでございます。


○福島みずほ君 でたらめですよ。新三要件も白紙委任ですが、例外的に海外の領域で武力行使ができる中身も今の話で白紙委任じゃないですか。全くこれでは駄目です。

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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第20号 平成27年9月14日



横畠裕介

〇 内閣法制局長官 横畠裕介


 横畠裕介内閣法制局長官の「海外派兵」についての答弁は混乱したものとなっている。

 

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○政府特別補佐人(横畠裕介君) 国会の決議についての理解、解釈については、政府の立場で申し上げることは困難でございます。

 なお、従来から、政府といたしましても、武力の行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって……(発言する者あり)

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○政府特別補佐人(横畠裕介君) 憲法上許されないと述べてきているところであり、その考え方は、新三要件の下で行われる自衛の措置としての武力の行使の場合についても同様でございます

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第189回国会 参議院 外交防衛委員会 第3号 平成27年3月24日

 

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○政府特別補佐人(横畠裕介君) まず、今回の新三要件の下でどのような武力の行使が想定されているかという点でございますけれども、単純に他国の領域で戦闘行為を行うということではございませんで、政府は従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないというふうに述べてきておりまして、その考え方はこの新三要件の下でも全く変わっておりません

 

【筆者】

 「一般に自衛のための必要最小限度を超える」と表現される場合の「自衛のための必要最小限度」とは、旧三要件を満たすことを意味する。そのため、「新三要件の下でも全く変わっておりません。」とするのであれば、新三要件が定められた後も旧三要件が基準となっていることになる。

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第189回国会 参議院 外交防衛委員会 第5号 平成27年4月2日

 

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○横畠政府特別補佐人 お答えいたします。

 従来から政府は、いわゆる海外派兵、すなわち、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと述べてきております。

 これは、我が国に対する武力攻撃が発生これを排除するために武力を行使するほか適当な手段がない場合においても、対処の手段、態様、程度の問題として、一般に他国の領域において武力の行使に及ぶことは自衛のための必要最小限度を超えるものという基本的な考え方を示したものでございます。

 その上で、政府は、いわゆる誘導弾等の基地をたたく以外に攻撃を防ぐ方法がないといった場合もあり得ることから、仮に他国の領域における武力行動で自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としてはそのような行動をとることが許されないわけではないとしてきております。これは昭和二十年代から一貫して申し上げているところであると理解しております。

 その上で、このような考え方は、新三要件のもとで行われる自衛の措置、すなわち、他国の防衛を目的とするものではなく、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度の措置にとどまるものでありますところの武力の行使における対処の手段、態様、程度の問題として、まさにそのまま当てはまるものと考えております。


【筆者】

 「一般に自衛のための必要最小限度を超える」と表現される場合の「自衛のための必要最小限度」とは三要件(旧)の基準を意味する。論者は、三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の部分が「海外派兵」を制約している部分であるかのような誤った認識が存在するように思われる。

 「新三要件のもとで行われる自衛の措置、すなわち、他国の防衛を目的とするものではなく、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度の措置にとどまるものでありますところの武力の行使」との部分であるが、「我が国を防衛するための必要最小限度」とは、「自衛のための必要最小限度」と同じく三要件(旧)の基準を意味するものであり、ここに新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」の場合が当てはまるはずがない。「我が国を防衛するための必要最小限度の措置にとどまるものであります」のであれば、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を行うことはできない。また、「他国の防衛を目的とするものではなく、」の部分についても、9条の下では「他国の防衛を目的とする」「武力の行使」が許されないことは当然、『自国防衛』のための「武力の行使」についても必ずしも許されているわけではない。そのため、「他国の防衛を目的とするものではなく、」と述べたところで、その「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。

 「そのまま当てはまるものと考えております。」との答弁があるが、一般に「海外派兵」が許されないとする基準は、「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の基準に基づいて確定されているものであり、新三要件を定めようとしているにもかかわらず、「そのまま」であるはずがない。論理的整合性が保たれておらず、法解釈上の不正・違法である。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○横畠政府特別補佐人 新三要件のもとで認められます武力の行使につきましては、まさにこの新三要件の全てを満たす場合に限られております。それは、他国の防衛それ自体を目的とする武力の行使ではございませんで、あくまでも、我が国の存立を全うし、国民を守るために適当な手段がない場合における必要最小限度の我が国防衛のための実力行使ということに限られているのでございます。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○横畠政府特別補佐人 先ほどお答えしたとおり、いわゆる海外派兵、すなわち武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであるという考え方は、新三要件のもとにおいても同じでございます。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○横畠政府特別補佐人 公海と他国領海の違いということでございますけれども、我が国の個別的自衛権の議論でございましたけれども、自衛権発動の活動の範囲というところについては、我が国領域に限らず、公海上まで及ぶということをるる答弁してきております。

 その上で、先ほどお答えしました海外派兵との関係におきまして、領海も他国の領域でございますので、他国の領域における活動については、やはり慎重な、例外的に認められる場合がありますけれども、慎重に行うべきというのが憲法において認められている武力行使の考え方でございます。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第3号 平成27年5月27日

    【動画】横畠裕介・内閣法制局長官の答弁記録5/27戦争法案


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○横畠政府特別補佐人 第三要件につきましては、お示しのパネルのとおり、文言上変更はございません。

 第三要件は、単に、相手から受けている武力攻撃と同程度の自衛行動が許されるという国際法上の自衛権行使の要件である均衡性ではなく、憲法上の武力行使の要件である新三要件の第一要件及び第二要件を満たした場合における、実際の実力行使の手段、態様及び程度の要件でございます。

 したがいまして、第三要件に言います必要最小限度とは、我が国の存立を全うし、国民を守るためとあります第二要件を前提とした、我が国を防衛するための必要最小限度ということであると理解されます。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第4号 平成27年5月28日


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○横畠政府特別補佐人 いわゆる海外派兵、すなわち武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと考えてきておりますし、現在も考えております。
 その上で、憲法上の理論としては例外もございます。
 従来から例外的に海外における武力の行使として認められる場合として申し上げておりますのは大変少のうございまして、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会における政府答弁においてお答えしております。
  わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。
ということでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第4号 平成27年5月28日


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○横畠政府特別補佐人 先般もお答えいたしましたが、海外派兵は一般的に許されないというのが大原則でございます。
 それに対して例外がないわけではないということで、具体的に、例外的に海外における武力の行使として認められる場合として、従前、これまで個別的自衛権の場合、すなわち我が国が武力攻撃を受けている場合の事例といたしまして、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会における政府答弁におきまして、
  わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。
とお答えしておりまして、そのことは今般の新三要件のもとにおきましても同じであると考えております。


【筆者】 「今般の新三要件のもとにおきましても同じである」ならば、やはり旧三要件の基準を用いていることとなり、新三要件と旧三要件が競合する関係にあることとなる。

 もし新三要件を基準にして「海外派兵」は一般に許されないと考える主張だとすると、新三要件の「存立危機事態」については「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」を「排除」する必要があるのであり、その「我が国と密接な関係にある他国」に対する派兵が行われないとする根拠は存在しない。旧三要件の下では、「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除」する以上の「武力の行使」を行うことができないからこそ、「海外派兵」は一般に許されないとの判断が導かれるのであり、新三要件によって「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」を「排除」することが認められたのであれば、旧三要件と同様の認識に基づけば、「我が国と密接な関係にある他国」の領土内での「武力の行使」までは一般に可能となり、「海外派兵」は許されていると導かれてしまうのである。

 

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憲法9条は、これまで、立憲主義の原則から、武力行使や自衛隊の役割を限定することにより、「軍事権力の暴走に歯止めをかける役割」を果たしてきたが、安保法制における集団的自衛権行使を容認する安倍内閣の「武力行使の新3要件」、とりわけ第1要件の「存立事態」は、自衛隊の海外派兵と武力行使について、きわめてあいまいかつ恣意的な判断を許す内容となっており、自衛隊の海外派兵と武力行使を、「無限定に」「地理的範囲に関係なく」また「時間的制約を超えて」可能にするものといえる。
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専修大学法学部教授・内藤光博氏 憲法学者アンケート調査

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第6号 平成27年6月1日

 

 

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○横畠政府特別補佐人 先ほど御指摘のございました、従前、内閣法制局長官、歴代でございますけれども、集団的自衛権の行使は憲法を改正しなければできないと言っていたではないかという御指摘でございます。

 昨年七月の閣議決定ということになりますけれども、今回のいわゆる集団的自衛権についての解釈のポイントというのは、ごくごく、その結論だけ申し上げますと、いわゆる国際法上認められている集団的自衛権一般、フルセットと言ったりしますけれども、それを認めようというものではございません。そのような集団的自衛権一般を認める、別の言い方をすれば、他国防衛のために我が国が武力を行使する、そういうことをするためには、やはり憲法改正をしなければそれはできないという考え方は私自身も変わっておりませんし、昨年の閣議決定において、政府としてそのような考え方は維持しているということと理解しております。

 その上で、今回やろうとしていることでございますけれども、若干、従前の、我が国に対する武力攻撃が発生した場合における個別的自衛権の発動を超える部分というのが確かにございます。その部分は、国際法上は集団的自衛権の行使として違法性が阻却されるということでございますので、集団的自衛権という概念で説明せざるを得ないということでございます。

 その実態と申しますのは、集団的自衛権と申しましても、それは、我が国に明白な危険が及ぶ、そういう場合に限定いたしまして、かつ、我が国を防衛するために必要最小限である、他に手段がない、そういう限定されたものであるということで、その点がポイントでございまして、そういうものであるならば、これまでの憲法の解釈と整合する、憲法九条のもとでも許容される、そのように解しているということでございまして、言われるように、従前から申し上げているような、集団的自衛権一般を許容しようというものでは決してございません。

 

【筆者】

 「いわゆる国際法上認められている集団的自衛権一般、フルセットと言ったりしますけれども、それを認めようというものではございません。」としているが、国際法上「集団的自衛権」に該当すればそれは「集団的自衛権」でしかなく、「フルセット」であるか否かなどという区分は存在しない。

 「他国防衛のために我が国が武力を行使する、そういうことをするためには、やはり憲法改正をしなければそれはできない」として、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」が『他国防衛』のための「武力の行使」でないことを示そうとしているが、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」とは、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」であることから、『他国防衛』のための「武力の行使」でないということはできない。また、国際法上の違法性阻却事由である「集団的自衛権」を得るためには『他国からの要請』が必要となるのであり、これを得て行う「武力の行使」であるにもかかわらず、『他国防衛』の「武力の行使」ではないとの主張は成り立たない。さらに、9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するための規定であり、『他国防衛』のための「武力の行使」が許されないことは当然、『自国防衛』のための「武力の行使」であっても必ずしも許されているわけではない。そのため、『他国防衛』のための「武力の行使」でないことを強調したところで、その「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。

 「我が国を防衛するために必要最小限である、他に手段がない、そういう限定されたものである」との答弁があるが、「我が国を防衛するため必要最小限度」との基準に「限定されたもの」であるならば、旧三要件の全てを満たす必要があることから、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」を行う余地は一切ない。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○横畠政府特別補佐人 陸海空軍、戦力の不保持につきましては、憲法第九条第二項に明記されております。

 憲法で保有することを禁止している戦力につきましては、これまで、自衛のための必要最小限度の実力を超える実力であると解しております。

 今般、新三要件のもとでは、国際法上の集団的自衛権として違法性が阻却される武力行使のうち、一定の、我が国に深刻、重大な影響の及ぶもの、そういうものに限って行使を認めるということにしておりますけれども、それはまさに自衛のための必要最小限度の実力の行使でございまして、まさにこれまで自衛隊が憲法第九条二項で禁じられている戦力に当たらないと言っていた全く同じ理由をもちまして、憲法で禁じられている戦力には当たらないというふうに解されるところでございます。

 同じく交戦権についての御指摘がございましたけれども、ポイントは、これまで自衛権の行使に当たっては、我が国を防衛するための必要最小限度の実力を行使することは当然認められる、それは憲法第九条二項で否認している交戦権とは別のものであるというふうに説明をさせていただいております。

 今般の新三要件のもとでの武力の行使につきましても、詳しくはまた申しませんけれども、我が国を防衛するための必要最小限度の実力の行使の範囲にとどまるものでございますので、全くこれまでと同じように、この交戦権否認の規定に抵触するということにはならないと解しております。

【動画】集団的自衛権“砂川判決根拠論”崩れる 2015/06/10


【筆者】

 「新三要件のもとでは、国際法上の集団的自衛権として違法性が阻却される武力行使のうち、一定の、我が国に深刻、重大な影響の及ぶもの、そういうものに限って行使を認めるということにしておりますけれども、それはまさに自衛のための必要最小限度の実力の行使でございまして、まさにこれまで自衛隊が憲法第九条二項で禁じられている戦力に当たらないと言っていた全く同じ理由をもちまして、憲法で禁じられている戦力には当たらないというふうに解される」との答弁があるが、誤りである。「憲法で禁じられている戦力には当たらない」とされていたのは、「自衛のための必要最小限度」という旧三要件の基準によって限度を画していたのであり、この範囲を超える新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を行う実力組織については、「自衛のための必要最小限度」という旧三要件の基準を超えることから9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。

 「自衛権の行使に当たっては、我が国を防衛するための必要最小限度の実力を行使することは当然認められる、それは憲法第九条二項で否認している交戦権とは別のものである」との答弁があるが、「我が国を防衛するための必要最小限度」とは旧三要件の基準を意味しているのであり、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」についてはこの基準を超えることから、9条2項後段が禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。

 「我が国を防衛するための必要最小限度の実力の行使の範囲にとどまるもの」であるならば、「我が国を防衛するための必要最小限度」が旧三要件を意味するものであることから、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を行うことはできない。それにもかかわらず、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を行うことができるかのように述べている点で誤りである。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第8号 平成27年6月10日


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○横畠政府特別補佐人 憲法第九条第二項は、陸海空軍その他の戦力の保持を禁じております。この戦力につきまして、政府は、従来から、憲法第九条は、我が国が主権国として持つ固有の自衛権まで否定しているものではなく、この自衛権の行使を裏づける、自衛のための必要最小限度の実力、自衛力を保持することはもとより同条の禁ずるところではない、同条第二項で保有することを禁止している戦力とは、自衛のための必要最小限度の実力を超える実力をいうものと解すべきというふうにしてきているところでございます。

 今般の新三要件を満たす場合は、他国ではなく、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度の実力を行使するにとどまるものでございますことから、我が国が憲法第九条第二項でその保有を禁じられている、自衛のための必要最小限度を超える戦力を持つことになるということはないと考えております。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第9号 平成27年6月12日

 

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○横畠政府特別補佐人 いわゆるホルムズ海峡の機雷の問題でございますけれども、どのような状況を私自身として考えているかといいますと、まず、そのような機雷の敷設というのが、我が国に対する武力攻撃の意図があるならば、それはまさに我が国に対する武力攻撃そのものになり得るんだというのが前提でございます。もしそうであるとするならば、それを放置するのであればまさに国民の生死にかかわるような深刻、重大な被害が生じて、他に手段がなく、まさに座して自滅を待つということになるのであれば、それは他国の領海に敷設されたものであるとしても、これまで申し上げている誘導弾等の基地をたたく場合と同じことになるということで、個別的自衛権の発動によってその機雷を処理するということはあり得るだろう。

 ただし、あくまでも必要最小限ということでございまして、いわゆる海外派兵をしないという原則がありますので、本格的な戦闘まで及ぶということは、個別的自衛権の場合でもそこまではできないという解釈をしているわけでございます。そのことは、まさに自国を守るために限定した今般の集団的自衛権というものを行使する場合も同様であろうということを申し上げているわけでございます。

 

【筆者】

「海外派兵をしないという原則があります」との答弁があるが、それは旧三要件の基準によって決せられていたのであって、論者はその旧三要件を新三要件に変更しようとしているにもかかわらず、「原則」などと称している点で誤りである。

 

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○政府委員(高辻正巳君) 海外派兵ということからも言えると、簡単に言えばそれでいいのだと思いますけれども、もう少し良心的に申し上げますと、海外派兵ができるかどうか、それからまた先ほど来お話がありました自衛隊の装備といいますか、それがどの程度できるかどうかというのは、実は根本に自衛権の限界の問題があるから出てくるわけです。したがって、その自衛権の限界ということを抜きにして海外派兵ということは考えられない。そういうわけで、海外派兵ができないからどうかというのは、私どもの厳密な考え方から言いますと、どうも飛躍がありそうに思います。……(略)……

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第61回国会 参議院 予算委員会 第9号 昭和44年3月10日

 

 「そのことは、まさに自国を守るために限定した今般の集団的自衛権というものを行使する場合も同様」との答弁があるが、「海外派兵」が一般に禁じられるのは「自衛のための必要最小限度」という旧三要件の基準を超えることによるものであり、これが「今般の集団的自衛権というものを行使する場合も同様」であるならば、旧三要件の基準を超える「武力の行使」を行うことはできないのであり、「集団的自衛権の行使」としての新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を行うことはできない。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第14号 平成27年6月26日

 

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○横畠政府特別補佐人 従前の三要件のもとにおきましては、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度ということで申し上げておりました。今般の新三要件のもとにおきましても、我が国が武力を行使いたしますのは我が国を防衛するためでございますので、そのための必要最小限度ということで、変わっていないという趣旨でお答えしたもので、同じでございます。そのとおりでございます。

 

【筆者】

 「我が国を防衛するため必要最小限度」とは旧三要件を意味するのであり、これが「変わっていない」のであれば、これを超える新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」は行うことができない。それにもかかわらず、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を行うことができるかのように説明しようとしている点で誤りである。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第18号 平成27年7月8日

 

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○政府特別補佐人(横畠裕介君) 条文についてのお尋ねですのでお答えいたします。

 これまでの旧三要件におきましても必要最小限度という限定がございまして、それによって海外派兵は一般的に禁止されているというふうに解しておりました。

 それの条文上の根拠でございますけれども、自衛隊法の八十八条というのがございます。これは防衛出動を命ぜられた自衛隊の権限を規定している規定でございますけれども、八十八条第二項におきまして「事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならない」という規定がございまして、これがまさにその必要最小限度を表している規定であるというふうに理解しておりまして、先ほど大臣からお答え申し上げました対処法の三条四項、御指摘のありました三条四項のただし書も同じ全く表現であるということで、その点が担保されていると理解しております。


【筆者】

 上記、「これまでの旧三要件におきましても必要最小限度という限定がございまして、それによって海外派兵は一般的に禁止されているというふうに解しておりました。」との答弁があるが、誤りである。

 旧三要件の第三要件の「必要最小限度」とは、「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」であり、これは「武力の行使」の程度・態様の基準である。しかし、「海外派兵」が一般に禁止されているのは「自衛のための必要最小限度」という旧三要件の基準を超えることが理由である。

 あたかも「海外派兵は一般的に禁止されている」との基準が、三要件(旧)の第三要件のみによって決められていたかのような認識は誤りである。

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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第5号 平成27年7月30日


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○政府特別補佐人(横畠裕介君) 従来から、政府は、いわゆる海外派兵、すなわち、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないと述べてきております。
 これは、我が国に対する武力攻撃が発生し、これを排除するために武力の行使をするほか適当な手段がない場合においても、対処の手段、態様、程度の問題として、一般に他国の領域において武力の行使に及ぶことは自衛のための必要最小限度を超えるという基本的な考え方を示したものであります。
 その上で、政府は、いわゆる誘導弾等の基地をたたく以外に攻撃を防ぐ方法がないといった場合もあり得ることから、仮に他国の領域における武力行動で自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としてはそのような行動を取ることが許されないわけではないとしてきております。
 このような考え方は、新三要件の下で行われる自衛の措置、すなわち、他国防衛を目的とするものではなく、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度の措置にとどまるものである自衛の措置でございますけれども、その場合における武力の行使における対処の手段、態様、程度の問題として、そのまま当てはまると考えております。

【動画】参議院平和安全特別委員会 2015 08 26

 

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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第13号 平成27年8月26日



中谷元

〇 防衛大臣 中谷元

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○中谷国務大臣 例えば、自衛隊は、性能上専ら相手国の国土のせん滅的破壊のためのみに用いられる兵器を保有することは、自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。また、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣する、いわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないということで、先ほど説明をいたしましたが、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課せられたということでございます。
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第189回国会 衆議院 安全保障委員会 第3号 平成27年3月26日


 上記、これら「自衛のための必要最小限度」の意味は、旧三要件を超えることを意味しているものである。


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○寺田(学)委員 それでは、次に進みます。
 大臣が六月五日にこの委員会で御答弁をされました、いわゆる政府の裁量の範囲ということです。
 この部分、中谷大臣が、辻元委員の質問に対して、「これまでの憲法九条をめぐる議論との整合性を考慮したものでございまして、行政府による憲法の解釈としての裁量の範囲内であると考えまして、私は、これをもって憲法違反にはならないという考えに至っているわけでございます。」と。ある種、憲法を解釈する上で、裁量の範囲が政府にありますと、当然のことかもしれませんが、言われました。
 事今回の件に関しては、今まで、集団的自衛権が認められないという憲法の解釈であったものが、四十七年の政府見解を、先ほどの質疑にのっとって言うと、現長官の解釈のあり方によって、基本的論理一と二、そしてそれから導き出される当てはめという形に分離をし、集団的自衛権が、政府の言い方をかりて言うと、限定的に行うことが可能になったということをお話しされました。
 政府の持っている裁量の範囲内であるということは、政府が御答弁、大臣も御答弁されているこの四十七年見解において、基本的論理一、二があった上で、三の当てはめ自体は政府の裁量の範囲だというふうに御答弁されたんですよね。これは確認です。

○中谷国務大臣 これは、憲法九条の解釈の基本的な論理、これを維持し、最高裁が示した考えの範囲内で政府として解釈をお示ししたということでございます。
 お答えしているように、私は、基本的論理というのは一、二のところでございます。

○寺田(学)委員 なので、一、二を固定し、基本的論理を維持することによって生まれた当てはめ自体が、政府の裁量の範囲の内だと。

 だからこそ、この場合、今まで、私ども野党も含めて、憲法学者の方々もそうかもしれません、この三の部分まで基本的には憲法の解釈で固定されているんだというお話だったんですが、一、二は維持して、三番目は、今、「集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」とありますけれども、この部分は政府の裁量の範囲内で当てはめを行っていいのだ、政府の裁量の範囲の内なのだという御答弁でいいですね。改めての確認です。

○中谷国務大臣 考え方は、基本的論理のところで、規範としての部分、これはしっかり維持をしている。三につきましては、その結果、結論でございますので、この文書自体も、集団的自衛権に関してどうかということで、一、二の理論で、三が答えであるというふうに思います。


○寺田(学)委員 辻元議員の方が長官と先ほど議論されましたが、私は、この基本的な論理一、二と当てはめを分けることは承服はできませんし、理解できません。

 ただ、今回、政府がそのような立場に立っていますので、その論理にのっとった上でということで辻元委員が聞かれましたが、今回、今までは集団的自衛権の行使は憲法上許されないとされてきた当てはめを、基本的な論理を維持した上で、今までの社会環境、安全保障環境が変わることによって、憲法上許されるという結論になったということでした。
 質問は、それでは、時代の安全保障の環境が変わることによって、再び集団的自衛権の行使が憲法上許されなくなるということは論理上あり得ますかという御答弁に対して、長官は、あり得るというお話でした。
 大臣にお伺いします。その理解でよろしいですよね。

○中谷国務大臣 長官が言ったとおりでございます。


○寺田(学)委員 ということは、今までは、憲法は何を縛っているのかということに関して、この基本的な論理一、二、そして三まで含めて憲法は許される範囲というものを示していましたが、三の部分は、今、安全保障環境が変わるさまざまな要因によって、この回は集団的自衛権と言っていますが、集団的自衛権は今まで行使できない、憲法上許されないと言われていたものが許されると今回解釈され、今後、論理上、再び集団的自衛権の行使が憲法上許されないということになるということはお認めになられました。

 これをもって法的安定性は保たれているというふうに大臣はお考えですか。

○中谷国務大臣 基本的論理は変えておりません。

 というのは、集団的自衛権、この結論部分に書いていますけれども、集団的自衛権とは、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利ということでございますが、今回、基本的な論理によりまして、我が国はこれに加えて新三要件を課しております。
 これは厳格な歯どめでありまして、この内容も、あくまでも国民を守るための集団的自衛権の行使の範囲であります。他国を守るための集団的自衛権ではないわけでありますので、その三要件をよく私も読みましたけれども、この三要件というのは、あくまでも、今までの三要件の基本的な論理、これに基づくものでございますので、その範囲の中だし、基本的論理は変わっていないということでございます。

○寺田(学)委員 基本的論理が変わっているかどうかということではなくて、今までは、法的に安定しているかどうかということを、この三番目まで含めて、集団的自衛権行使は許されないんだということまで含めて、憲法が制限しているということで安定はしていたと思うんです。今度、政府の解釈は、三番だけ切り離して、その三番の当てはめは変わり得るという論理的な帰結を導き出したわけです。

 もう一度お伺いしますが、集団的自衛権が今まで認められなかったのが認められ、そして、可能性として再度認められなくなるということをもって、法的な安定性は担保されているんでしょうか。

○中谷国務大臣 しっかり私も内容を読みましたが、ここで言っていることは、憲法は、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じられているとは到底解されず、そして、外国の武力によって国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態に対応するためにやむを得ない措置として必要最小限度の武力行使は許されるということでございます。

 その範囲で、いろいろ時代が変わってきます。最初、この憲法で自衛隊もありませんでした。ところが、やはり自衛隊というのはこの範囲の中で認められる。そして、PKO、これは憲法違反じゃありませんが、そういった時代の背景とともに、この憲法で許される必要最小限度の武力行使、この範囲で政府としてずっと考えている、また、これからも考えていくということでございます。

○寺田(学)委員 私どもとしては、その当てはめが変わり得ることによって法的な安定性は損なわれるのではないかということを質問いたしました。

 大臣は、いやいや、基本的論理一、二が守られていれば法的には安定しているんだということでよろしいですか。まず、この二つの基本的論理さえしっかりと堅持している、そのことをもって法的安定性は保たれるということでよろしいですか。

○中谷国務大臣 今までも政府はそう考えてまいりましたし……(寺田(学)委員「今までって」と呼ぶ)その基本的論理をもって……(寺田(学)委員「今からでしょう」と呼ぶ)その基本的論理をもって今後も考えていくということでございます。


○寺田(学)委員 ちょっと答弁をやり直してください。ちょっと今、違うことを言いました。訂正した方がいいですよ、今までと言っていましたから。ちょっとそこは違います。


○中谷国務大臣 基本的論理を維持してまいっております。


○寺田(学)委員 今の政府の解釈を変えてからそういう形でやっているということでいいですよね。その前は違いますよね。

 先ほど、午前中言いましたように、横畠さんが自分から変えましたと言っているんですから、そこはちょっと整理してください。

○中谷国務大臣 四十七年の基本的な論理は引き続き維持をしてまいります。


○寺田(学)委員 なので、基本的な論理を堅持し、当てはめが変わり得るということを憲法解釈として決めたのは、この政府からですよねということを聞いているんです。

 先ほど長官自体が言いました、基本的論理は維持していると。ただ、今まで、当てはめを含めて集団的自衛権は憲法上禁止されていると言っているので、今回憲法上許されるとなったのは、ここを当てはめにしたからですよねということです。それは今までずっと答弁されていたじゃないですか。
 だから、この基本的論理を維持するということが法的安定性を担保することなんですよね。いいですよね。はいでいいですよ。

○中谷国務大臣 基本的な論理は昭和四十七年の見解でありまして、これは引き続き堅持をしてまいるということでございます。


○寺田(学)委員 今の政府が憲法上法的な安定性が保たれていると言うのは、この基本的な論理を維持しているからだ、これを維持するということが最も安定性にとって大事なんだという御答弁だと思います。

 ちょっと一個お伺いしたいんですが、お渡しした資料二枚目、「海外派兵に関する政府見解」というものがあります。武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されない。これは、先ほど申し上げた基本的論理から導かれた当てはめということでよろしいですか。

○中谷国務大臣 これは数十年前からある政府見解でありまして、いわゆる前の三要件自衛権に関する三要件、これに基づいた考えでございます。


○寺田(学)委員 いや、前から続いているものをそのまま引き継ぐか、今回集団的自衛権の当てはめの部分を変えたように変えるのかということは、先ほどから大臣が御答弁されているように、政府の裁量内だと思います。

 今回、この海外派兵に関する政府見解、まさしく、今の政府の論理展開によると、基本的な論理一、自衛権はある基本的な論理二、必要最小限に限られているものだ、その上で、海外派兵に関してはどうなんですかということを当てはめた結果、武力行使の目的を持って武装した云々、憲法上許されないという結論だと思います。
 これは当てはめでよろしいですよね。

○中谷国務大臣 前回、寺田委員とも専守防衛について議論させていただきましたけれども、その考え方は変わっておりませんし、この海外派兵に関する政府見解も変えていないということでございます。


○寺田(学)委員 これが当てはめかどうかを聞いているんです。これは当てはめなんですか、基本的論理から導かれた当てはめなんですか、当てはめじゃないですかということを大臣に聞いているんです。


○横畠政府特別補佐人 当てはめであれば、柔軟にというか、変わりやすい、どうにでもなるんじゃないかという御趣旨のお尋ねかと思いますけれども、決して、決してそういうことではございませんで、海外派兵についてのこれまでの政府の答弁といいますのは、従前の自衛権発動の三要件第三要件におきまして、必要最小限度ということの規範の中身がどういうふうに働くかということを御説明したものでございまして、今般の新三要件のもとにおきます一部限定された集団的自衛権というものも含むものでございますけれども、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度の武力の行使ということで、第三要件はそのまま維持されるということでございますので、それの適用の結果、つまり規範の内容の適用の結果としては同じことになるというふうに理解しております。


○寺田(学)委員 今、規範を当てはめた結果がこういう結論になっているということを最後御答弁されました。当てはめと呼ぶのか、基本的な論理から導き出された結論と呼ぶのか、それは呼び方はあると思いますが。

 それでは、大臣、この海外派兵に関する政府見解は、基本的な論理を維持した上で、変わり得るんですか。

○中谷国務大臣 まだ、これはいつ見解をしたか確認しておりませんが、私の知る限りにおいては、恐らく昭和四十七年以前の、自衛隊が創設されて、その直後ぐらいの議論の中でこの見解が出たのではないかなと思っております。


○寺田(学)委員 答えていないですよ。ちょっと今のはひど過ぎる。当てはめなんですよね、変わり得るんですかと聞いているんです。


○中谷国務大臣 新三要件のもと集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらず、新三要件から論理必然的に導かれたものでございます。(発言する者あり)


○浜田委員長 寺田学君、もう一度お願いします。


○寺田(学)委員 変わり得るかということをお伺いしているんです。基本的論理を維持した範囲の中で変わり得るんですかということを聞いているんです。変わるか、変わり得ることはないのか、どちらかです。


○中谷国務大臣 全く変わりません。


○寺田(学)委員 なぜ変わらないんですか。

 基本的論理一、自衛権はある、二、必要最小限に限るという具体性の乏しい二つの規範を出された上で、社会情勢、安全保障情勢を考えれば、今までは、集団的自衛権の行使は憲法上許されないという政府見解があったものを、その当てはめ部分の集団的自衛権の行使は憲法上許されないというところは変えて、今回、認められることになった。
 そして、先ほど長官にお話ししましたけれども、海外派兵に関するこの政府見解は当てはめですかということに関して、実質的に当てはめですと御答弁されています。
 その上で、なぜこの当てはめは、今後変わらないんでしょうかということを聞いているんです。
 今度は理由を聞きます。この海外派兵に関する政府見解が一切変わらないと先ほど大臣答弁されましたけれども、その理由を教えてください。必要最小限の範囲。

○中谷国務大臣 この政府見解というのは、恐らく昭和三十年の最初のころに、自衛隊ができてなされた政府見解であります。これは憲法に基づいて政府が判断したものでございまして、私たちにおきましてもこの見解は変えるつもりがありませんし、変わらないものでございます。


○寺田(学)委員 厳密に聞きますけれども、変えるつもりがないという話ではなくて、変わらないんです。

 先ほど言いましたけれども、一切今後変わらないと言いました。それは意思によって変えられることができるけれども変えないのか、それとも変えることができないのか、これはどちらですか。

○中谷国務大臣 この見解自体が、昭和四十七年前に、相当前に出されたものでございます。それは、今の憲法上、政府が判断したものでございまして、私たちは、その見解というものは変わらないし、変えないということでございます。


○寺田(学)委員 今、変えられないと言いましたよね。変えられないという理由は何ですか。


○中谷国務大臣 これまで、四十七年以降は以前の三要件がありました。そして今、政府閣議決定で新三要件というものを考えておりますが、この新三要件のもと集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらず、この新三要件から論理必然的に導かれるものであります。


○寺田(学)委員 変えられないと御答弁を大臣がされました。その変えられない理由を聞いているんです。変えない理由ではないです。変えられない理由ということを聞いているんです。委員長、よろしくお願いします。


○中谷国務大臣 この新三要件から論理必然的に導かれるものであるからでございます。


○寺田(学)委員 それが当てはめなんですよね。それが当てはめで、今回、集団的自衛権に関しては当てはめは変わったんです。これは当てはめですかと聞いたら、当てはめですと。当てはめの部分というのは政府の裁量ですよねと、一番最初のときは政府の裁量ですとお話ししました。

 なので、政府の裁量で変えられるものを、変えられないと大臣が御答弁された理由を聞いているんです。もう一度御答弁ください。大臣が変えられないと言った理由です。

○中谷国務大臣 これまでの憲法の基本的論理、これは変えておりませんから変わらないということでございます。(発言する者あり)


○浜田委員長 静粛に願います。


○寺田(学)委員 基本的論理の一と二を私は聞いているんじゃなくて、一と二によって導かれる三の当てはめ部分がこれだというので、それは変わるんですかということを聞きました。一と二の基本的な論理が変わっていなければ何々ということではないです。

 もう一度聞きますけれども、この政府見解が変えられないと御答弁されましたが、変えられない理由は何ですかということです。

○浜田委員長 内閣法制局長官、整理。


○横畠政府特別補佐人 海外派兵が一般に許されないとしてきたその考え方は、お示しの昭和四十七年見解の一及び二の基本的な論理から導き出されたものでございます。すなわち、昭和四十七年の政府の見解の一、二の基本的論理から、これまでの自衛権発動の三要件も出てきたものでございます。

 また、今回の新三要件も同じ一、二の基本的な考え方から出てきたものでございまして、それは規範、まさに規範でございます。ということで、変わらないということでございまして、当てはめの問題ではございません。

○浜田委員長 中谷防衛大臣、答弁願います。


○中谷国務大臣 この見解は自衛隊が発足してその後すぐできたと思いますが、昭和四十七年以降もこれは引き継がれております。

 その中におきまして、当時、武力行使の三要件というのがありまして、その第一要件第二要件、これからできたわけでありますが、この基本的論理というのは、規範としての論理の部分は一切変わっていない、新しい三要件もこの規範の部分は変わっていないということで、引き継がれておりますし、変わらないということでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第8号 平成27年6月10日


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○緒方委員 私、今の答弁を聞きながら、さっぱりわからなかったんですけれども、海外派兵の定義がありますね。武力行使の目的を持って武装した部隊を海外の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されないというのが、これが定義です。
 けれども、この武力行使の目的を持ってのところが、存立事態が起こり、そして、それに対応する集団的自衛権を行使する、いいですか、もう一回繰り返しますよ。存立事態が起こり、それに対応する集団的自衛権を行使する目的を持って武装した部隊を海外の領土、領海、領空に派遣する、そういう海外派兵は、別に、一般にとかついていなくても、自衛のための必要最小限度の範囲だというふうに読めますよね。大臣、それでよろしいですよね。

○中谷国務大臣 先ほどお話ししましたが、今の、まだ法案は通っていませんけれども、個別自衛権におきましても、法理的には、この例外として行けるわけでございます。今度の新三要件も、全く同じ理論でございます。


○緒方委員 そうすると、存立危機事態が起こり、そして、それに対応する集団的自衛権を行使する目的を持っていれば、武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは認められるということであれば、それは別に、ホルムズの機雷掃海については、一般にの例外ではなくて、そもそも、原理原則として行けるということじゃないですか、大臣。


○中谷国務大臣 理屈としては、今までと変わっておりません。今でも個別自衛権で、例外として、そういうことは法理上、ほとんどありませんよ、法理上可能である。今回も、一般の、海外の武力行使というものがございます。これは大事にしてまいります。

 そういう意味で、新三要件においても、それは例外として、法理上、法理上なんです。全くないかと言われると、法理上は考えられるけれども、余り考えられないということでございます。

○緒方委員 法理上ということでありました。

 法理上は、存立危機事態が起こり、そして、それに対応する集団的自衛権の行使であれば、武装した部隊を海外の領土、領海、領空に派遣することは、法理上はかなり幅があって、かなり幅があって、それは送ることができて、ホルムズ海峡の機雷掃海に送るというのはその幅があるうちの一つですね。そういう理解でよろしいですか。

○中谷国務大臣 確かに法理上はありますが、これはあくまでも三要件を満たさなければなりません。三要件の中に必要最小限度というのがありまして、そのことを考えますと、安倍総理はホルムズ海峡ということを一例として挙げられたわけでございまして、現実的に、この三要件を全て満たさないといけないわけですから、これはめったにあることではないということでございます。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第8号 平成27年6月10日


 質問者の「存立事態が起こり、それに対応する集団的自衛権を行使する目的を持って武装した部隊を海外の領土、領海、領空に派遣する、そういう海外派兵は、別に、一般にとかついていなくても、自衛のための必要最小限度の範囲だというふうに読めますよね。」との質問は、従来旧三要件を満たす「武力の行使」について「自衛のための必要最小限度」と呼んでいたが、新三要件を定めることで、この「自衛のための必要最小限度」の意味が「存立危機事態」を含む新三要件に変わったと考える場合のことである。その場合、「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を行うことになるのであるから、その「我が国と密接な関係にある他国」等への「海外派兵」は「自衛のための必要最小限度」の範囲のものとなってしまうから、従来の「一般に自衛のための必要最小限度を超える」との基準によって「海外派兵」が許されないとの話には根拠がないとするものである。

 答弁は、従来の旧三要件の場合について「法理的には、この例外として行けるわけでございます。」としているが、この議論は旧三要件の下では、「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除」したならばそれ以上の「武力の行使」はできないため通常は国内での「武力の行使」に限られるはずであるが、国外からの「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である(第24回国会 衆議院 内閣委員会 第15号 昭和31年2月29日)」として例外を認めるとするものである。

 しかし、「存立危機事態」を含む新三要件によって「他国に対する武力攻撃」を「排除」することとなり、この「武力の行使」が「我が国」の国内でのみ行われるとする基準となるものは存在しないにもかかわらず、「海外派兵」は一般に認められないが例外的に可能という従来の理論が「今度の新三要件も、全く同じ理論でございます。」と説明することは整合性がない。「海外派兵」が一般に認められないとする論理は、旧三要件のすべてを満たすことによる論理であり、これが変更されているにもかかわらず、「全く同じ理論」となるわけがないのである。

 その後、上記の下線部で、「一般に自衛のための必要最小限度を超える」との表現する場合の「必要最小限度」は、従来旧三要件をすべて満たすことを意味していたものであるが、「三要件の中に必要最小限度というのがありまして、」と、三要件の中の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」を用いて説明を試みることは誤りである。

 第三要件は「武力の行使」の程度・態様の意味であり、「武力の行使」の発動要件である第一要件、第二要件を満たさなくなった場合には、第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」に該当して「武力の行使」の発動を止めなければならないという意味を含むものである。この第三要件は、第一要件、第二要件を満たす状況か否かに影響を受ける性質のものであり、新三要件の制定によって第一要件と第二要件の内容が変更されているにもかかわらず、この第三要件の中に「海外派兵」が一般に許されないとする基準が含まれているかのように考えることはできない。また、従来も「海外派兵」が一般に許されないとする根拠は旧三要件のすべてを満たすことに基づいていたのであり、第三要件に基づいて説明されていたわけではない。

 答弁は「必要最小限度」の意味を取り違えている。


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○中谷国務大臣 政府としても考え方を整理させていただきます。
 まず、いわゆる海外派兵というのは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないということでありますが、しかし、従来から、他国の領域における武力行動であって、自衛権発動の三要件を満たすものがあるとすれば、憲法の理論上としてはそのような行動をとることが許されないわけではないと解しております。
 このような従来の考え方は、新三要件のもとでも、集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらず、新三要件から論理必然的に導かれるということでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第8号 平成27年6月10日


 新三要件は「他国に対する武力攻撃」を「排除」するものであるにもかかわらず、「海外派兵」を一般に行うことができないとする基準は「論理必然的に導かれる」ことはない。論者は「論理必然的」などと、あたかも「論理」的な根拠が存在するかのように説明しようとしているが、論者は誤った理解に基づいており、「論理」的な根拠となるものは存在しない。論者は「海外派兵」が一般に許されないとする「論理」を正しく理解しておらず、誤った認識を有しているにもかかわらず、「論理必然的」などと結論のみを述べて正当化しようとしている点で誤りである。


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○中谷国務大臣 総理が累次お答えしていますけれども、自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争とか地上戦とか、敵を撃破したり、海上優勢、航空優勢を確保するために大規模な空爆、砲撃を加えたり敵地に攻め入るような行為に参加することは必要最小限度の自衛の措置の範囲を超えるものであって憲法上認められていないということで、航空優勢とか海上優勢を確保するために行動するということは新三要件を満たさないということでございます。

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○中谷国務大臣 どういう行為をするかということでございますが、一般に、他国の領域内において武力行使をする、武装した兵力をもって武力行使をするということは日本はしないんだということでございます。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○中谷国務大臣 武力行使に当たるものは必要最小限度を超えるものでございますので、憲法上できないということでございます。(発言する者あり)

 必要最小限度を超える武力行使は、我が国の憲法の許容の範囲を超えるものでありますのでできません。その安全を確保する行為というものにおきまして、武力の行使に当たる必要最小限以上のものであればできないということでございます。(発言する者あり)

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○中谷国務大臣 どういう状況であるのか、本当に千差万別でありますが、我が国としましては、空爆とか、制空権とか制海権を確保するために必要最小限以上の武力行使をすることはできないんですが、しかし、こういう中においても、例えば各国と共同作業をするときに、相手方の軍の活動が抑えられることを期待して、共同対処する他国軍と調整しながら、安全を確保しつつ機雷掃海を実施できる状況をつくり出すための後方支援などの努力を最大限行っていくということでございます。

 その必要最小限度が何かというお問い合わせでございますが、空爆とか、制海権、制空権を取り戻すための必要以上の武力行使はしないということでございます。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○中谷国務大臣 今までのをまとめてお答えしますと、存立危機事態の排除、そのための必要最小限度でやっていくということでございまして、今、個別的自衛権もそうですが、我が国にとりましては、憲法の制約から、我が国を守るための必要最小限度にとどめているというところでございます。

 では、どこまでということにつきましては、いろいろ状況がありますが、少なくとも、自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争、イラク戦争での戦闘、すなわち、一般の方々が思い浮かべるような、敵を撃破して、制海権、制空権を確保するために大規模な空爆、砲撃を加えたり敵地に攻め入るような行為に参加することは自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上認められるとは考えていないということでございます。では、安全確保をする行為とはどういうことかということでございますが、これは、武力行使を超えない、その許容の範囲で行う、必要最小限度で行うということでございます。

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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第18号 平成27年7月8日


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○国務大臣(中谷元君) 新三要件というものが条件になっております。先ほど総理も答弁されましたが、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解しておりまして、このような従来の考え方は、新三要件の下、集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらず、新三要件から論理的、必然的に導かれるものでございます。
 したがいまして、新三要件を満たしている場合、この場合におきましてはそういう法理論上あり得るわけでございますが、その三要件に従って実施するということでございます。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

○国務大臣(中谷元君) いずれの国におきましても、自衛の措置として自衛権というものは持っているわけでございまして、我が国の憲法におきましても、自衛権という名で容認をされる部分がございます。
 そこで、我が国の自衛権の武力の行使につきましては、これまでは三要件によって認められたわけでございますし、この度におきましては新三要件というものを設けまして、従来の憲法の基本的な論理に基づいて、我が国を自衛をする範囲において行動が許されるということでございます。
 そこで、他国の領土、領海、領空内におきましては、まさに一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解されているわけでございますが、この三要件の論理に必然的に導かれて、従来と同様の範囲で認められるということでございます。
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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第3号 平成27年7月28日


 上記、「従来と同様の範囲で認められる」とするのであれば、新三要件を定めた後であっても、従来の旧三要件の範囲に限られることとなる。

 上記のリンクの会議録は、論点が多い。「必要最小限度」あるいは「必要最小限」で検索すると他の政府答弁の誤りも確認できる。



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○国務大臣(中谷元君) これまで政府は、憲法上許容される武力の行使は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した場合に限られるとしてまいりました。
 今回、この四十七年の当時から、我が国を取り巻く安全保障環境、想像も付かないほど変化をしたことを踏まえまして、非常に脅威というものは容易に国境を越えてやってくる時代になりまして、今や、他国に対して発生する武力攻撃があったとしても、その目的、規模、態様等によっては我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得るというような問題意識の下に、この憲法九条の解釈の基本的な論理、これを検討いたしました。
 実際の状況に当てはめた結果、新三要件を満たす場合には、我が国を防衛するための必要最小限自衛の措置として限定的な集団的自衛権の行使についても憲法上容認されるといたしました。この限定的な集団的自衛権の行使が、憲法上、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置であることについて、我々も今後とも丁寧に説明をさせていただいて、御理解を得たいと思っております。
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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第8号 平成27年8月5日



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○中西健治君 事実認識について、当時の事実認識は、我が国に対する武力攻撃がなければ深刻な事態に至らないと、こういうような事実認識であったというふうにおっしゃられていますけれども、この政府見解が参議院の決算委員会に提出された同じ日に、防衛庁から決算委員会に政府見解が出ております。「自衛行動の範囲について」という防衛庁の見解が出ておりますけれども、これ、防衛大臣、以前から御存じでしたでしょうか。

○国務大臣(中谷元君) はい、認識しておりました。

○中西健治君 であれば、中身のこともよく御存じなのではないかと思いますが、今、横畠長官が事実認識として、それだけだったはずである、それのみであったと言ったのと全く異なることがこの防衛庁からの資料、政府見解には書かれているんです。
 それは何が書かれているかというと、「自衛行動の範囲について」という資料の中で、憲法九条が許容している自衛行動の範囲について、そのときの国際情勢、武力攻撃の手段、態様により千差万別であり、限られた与件のみを仮設して論ずることは適当でないと思われる、こういう政府見解が同日に出ているんです。
 これは、あらゆる可能性があるということを想定していたということなんじゃないでしょうか。事実認識としてそうだったということじゃないでしょうか。防衛大臣。

○国務大臣(中谷元君) この四十七年の見解と同時に決算委員会に提出した「自衛行動の範囲について」という資料、これにつきましては海外派兵について記載をされておりまして、武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる海外派兵、これは一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解しているという認識を持っております。

○中西健治君 私が申し上げたいのは、法制局長官は当時の事実認識として個別的自衛権のことしかないということをおっしゃられていたと思います。しかし、そうではないということなんです。この防衛庁の資料ではあらゆる事態を想定していると、こういったような資料が出ているので、これは二つの政府見解が同日に出されています。そして、同じ水口委員の質問に対する見解としてまとめられているんです。矛盾していませんか。

○国務大臣(中谷元君) これにつきましては、私の考えでございますが、同時に自衛権の発動の三要件、これを満たすものがあるとすれば、憲法上の理論としてはそのような行動を取ることが許されないわけではないと解しておりまして、特に敵地攻撃について、従来の考え方は、法理上、法的な理屈の上で新三要件の下でも変わらないというような、その以前に答弁があるものでございますので、そういったことを念頭に書かれたものではないかなと私は解釈をしております。

○中西健治君 今の答弁ちょっとよく分からないので、委員長に求めたいのですが、四十七年に出されましたこの「自衛行動の範囲について」という防衛庁の資料と、それから横畠長官が四十七年当時の事実認識としてこれしか考えられないと言っていることについての関係について、これを政府の統一見解を求めたいと思います。
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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第10号 平成27年8月19日


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○国務大臣(中谷元君) これは、集団的自衛権の限定容認でありますが、三要件、非常に厳しい三要件が付いておりまして、必要最小限度ということでございまして、従来の考え方、これは一緒でありまして、武力行使を目的として武装した部隊を他国の領域に派遣する、いわゆる海外派兵、これは一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって憲法上許されないといたしておりまして、この考え方は新三要件の下で集団的自衛権を行使する場合であっても全く変わらないということで、これは論理的に導かれたものでございます。(発言する者あり)

【動画】参議院平和安全特別委員会 2015/08/26

 

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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第13号 平成27年8月26日



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○又市征治君 いや、本当にこれ、質問に、同じこと何度も、時間を浪費しないでくださいよ。まともに全く答えようとされていない。三要件なんて聞いていないんです、今。
 そこで、時間がありませんから次に移りますが、政府は、この集団的自衛権の行使に関して、今言われている、何度も言われる新三要件を出してきた。そして、その適用事例として北朝鮮からの弾道ミサイルを阻止するアメリカのイージス艦への攻撃などというものを挙げてきたわけですね。しかし、旧三要件我が国に対する武力攻撃が発生した場合と比較をして、新三要件自体が実に曖昧な内容ですから、日本が行使する必要最低限度の実力行使の内容もまた極めて曖昧でよく理解ができない。
 そこで、この旧三要件と新三要件の下での必要最小限度の実力行使、この内容というのは同じなのか、同じあるいは同じでない場合の根拠というものをお示しいただきたいと思います。

○国務大臣(中谷元君) 新三要件で言う第三要件ですね、これに言う必要最小限度というのは、武力の行使をする場合の対処の手段、態様、程度の問題を述べたものでありまして、これは我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するための必要最小限度でなければならない旨を述べたものでございます。そこで、第三要件に言う必要最小限度というのは、特に、いわゆる海外派兵は一般に許されないということも含めまして、旧三要件でも新三要件でも変わらないということでございます。


○又市征治君 目的が同じであっても目的達成の手段が異なるわけですから、同じであるわけがないんでしょう。日本自身の防衛と他国防衛が同程度の実力行使で済みますという、そんな根拠ないじゃないですか。これ、どういうふうに説明なさるんですか。


○国務大臣(中谷元君) まず、我が国に対する武力攻撃が発生していなくても、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が客観的に存在している以上、我が国の存立を全うし、国民を守るための必要最小限度についての具体的な限度、これは武力攻撃の規模、態様等に応じて判断することができると考えております。

 そこで、累次答弁をいたしておりますが、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣する、いわゆる海外派兵、これは一般に自衛のための必要最小限度を超えるものでありまして、憲法上許されないと解しておりますが、これは、我が国に対する武力攻撃が発生し、これを排除するための武力を行使するほか適当な手段がない場合においても、対処の手段、態様、程度の問題として、一般に他国の領域において武力行使に及ぶことは旧三要件第三要件自衛のための必要最小限度を超えるものという基本的な考え方を示したものでございます。
 このような従来からの考え方は、新三要件の下で行われる自衛の措置、すなわち他国の防衛を目的とするものではなく、あくまで我が国を防衛するための必要最小限度の措置にとどまるものとして、武力の行使における対処の手段、態様、程度の問題としてそのまま当てはまるものと考えております。
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第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第15号 平成27年9月2日


 上記、下線部が誤り。「海外派兵」の「一般に自衛のための必要最小限度を超える」との文言は、旧三要件のすべてを満たす意味であり、三要件の第三要件を示すものではない。第三要件は「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」と表現されており、「自衛のための必要最小限度」とは異なる。




第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第20号 平成27年9月14日


 上記リンクは論点が多い資料。「必要最小限度」あるいは「必要最小限」で検索すると政府答弁の誤りを確認できる。

 


〇 前防衛大臣 中谷元

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「受動的かつ限定的」とは条文のどこにも書いていない

(略)


木村 必要最小限度の範囲を検討した結果、空爆や基地への攻撃が必要だと判断された場合には、「受動的かつ限定的行為」にとどまらないということですか?

中谷 かつての湾岸戦争での戦闘、つまり、大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加することは、必要最小限度の自衛の措置の範囲を超えるものであって、それだけで憲法上認められるものではありません。したがって、他国の領域で航空優勢、海上優勢を確保するために大規模な空爆などを行うことは、新3要件を満たすものではないということになります。
 その上で、繰り返しになりますが、ホルムズ海峡における機雷の除去については、正式停戦前に実施すると、武力の行使と整理されてしまいますが、その行為の性質上、あくまでも受動的かつ限定的な行為でありますから、他国領域で実施するとしても、新3要件を満たす場合があり得るということです。

木村 それは行い得ると?

中谷 それは、他国の領域における武力の行使といえども、憲法上認められた自衛の措置として、必要最小限度を超えずに、新3要件を満たすことがあり得るということです。


木村 この今回の法制について心配されている方は、「受動的かつ限定的行為に限られる」という説明を聞いて安心された方もいらっしゃると思います。しかし、この受動的かつ限定的なものに限るという法律上の文言の根拠が、この条文ではわからないわけです。


中谷 ご指摘の通り、受動的かつ限定的という文言は、法定されておりませんが、機雷除去の性質については、国会で何回も答弁しておりますし、政府見解も出しております。規定されていないことをもって、一般に必要最小限度の自衛の措置を超えてしまう、憲法上認められていない、いわゆる「海外派兵」を自衛隊が行うことは決してありません。

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「存立危機事態」は存在するか 安保法制の根幹をめぐるガチ論 中谷元・前防衛相VS木村草太・首都大学東京教授 2016年11月21日

 「海外派兵」について、中谷元前防衛相が「一般に必要最小限度の自衛の措置をこえてしまう」と述べているのは、政府解釈の「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」で説明している「武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されない」の文言から来たものである。

 しかし、この政府解釈が従来「一般に自衛のための必要最小限度を超える」と判断していた理由は、「自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)」とその「武力の行使」が旧三要件によって制約を受けていたからである。

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「武力の行使」の旧三要件

① 我が国に対する急迫不正の侵害があること
② これを排除するために他の適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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 つまり、第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害」が第二要件の「排除」された場合は、それ以上の「武力の行使」を行ってはならず、それ以上は第三要件の「必要最小限度」を超えるとしていたものである。この三要件のすべてを満たす「武力の行使」しか行うことができないという意味で、「海外派兵」は「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と判断していたわけである。この「必要最小限度」の意味は、第三要件としての「必要最小限度」ではなく、第一要件、第二要件を含む三要件をすべて満たすことを意味する「必要最小限度」である。

 しかし、中谷元前防衛相が述べているのは、2014年7月1日閣議決定によって第一要件に「存立危機事態」の要件を追加し、第二要件も変更された中で、「必要最小限度」と述べているのである。この意味は、もともとの旧三要件の第一要件、第二要件を満たす意味での「必要最小限度」ではなく、どこからともなく憲法上の制約範囲が「必要最小限度」という基準によって決せられていると考えた上で、「海外派兵」がそれは「必要最小限度の自衛の措置を超えてしまう」などと勝手に判断しているのである。

 しかし、政府見解の「海外派兵」が「必要最小限度」を超えるとしている理由は、旧三要件の第一要件、第二要件を満たすことによって制約されている意味での「必要最小限度」であり、2014年7月1日閣議決定によってこの第一要件、第二要件を変更したにも関わらず、「一般に必要最小限度の自衛の措置を超えてしまう」などと説明することは意味が通らない。なぜならば、結局、中谷元前防衛相の述べているのは「海外派兵」を行うことができない意味での「必要最小限度」であり、これは旧三要件の第一要件、第二要件を満たすことによって制約されいることを意味するものであり、2014年7月1日閣議決定によって第一要件、第二要件が変更されているにもかかわらず、旧三要件に依拠した「必要最小限度」の意味を使っている点で論理的整合性がないからである。

 つまり、中谷元前防衛相は、2014年7月1日閣議決定によって三要件の第一要件に「存立危機事態」の要件が加わり、第二要件も変更されたにもかかわらず、「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」を説明する局面では、変更以前の旧三要件の第一要件、第二要件によって制約される意味での「必要最小限度」を述べているのである。

 繰り返しになるが、政府見解の「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」や「(4)交戦権」で使われている「必要最小限度」の文言の意味は、旧三要件の第一要件と第二要件によって、その「必要最小限度」性が画されていたのである。しかし、2014年7月1日閣議決定によって新三要件を定め、第一要件と第二要件が変更されたことにより、「武力の行使」の幅を画することができなくなり、その結果「戦力」の範囲も画することができなくなったにもかかわらず、未だに「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」や「(4)交戦権」の説明においては「必要最小限度」の文言を使用しているのである。この文言が旧三要件の第一要件、第二要件にかかる基準であることを無視して、変更された第一要件の「存立危機事態」によって「海外派兵」は「必要最小限度」を超えるため行うことができないなどと勝手に主張しているのである。

 「海外派兵」が「必要最小限度」を超えるために憲法上認められないとする理由は、旧三要件の第一要件と第二要件を満たすことによって制約されていたことによるものであったにもかかわらず、その第一要件、第二要件を変更したのに海外派兵は「必要最小限度」を超えるとの主張は、根拠となっている要件が変わっていることを無視している意味の通らない説明なのである。


 中谷元前防衛相は、「大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加することは、必要最小限度の自衛の措置の範囲を超えるものであって、それだけで憲法上認められるものではありません。」とも述べているが、この憲法上認められないことを示す基準となっていた「必要最小限度の自衛の措置」の意味するところは、旧三要件の第一要件、第二要件を満たすことを意味するのである。

 「それだけで憲法上認められるものではありません」との説明があるが、これも誤りである。なぜならば、憲法は直接「大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加すること」を禁じている規定ではないからである。「大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加すること」については、9条解釈によって導かれた旧三要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること(第一要件)」を「排除するため(第二要件)」の「必要最小限度(第三要件)」を満たす「武力の行使」とは言えないことから、「必要最小限度の自衛の措置」の範囲を超えると判断していることによるものである。中谷元前防衛相は、「それだけで憲法上認められるものではありません」と主張するが、憲法9条の規定が直接的に「大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加すること」を禁じているかのような認識は、法論理から導いたものではなく、中谷元前防衛相が感覚的にそう思っているというだけのものである。このような法論理ではなく感覚的に憲法が直接禁じているかのような認識によって「憲法上認められるか否か」を決するのであれば、中谷元前防衛相の気が変わった時に、感覚的に「憲法上認められる」などと主張することも考えられる。たとえ結論が「憲法上認められるものではありません」という点で一致していたとしても、法論理を無視することは、政治的に権力を有する立場の者の恣意性を排除することができる規範として機能しないことから、法治主義を逸脱する不正と言わざるを得ない。


 中谷元前防衛相は、「憲法上認められた自衛の措置として、必要最小限度を超えずに、新3要件を満たすことがあり得る」との説明をしているが、これも誤りである。
 憲法上認められる「必要最小限度」の「自衛の措置」とは、旧三要件の第一要件、第二要件、第三要件を満たす「武力の行使」である。ここで使われている「必要最小限度」とは、旧三要件を満たすことを意味するのである。そのため、中谷元前防衛相の「必要最小限度を超えずに、新3要件を満たすことがあり得る」との説明は、実際には「『旧三要件を満たす中で』、新3要件を満たすことがあり得る」と述べていることになるのである。

 しかし、新三要件の「存立危機事態」とは、旧三要件の第一要件である「我が国に対する急迫不正の侵害があること」を満たさない中で「武力の行使」を可能とする要件である。この意味から、「『旧三要件を満たす中で』、新三要件を満たす」ことなど論理的にあり得ないのである。

 論者は、勝手に「必要最小限度」という数量的な基準が憲法に抵触するか否かを決する基準であると判断した上で(誤解である)、その根拠なく突然表れた「必要最小限度」の範囲の中に新三要件が収まると考えることで合憲性を主張しようとしているのである。しかし、この局面で使われている「必要最小限度」の意味が旧三要件を指していることを理解すれば、新三要件での「武力の行使」はこの中に当てはまると主張することは論理的に不可能なのである。

 「海外派兵」が認められないとする結論は正確な憲法解釈においても、論者の勝手な判断による結論においても同じである。しかし、「必要最小限度」の意味するところが旧三要件を満たすことであることを理解したならば、論者が勝手に主張している憲法解釈上の違憲審査基準が数量的な「必要最小限度」であるかのような主張は、根拠がない論者の誤解であることが明らかとなる。

 もし中谷元前防衛相自身がこの誤解を理解して、「必要最小限度」を画する基準は従来は旧三要件であったが、現在は新三要件に変わったのだと主張することが考えられるが、中谷元前防衛相は「必要最小限度を超えずに、新3要件を満たすことがあり得る」と述べているため、「必要最小限度」と「新3要件」は別の基準であることを前提とした主張をしていることは明らかであるから、「必要最小限度」の意味が旧三要件から新三要件に変わったのだと主張することは、中谷元前防衛相自身が自身の誤りを認めることになる。なぜならば、「必要最小限度を超えずに、新三要件を満たすことがあり得る」との論理の「必要最小限度」の部分が、従来は旧三要件であったが現在は新三要件に変わったのだと考える場合、中谷元前防衛相が発言した「新三要件を超えずに、新三要件を満たすことがあり得る」とする主張が意味の通じないものとなってしまうからである。


【正しい認識】
憲法9条の制約 ⇒ 「自衛の措置」は三要件(旧)を満たすならば可能 ⇒ これを「必要最小限度」という ⇒ それを越えれば違憲 ⇒ 「海外派兵」は三要件(旧)を満たさない ⇒ 「必要最小限度」を超えるため違憲


【誤った認識】

憲法9条の制約 ⇒ 「必要最小限度」が制約基準【誤り】 ⇒ 新三要件を定める ⇒ これも「必要最小限度」の範囲【誤り】 ⇒ 「海外派兵」は憲法の「必要最小限度」を超える【根拠がなく誤り】


 9条が違憲であるか否かを決する基準が、あたかも数量的な「必要最小限度」という基準であると考えている点が誤りである。もし、9条に抵触するか否かの基準が、このような数量的な「必要最小限度」という基準であるならば、政府は「必要最小限度」の「先に攻撃(先制攻撃)」や「必要最小限度」の「侵略戦争」に踏み切っても、9条違反とはならないと主張することが可能となってしまう。このような認識は9条が法規範であることを無視しており、憲法解釈として成り立たないのである。

  これは当然、「(3)自衛権を行使できる地理的範囲」や「(4)交戦権」の範囲を決する解釈の中で使われている「必要最小限度」についても、突然どこからともなく数量的な「必要最小限度」の基準が現れたものではない。この「必要最小限度」とは、9条の下で許容される「武力の行使」の範囲を画した三要件(旧)を満たした中で行われる「自衛の措置」を意味しているものである。

 




 以下、先ほどの記事の項目に合わせて解説する。


   【海外派兵はできないという原則がある】


 中谷元前防衛相は、「それは海外派兵をしませんという原則があります。これは、他国の領域で武力の行使を行うことは、それ自体で、憲法が認めている自衛の措置を一般に超えてしまうということです。」と述べるが、認識に誤りがある。
 まず、「海外派兵」が許されないのは、政府解釈では「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と考えているからである。この「憲法が認めている自衛の措置」である「自衛のための必要最小限度」の意味は、旧三要件によって画されている範囲の「武力の行使」を意味するものである。これは「海外派兵はしませんという原則」などというものではなく、旧三要件を満たさない「武力の行使」を行うことができないことから、「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と導かれているだけである。どこからともなく根拠なく「原則」などというものが表れているわけではないのである。


 中谷元前防衛相は、「いわゆる海外派兵の一般的禁止については、他国における武力の行使というものは、一般には、憲法が認めている自衛の措置を超えてしまうので、禁止すると整理されたものです。また、武力の行使の3要件は、憲法が認めている『自衛の措置』『武力の行使』とはどういうものかを示しているもので、まさに『武力の行使』の要件です。したがって、両者の根っこは同じだと言えます。」との認識であるが、自身の他の主張との整合性がないものである。
 まず、「武力の行使の3要件」が、「憲法が認めている『自衛の措置』『武力の行使』」とはどういうものかを示しているものであることについてであるが、旧三要件については、その通りである。
 従来政府は、その旧三要件を満たす『自衛の措置』『武力の行使』について、「自衛のための必要最小限度」と呼んでおり、「海外派兵」について「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と解釈していたが、これは「海外派兵」は旧三要件を満たさない活動であると一般に認識されることによるものである。
 中谷元前防衛相もここで述べている「憲法が認めている自衛の措置」とは、旧三要件を満たす『武力の行使』であり、この旧三要件を満たす必要があるという制約により、「海外派兵」が憲法上許されないのである。
 しかし、中谷元前防衛相の他の主張では、「海外派兵」についての政府解釈である「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」の部分を、三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の文言を指しているかのような説明を行っており、自身の発言に整合性がない。
 先ほどの「武力の行使の3要件」は、憲法が認めている『自衛の措置』『武力の行使』とはどういうものかを示しているものであることについてで、旧三要件についてはその通りであるが、新三要件については「存立危機事態」を含んでおり、違憲と解されることから「憲法が認めている」とはいうことができない点を区別しておく必要がある。


   【法的な歯止めは本当にかかっているか?】


 中谷元前防衛相は、「海外における武力行使の禁止ということで、必要最小限度を超えることはしませんから、そういう中に、機雷の除去のような受動的、限定的な行為を当てはめてみますと、必要最小限度の中に考えられ得るということなんですね。」との説明があるが、整合性がないため、誤りである。
 まず、「海外における武力行使の禁止」とは、「海外派兵」の区分の話であり、これは政府解釈では「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」と説明されており、この「自衛のための必要最小限度」の意味は、旧三要件を満たすことを指すものである。
 その中に、旧三要件の第一要件である「我が国に対する急迫不正の侵害があること」を満たさない中で行う「武力の行使」に該当する行為は、当然、「海外派兵」を禁じている政府解釈の「自衛のための必要最小限度」の中には含まれておらず、行うことができない。

 中谷元前防衛相は、「必要最小限度の中に考えられ得るということなんですね。」と述べているが、論理的に当てはまらないため、誤りである。
 また、中谷元前防衛相の他の発言から推測すると、「必要最小限度」の文言を新三要件の中の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の中に「考えら得るということ」という意味で述べていると思われるが、「必要最小限度」の意味を取り違えた誤りである。



   【時の政府の恣意的な解釈によって拡大することがないように】


 中谷元前防衛相は、「まず、海外派兵の一般的禁止、これは原則としてあります。その上で法律的には、武力行使の新3要件の中で考えていくということであります。」との発言があるが、憲法上、「海外派兵の一般的禁止」というものを指す規定は存在しない。あくまで「海外派兵」が憲法上許されないとする従来からの政府の説明は、旧三要件によって制約される意味での「自衛のための必要最小限度」の「武力の行使」しか行うことのできないことにより導かれるものである。中谷元前防衛相が勝手に「一般禁止、これは原則としてあります。」と述べているだけであり、その実質は旧三要件による制約を意味しているのである。
 そのため、「その上で法律的には、武力の行使の新3要件の中で考えていくということ」などと述べているが、中谷元前防衛相のようにまず「海外派兵」を禁じる趣旨である「自衛のための必要最小限度」の制約を掲げるのであれば、既にそれは旧三要件による制約を意味するのであり、「その上で法律的に」「武力の行使の新3要件」を考えるのであれば、「新3要件」は旧三要件によって制約されることを意味し、「存立危機事態」での「武力の行使」を発動することはできない。旧三要件が「新3要件」を制約するということになるからである。
 論者の主張は、意味不明となっている。


 中谷元前防衛相は、「そして、新3要件の第3要件の『自衛のための必要最小限度を超えてはならない』ことは、自衛隊法第88条第2項や改正された事態対処法第3条第4項に、その趣旨が明文上、規定されています。したがって、いわゆる『海外派兵の一般的禁止』の例外が、時の政府の恣意的な解釈によって拡大することがないよう担保されています。」との説明をしているが、誤りである。
 まず、「海外派兵」を憲法上許されないと政府が解釈しているのは、「一般に自衛のための必要最小限度をこえるもの」としているからであり、この「自衛のための必要最小限度」とは、旧三要件をすべて満たす中での「武力の行使」を意味するものである。これは、三要件の中の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」だけを意味するものではない。
 そのため、中谷元前防衛相が、「新3要件の第3要件の『自衛のための必要最小限度を超えてはならない』ことは、」などと、三要件の第三要件の意味で論じることは「必要最小限度」の意味を取り違えたものである。加えて指摘すると、三要件の第三要件は『自衛のための必要最小限度』との表現ではなく、「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」である。「自衛のための必要最小限度」とは、「海外派兵」を憲法上許されないと政府が解釈する際に旧三要件をすべて満たす「自衛の措置」としての「武力の行使」を意味するものである。
 これにより、「自衛隊法第88条2項や改正された事態対処法第3条4項」に三要件の第三要件にあたる「必要最小限度」を求める規定があったとしても、従来より政府が「海外派兵」が憲法上許されない旨を述べる意味で使っていた「自衛のための必要最小限度」とは異なるものである。結局、その法律の中には、新三要件の第一要件の「存立危機事態」にあたる規定(自衛隊法76条1項2号)を含むものであり、その「存立危機事態」を排除し、「自国の存立」や「国民を守る」ことを理由とした「必要最小限度」を意味するのである。これは、結局、この目的に照らして必要と判断すれば、「必要最小限度」の「海外派兵」を行うことができると容易に解釈を変更できるものである。法規範としての制約はなく、中谷元前防衛相が現在の認識において「海外派兵」は禁止されていると考えているだけという政治的な判断でしかないものである。


 中谷元前防衛相は、「一般には、他国における武力の行使は、それだけで憲法で認められている武力の行使の必要最小限度を超えてしまうということで、いわゆる海外派兵の一般的禁止があるわけです。ところが、他国領域における機雷除去は、正式な停戦前に実施すると国際法上、武力の行使と位置づけられてしまい、形式上、海外派兵となってしまうのですが、受動的、限定的という活動の性質のため、武力の行使の必要最小限度を超えないこともあり得るということなのです。」とも述べているが、やはり誤りである。
 まず、「それだけで憲法で認められる武力の行使の必要最小限度を超えてしまう」との認識であるが、それは中谷元前防衛相の認識においては、三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」を超えてしまうと考えていると思われるが、実際にはこの「必要最小限度」の意味するところは旧三要件をすべて満たすことを指しているものである。「海外派兵の一般禁止」との認識であるが、それは旧三要件を満たさないことを意味するのである。
 「武力の行使の必要最小限度を超えないこともあり得るということなのです。」と述べるが、中谷元前防衛相は三要件の第三要件で説明しているつもりであると思われるが、実際にはこの「必要最小限度」とは旧三要件をすべて満たすことを意味するのであり、第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」を満たさない中での「武力の行使」は、この「必要最小限度」に当てはまらず、「超え」ることになる。「超えないこと」はあり得ないということなのである。



   【湾岸戦争などと日本の「存立危機事態」の関係は?】


 中谷元前防衛相は、「敵を撃破するために大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加することは決してない、と言ったわけですね。これは海外派兵の一般的禁止の典型例として申し上げているということです。」と説明し、その後「これは政策判断ではなくて、武力行使の目的をもってそのような戦闘に参加することは、明らかに『武力行使の新3要件』にいう『必要最小限度の実力の行使』に該当するとは考えられない、従ってこのような実力の行使は憲法上認められないという考えから言ったわけであります。」との説明をするが、「必要最小限度」の意味を取り違えているために誤りである。
 「海外派兵」憲法上許されないのは、「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」であることを意味し、これは旧三要件を満たさないことから来るものである。中谷元前防衛相は、この局面では「『武力の行使の新3要件』にいう『必要最小限度の実力の行使』に該当するとは考えられない」と、「新3要件」のすべてを指す意味で「必要最小限度」の意味を使っている。しかし、結局、「新3要件」の「存立危機事態(第一要件)」を排除し、「自国の存立」や「国民を守る」(第二要件)という目的のための「必要最小限度の実力行使(第三要件)」を意味するものであり、第一要件や第二要件の「自国の存立」や「国民を守る」という目的が達成するために必要であれば、「海外派兵」も「必要最小限度」の中に含まれると容易に解釈を変更できるものである。
 「明らかに『武力の行使の新3要件』にいう『必要最小限度の実力行使』に該当するとは考えられない」との認識が、「政策判断」ではないことを強調するが、そもそも第一要件と第二要件が法規範として曖昧不明確であり、もともと政府に広範な裁量を与えた趣旨と読み取れる要件であるにもかかわらず、それを「政策判断」ではないと述べたところで、法律論としての規範性が存在しないのであるから、理由にはならないものである。中谷元前防衛相が論じている規定が政府に裁量判断を許しているにもかかわらず、その規定があるかに「政策判断」ではないと語ったところで、規定そのものから裁量判断、つまり「政策判断」を許容するものとなっているのであるから、中谷元前防衛相の現在の認識を拘束する規範は存在しないのである。
 結局これは、「政策判断」ではないことを強調することによって、政府に広範な裁量を与える実質を覆い隠そうとするものであり、理由なく結論のみを述べようとしたものである。


 中谷元前防衛相は、「従来から、いわゆる海外派兵というのは必要最小限度を超えるのだということで憲法上許されないと解してきたわけです。」と説明しているが、繰り返しになるが、この局面での「必要最小限度」の意味は、旧三要件を満たすことを意味する。論者が勝手に憲法上に「必要最小限度」という数量的な基準があるかのように論じている点は、誤りである。


 中谷元前防衛相は、「敵を撃破するために大規模な空爆や砲撃を加えたり、敵地に攻め入るような行為に参加することは、『海外派兵』の典型例であり、新3要件のうち、第3要件にいう、必要最小限度の実力の行使に該当するとは考えられない、よって、このような実力の行使が憲法上認められることにはならないというわけです。」との認識があるが、誤りである。「海外派兵」が憲法上許されない理由は、旧三要件をすべて満たすことを必要とする制約から来るのもであり、三要件の第三要件を意味するわけではない。
 また、「新3要件」については、第一要件、第二要件の規範性の欠如や目的の限度の不明確性から、第三要件の「必要最小限度」もその限度を画することができないものであるから、これを「海外派兵」が憲法上認められるか否かを確定する基準とすることは、第一要件、第二要件の目的を達成するために「必要最小限度」の「海外派兵」が行えるとする解釈を容易に導くことができるものである。規範性を有しておらず、憲法解釈として成り立たないものである。
 「憲法上認められることにはならないというわけです。」との説明もあるが、憲法上認められない理由となっている論拠は従来から政府が「海外派兵」が許されないとしてきた「必要最小限度」の意味との整合性が失われているし、「新3要件」による制約を論じることもその要件自体が規範性を有しないという論拠薄弱のものである。
 「憲法上認められることにはならい」と結論のみを述べたとしても、理由が正当化できないのであるから、必然的に結論も正当化できない。



   【「何にあてはまらない」のか?】


 中谷元前防衛相は、「他国領域で武力の行使を行うということは、それだけで憲法が認めている必要最小限度の自衛の措置を超えてしまいます。したがって、そのようなことは、我が国は行わないし、行えないのです。」と述べるが、この「必要最小限度」の意味は旧三要件である。

 中谷元前防衛相は、「他国領域での武力行使は、そもそも憲法が認めていないので、それを存立危機事態の要件や新3要件に当てはめようとしても、当てはまらないということではないでしょうか。」と述べてるが、「他国領域での武力行使」が「そもそも憲法が認めていない」という理由は、「海外派兵」を「一般に自衛のための必要最小限度を超えるもの」としてきた意味で旧三要件を満たす必要があることによるものである。論者は、「それを存立危機事態の要件や新3要件に当てはめようとしても、当てはまらないということ」と考えているが、「海外派兵」を認めない趣旨での「必要最小限度」の意味を旧三要件によるものであると論者自身が認めるのであれば、必然的に「存立危機事態の要件」や「新3要件」は「そもそも憲法が認めていない」ものであると論者自身が認めていることになる。
 これにより、「存立危機事態の要件」や「新3要件」についても、論者自身の認識においても、違憲である。



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 政府もこのような見解を示す一方で、海外派兵が一般的に許されないことを理由として、以下のように存立危機事態に際しての後方支援までが基本的に公海と公空での実施に限られると述べている。しかしこれは、重要影響事態安全確保法に基づく後方支援が外国の領域であっても実施可能であることと明らかに整合しない。これもまた、海外派兵の禁止という従来の政府解釈の論理的帰結だけを、これとは異なる結論を導いているはずの新しい憲法解釈の下でも用い続けることによってもたらされる矛盾にほかならない

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憲法9条と安保法制 -- 政府の新たな憲法解釈の検証 阪田雅裕 2016/7/4 amazon (P86)(下線は筆者)





誤った答弁書

 2014年7月1日閣議決定以降の政府の説明は誤っている。


〇 理解不足の答弁書

 2014年7月1日閣議決定以降、政府は下記の「質問主意書」に対して下記の「答弁書」のように説明している。しかし、「必要最小限度」の意味を使い間違っているため、誤りが見られる。

質問主意書
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 この「基本的な論理」とは、千九百七十二年十月十四日に参議院決算委員会に対し政府から提出された資料「集団的自衛権と憲法との関係」千九百八十一年五月二十九日付の衆議院議員稲葉誠一君提出「憲法、国際法と集団的自衛権」に関する質問に対する答弁書それぞれのいずれの部分を指しているか。具体的に提示ありたい。
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従来の政府見解の基本的な論理に関する質問主意書 緒方林太郎 平成27年3月17日
  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓
答弁書
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 御指摘の「基本的な論理」は、


お尋ねの資料における「憲法は、第九条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において「全世界の国民が・・・・平和のうちに生存する権利を有する」ことを確認し、また、第一三条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする」旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであつて、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。しかしながら、だからといつて、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、それは、あくまで外国の武力攻撃によつて国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最少限度の範囲にとどまるべきものである。」との記載を指すものであり、


また、お尋ねの答弁書における「憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものである」との記載を指すものである。
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従来の政府見解の基本的な論理に関する質問に対する答弁書 平成27年3月27日 (改行は筆者)

 ここに記載されている「必要最少(小)限度」の文言について、「資料」では「三要件(旧)の第三要件」に対応する「必要最小限度の範囲にとどまるべき」の意味であり、「答弁書」では「三要件(旧)そのもの」に対応する「我が国を防衛するため必要最小限度」の意味であることを理解しているのか疑わしい。
 この二つを並べた場合には、確かに「必要最少(小)限度の範囲にとどまるべきものである」の文言が重なっているが、「必要最小限度」の文言が異なる次元で使われていることを押さえていれば、これらの意味が異なることは理解することができる。


 また、政府が2014年7月1日閣議決定などで通常「基本的な論理」と称しているのは、1972年(昭和47年)政府見解の一部分(上記『資料』として示している部分)である。

 しかし、この上記の答弁書に記載しているように1981年5月29日の「答弁書」の「我が国を防衛するため必要最小限度」と記載された部分についても「基本的な論理」と呼ぶのであれば、「我が国を防衛するため必要最小限度」の意味が三要件(旧)の基準を意味していることから、2014年7月1日閣議決定以降においても「基本的な論理」を維持していることにより、旧三要件の基準が生きていることとなる。

 そうなれば、2014年7月1日閣議決定以降においても旧三要件の第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」という基準が残っていることとなり、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や、「存立危機事態」での「武力の行使」については、これを満たさないため行使することはできない。

 「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や、「存立危機事態」での「武力の行使」が9条に抵触して違憲となることは、1972年(昭和47年)政府見解だけでなく、1981年5月29日の「答弁書」からも裏付けられるということである。

 


〇 誤った答弁書

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 従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる「海外派兵」は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないが、他国の領域における武力行動でいわゆる自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考えてきており、この趣旨は、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によって既に明らかにされているところである。このような考え方は、新三要件の下で行われる自衛の措置としての「武力の行使」にもそのまま当てはまるものと考えられる。
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ホルムズ海峡での機雷掃海に関する質問に対する答弁書 平成27年6月16日


上記の「昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解」について

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○船田国務大臣
(略)
  わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。昨年私が答弁したのは、普通の場合、つまり他に防御の手段があるにもかかわらず、侵略国の領域内の基地をたたくことが防御上便宜であるというだけの場合を予想し、そういう場合に安易にその基地を攻撃するのは、自衛の範囲には入らないだろうという趣旨で申したのであります。この点防衛庁長官と答弁に食い違いはないものと思います。
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第24回国会 衆議院 内閣委員会 第15号 昭和31年2月29日


  従来より、「海外派兵」が一般に許されないとの結論は、「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除」したならば、それ以上の「武力の行使」を行うことができないという旧三要件の基準に基づいて判断されていた。

 この答弁書では、「自衛のための必要最小限度」の意味が旧三要件を意味しているにもかかわらず、新三要件が定められた後においても「海外派兵」が一般に許されないとする「このような考え方は、新三要件の下で行われる自衛の措置としての『武力の行使』にもそのまま当てはまる」と考えている点が誤りである。

 新三要件を定め、第一要件、第二要件が変わったのであれば、これまでと同様の論理で「海外派兵」が否定されるとする論拠は存在しないのであり、整合性が保たれていない。あるいは、新三要件を定めた後においても、「自衛のための必要最小限度」のという旧三要件の基準に基づいて「海外派兵」が一般に許されないという結論を導いていることになるから、新三要件と旧三要件が競合する状態となっており、整合性は保たれていない。


  【参考】もう一つの解釈改憲 海外派兵について 小川敏夫 facebook 2015年9月15日


 下記の答弁からも確認する。


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三1 政府は、従来、わが国には固有の自衛権があり、その限界内で自衛行動をとることは憲法上許されるとの見解のもとに、いわゆる「海外派兵」は、自衛権の限界をこえるが故に、憲法上許されないとの立場を堅持しており、御指摘の、三月一〇日の参議院予算委員会における高※(注)内閣法制局長官の答弁は、重ねてこのような見解を明らかにしたものである。

   かりに、海外における武力行動で、自衛権発動の三要件わが国に対する急迫不正な侵害があることこの場合に他に適当な手段がないこと及び必要最少限度の実力行使にとどまるべきことに該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考える。この趣旨は、昭和三一年二月二九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によつてすでに明らかにされているところである。

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安保条約と防衛問題等に関する質問に対する答弁書 昭和44年4月8日  


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○政府委員(真田秀夫君) 普通に自衛権行使の三原則といわれているものにつきましては、先ほども触れておきましたけれども、まず場合といたしましては、わが国に対して外国からの武力攻撃が行なわれたということでございます。第二番目においては、その武力攻撃を防ぐために他に方法がない武力をもって反撃するよりほかに方法がないという非常に切迫している場合、それが第二の要件でございます。それから第三番目の要件といたしましては、かくして発動される武力行使は、外国からの武力攻撃を防止する必要最小限度に限るということでございます。

(略)
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第68回国会 参議院 内閣委員会 第11号 昭和47年5月12日


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(一) 憲法第九条の下において認められる自衛権の発動としての武力の行使については、政府は、従来から、

 

   ① 我が国に対する急迫不正の侵害があること

   ② これを排除するために他の適当な手段がないこと

   ③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

   という三要件に該当する場合に限られると解しており、これらの三要件に該当するか否かの判断は、政府が行うことになると考えている。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
 我が国が自衛権の行使として
我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することのできる地理的範囲は、必ずしも我が国の領土、領海、領空に限られるものではなく、公海及び公空にも及び得るが、武力行使の目的をもつて自衛隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであつて、憲法上許されないと考えている。

 仮に、他国の領域における武力行動で、自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考える。

 この趣旨は、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によつて既に明らかにされているところである(昭和四十四年四月八日内閣衆質六一第二号答弁書参照)。

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憲法第九条の解釈に関する質問に対する答弁書 昭和60年9月27日


 このように、「海外派兵」や「他国の領域における武力行動」が一般に禁じられるのは旧三要件が基準となっている。


 下記の答弁も確認しておく。


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○大森政府委員
(略)
 そこで、先ほど海外における武力行使の御指摘があったわけでございますが、先ほど両大臣から、場合によっては海外における武力行使も認められる余地があるのではないかと聞き取れるような答弁がちょっとございましたが、その点について誤解を避けるために申し上げておきますと、いわゆる海外派兵まで認められるという趣旨じゃなかったはずでございます。
 多分、我が国に対し外部からの武力攻撃がある場合自衛権の行使として認められる限度内においては、その自衛行動自体は、我が国の領土、領海、領空においてばかりでなく、公海、公空においてこれに対処することがあっても、直ちに憲法の禁止するところではない。その限度内において、我が国の領域外に及ぶことがあり得べしということを言及されたのであろうと思います。
 しかしながら、他国の領域内まで武力行使の目的で実力部隊を派遣するということは、憲法の厳に禁止されているところであるというふうに考えている次第でございます。
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第142回国会 衆議院 予算委員会 第27号 平成10年3月18日


 これについても、「我が国に対し外部からの武力攻撃」とあることから、国際法上の側面から見る「自衛権の行使」としての、日本国の統治権の『権限』による「自衛行動」としての「武力の行使」は、旧三要件の基準の「限度内」である必要があることを示している。この「限度内」であれば「公海、公空においてこれに対処することがあっても、直ちに憲法の禁止するところではない。」としているのである(ここでいう『これ』とは『我が国に対し外部からの武力攻撃』のことを指す)

 この三要件(旧)の基準を変更しているにもかかわらず、これまでと同様の論理で「海外派兵」が否定されるとする論拠は存在せず、整合性が保たれていない。



<理解の補強>

 下記は、タイトルでは「誤報」としているが、内容を確認すればやはり三要件が変更されたことに伴い、従来と同様の論拠で「海外派兵」が否定されるとする論拠を確認することはできない。

海外で武力行使 「容認に見解変更」は誤報 2015年5月26日

海外で武力行使 「容認に見解変更」は誤報 2015/5/26)





   【参考】小泉良幸(関西大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日



〇 誤った政府解釈


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(6月22日再要求)


個別的自衛権における「必要最小限度」と集団的自衛権における「必要最小限度」の相違点及び「新三要件」に該当する場合の外国領域における武力行使の可否

平成27年7月9日

内閣官房

〇 従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる「海外派兵」は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解してきている。

 これは、我が国に対する武力攻撃が発生し、これを排除するために武力を行使するほか適当な手段がない場合においても、対処の手段、態様、程度の問題として、一般に、他国の領域において「武力の行使」に及ぶことは、「自衛権発動の三要件」の第三要件の自衛のための必要最小限度を超えるものという基本的な考え方を示したものである

〇 このような従来からの考え方は、「新三要件」の下で行われる自衛の措置、すなわち他国の防衛を目的とするものではなく、あくまでも我が国を防衛するための必要最小限度の措置にとどまるものとしての「武力の行使」における対処の手段、態様、程度の問題として、そのまま当てはまるものと考えている。

〇 第三要件にいう必要最小限度は、「新三要件」の下で集団的自衛権を行使する場合においても、我が国の存立を全うし、国民を守るための必要最小限度を意味し、これは、個別的自衛権を行使する場合と変わらない。

〇 なお、「新三要件」を満たす場合に例外的に外国の領域において行う「武力の行使」については、ホルムズ海峡での機雷掃海のほかに、現時点で個別具体的な活動を念頭には置いていない。
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【資料】衆議院及び参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」に提出された政府統一見解等 PDF (P66) (下線・太字は筆者)

 従来から「自衛のための必要最小限度」とは、旧三要件のすべてを満たすものを指していた。しかし、2014年7月1日閣議決定以降は、第三要件の「必要最小限度」の意味に変わってしまっているのである。ここは政府解釈の論理的整合性が保たれていないところである。

 また、ここには「第三要件の自衛のための必要最小限度を超えるもの」との記載があるが、「第三要件」は「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」であり、「自衛のための必要最小限度」とは書かれていない。誤りである。



〇 誤った答弁書

 

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 従来から、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空へ派遣するいわゆる「海外派兵」は、一般に、自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないが、他国の領域における武力行動でいわゆる自衛権発動の三要件に該当するものがあるとすれば、憲法上の理論としては、そのような行動をとることが許されないわけではないと考えてきており、この趣旨は、昭和三十一年二月二十九日の衆議院内閣委員会で示された政府の統一見解によって既に明らかにされているところである。このような考え方は、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しした「武力の行使」の三要件の下で行われる自衛の措置としての「武力の行使」にもそのまま当てはまるものと考えられる。

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個別的自衛権の地理的要件などに関する質問に対する答弁書 平成27年7月21日


 「自衛のための必要最小限度」とは、三要件(旧)を意味している。前半の文の前半は、「海外派兵」が一般に「自衛のための必要最小限度」を超えるとされるのは、三要件(旧)に基づく「我が国に対する急迫不正の侵害(旧第一要件)」を「排除するため(旧第二要件)」に行われる「武力の行使」の範囲であれば、一般にその自衛行動が「海外派兵」とはならないことを示しすものである。ただ、前半の文の後半では、もし三要件(旧)の範囲に該当するものがあれば、「海外派兵」も許されないわけではないと示している。この部分は、正しい。

 しかし、次の後半の文は論理的整合性が保たれていない。2014年7月1日閣議決定によって、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」が定められたが、この答弁書は「自衛のための必要最小限度」という旧三要件に基づいて「海外派兵」が一般に許されないとされていた基準が、新三要件についても「そのまま当てはまるものと考えられる。」と述べているのである。つまり、新三要件が定められたとしてもそれは無効なものとなっており、旧三要件の基準に基づいて「武力の行使」の範囲を決していることを述べているのである。


〇 誤った答弁書

 

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 憲法第九条第二項に規定する交戦権の否認については、衆議院議員稲葉誠一君提出自衛隊の海外派兵・日米安保条約等の問題に関する質問に対する答弁書(昭和五十五年十月二十八日内閣衆質九三第六号)三についての5において、「憲法第九条第二項は、「国の交戦権は、これを認めない。」と規定しているが、ここにいう交戦権とは、戦いを交える権利という意味ではなく、交戦国が国際法上有する種々の権利の総称であつて、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領、そこにおける占領行政、中立国船舶の臨検、敵性船舶のだ捕等を行うことを含むものであると解している。他方、我が国は、自衛権の行使に当たつては、我が国を防衛するため必要最小限度の実力を行使することが当然認められているのであつて、その行使は、交戦権の行使とは別のものである。」と述べたとおりである。

 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しし、平成二十七年九月十九日に成立した我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第七十六号。以下「改正法」という。)による改正後の自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十六条第一項及び第八十八条並びに改正法による改正後の武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号及び第四号、第三条第三項及び第四項並びに第九条第二項第一号ロに明記されている「武力の行使」の三要件を満たす「武力の行使」は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置であって、我が国を防衛するための必要最小限度の実力の行使にとどまるものであるから、その行使は、先に述べたとおり交戦権の行使とは別のものであって、憲法第九条第二項の交戦権否認の規定に抵触するものではない。

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憲法第九条の定める交戦権の否認と集団的自衛権行使との矛盾に関する質問に対する答弁書 平成27年10月6日 (リンクは筆者)


 まず、この答弁書の前半部分の「自衛隊の海外派兵・日米安保条約等の問題に関する質問に対する答弁書」からの引用部分の「我が国を防衛するため必要最小限度」とは三要件(旧)の基準を意味する。この三要件(旧)の範囲内の「武力の行使」(自衛行動)については、「自衛行動権」に基づく行為であり、「交戦権」の行使とは異なり、別のものと説明するものである。

 次に、この答弁書の後半部分の2014年7月1日閣議決定以降の説明は、「我が国を防衛するため『の』必要最小限度」と、『の』が入っており、正確に引用したものとなっていない。
 また、2014年7月1日閣議決定以降においても「我が国を防衛するための必要最小限度の実力の行使にとどまるもの」と説明しているのであれば、それは「我が国を防衛するため必要最小限度」という三要件(旧)の範囲内での「武力の行使」(自衛行動)しか許されていないこととなる。

 これにより、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」については、「我が国を防衛するため必要最小限度」という旧三要件の範囲を超えるものであり、「交戦権」に抵触して違憲となる。


 そのため、この答弁書が新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」についても「交戦権の行使とは別のものであって、憲法第九条第二項の交戦権否認の規定に抵触するものではない。」と説明していることは誤りである。


 もう一つ、「『武力の行使』の三要件を満たす『武力の行使』は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置であって、」との文であるが、概念整理が十分な内容ではない。

 まず、「武力の行使」は「自衛の措置」の選択肢の一つであり、「『武力の行使』の三要件」という形で既に「武力の行使」の段階の話を始めているにもかかわらず、その後に「自衛の措置であって、」と一段前の分類に戻る形で話を進めることは説明の仕方としてスムーズではない。

 もしかすると、「自衛の措置」であれば9条に抵触しないかのような前提認識に基づいて「武力の行使」を正当化しようとしているのかもしれないが、9条の下では「自衛の措置」であるからといって必ずしも許容されるわけではない。これは、1972年(昭和47年)政府見解が「しかしながら、だからといつて、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであつて、」と述べている通りである。そのため、これを理由として新三要件に基づく「存立危機事態」での「武力の行使」が9条に抵触しないことを説明したことにはならない。

 さらに、「あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置」との部分であるが、憲法9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切ることを制約するための規定であり、「我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するため」であるからといって、必ずしも「武力の行使」が許容されるわけではない。そのため、この文言そのものが9条に抵触しない旨を示したことにはならない。

 これらの理由により、この答弁書は論理的に成り立っていない。



<理解の補強>


集団的自衛権における「必要最小限度の実力行使」に関する質問主意書 平成27年6月16日
集団的自衛権 海外派兵に歯止めなし 2015年8月2日
戦争法案は他国の領域での武力行使を禁止していない 2015/8/16

【動画】衆議院 憲法審査会 2023年4月6日

【動画】衆議院 憲法審査会 2023年5月25日





「必要最小限度」の意味の違い

 「必要最小限度」が二つの次元で使われていることを「阪田雅裕」の説明から確認する。


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○公述人(阪田雅裕君) ……(略)……

(略)

 ですから、今必要最小限度というのは、政府は二つの場面でしか使っていないんですね。自衛隊が国民を守るための必要最小限度の実力組織であるということ。それからもう一つは、有事に際して自衛隊が実力行動に及んだときにどこまでその武力を行使できるかが必要最小限度、国民を守るための必要最小限度ですというところをちょっと頭に置いておいていただきたいと思います。

(略)

 それからもう一つ、必要最小限度との関係ですね、さっき申し上げた。必要最小限度をちょっと緩めれば、必要最小限度の範囲内で自衛隊は実力の行使ができると言っているんだから、政府は、これをちょいと緩めれば集団的自衛権の少なくとも端っこの方は引っかかるんじゃないかというような議論がございます。

 ですけれども、さっき申し上げたように、必要最小限というのは二つの次元、場面でしか使っていない。一つは、自衛隊が国民を守るための必要最小限度の実力にとどまらなきゃいけないということなんですよね。それをどんどん広げるというと、それは物すごい大きな自衛隊になる可能性はありますよ、緩めていけば。GDP一%どころか、中国並みに二%、三%という国になることはあり得る。

 それから、自衛隊が実力の行使に移ったときに必要最小限度の範囲内でとどまらなければいけない。これを緩めていくと、もしかすると、今は駄目だと言っている占領、外国領土の占領みたいなものも認められるかもしれません。ですけど、これらを幾ら緩めてみても、我が国に対する武力攻撃がない、国民の生命、財産あるいは国土そのものが脅かされていないという状況の中で自衛隊が出ていくという理由にはならないということなのであります。

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第186回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 平成26年3月13日 (下線は筆者)



 「必要最小限度」が二つの次元で使われていることは、内閣法制局長官「小松一郎」も認めている。

 

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小松政府特別補佐人 お答え申し上げます。

(略)

 そこで、必要最小限度という言葉が、私は、従来の政府の見解の中で、二つの文脈の中で使われてきているというふうに考えます。

 第一の文脈というのは、三要件の第一要件の部分にかかわっている問題でございまして、我が国の国民の生命や身体が危険にさらされるような場合、これを排除しなければならない、そういう必要最小限度の必要性がある場合には武力行使が例外的に認められるというのが第一要件でございます。

 それに対しまして、第三要件、これは今委員が正しくおっしゃいましたように、武力行使が例外的にできる場合があっても、その場合に行うことのできる武力の行使というのは、極めて厳しい比例性、また均衡性と言うことができると思いますが、そういう厳しい必要最小限度という枠がはまっていなければならない。

 こういうことで、非常に舌をかむような話で恐縮でございますけれども、この二つの文脈の中で必要最小限度という言葉が使われてきているということが事実としてあるわけでございます

 そこで、従来は、集団的自衛権は、我が国に対する急迫不正の侵害に対処するものではなく、他国に加えられた武力攻撃を武力で阻止することを内容とするものであるので、その行使は、いわゆる自衛権発動の三要件の第一要件を満たしていないという説明をしてきているところでございます。

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

小松政府特別補佐人 お答え申し上げます。

(略)

 ところが、これが自衛権発動の三要件なのであろうかというところがまさに本質ではないかと思うわけでございまして、この三要件というのは、我が国の国民の生命と身体、これを全ういたします前提でございます国家の存立、こういうようなものが侵されたときに、これを排除する必要最小限度の必要性があるか、これが第一要件でございまして、第二要件ほかの手段がないこと第三要件は、先ほど申しました手段の均衡性ということでございます。

(略)

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第186回国会 衆議院 外務委員会 第11号 平成26年4月11日


 この「小松一郎」の答弁の「必要性」や「比例性、また均衡性」と述べているのは、国際法上の「自衛権」の要件に対応する用語であり、厳密には憲法9条の下での「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の基準に対応する用語とは異なることに注意する必要がある。

 

【参考】法の番人の退任劇、いま明かす 車中で後任は黙り込んだ 2020年9月30日



 政府が「必要最小限度」の意味を間違えている点を「柳澤協二」の解説から確認する。

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○柳澤国際地政学研究所理事長からの説明
(柳澤理事長)

(略)

3番目ですが、しかし限定的な集団的自衛権行使のための必要最小限度の武力行使は許されるという従来の政府の考え方の延長線上でこれに沿った研究を進めるということをおっしゃったわけでございます。
次でありますが、ここで細かい論理でいっても仕方ないことなのですが、しかしここは大事なところなので、私の考え方だけ申し上げますと、必要最小限度の集団的自衛権というのは従来の政府解釈と整合性が取れているのだろうかということを少しだけ申し上げますと、必要最小限度というのは何をするのかという目的との関係で決まる概念だと思います。例えば、子供が母親に向かって、「お母さん必要最小限度の御小遣いをください」といった場合に「あんた何を買うの?」ということですね、バイクを買うのか、ゲーム機を買うのか、学用品を買うのかによって、必要最小限度というのは全く性質が違うものになってくるのではないかということでありまして、従来の政府見解は我が国に対する武力攻撃排除するための武力行使は必要最小限度ということで認められるが、これを集団的自衛権は行使できないと解釈していた。ところが今度の政府方針をお聞きすると我が国が攻撃されていない場合の必要最小限度ということですから、これは要するに武力行使をするかしないかという判断の必要最小限度我が国が攻撃をされた場合自衛権という従来の政府の見解に対して、攻撃されていないのにもかかわらず、実はそこは連続性がなかなか説明するのが難しいのだろうなと思っております。それから北岡先生なんかは自衛権発動の3要件にも必要最小限度というものがあると。まあそれは当然なので個別的にせよ集団的にせよ必要最小限度の武力行使にとどまるということが要件なんですが、それが武力行使をすると決めた場合の武力行使の仕方の問題であって、ここに同じ必要最小限度と使ってあるからといって必ずしも連続性があるということにはならないと思います。
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第7回 集団的自衛権の行使について(柳澤協二国際地政学研究所理事長/元官房副長官補) 2014年05月27日

第7回 集団的自衛権の行使について(柳澤協二国際地政学研究所理事長/元官房副長官補)) 2014年05月27日

   【参考】【動画】集団的自衛権と自衛隊 ~「積極的平和主義」はホンモノか 2014/07/08


 ここで「武力行使をするかしないかという判断の必要最小限度」と表現している部分は、従来から「自衛のための必要最小限度(我が国を防衛するため必要最小限度)」と呼んでいる旧三要件をすべてを満たす意味である。



 他の資料でも確認する。


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(3)「必要最小限度」という言葉の二義性


 おわかりのように「必要最小限度」という言葉が、自衛のための実力もしくは自衛力を画するための量的・質的限度の意味にも使われているし、自衛権行使の限度、即ち反撃の限度画するためにも使われている。つまり政府見解は、「必要最小限度」という言葉を、異なる次元において使い分けをしているのである。前者の意味であれば、自衛のための実力もしくは自衛力の量的・質的限度は「その時々の国際情勢、軍事技術の水準等により変わり得る相対的な面を有する」ということになる。しかし、後者の意味であれば、自衛権行使の三要件の一つとしての反撃の限度は、一義的に定まっている。

 さて既に集団的自衛権は認められないとの政府見解は確立しているが、それは自衛権行使三要件から論理的に導かれる結論であり、「必要最小限度」であれば集団的自衛権の行使も認められるというのは論理矛盾である。
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砂川事件最高裁判決によって 集団的自衛権の行使が認められるとの俗論を排す 深草徹 (P9~10) (下線・太字は筆者)

 

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○公述人(阪田雅裕君) ……(略)……

(略)

 ですから、今必要最小限度というのは、政府は二つの場面でしか使っていないんですね。自衛隊が国民を守るための必要最小限度の実力組織であるということ。それからもう一つは、有事に際して自衛隊が実力行動に及んだときにどこまでその武力を行使できるかが必要最小限度、国民を守るための必要最小限度ですというところをちょっと頭に置いておいていただきたいと思います。

(略)

 それからもう一つ、必要最小限度との関係ですね、さっき申し上げた。必要最小限度をちょっと緩めれば、必要最小限度の範囲内で自衛隊は実力の行使ができると言っているんだから、政府は、これをちょいと緩めれば集団的自衛権の少なくとも端っこの方は引っかかるんじゃないかというような議論がございます。

 ですけれども、さっき申し上げたように、必要最小限というのは二つの次元、場面でしか使っていない。一つは、自衛隊が国民を守るための必要最小限度の実力にとどまらなきゃいけないということなんですよね。それをどんどん広げるというと、それは物すごい大きな自衛隊になる可能性はありますよ、緩めていけば。GDP一%どころか、中国並みに二%、三%という国になることはあり得る。

 それから、自衛隊が実力の行使に移ったときに必要最小限度の範囲内でとどまらなければいけない。これを緩めていくと、もしかすると、今は駄目だと言っている占領、外国領土の占領みたいなものも認められるかもしれません。ですけど、これらを幾ら緩めてみても、我が国に対する武力攻撃がない、国民の生命、財産あるいは国土そのものが脅かされていないという状況の中で自衛隊が出ていくという理由にはならないということなのであります。

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第186回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 平成26年3月13日


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この集団的自衛権は「自衛のための必要最小限度の範囲を超える」から許されないと理由づけたことにより、個別的自衛権と集団的自衛権の相違を量的なものにすぎないとの誤解が生じたため、「政府は近年、集団的自衛権の行使を違憲と解する理由について、我が国の武力行使が必要最小限度の範囲を超えるから、といった表現を避けて、我が国に対する武力攻撃が発生していないからと説明することが通例になっている」 14) とされる。たとえば、秋山収内閣法制局長官は、自衛権発動の三要件を前提に、集団的自衛権は「自衛権行使の第一要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていないものでございます。したがいまして、従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの第一要件を満たしていないという趣旨で申しあげている」と言う (2004年1月26日) 15) 。
 このように、これまでの政府の自衛隊を正当化するための論理の核心は、我が国に対する武力攻撃の発生に限って実力行使を容認する(個別的自衛権)という点であり、その論理的帰結として集団的自衛権は行使できない、というものである。それゆえ、集団的自衛権の行使を容認するというのは、自衛隊を正当化する論理自体を捨て去ることになる。また従来の政府見解もいうように、この核心は程度問題ではないため、「必要最小限度」の集団的自衛権なるものは想定できないはずである16) 。
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安保関連法の違憲性と問題性 2016.03.14 (『本文・要約』をクリックすると見ることができる) (P34)

 

 

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 したがって上記の答弁は、第一に、(集団的)自衛権の発動要件とこれを発動した場合の武力行使の限界とを混同している点で、そして第二に、必要最小限度の実力行使の範囲がこれまでと変わらず、かつ、それが憲法9条の解釈の当然の帰結であると解している点で、問題があるといわざるを得ない。必要最小限度の実力行使も、海外派兵の原則禁止も、今後、我が国の防衛政策の基準とはなり得ても、従来のように法論理的に導かれる武力行使についての憲法上の制約であり続けることはできないのである。

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憲法9条と安保法制 -- 政府の新たな憲法解釈の検証 阪田雅裕 2016/7/4 amazon (P49)


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小林節(慶應義塾大学名誉教授・憲法学)

(略)

それから、これも山口先生のお話と重なりますけれども、必要最小限というのは、これは安全弁のように言われますけれども、これは「必要」から入る以上、言葉の性質からいってね、「必要です」といって入ったら、始まっちゃうんですね。始まったら関係者は無限の安心感を持つまで、「まだいて」「まだいて」「まだいて」「だって必要を感じるから」という社会で、最小限なんて歯止め、なくなっちゃうんですよね。

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杉田敦

(略)

先ほど来指摘されているように、現在、推進派の方々は、「必要最小限」というレトリックを使ってなんとか突破しようとしているようですが、この必要最小限という言葉は、戦争のやり方に関する基準(「交戦法規」)であって、戦争や武力行使をやるかどうかの基準(「開戦法規」)ではない。ここのところを意図的にごまかして、いざ集団的自衛権を認めても、めったに手は振り上げませんよという印象操作をしている。

この「必要最小限」というのは歯止めにはなりません。結局、歯止めなどは一切なく、すべて政治家の判断にお任せということになってしまいます。

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2014年6月9日立憲デモクラシーの会緊急記者会見



<理解の補強>


72年見解は、どう“研究”しても集団的自衛権の行使を肯定しない! 2014年06月10日

必要最小限度の集団的自衛権というときの必要最小限度について PDF





 このように、2014年7月1日閣議決定以降の政府の答弁は論理的整合性が保たれていない。それでも政府は「内閣が、法令違反の内容の閣議決定を行うことは考えられない。」と答弁している。


質問主意書

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一 憲法の解釈について、既に立法府において確立した解釈が立法や決議等により示されている場合に、それに反する解釈に基づく政府の基本方針を閣議決定することは、議院内閣制及び内閣法第一条の趣旨に反し、許されないと解するが、政府の見解如何。

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答弁書

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一について

 

 御指摘の「憲法の解釈について、既に立法府において確立した解釈が立法や決議等により示されている場合」の意味するところが必ずしも明らかではないが、一般に、閣議決定は、法令の範囲内においてなされるものであり、内閣が、法令違反の内容の閣議決定を行うことは考えられない

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憲法解釈と内閣法第一条の運用に関する質問主意書 平成26年6月27日