(現在、サイト内の論点の重複を統合・濃縮する作業を行っております。)
【このページの目次】
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<安保法制の憲法適合性>
法的審査の対象
違憲審査の前提
〇 2014年7月1日閣議決定の解釈変更
〇 違憲審査の対象
9条解釈の前提
〇 軍事権のカテゴリカルな消去
〇 9条と前文
・平和主義
・平和的生存権
〇 解釈の体系
違憲審査のアプローチ
〇 違憲審査基準の設定方法
〇 違憲審査の二つのアプローチ
9条解釈の枠組みからのアプローチ
〇 9条解釈のバリエーション
◇ 1項全面放棄説(+2項全面放棄説)からのアプローチ
◇ 1項限定放棄説+2項全面放棄説(自衛力否定説)からのアプローチ
◇ 1項限定放棄説+2項全面放棄説(自衛力肯定説)からのアプローチ
有権解釈の枠組み
裁判所の砂川判決が示したもの
政府解釈が示したもの
司法権と行政権の判断の射程
政府解釈の基準 ⇒ <9条解釈>
「武力の行使」の範囲
9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」との関係
9条2項後段が禁じる「交戦権」との関係
政府解釈まとめ ⇒ <自衛のための必要最小限度>
政府解釈からのアプローチ ⇒ <集団的自衛権行使の違憲審査>
◇ 1項限定放棄説のアプローチ
政府解釈の基準
政府解釈からのアプローチ
司法判断からのアプローチ ⇒ <9条解釈の枠組み>
9条1項の趣旨からのアプローチ
◇ 1項限定放棄説+2項限定放棄説(芦田修正説)からのアプローチ
〇 まとめ
〇 9条そのままに抵触すること
<存立危機事態の違憲審査>( ← このページの内容)
「武力の行使」の発動要件からのアプローチ
〇 9条の法的効力
〇 9条の規範性
◇ 9条の文言の定義による審査
◇ 9条の規範性を保つために必要となる基準による審査
・9条の立法目的
・9条の立法目的を達成するための手段
・9条に抵触しないことを明確にできる要件
▽ 従来の統制方法
・三要件(旧)の基準
・三要件(旧)の評価
▽ 2014年7月1日閣議決定「後」
・新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」
・9条の規範性を保つための基準を通過していないこと
・文言の分析
・曖昧不明確であること
・漠然不明確・過度の広範性の判断
・明確性の原則
・枠組みの描き方
・「存立危機事態」の要件が設定された場合
・相当因果関係はあるか
・要件該当性の作出行為が可能
・「他国防衛」や「自国都合」が排除されていないこと
・要件の性質
・9条の規範性を保つための基準となるものはどこにあるのか
・「規範性を有する」としている
・「全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」としている
・新三要件は何を「排除」するのか
・新三要件の第二要件について
・新三要件の第三要件
・「他国からの要請」が必要という論理矛盾(作成中)
・前文の「平和主義」との整合性
・他国の「先制攻撃」に加担することが可能
9条の制約を13条が例外化する解釈からのアプローチ
・三要件(旧)の基準
・新三要件の「存立危機事態」
・13条で正当化できる範囲
〇 合憲限定解釈は可能か
〇 統治行為論を採用するべきか ⇒ <砂川判決に論拠はあるか>
〇 国際法との対応関係
〇 論理構成まとめ
結論
〇 違憲性の是正方法
〇 法律論と政策論
〇 責任と賠償
〇 存立危機事態に関わる違憲訴訟
安保法制違憲・国家賠償請求事件
命令服従義務不存在確認請求事件
その他の訴訟
資料
〇 9条 論点マップ
〇 リンク
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「武力の行使」の発動要件からのアプローチ
ここでは、9条に抵触するか否かについて、「武力の行使」の発動要件、「武力の行使」を発動した場合における程度・態様、それを実施する実力組織、それを実施するための『権限』などからアプローチしていく方法を検討する。
9条の法的効力
【憲法の枠組み】
日本国憲法は、「法の支配」、「立憲主義」、「法治主義」の理念の下に定められている。
これにより、統治権を行使する機関は、この憲法に拘束されることになる。
そのため、立法機関は、憲法よりも下位の法令を定める際に、この憲法上の規定を踏み越えることはできない。
また、政府が政策を実施する場合や、政治的な思惑をもって行動する場面においても、この憲法上の規定を踏み越えることは許されない。
このように、憲法の枠組みに反する行為・行動・活動が正当化されることはない。
国家を運営するにあたって「法の支配」、「立憲主義」、「法治主義」を採用している以上は、憲法上に規定が存在する限りは、その規定が対象とする何らかの国家作用が存在するはずである。
そのため、憲法上に規定が存在している以上は、その規定が存在する意義を保つことのできる解釈を選択することが求められる。
よって、下位の法令を定める際には、憲法上に存在する規定の規範性を損なわせることはできない。
このことから、下記の法令を定める際には、その規定の効力を保つために必要となる一線を失わせる形としてはならない。
もしそれを行ったならば、憲法規定が有している意図・目的を達成することができず、その法的な効果を実現できていない状態となり、新たに定めようとした下位の法令との間に矛盾・抵触が生じ、法の階層構造が損なわれ、論理的整合性が成り立っていないこととなる。
これでは、法の支配、立憲主義、法治主義の精神を貫徹することができていないこととなり、法解釈として妥当性を有しない。(それらの実現が損なわれていることを意味する。)
【9条の法的効果】
そして、9条という規定が憲法上に位置付けられている以上は、この規定が対象とする何らかの国家作用が存在していることを意味する。
そのため、9条は何らかの国家作用を制約するための法的な規範としての意味を有しており、法的な効力を有していることになる。
9条の規定が存在する限りは、9条が存在している意義そのものを損なわせることはできない。
もし9条を解釈する際に、それを法的な効力を有するものとして扱わなかったならば、9条が存在している意義を失わせることとなる。
こうなる、法の支配、立憲主義、法治主義を実現しようとする営みそのものが成り立たなくなる。
そのため、そのような扱いは解釈の方法として妥当でない。
よって、9条を解釈する際には、9条が有している法的な効力を無視するようなことは許されない。
9条を解釈する際には、9条の法的効力が保たれていることを明らかにすることが求められる。
もし下位の法令を9条の趣旨を満たさない形で定めた場合には、その下位の法令は、憲法上に9条の規定が存在している事実との間で矛盾することになる。
これを放置したならば、実質的には憲法上に9条の規定が存在していない場合と同じこととなり、9条に法的効力が存在せず、9条が法規範として成り立っていないことになってしまうため妥当でない。
そのため、9条の趣旨を満たさない形て下位の法令を定めることは、9条の規範を不当に踏み越えようとするものであると考え、9条に抵触するものとして扱うことが必要となる。
つまり、下位の法令を9条の趣旨に反する形で定めた場合には、9条に抵触して違憲となる。
〇 9条が憲法上の規定である意味
憲法9条は、国家の統治権によって行われる「武力の行使」を憲法上の統制に服させることを目的として設けられた規定である。
そのことから、その「武力の行使」を行うことができるか否かの限界となる線は、憲法を解釈することによって導かれるものである。
そのため、その限界となる線を下位の法令である法律等が踏み越えている場合には、その法律の内容は憲法9条に違反することになる。
そこで、その憲法9条に違反する場合と違反しない場合を識別するための基準は、憲法9条からどのように導き出されるかを検討することが必要である。
それについては、下記で解説する。
9条の規範性
9条の法的な効力が保たれている状態とするためには、9条の規範性を保つために、9条に抵触する部分を違憲とすることが必要である。
そこで、どのような内容が9条に抵触することになるのか、具体的に検討する。
9条の文言の定義による審査
9条の文言の定義から考える審査を検討する。
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・「侵略戦争」を行うと9条1項に抵触する
・「宣戦布告」や「最後通牒」によって開戦すると9条1項の「戦争」に抵触する
・「自衛戦争」が許されるというわけではなく、「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」、「武力による威嚇」以上のことはすべて9条1項に抵触する
・「先に攻撃(先制攻撃)」を行うと9条1項に抵触する
・自国都合の「武力の行使」を行うと9条1項に抵触する
・「国際紛争を解決する手段として」の文言は何ら制約の範囲を限定する意味を有していないと考える場合には、「戦争」(侵略戦争・自衛戦争)「武力の行使」「武力による威嚇」はすべて9条1項に抵触する
〇 9条2項前段 「陸海空軍その他の戦力」
・軍事権限を行使すれば「戦力」に抵触する
・「侵略戦争」を行う組織は「戦力」に抵触する
・「自衛戦争」を行う組織は「戦力」に抵触する
・「宣戦布告」や「最後通牒」によって開戦する組織は「戦力」に抵触する
・『他国防衛』のための「武力の行使」を行う組織は「戦力」に抵触する
・「日本国の領域に対する武力攻撃」に対処するわけではないにもかかわらず、「海外派兵」(海外での『武力の行使』)を行えば、その組織は「戦力」に抵触する
・「先に攻撃(先制攻撃)」を行えば「戦力」に抵触する
・自国都合の「武力の行使」を行う組織や『権限』は「戦力」に抵触する
〇 9条2項後段 「交戦権」
・「侵略戦争」を行う『権限』は「交戦権」に抵触する
・「自衛戦争」を行う『権限』は「交戦権」に抵触する
・「宣戦布告」によって開戦する『権限』は「交戦権」に抵触する
・『他国防衛』のための「武力の行使」を行う『権限』は、「自衛行動権」とは説明できず、「交戦権」に抵触する
・「相手国の領土の占領などの権能」を行使すれば「交戦権」に抵触する
・「先に攻撃(先制攻撃)」を行えば「交戦権」に抵触する
・自国都合の「武力の行使」を行う『権限』は「交戦権」に抵触する
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上記については、文言の定義に当てはまるか否かを検討することによって、そのまま結論を導き出すことが可能である。
これについては、9条に抵触して違憲となるか否かを判別する方法として分かりやすい事例である。
【動画】おしえて長谷部先生!「法の支配」ってなぁに? 2024/02/03
9条の規範性を保つために必要となる基準による審査
これに対して、9条に抵触するか否かが分かりづらいものについては、それが9条の規範性を維持することができるか否かを見極めることによって、違憲となるか否かを決することが必要となる。
そのため、9条の規範性を保つことができるものであるか否かを明らかにするために、それを識別するための基準を見出すことが必要となる。
そして、憲法よりも下位の法令によって具体的な要件を設定する場合には、9条の規範性が保たれていることを示すために、その基準を備えたものとすることが求められる。
もし、憲法よりも下位の法令によって、9条の規範性を保つための基準となるものを有していない要件を定めた場合には、その要件は9条の規範性を損なっていることになる。
よって、その要件を定めた法令は9条に抵触して違憲となるし、その要件に基づく政府の行為も9条に抵触して違憲となる。
当然、その要件の内容が「武力の行使」を実施することを定めているとしても、その要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
9条の規範性を維持するためには、9条が存在している意義を損なわせるものであってはならない。
そのため、9条の下で設定される要件の内容は、9条が存在している意義を損なわせるものでないことを明らかにすることができる基準を満たしている必要がある。
これにより、要件が9条に違反しないことを示すことが必要である。
よって、その9条が存在している意義が保たれるためには、9条の規定が定められている「目的」を明らかにし、「その目的を達成するための手段」として、9条の規定が機能していることを示すことが必要となる。
9条の規範性を保つためには、9条の規定が立法された目的を明らかにし、その立法目的を達成することができる手段がとられていることが必要である。
9条の規範性を保つためには、9条の立法目的を捉え、その立法目的を達成することができていることを明らかにすることが求められる。
〇
9条は法規範であり、法的な効力を有している。
そのため、憲法よりも下位の法令で政府の行為について定める場合でも、その法令の内容が9条に違反するものとなってはならない。
そのため、下位の法令を定める際には、9条の規範性を保つことができるものとなっていることを示すことが必要となる。
そのことから、9条の規範性を保つことのできる基準となるものを見出し、その限界を超えるものでないことを明らかにすることが必要となる。
よって、下位の法令が9条に抵触するか否かを判断するためには、その下位の法令が9条の規範性を保つことができるものとなっているか否かを審査することになる。
具体的には、9条の規定が立法された目的を明らかにし、その立法目的を達成することができる手段が採られているかを検討することになる。
・ 9条の立法目的は何か
・ 9条の立法目的を達成することができる手段となっているか
(9条の立法目的を達成するための手段として合理的な内容となっているか)
そのため、その「武力の行使」の発動要件を設定する際には、その要件によって9条の立法目的を達成することができるか否か、つまり、その要件が9条の立法目的を達成するための手段として合理的な内容であるといえるか否かを審査することになる。
(9条の趣旨を満たすものとなっているか、その要件が9条の立法目的を達成するための手段として合理性を有した妥当なものであるかを審査することになる。)
〇
これらのことから、9条の下では「武力の行使」を発動できる場合であるか否かを決する基準を、政府の政治的な判断に一任することになるような要件を設定することはできない。
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XIX 2023/05/07
【視点】憲法とは何か 長谷部 恭男 2019年12月16日
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憲法上、武力の行使の許容を示唆する条文は皆無⇒武力行使に関して憲法が設定したベースラインはゼロ。
それにもかかわらず武力の行使が許されるとすれば、十分な正当化が必要。
基本権を侵害する公権力の行使の場合と同様の思考様式。
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【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XX 2023/06/02
〇 違憲審査の論理構成の概要
「武力の行使」が9条に違反するか否かを判断する際に必要となる論理構造の骨格を示す。
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① 条文の目的
9条は政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を防ぐために設けられた規定である。
② 条文の目的を達成するための手段となる基準
そのことから、9条の下でもなお「武力の行使」を行うことができるとする余地を見出すとしても、その「武力の行使」を発動するために用いられる要件の中には、政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を防ぐことができる基準となるものが備わっていること必要となる。
そのため、「武力の行使」の発動要件には、最低限、政府の恣意性を排除することが可能となる「受動性」「客観性」「明確性」の要素を備えていることが必要となる。
③ 条文の目的を達成するための手段となる基準の具体的な事例への当てはめ
・ 三要件(旧)
そこで、三要件(旧)を見ると、「受動性」「客観性」「明確性」を一定程度認めることができるとする余地がある。
よって、三要件(旧)は、9条に明白に違反しているとまではいえない。
・ 新三要件
しかし、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」については、内容が曖昧不明確なものとなっており、「受動性」「客観性」「明確性」の要素を備えるものではない。
そのため、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」は、9条が政府の恣意的な動機に基づいて「武力の行使」が行われることを制約する趣旨を満たすものではなく、9条に違反する。
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9条の立法目的
9条の立法目的を検討する。
9条は、大日本帝国憲法を改正し、日本国憲法を制定する際に新たに設けられた規定である。
9条は、政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約する趣旨の規定である。
この規定が設けられた背景には、歴史上幾度も政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ろうとしたり、実際に「武力の行使」に踏み切った事情が存在する。
【政府が「武力の行使」に踏み切る事情】
そこで、政府が恣意的な動機によって自国都合の「武力の行使」に踏み切る事例として考えられるものを挙げる。
・選挙前の支持率向上の目的
・内閣支持率向上の目的
・自国の国民に対して強い政権像を演出する目的
・軍需産業の受注増による景気向上の目的
・景気向上によって税収を確保し、国の借金返済に充てる動機
・国際関係の円滑化
・国際社会からの批判の軽減
・他国からの批判や圧力の軽減
・他国からの経済制裁などを背景とした参戦要求
・実力部隊の構成員の戦時下での給料アップの目的
・職場内での昇進の目的
・勲章等の授与を期待する目的
・政権担当者や実力部隊構成員の抱く歴史的名声を得ようとする目的
・他国領土や他国との間にある係争中の領土を奪取する目的
・他国に対する優位性を確保する目的
・他国に対する嫌悪感を背景とする政党の支持率向上の目的
・先手を打って優位に立とうとする目的
・
9条が定められた背景には、これらの事情に基づいて政府が「武力の行使」に踏み切ることを制約するところにあると考えられる。
9条の規定は、これらの事情によって「武力の行使」が行われることを防ぐところに意図がある。
9条の規定は、政府が国内の政治的な思惑などを背景とした政治的な判断を含む恣意的な動機に基づいて「武力の行使」を行うことを防ぐところに意図がある。
政府が「自国民の利益」の実現を追及したり、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として自国都合の「戦争」や「武力の行使」、「武力による威嚇」に踏み切ろうとすることを防ぎ、実際にそれらが行われることを禁じることに意図がある。
【9条に込められた意図】
そのため、9条の立法目的として、下記のような内容を挙げることができる。
◇ 日本国政府の恣意的な動機に基づいて自国都合によって「戦争」を始めたり、「武力の行使」に踏み切ったりさせないこと
◇ 日本国内の政治的な都合や政争における利害関係によって「戦争」を始めたり、「武力の行使」に踏み切ったりさせないこと
◇ 日本国政府が「これは勝てる」との自信を得たとしても、他国の国民を犠牲にするような発想で「戦争」を始めたり、「武力の行使」を踏み切ったりすることがないようにすること
◇ 国際関係上の圧力に屈して、日本国政府が「戦争」や「武力の行使」に参加することがないようにすること
◇ 不安に煽られた国民世論に押されても、日本国政府が時期を見計らって他国を制圧することを意図したり、計画したり、実行したりさせないこと
◇ 日本国からは決して攻撃しないこと
◇ 日本国政府に対して極限まで外交努力をさせること
◇ 他国を犠牲にして自国の存立を成り立たせようとする「力による支配」の姿勢を奪うこと
◇ 他国を犠牲にして自国の存立を成り立たせようとする政治政策や主義主張の広まりを防ぐ
◇ 日本国内の軍需産業の肥大化を押さえ、国内の戦争機運の高まりを抑えること
このように、9条は、政府が恣意的な動機によって対外的な「武力の行使」に踏み切ることを統制しようとする目的を有している。
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XXI 2023/07/03
【9条が憲法規範として設けられている意味】
9条は、国会の立法する法律や行政府の発する命令という法形式ではなく、憲法上の規定として設けられ、憲法規範としてのバックグラウンドを有している。
9条が法律よりも改正することが難しい憲法規定として設けられた理由は、「戦争」や「武力の行使」など軍事に関する事柄は、民主主義の多数決原理を背景とした変動の激しい一時期の民意を背負う政治判断にはなじまないものと考えるからこそである。
これは、もとより政治判断を信頼しておらず、その時々の政治的事情に左右されることがないようにするところに意図がある。
憲法上の規定であることは、国会が法律を立法することによって内閣以下の行政機関を統制する場合だけでなく、国会の立法権をも統制するところに意図があるということである。
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普通の国では、戦争をするかどうかはそのときどきの国民の意思に従って政府が決めます。いわば民主的にコントロールされているのであれば、戦争をも肯定するのが普通の国の憲法です。ですが、日本国憲法では、たとえ民主的手続きによって正当化されたとしても、戦争だけは絶対に政府にさせないように憲法で規制したのです。これは普通の国の普通の憲法とは大きく異なります。
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第八十九回 憲法施行70年にあたって 〜9条、13条、24条を考える〜 伊藤真 (下線は筆者)
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9条の内容を変えない限り、内閣の一存で「自衛」の概念を拡張し、多数決で法律を作って戦争を遂行し、軍隊をもつようにすることはできないのです。多数決でもできないことをはっきりさせること―これは人権を保障し、民主主義社会を維持するために日本国憲法が採用した安全網(セーフティ・ネット)であり、それは世界中の立憲主義憲法が掲げる基本原則でもあります。
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早稲田大学法務研究科教授・中島徹氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
【参考】第186回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 平成26年3月13日
(政府答弁ではないが、『阪田雅裕』の説明がある。)
【動画】アフガン米軍敗走が残すもの 世界の難民急増【田岡俊次の徹底解説】 2021/07/28
【動画】シリーズ憲法講演会No.28「敵基地攻撃と日米一体化~踏み越える専守防衛~」 2022/02/05
【動画】【プーチン大統領】軍事侵攻「正当な行い」主張 2022/02/28
【動画】“20万人が大喝采”ロシア プロパガンダを徹底 2022年3月19日
【動画】元CIA諜報員がプーチン氏の“心を読む” 2022年5月7日
このように、9条が憲法規定として設けられている目的は、日本国の統治権の『権限』の範囲を法的に制限することにより、政府が恣意的な動機に基づいて「武力の行使」等を行うことを制約するところにある。
◇ 国際法上の規制との関係
「戦争」や「武力の行使」については、国際法上に規制が存在するため、自国の憲法上で敢えて制約する必要はないと考える者もいるようである。
しかし、国際法とは主に「条約」を指すが、これは破棄することが可能な法形式である。
また、条約の期限が切れたり、締約国が革命などによって消滅したり、加盟国が大幅に変更され、効力や有効性、実効性が疑われる状態となることも起こり得る。
国連憲章についていえば、改正手続きが存在しており、国際政治のパワーバランスの中で、原則として「武力の行使」が違法化されている国際秩序が崩壊し、後に合法化されてしまう可能性も考えられる。
このような国際法の欠点を考えると、自国の憲法上で自国の統治権の『権限』に対して9条のような制約を独自に加えておくことには、大きな意義がある。
下記は、国際法の実効性が疑わしい事例である。
国際司法裁判所がロシアに侵攻停止命令 2022/03/17
国際司法裁、ロシアに侵攻停止を命令 2022年3月17日
国際司法裁判所 ロシアに直ちに軍事行動やめるよう暫定命令 2022年3月17日
ロシアに侵攻停止命令 国際司法裁判所 2022/3/17
国際司法裁判所、「侵攻直ちに中止を」ロシアに命令 2022年3月17日
国際司法裁、侵攻停止を命令 ロシアは審理欠席、実効性乏しく 2022年3月17日
ウクライナ侵攻 国際司法裁が侵攻停止命令 露「従わない」 2022/3/18
【動画】「国際司法裁判所」が侵攻停止命令も・・・ロシア従わず 2022年3月18日
9条の立法目的を達成するための手段
9条の立法目的を達成するためには、9条の下で定められる規範の内容が合理的なものであり、9条の趣旨を損なわせることなく、9条の立法目的を達成するための手段として十分に機能するものとなっていることが必要である。
そのため、9条の立法目的を前提として、その立法目的を達成するための手段として整合的な形で一定の基準を見出すことが必要となる。
これは、 もし9条の規定から政府の自由な行為を制約することのできる基準を見出さなかったならば、9条の規範性が損なわれるからである。
9条を解釈し、9条が有している制約の形について具体的に何らかの規範を設けて確定しようとする際には、9条の趣旨を生かすことが求められる。
9条の趣旨が生かされ、9条の趣旨に反しない形であることを明らかにすることが必要である。
そこで、9条の立法目的を達成するための手段として機能するものとなっていることを示すことが必要となる。
9条は、政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約することを目的として設けられた規定である。
このことから、9条の制約の下でもなお「武力の行使」を発動できるとする場合を見出すとしても、それが9条に抵触するものではないことを明確に示すことが求められる。
そのため、憲法より下位の法令で「武力の行使」を発動ための要件を定める際には、9条の規範性が維持されていることを明らかにするために、その「武力の行使」を発動するための要件は、9条の法的な効果を保つことのできる一線が存在するものとなっていることが求められ、その要件によって9条の立法目的を達成することができるものとなっていることが必要である。
そのため、9条の制約の下でもなお「武力の行使」を行うことができるとする場合を見出すとしても、9条の規定を踏み越えるものでないことを明確にするために、9条が政府の行為を制約する規定として存在している意義が保たれていることを示すことが必要となる。
「武力の行使」が9条に抵触しないことを明確に示すことのできる要件を設定することが必要となる。
つまり、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ることを制約する規範として「合理性」を認めることができるものであることが必要となる。
そのため、政府の恣意的な都合によって「武力の行使」が行われることを制約する基準となるものが求められる。
政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを排除し、政府の行為を限界づけることができる基準である。
その要件が9条の立法目的を達成するための手段として合理的な内容であることが必要である。
9条が政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを制約しようとする趣旨を満たす基準となるものを備えた「武力の行使」の限界となる基準を明らかにすることが必要となる。
そのためには、9条が「武力の行使」を統制しようとする規範としての機能を果たしていることを明らかにすることが必要となる。
その「武力の行使」が9条に抵触しないもの(形・範囲)となっていることを明確に示すことが求められる。
そのため、
・ 第一に、その規定の「立法目的」が、9条と同様に政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約しようとする趣旨を有するものであることが必要である。
・ 第二に、その規定が上記の「立法目的を達成するための手段」として、政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを防ぐことのできる歯止めとなる一線(規範となるライン)が存在することが必要である。
そして、その基準に基づいた規範を「武力の行使」の発動要件として設定することが必要である。
「武力の行使」の発動要件の内容は、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ることを十分に制約することができる基準となるものを有していることが必要となる。
【流れ】
9条の制約の下でもなお「武力の行使」を行うことができる場合を見出そうとする
↓
9条に抵触しない範囲の「武力の行使」であることを明確にすることが必要
↓
9条の規範性を維持できることを明らかにすることが必要
↓
9条の趣旨が生かされていることを示すための基準が必要
↓
「武力の行使」の発動要件には、9条の規範性を保つための基準となるものが備わっていることが必要
↓
9条の「立法目的」と「立法目的を達成するための手段」を検討して基準を明らかにすることが必要
「武力の行使」の発動要件を設定する際には、その要件の中に9条の規範性を保つための基準となるものが備わっていることが必要となる。
そして、その基準は9条の「立法目的」と「その立法目的を達成するための手段」を検討して明らかにすることが必要である。
9条の立法目的は、政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとするところにある。
よって、「武力の行使」の発動要件を定める際には、この趣旨を逸脱しないことを示すための基準となるものを検討し、その要素を備えた要件を定めることが必要となる。
「武力の行使」が9条に抵触しないことを明確に示すことができる要件となっているために必要となる要素(条件)を考える。
これは、9条の規範性を保つことのできる要件と、9条の規範性を損なう要件とを見分けるための基準を見出すことになる。
また、これは「武力の行使」を行った場合に、その「武力の行使」が9条に抵触せず合憲となるか、9条に抵触して違憲となるかの判定基準を示すことになる。
結果として、「武力の行使」の発動要件は、その要件を満たしている限りは「武力の行使」を行った場合でも9条に抵触しないことを示すためのものとなる。
これにより、「武力の行使」の発動の可否や、発動した場合における程度・態様を統制することになる。
9条に抵触しないことを明確にできる要件
9条の規範性を損なうものとなっていないかを考えるポイント
〇 「武力の行使」の発動要件に含まている意図・目的が9条に反するものでないか
・他国を侵略する目的が含まれていないか
・国際紛争を解決する手段として「武力の行使」を用いることを許すものとなっていないか
〇 9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たすか
・能動的な要素が含まれていないか
・主観的な要素が含まれていないか
・曖昧不明確な要素が含まれていないか
下記の動画は、憲法14条の「平等原則」について述べるものであるが、「客観的合理性」と「主観的恣意性」が対立関係にある中、少なくとも「恣意性」が入り込んではいけないという要請が存在することは明らかであることについて述べられている。
9条解釈においても、政府の恣意性が含まれてはならないという点で参考になると思われる。
【動画】シンポジウム 国葬を考える【The Burning Issues vol.27】 2022/09/25
〇 「武力の行使」の発動要件に含まている意図・目的が9条に反するものでないか
9条は「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を禁じている。
そのため、「国民の利益」の実現や、「自国の存立」や「国民の権利」の危機、国際関係や他国からの圧力、自国の政治的な事情、経済的な事情、政権中枢の恣意的な都合、国民感情などを動機として、政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを許すものではない。
そのことから、9条の下で何らかの規範を定める際には、9条の規定がこれらを制約していることが明らかとなる形となっていることが必要である。
よって、「武力の行使」の発動要件を定める場合であっても、その要件の中にこれらの意図・目的が含まれるものとなっていないかを審査することが必要となる。
〇 9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たすか
政府の恣意性が入る余地のある要件を設定した場合、9条の規範性が保たれているとは言うことができず、9条に抵触して違憲となる。
具体的には、下記の通りである。
□ 前文の「平和主義」との関係
9条は前文の「平和主義」の理念に深く根付いた規定である。
「武力の行使」の発動要件を設定する際に、9条の規範性を曖昧にする形となれば、前文の「平和主義」の価値まで損なうこととなる。
◇ 9条1項
9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触しないことを明確にできる要件とはどのようなものであるかを考える。
政府の恣意性が入る余地のある要件を設定した場合、政府が「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を行うことが可能となるため違憲となる。
◇ 9条2項前段
9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に抵触しないことを明確にできる要件とはどのようなものであるかを考える。
政府の恣意性の入る余地のある要件を設定した場合には、それを行使する実力組織の実態が「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
◇ 9条2項後段
9条2項後段の「交戦権」に抵触しないことを明確にできる要件とはどのようなものであるかを考える。
政府の恣意性が入る余地のある要件を設定した場合には、「交戦権」を行使していることとなって違憲となる。
そのため、9条に抵触しないためには(9条の規範性を保つためには)、政府の恣意性の入る余地のない要件件が定められていることが必要となる。
その要件は、9条の規範性を保つための基準となるものを有する要件である。
もし9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない中で「武力の行使」を行った場合には、9条の規範性が損なわれたことを意味し、9条に抵触して違憲となると考える必要がある。
9条の下でもなお「武力の行使」を行うことができるとする場合を見出すとしても、その「武力の行使」が9条に違反するものであってはならない。
そのため、「武力の行使」を発動するための要件は、9条に違反しないための基準となるものを備えたものであることが必要となる。
そして、その基準を満たしている限りにおいて、その要件は「武力の行使」が9条に違反するか否かを識別するための判断の根拠として機能し、「武力の行使」を正当化することができる根拠として機能することとなる。
その基準としては、政府の恣意的な判断が入り込む余地をなくすため、下記のような内容であってはならない。
✕ 「能動性」(自動性)を含むものであってはならない
我が国の国内の事情を基準としたり、政府が自国の状態を意図的に作出することで要件に該当させることが可能となる基準を定めてはならない。
我が国や我が国の国民が引き起こした出来事を要件とすることはできない。
政府が意図して作出できるものであれば、政府の恣意性を防ぐことができないからである。
(『自作自演』について)
【動画】【手作り解説】生物・化学兵器とロシアの「偽旗作戦」とは?【ウクライナ侵攻】 2022/03/27
✕ 「主観性」を含むものであってはならない
ある出来事があったかなかったかという事実の有無を認定する基準について、事態を認定する者の主観的判断に流れてしまうか、主観的判断に流れているのか否かを切り分ける評価を行うことができないような基準であってはならない。
他国が引き起こした我が国に対する出来事で「受動性」があるとしても、それが規範を適用する者の主観的な判断に頼るもの(感覚的・感情的なもの)であってはならない。
誰であっても事実認定が同じになるようなものでなければ、政府の恣意性を防ぐことができないからである。
✕ 「不明確性」を含むものであってはならない
具体的に何を意味しているのか通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその条文を適用できるか否かを識別するための基準を示すところがないような曖昧不明確な要件としてはならない。
他国が引き起こした自国に対する出来事であり(受動性)、誰にとってもその事実を認定できる具体的で内容の共有できる出来事であったとしても、不明確で確からしさの存在しないものであってはならない。
不明確な出来事を認定するだけでは、政府の恣意性を防ぐことができないからである。
「武力の行使」の限度を画することができる基準を有しているか
政治的な都合に左右されることを許すようなものになっていないか
政府の恣意的な判断に左右されないものか
× 具体的な限度を画することができないもの
× 曖昧不明確なもの
曖昧不明確なものとなっていた場合、政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約するための法的に明確な線引きとなるものを失わせることになる。
× 事態の『数量』面に依存させるもの
もし政府が事態の『数量』面に着目することによって、その要件に該当するか否かを判断するものとなっていた場合、実質的には、政府が「この事態での『武力の行使』は9条に抵触する」と言えばその「武力の行使」は違憲となり、「この事態での『武力の行使』は9条に抵触しない」と言えばその「武力の行使」は合憲となるとすることができてしまう。
このような要件に基づいて「武力の行使」を発動できることになれば、実質的には「武力の行使」を行うことができる場合とできない場合を区別するための基準そのもの存在していない、あるいは、9条に抵触する「武力の行使」であるか否かの基準そのものを政府の自由裁量に託していることと同じこととなる。
つまり、「武力の行使」を発動できるか否か、9条に抵触する「武力の行使」であるか否かを判断するための基準そのものを、政府の自由裁量として判断することができるものとし、その時々の政治判断に任せるということである。
これでは、その要件に該当するか否かの判断において政府の恣意性を排除することはできない。
そのため、政府が恣意的な動機に基づいて「武力の行使」を行うことを防ぐことができないのであり、9条の政府が自国都合によって「武力の行使」を行うことを制約しようとする趣旨を満たすとはいえない。
これは、政府の恣意的な判断が入り込む余地がないことを示す基準となるものを有しているとはいえず、9条が政府の行為を制約しようとする趣旨を逸脱する。
9条が政府の行為を制約しようとする趣旨で定められていることを無視するものであり、9条の規定が存在している事実そのものを損なわせるものである。
よって、このような要件に基づいて「武力の行使」を行うことは、9条の許容する範囲を超え、9条に抵触して違憲となる。
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◇ 事態の『数量』面に着目した基準
政府の行為を法的に限界付けることができず、政府の政治的な決定を前提とするものとなる
⇒ 9条が政府の行為を制約しようとする趣旨が生かされていない
→ 9条の規範性が損なわれている
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よって、上記のような内容でないことが求められれる。
具体的な限度を画することができないものでないこと
□ 曖昧不明確なものでないこと
□ 事態の『数量』面に依存するものでないこと
もし「武力の行使」の発動要件が上記のような内容となっていた場合、それは政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約することができていないことから、9条の趣旨を満たすものであるとはいえず、その要件に基づく「武力の行使」は9条に違反することになる。
そのため、日本国の統治権の『権限』による「武力の行使」を行う際の発動要件を上記のようなものとすることはできない。
よって、規範を設定する際には下記の内容を備えていることが必要となる。
〇 「受動性」 …… 政府が意図して作出することのできない「受動性」があること
他国の引き起こした我が国に対する出来事であること。
その出来事それ自体は我が国の意思によって作出することのできない受動的な出来事であること。
「受動性」については、我が国に対して行われた「受動性」である必要がある。
なぜならば、他国に対して行われた行為(武力攻撃)は、他国にとっての受動性であり、我が国とは関係がないからである。
もし他国に対して行われた行為(武力攻撃)に介入する形で「武力の行使」を行った場合、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」となって違憲となる。
〇 「客観性」 …… 誰であっても事実認定が同じになるような「客観性」があること
誰にとってもその事実を認定することができるような具体的で内容を共有できる出来事であること。
後日、誰もが検証することのできる検証可能性のある基準や、歴史的評価に耐えられる基準であること。
〇 「明確性」 …… その規範に該当するか否かを誰もが識別することができる「明確性」があること
通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその規範を適用できるか否かを識別するための基準を有すること。(その規範に当てはまるか否かを誰もが識別することができること。)
具体的な限度を画することができるもの
■ 明確なもの
■ 事態の『性質』面を基準としたもの
(ある出来事があったかなかったかを明確に識別することができるような事態の『性質』面に基準を設定したもの)
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◇ 事態の『性質』面に着目した基準
政府の行為を法的に限界付けることができる
⇒ 9条が政府の行為を制約しようとする趣旨が生かされている
→ 9条の規範性は損なわれていない
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◎ 「普遍性」 …… 立場の入れ替わりによっても変わることのない「普遍性」があること
もし我が国が外国に対して「武力攻撃(武力の行使)」を行った場合、その外国が反撃をするために「武力の行使」を行うことが考えられる。その場合に、その外国が「武力の行使」の発動する際に基準としている要件を、そのまま我が国の「武力の行使」の発動要件としても構わないものである必要があると考えられる。あるいは「平和主義」を基本とする我が国の立場においては、「武力の行使」の発動要件は一般的な他国よりも厳しいものである必要があると考えられる。
なぜならば、我が国は「武力攻撃」を受ける以前の「武力による威嚇」などが行われた段階で「武力の行使」を行うにもかかわらず、他国に対しては「武力攻撃」を受ける以前の「武力による威嚇」などが行われた段階では「武力の行使」を行うことを認めず、実際に「武力攻撃」を受けた場合に限って「武力の行使」を行うことができるとする要件を求めるのでは、実質的に我が国が「武力の行使」を発動できる内容は自国都合の意図・目的が含まれていることを排除していないこととなり、「平和主義」の理念に沿わないことは当然、9条が政府の自国都合による「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさず、違憲となることは明らかだからである。
また、もし我が国が外国に対して「武力攻撃(武力の行使)」を行った場合、その「外国」以外の第三国が我が国に対して「武力の行使」を発動して武力介入してきた場合に、我が国の立場としてその第三国の行為を「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」ではないと言い切って許容することができるかを検討する必要がある。もしその第三国の行為を「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」であるとして認めないのであれば、我が国が「存立危機事態」での「武力の行使」を実施する場合には、この事例の第三国の立場となるため、我が国が行う「武力の行使」は9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となるはずである。
このように、「存立危機事態」での「武力の行使」という我が国が第三国の立場から武力介入を行うこととなる措置であるにもかかわらず、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触しないと主張することが立場の入れ替わりによっても通じる普遍性があるかを考える必要がある。
【別の事例の参考】
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この問題は、福山哲郎参議院議員が指摘したように、逆の立場から考えると、より問題が明白になる。
仮に、現政府の言うとおり、弾薬提供・発進準備中の機体への給油・整備が武力行使ではなく、後方支援であるとしよう。その場合、日本を攻撃するA国に、弾薬を提供したり、発進準備中の機体への給油・整備をしたりしているB国があっても、日本はB国に対して個別的自衛権を行使できない、攻撃できないということになる。これは、日本の個別的自衛権の範囲を不当に狭めているのではないだろうか。
ちなみに、この点を指摘した福山議員の質問に対し、安倍首相は、「まさにA国は日本に対して攻撃をしているわけでありますが、B国は日本に対して武力攻撃をしているというわけではない中において、このB国が行っていることがA国と完全に、その武力攻撃、武力行使の一体化が行われているという認識にならなければ、それは我々は攻撃できないということになるわけであります」と答弁している(参議院安保特別委員会平成27年9月11日)。
これでは、日本の安全を維持するために有効な自衛権の行使ができるのか、甚だ心許ないように思われる。
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気鋭の憲法学者・木村草太が説く「安保法制にこれから歯止めをかける方法」 2016.1.14 (リンクは筆者)
(【動画】2015 09 11 参議院平和安全特別委員会)
もし「武力の行使」の発動要件がこれらの要素を満たしていない場合には、9条が政府の行為を制約しようとする趣旨を満たしているとはいえず、その要件は9条の規範性を保つための基準となるものを有しているとはいえないことになる。
これにより、その要件を定めた法令は、9条の規範性を損なうものとして9条に抵触して違憲となる。
同時に、その要件に基づいて「武力の行使」を行うことについても9条に抵触して違憲となる。
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しかも憲法9条が武力行使の禁止規定であることに鑑みるならば、武力行使の「限定性」は時々の政府の「時代の変化」に応じた解釈で変動するものではなく、誰もが認めうるような客観的で絶対的な基準でなければならない。したがってその限界は、「自国に対する急迫不正の直接的な攻撃があった場合に限り、これへの一時的な反撃が可能な程度の武力の存在と行使」しかありえない。それ以外の場合は常に「我が国の存立の危機」という自国へ攻撃等の「おそれ」の段階で武力を行使するものであるから、結局のところ政府(あるいは政治的多数派)の主観的な判断で武力行使の「限定」性を解除するものとなるため、憲法9条の根幹部分を否定する武力行使となる。
今回の法案の「存立危機事態」も「重要影響事態」もこの「限定」性を解除し、政治的多数派の主観的な「危機」の判断で拡大する基準である。
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大津浩(成城大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日 (下線は筆者)
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憲法の解釈には解釈者の価値判断が入り込む余地があるが、“理論的な枠”があるから憲法の解釈は、その“枠”内でしかできない。これは政治を暴走に歯止めをかける立憲主義からの当然の要請である。憲法第9条が戦争等を放棄し交戦権を否認している以上、日本国憲法は戦争を許容した他国の憲法とは本質的に異なる。日本国が他国から武力攻撃を受けてもいないのに、他衛権(集団的自衛権)の行使を憲法が許容していると「解釈」することは、平和憲法のもとでは無理であり、解釈としての”理論的な枠”を超えるもので、そもそも解釈とは言えない。解釈としての”理論的な枠”を超えるものを「政府の裁量」として認めることは、そもそもできない。
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神戸学院大学法学部教授・上脇博之氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
前文の「平和主義」の理念と整合するものであることが求められる
9条は、前文の「平和主義」の理念を具体化した規定である。
その9条は、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ることを禁ずる趣旨である。
そのため、法解釈によって9条の制約の範囲を確定し、9条の下でも「武力の行使」を行うことが許されるとする例外的な場面を見出そうとしても、9条の趣旨が生かされる基準によって限界が画されることが求められることは当然、前文の「平和主義」の理念と整合的であることも必要である。
前文には「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と定められている。
◇ 全世界の国民の「平和的生存権」を実現する趣旨を満たし、かつ日本国が「武力の行使」を発動できる場合があるとするならば、その在り方は「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除」する場合に限られると考えることが妥当である。
◇ 全世界の国民の「平和的生存権」を確認するの趣旨を背景とした9条の下では、日本国の統治権の『権限』が他国同士の間で発生した紛争に介入する形で「武力の行使」を発動したり、他国同士の間で発生した紛争に対してどちらかの立場に立って「武力の行使」を発動することは導かれない。
<理解の補強>
フェイルセーフ Wikipedia
「法の欠缺」(ルールの不存在)に、どう対処すべきか? 2018-03-18
行政裁量 Wikipedia
行政裁量 ウィキバーシティ
自由裁量処分 Wikipedia
【動画】おしえて長谷部先生!「法の支配」ってなぁに? 2024/02/03
〇 概要
未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない段階で「武力の行使」を行った場合、9条に抵触して違憲となる。
そのため、9条の制約の下でもなお「武力の行使」を行うことができるとする余地を見出すとしても、そこでは9条の政府が恣意的な動機に基づいて「武力の行使」を行うこと制約しようとする趣旨を満たす要件を設定することが求められる。
政府の恣意性を排除するためには、下記の要素を満たすことが求められる。
・ 政府の行為によって作出することのできない「受動性」
・ 人によって事実認定の判断が左右されない「客観性」
・ 誰もが識別することのできる「明確性」
これらの要素を備えた要件を定めることによって、9条の規範性を保つことができると考えられる。
◇ 従来の三要件(旧)はこれらの要素を満たすか
「我が国に対する急迫不正の侵害があること」(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)の要件は、受動性や客観性、明確性を有しており、政府の恣意性を排除することが可能であると考えられる。
この要件を満たした中において、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状況を防ぐために「武力の行使」を行う場合については、政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることが排除された中での「武力の行使」ということができる。
そのため、これを満たす場合については、9条の趣旨を満たし、9条の規範性を損なうものではなく、9条に抵触しないと見る余地がある。
◇ 「存立危機事態」の要件は基準を満たすか
「存立危機事態」の要件は、他国同士の間にある国際関係や政治的な事情によって引き起こされる「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」に起因する形で、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態に当てはまるか否かを基準とするものである。
しかし、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、我が国の国内の事情であるから、我が国の政府が意図して作出することができる「自動性」が含まれている。
また、この要件に該当するか否かの判断に、政府の恣意的な判断の入り込む余地があり「主観性」に頼るものとなっている。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は具体的に何を意味しているのか曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその条文を適用できるか否かを識別するための基準を示すところがなく、この基準は誰もが識別することができる「明確性」を満たすものではない。
このように、「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、これが具体的にどのような出来事によって引き起こされてた状況であるのかについて、9条の規範性を保つために必要となる受動性・客観性・明確性を満たす形で描き出したものとはなっていない。
そのため、「存立危機事態」の要件は、9条の規範性を保つための基準となるものを有しているとはいえず、9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約する趣旨を満たすものではない。
これにより、「存立危機事態」の要件は9条の規範性を損なうものとして、9条に抵触して違憲となる。
当然、この要件に基づいて「武力の行使」を行うことについても、9条に抵触して違憲となる。
未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない段階で、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という理由に基づいて「武力の行使」に踏み切ることは、9条に抵触して違憲となる。
▽ 従来の統制方法
三要件(旧)の基準
従来より政府は、9条の下で許容される「武力の行使」の範囲であるか否かを判断する基準として、三要件(旧)を設定していた。
これは「自衛のための必要最小限度」と呼ばれている。
━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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政府は、この範囲内の「武力の行使」であれば、9条には抵触しないと説明してきた。
この三要件(旧)の基準には、次の要素がある。
〇 「武力の行使」の発動要件 ← 「武力の行使」を行うことができるか否か
〇 「武力の行使」の程度・態様 ← 「武力の行使」を発動した場合における程度・態様
━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← 「武力の行使」の発動要件①
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと ← 「武力の行使」の発動要件②
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと ← 「武力の行使」の程度・態様
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この三要件(旧)の基準には、いくつかの意味が含まれている。
◇ 「我が国に対する急迫不正の侵害」が発生した場合において、それを「排除するため」に「他に適当な手段がない」という場合に初めて、「武力の行使」を発動することが許される。
◇ その発動した「武力の行使」を行う目的は、「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除する」という範囲に限られる。
◇ その発動した「武力の行使」の程度・態様は、「必要最小限度」の範囲にとどめられるべきである。
◇ 第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」を満たさない中で「武力の行使」が行われた場合、その「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
◇ 第二要件の「これを排除するために他に適当な手段がないこと」を満たさない中で、「他に適当な手段」があるにもかかわらず「武力の行使」を行った場合、その「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
◇ 「武力の行使」を発動した場合に、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」という目的を逸脱して実施された際には、9条に抵触して違憲てなる。
◇ 「武力の行使」を発動した場合に、第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」を満たさず、「武力の行使」の程度・態様が量的に過剰となった場合には、9条に抵触して違憲となる。
━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
① 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← (これを満たさなければ9条に抵触してしまう。)
② これを排除するために他の適当な手段がないこと ← (他の手段があれば9条に抵触してしまう。)
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと ← (とどまらなければ9条に抵触してしまう。)
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これらの要件を満たさない場合、
◇ 9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
◇ それを実施する組織についても9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
◇ その『権限』についても9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
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「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲であれば、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「戦争」「武力の行使」「武力による威嚇」に抵触しない。その範囲を超えると違憲となる。
━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← これを満たさなければ9条1項に抵触して違憲
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと ← 他の手段があれば9条1項に抵触して違憲
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと ← とどまらなければ9条1項に抵触して違憲
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9条2項前段 「陸海空軍その他の戦力」
人員や装備などの我が国が保持する実力の全体が「自衛のための必要最小限度 」という三要件(旧)を実行するためのものであれば「自衛のための必要最小限度の実力(自衛力)」として合憲であり、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触しない。その範囲を超えると違憲となる。
また、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」ための活動は、我が国国内での活動であるから、行政権の行使と見ることが可能である。軍事権限の行使と明確に区別することが可能と考えられるため、合憲と解する余地がある。
━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← これを満たさなければ「戦力」に抵触して違憲
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと ← 他の手段があれば「戦力」に抵触して違憲
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと ← とどまらなければ「戦力」に抵触して違憲
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
9条2項後段 「交戦権」
「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲であれば、「自衛行動権」として合憲であり、9条2項後段の禁じる「交戦権」には抵触しない。この範囲を超えると違憲となる。
━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← これを満たさなければ「交戦権」に抵触して違憲
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと ← 他の手段があれば「交戦権」に抵触して違憲
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと ← とどまらなければ「交戦権」に抵触して違憲
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<三要件(旧)の基準による統制>
三要件(旧)の基準には、二つの側面があると考えられる。
「武力の行使」の発動要件①②
〇 『性質』的な統制
「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)」したならば、それ以上は「武力の行使」を行ってはならないという制約である。
「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)」するという意図・目的の範囲を超えた「武力の行使」については違憲となる。
「武力の行使」の程度・態様
〇 『数量』的な統制
「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)」するという目的を達成するために行われる「武力の行使」の程度・態様を、「必要最小限度(第三要件)」の範囲ににとどめなければならないとする制約である。
「武力の行使」の程度・態様が『数量』的に過剰であったならば、「必要最小限度(第三要件)」を超えて違憲となる。
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三要件(旧)の評価
三要件(旧)は「武力の行使」を統制するための規範としての役割を有している。
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「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← 受動性・客観性・明確性のある要件
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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〔第一要件〕 我が国に対する急迫不正の侵害があること
この規範は、1972年(昭和47年)政府見解が結論において「わが憲法の下で武力行使を行なうことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られる」と示している部分と対応するものである。
〇 受動性
この規範は、我が国に対して行われた外国の行為を基準とするものである。
そのため、日本国の政府がこの要件に該当する事態を意図的に作出することはできない。
このことから、この要件に当てはまるか否かの判断おいて、我が国の政府の恣意性が入り込む余地がない。
よって、「受動性」を有していると考えらる。
〇 客観性
この規範は、他国が行った「侵害」(武力攻撃)についての具体的な事実の有無に基準を設定したものである。
つまり、「ある出来事があったかなかったか」という事実の有無を基準として、この要件に該当するか否かを判定するというものである。
これは、その出来事についての証拠を集めることで、事実認定を行うことが比較的容易であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において共通の認識を持ちやすいといえる。
また、他国の行った「侵害」(武力攻撃)についての証拠を揃えることで、事後的な検証も可能である。
事後的に、歴史的な検証がなされることが前提となるため、この要件を適用する者の恣意性を排除することにも役立つといえ、政府の判断の「合理性」を確保しやすい基準であると考えられる。
政府の恣意的な判断が入り込む余地がない。
〇 明確性
この規範は、ある出来事があったかなかったかに基準を設定するものであり、具体的な場合にこの要件を適用できるか否かを誰もが識別(判別)することができるということができ、「明確性」を有していると考えられる。
よって、政府の恣意的な判断が入り込むよちは少ないといえる。
上記のように、この要件は「受動性」、「客観性」、「明確性」の要素を備えているといえる。
そのため、政府が具体的な場合にこの要件を適用することができるか否かを認定する場面において、その基準を恣意的に緩めるようなことはできない。
このため、政府がこの要件を適用することができるか否かを自己の都合によって決することはできず、政府の恣意的な判断が入り込む余地は少ないといえる。
よって、政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを防ぐ(統制する)ことができると考えられる。
このことは、 9条が政府の恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする意図が生かされていると考えることができる。
つまり、9条が「自国民の利益」の実現や、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として、政府が自国都合の恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切ることを禁じようとした趣旨が生かされている。
9条が政府の行為を制約しようとするの趣旨を満たすと考えられ、解釈基準として合理的なものである。
法的安定性を認めることができる。
そのため、9条が政府の行為を制約しようとする意図を保つことができるということができる。
これにより、9条の制約の下でなお「武力の行使」を行うことができるとする余地を見出すとしても、その「武力の行使」の例外性を審査するにあたって、政府の行為を制約することのできる法的に明確な一線となる基準が存在すると考えることができる。
そのことから、この要件は、9条の規範性を損なうものであるとまではいうことができず、憲法解釈として妥当であり、正当化することができる範囲内であると考えることができる。
よって、この要件を満たす中において行われた「武力の行使」については、9条に抵触しないと見る余地がある。
つまり、憲法によって正当に授権された『権力・権限・権能』の範囲内の行為として合憲と解することができる。
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○高辻政府委員 あまり私が長く時間をとるのもどうかと思いますので、筋道だけを申し上げたいと思います。
大体憲法九条の考え方としては、これは何べんも申し上げていることで重ねて申し上げるのも申しわけないのですが、憲法九条の一項というのは、まさに国際紛争を武力で解決することはいけないということがきわめて明瞭にあらわれておるわけであります。したがって国際紛争があれば、それは平和的に解決しろ、国際裁判所にいくのもいいだろう、第三国の調停を得るのもよかろう、いずれにしても個人間の紛争について暴力を行使しないで、それぞれしかるべく筋を通して解決をするのがいいと同じように一それ以上かもしれませんが、国家間の紛争というものは平和的に解決しろ、これはもうきわめて一点の疑いもない憲法の規定であります。ただし、国際紛争を解決するというのではなくて、わが国が武力攻撃を受けて国民の安全と生存が保持できなくなった場合、その場合にもなおかつ身を滅ぼすべきかどうかというのがぎりぎり一ぱいの論点になると思います。そういう場合には、国民の安全と生存を維持するためにその必要の限度で防衛をするというのは、まさかに憲法の否認しているものとはいえまいというところから、自衛に必要な限度の武力組織、実力組織、それから行動の限界というものが問題になってくるわけで、この両点については、少なくとも政府一般がそうでありますけれども、私ども法制局としては、その限界を失えば、これは実は憲法の規定が根底からくつがえされることになるくらいに考えておりますから、その限界というものは非常にやかましくいうものであります。そうではありますけれども、この限界内におけるものは、いまいった本旨から許さるべきではないか。
(略)
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第65回国会 衆議院 内閣委員会 第20号 昭和46年5月7日
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憲法は、「国際紛争を解決する手段としての武力の行使」と「戦力の保持」を禁止している。つまり、時の政権の判断で、日本の国益を守るために武力を行使するという手段を、政府に与えていない(政府はそのような憲法上の権限を持たない。)のである。従来の政府解釈は、このことを前提にした上で、わが国が直接に武力攻撃を受けている場合に必要な反撃をすることまで、憲法が禁じていると考えることは不合理だという判断の上に成り立っている。
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関西学院大学法学部教授・長岡徹氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
この第一要件について、敢えて「存立危機事態」の要件に含まれた文言を用いるとすれば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態であるか否かを判断するために「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たすか否かを基準として設定していたということである。
この基準によって、政府が恣意的な動機に基づいて「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする9条の意図を生かすことが可能となり、9条の規範性が保たれていたということである。
もしこの受動性・客観性・明確性を有する基準を維持しなかったならば、結局9条によって政府の恣意的な動機に基づく自国都合の「武力の行使」を行う可能性を排除できていないこととなる。
それは、9条が存在する意味を損なうこととなり、9条の規範性を損なわせ、9条解釈として成り立たなくなる。
そのため、9条が存在する意味を損なわせることのない法解釈が可能なものは、政府は「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃)」が発生するまでは「武力の行使」を行うことができないとの基準(規範)を設けることである。
政府はこの第一要件の基準について、下記の答弁で「数量的な概念として申し上げているものではございません。」と答弁している。(事態の『数量』面を基準とするものではないと説明している。)
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○秋山政府特別補佐人
(略)
それから、御質問の後段の、憲法解釈において政府が示している、必要最小限度を超えるか超えないかというのは、いわば数量的な概念なので、それを超えるものであっても、我が国の防衛のために必要な場合にはそれを行使することというのも解釈の余地があり得るのではないかという御質問でございますが、憲法九条は、戦争、武力の行使などを放棄し、戦力の不保持及び交戦権の否認を定めていますが、政府は、同条は我が国が主権国として持つ自国防衛の権利までも否定する趣旨のものではなく、自衛のための必要最小限度の実力を保有し行使することは認めていると考えておるわけでございます。
その上で、憲法九条のもとで許される自衛のための必要最小限度の実力の行使につきまして、いわゆる三要件を申しております。我が国に対する武力攻撃が発生したこと、この場合にこれを排除するために他に適当な手段がないこと、それから、実力行使の程度が必要限度にとどまるべきことというふうに申し上げているわけでございます。
お尋ねの集団的自衛権と申しますのは、先ほど述べましたように、我が国に対する武力攻撃が発生していないにもかかわらず外国のために実力を行使するものでありまして、ただいま申し上げました自衛権行使の第一要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていないものでございます。
したがいまして、従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの第一要件を満たしていないという趣旨で申し上げているものでございまして、お尋ねのような意味で、数量的な概念として申し上げているものではございません。
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第159回国会 衆議院 予算委員会 第2号 平成16年1月26日 (下線・太字・色は筆者)
【参考】「政府の憲法解釈」阪田雅裕(有斐閣2013年)(P54~59の資料) PDF
(政府の憲法解釈 有斐閣)
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憲法第9条の下で,政府はこれまで,集団的自衛権の行使は許されないことを繰り返し表明してきた。すなわち,自衛権を発動するためには,①我が国に対する急迫不正の侵害があること,すなわち武力攻撃が発生したこと,②これを排除するために他の適当な手段がないこと,③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと,の3要件が必要であり,集団的自衛権の行使はこれを超えるもので,特に①の要件を満たさないので許されないとしてきた。
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安全保障法制改定法案に対する意見書 日本弁護士連合会 2015年6月18日 PDF (下線は筆者)
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この集団的自衛権は「自衛のための必要最小限度の範囲を超える」から許されないと理由づけたことにより、個別的自衛権と集団的自衛権の相違を量的なものにすぎないとの誤解が生じたため、「政府は近年、集団的自衛権の行使を違憲と解する理由について、我が国の武力行使が必要最小限度の範囲を超えるから、といった表現を避けて、我が国に対する武力攻撃が発生していないからと説明することが通例になっている」 14)
とされる。たとえば、秋山収内閣法制局長官は、自衛権発動の三要件を前提に、集団的自衛権は「自衛権行使の第一要件、すなわち、我が国に対する武力攻撃が発生したことを満たしていないものでございます。したがいまして、従来、集団的自衛権について、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものという説明をしている局面がございますが、それはこの第一要件を満たしていないという趣旨で申しあげている」と言う (2004年1月26日) 15) 。
このように、これまでの政府の自衛隊を正当化するための論理の核心は、我が国に対する武力攻撃の発生に限って実力行使を容認する(個別的自衛権)という点であり、その論理的帰結として集団的自衛権は行使できない、というものである。それゆえ、集団的自衛権の行使を容認するというのは、自衛隊を正当化する論理自体を捨て去ることになる。また従来の政府見解もいうように、この核心は程度問題ではないため、「必要最小限度」の集団的自衛権なるものは想定できないはずである16)
。
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安保関連法の違憲性と問題性 2016.03.14 (『本文・要約』をクリックすると見ることができる) (P34) (下線は筆者)
〔第二要件〕 これを排除するために他の適当な手段がないこと
この第二要件による統制は、いくつかの側面を見ることができる。
◇ 「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除するため(第二要件)」に「他の適当な手段(第二要件)」が存在するのであれば、その手段を採らなければならず、「武力の行使」を行ってはならない。
◇ 「武力の行使」を行う場合でも、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」という意図・目的の範囲に限られる。
◇ 「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)」した時点で、「武力の行使」を止めなければならない。
これにより、下記の事柄を防ぐものとなっている。
◇ 政府が「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除するため(第二要件)」に「他の適当な手段(第二要件)」があるにもかかわらず「武力の行使」を選択すること。
◇ 政府が「武力の行使」を発動したことをきっかけに、意図・目的を拡大させて「武力の行使」を続けること。
◇ 政府が「武力の行使」を発動したことをきっかけに、いつまでも「武力の行使」を行い続けること。
この第二要件は、「武力の行使」以外の選択肢が存在するにもかかわらず、政府が「武力の行使」を選択することや、政府が「武力の行使」を発動した場合に、それをきっかけとして「武力の行使」を行う意図・目的を拡大させたり、いつまでも「武力の行使」を行い続けることを防止するものである。
これは、もしこれを行った場合には「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」となり、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となるからである。
また、政府が「武力の行使」を発動したことをきっかけとして、そのまま戦闘に勝利して相手国の領土を制圧しようとするなど、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となることを防止するものでもある。
〔第三要件〕 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
第三要件は、発動した「武力の行使」の程度・態様を統制するものである。
この第三要件は、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除するため(第二要件)」の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと(第三要件)」の意味である。
言い換えれば、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除する(第二要件)」という目的を達成するための「武力の行使」は、「必要最小限度(第三要件)」の手段・方法を採用しなければならないということである。
この「必要最小限度(第三要件)」の意味は、「武力の行使」の程度・態様をより小さい範囲にとどめようとする規制である。
これは、政府が「武力の行使」を行う際に、不必要に過大な手段・方法を採用し、「武力の行使」の程度・態様が拡大することを防ぐものである。
「武力の行使」の程度・態様が「必要最小限度(第三要件)」の範囲にとどまるべき必要があるのは、それを超える場合には9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触することは当然、それを実施する組織は9条2項の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触し、それを実施する『権限』も9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となるからである。
もしこの「必要最小限度(第三要件)」を超えた場合には、その「武力の行使」は9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触し、それを実施するための組織が9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触し、それを実施する『権限』が9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触し、結果として違憲となる。
この考え方に基づき、従来より政府は三要件(旧)の基準を満たす場合においてしか「武力の行使」を行うことは許されないとしていた。
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ア しかし、この集団的自衛権の行使の容認は、いかに「自衛のための措置」と説明されようとも、政府の憲法解釈として定着し、現実的規範となってきた憲法9条の解釈の核心部分、すなわち、自衛権の発動は日本に対する直接の武力攻撃が発生した場合にのみ、これを日本の領域から排除するための必要最小限度の実力の行使に限って許されるとの解釈を真っ向から否定するものである。……(略)……
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安保法制違憲訴訟 大分では2017年1月10日提訴 2017年1月10日 (下線は筆者)
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個別的自衛権の場合は、武力行使の要件である「必要最小限度の実力行使」の定義は明瞭です。日本を侵略している他国の軍隊を日本の領土、領海、領空の外に排除する―、そのために必要な最小限度と定義できます。
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これで語ろう 敵基地攻撃能力と大軍拡 「戦争国家」づくりそのもの 2023年3月26日 (下線は筆者)
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政府の恣意的な判断が入る余地のないことが求められる
理由:政府の恣意的な判断が入り込む余地があれば、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」となってしまうから。
要件の検討
✕ 「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」をすることができる ← 満たさない
✕ 「他国に対する武力攻撃が発生したこと」 ← 満たさない
✕ 「自存自衛」 ← 満たさない
✕ 「自国の存立」の危機 ← 満たさない
✕ 「国民の権利」の危機 ← 満たさない
〇 「我が国に対する急迫不正の侵害があること」(旧三要件の第一要件) ← 満たす
〇 「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」 ← 満たす
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「武力の行使」以外の手段によっては侵害を排除できないことが求められる
理由:他の手段を取り得るにもかかわらず「武力の行使」を行うのであれば、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」となってしまうから。
要件の検討
✕ 「国際紛争を解決する手段として経済的であると認められること」
✕ 「国際関係から考えて必要性があると認められること」
〇 「これを排除するために他の適当な手段がないこと」(旧三要件の第二要件)
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
「武力の行使」の程度・態様が必要以上でないことが求められる
理由:必要以上の「武力の行使」を行うのであれば、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」となってしまうから。
要件の検討
✕ 「制約なし」
✕ 「攻撃国に武装解除を迫る上で必要な範囲」
✕ 「攻撃国の占領を完遂するまで」 ← 9条2項後段の「交戦権」にも抵触する
✕ 「相当程度の賠償金を得られるまで」 ← 9条2項後段の「交戦権」にも抵触する
〇 「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」
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━━━━━【自衛のための必要最小限度】━━━━━
「武力の行使」の旧三要件
① 我が国に対する急迫不正の侵害があること ← (発動要件が緩和されたら9条に抵触してしまう。)
② これを排除するために他の適当な手段がないこと ← (他の手段があれば9条に抵触してしまう。)
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと ← (とどまらなければ9条に抵触してしまう。)
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▽ 2014年7月1日閣議決定「後」
新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」
2014年7月1日閣議決定によって新三要件が定められた。
(太字が『存立危機事態』の要件)
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「武力の行使」の新三要件
〇 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
〇 これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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この第一要件の後段は、国際法上の評価でいう「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」を行う場合の要件であり、後に「存立危機事態」と呼ばれることになるものである。
2014年7月1日閣議決定の後、国会で新安保法制が制定された。
その中で、自衛隊法76条1項2号で「存立危機事態」の要件が加えられ、同88条と共に「存立危機事態」での「武力の行使」が可能となった。
自衛隊法
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第六章 自衛隊の行動
(防衛出動)
第76条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
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第七章 自衛隊の権限
(防衛出動時の武力行使)
第88条 第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。
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「存立危機事態」の定義は、事態対処法2条4号に記載されている。
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
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四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。
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2014年7月1日閣議決定以降の政府の立場としては、「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行った場合、当然、その「武力の行使」は9条に抵触することはなく、合憲のものであるという前提の下に立法したことになっている。
つまり、下記を前提としていることになる。
◇ 「存立危機事態」の要件に該当しない中で「武力の行使」を行った場合には、その「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
◇ 「存立危機事態」の要件に該当すると認定した中で「武力の行使」を行った場合には、9条に抵触することはなく、その「武力の行使」は合憲である。
しかし、政府が説明している通りに、「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行うことが9条に抵触しないといえるのかを詳細に検討する必要がある。
◇ 9条には法的効果がある
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◇ 9条の規範性を保つことが求められる
↓ ↓ ↓
◇ 9条の規範性を保つことのできる基準が必要となる
↓ ↓ ↓
◇ 9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約する趣旨を満たすことが必要
↓ ↓ ↓
◇ 政府の恣意性を排除することのできる「受動性」「客観性」「明確性」の要素を満たすことが必要
↓ ↓ ↓
◇ 「存立危機事態」の要件は曖昧不明確であり、これらの要素を満たしていない
↓ ↓ ↓
◇ 9条の規範性を保つための基準となるものを有していない
↓ ↓ ↓
◇ 9条の規範性が損なわれている
↓ ↓ ↓
◇ 9条に抵触して違憲となる
9条の規範性を保つための基準を通過していないこと(作成中)
まず、「存立危機事態」の要件の各部分について、9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約するしようとする趣旨を満たすものとなっているか、つまり、9条の規範性を保つための基準となるものが存在するかを検討する。
また、「存立危機事態」の各部分を満たした場合に、9条の規範性を保つための基準となるものを通過したと見なすことができるか否かを検討する。
次に、「存立危機事態」の要件の全体が9条の趣旨を満たすものとなっているか、つまり、9条の規範性を維持することのできるものとなっているかを検討する。
また、「存立危機事態」の要件を満たした場合に9条の規範性を保つための基準となるものを通過したと見なすことができるか否かを検討する。
〇 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」
◇ 意図・目的
「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ「我が国に対する武力攻撃」は発生していない。
これは、日本国と全く関係のない他国同士の間で生じている国際紛争によって引き起こされた出来事であることも考えられ、我が国に対して何らの影響も生じていない場合も含まれる。
そのため、「他国に対する武力攻撃」が発生しただけで日本国が「武力の行使」を行うことができることとなれば、我が国に対して何らの影響も及んでいない場合においても、日本国の政府が「武力の行使」を行うことを許すことになる。
これでは、9条が「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を制約しようとした趣旨を満たすものとは言えない。
これに基づいて「武力の行使」をすることは、「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」の意図・目的が排除されていないことから、9条1項に抵触して違憲となる。
◇ 「受動性」「客観性」「明確性」の要素
「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由として「武力の行使」を行うことができるとすることは、9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たすとはいえず、9条の規範性を維持することはできない。
そのため、「他国に対する武力攻撃」が発生したという段階で「武力の行使」を行うことは、9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
また、9条1項の禁じる「武力の行使」を実施する実力組織については、9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
さらに、その「武力の行使」を実施する『権力・権限・権能』は、9条2項後段の「交戦権」に抵触して違憲となる。
これは、その武力攻撃を受けた他国がたとえ「我が国と密接な関係にある他国」であるとしても同様である。
「我が国と密接な関係にある他国」のように「密接な関係」であることを強調したところで、この「我が国と密接な関係にある他国」であるか否かの判断は、政府の自由裁量によって判断できるものとなっており、結局、その「他国」の範囲を画することができないからである。
そのため、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たすとしても、それだけで「武力の行使」を行った場合には、下記のようになる。
◇ 他国同士の間で発生した武力紛争に対して武力介入することになることから、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
◇ 「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」となることから、『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」を行うこととなる。これを実施するための実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
◇ 「他国に対する武力攻撃」に起因しながらも、『自国防衛』を称して「武力の行使」を行うのであれば、自国都合の「武力の行使」であり、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段の「交戦権」に抵触して違憲となる。また、それを実施する実力組織の実態も、9条2項後段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
このことから、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たす場合が生じたとしても、未だ9条の制約の趣旨を満たし、9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならない。(通過したと見なすことができるわけではない。)
よって、この部分に9条の規範性を保つための基準となるものが存在すると考えることはできない。
これにより、この「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たすことだけを理由として「武力の行使」を行った場合には、9条に抵触して違憲となる。
実は立法者である政府自身も、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分だけでは「大変広過ぎる」と述べており、これを認めている。
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○横畠政府特別補佐人 個別的自衛権の前提となります我が国に対する武力攻撃が発生した場合、それは言わずもがな、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態に対処する場合であるということで、これまでもそこのところは書いていなかったわけでございます。
今回は、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使ということでございますので、単に国際法上の要件となっています自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したことというだけでは大変広過ぎるということでございまして、昭和四十七年見解の基本論理に適合する範囲に限定するというために、このたびの新三要件におきましては、他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合という形に限定したものでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第10号 平成27年6月15日
(この答弁は、1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分に新三要件の「存立危機事態」の要件が当てはまるかのように説明しているが、論理的に当てはまらないため誤りである。)
これにより、日本国は「他国に対する武力攻撃」に起因する形で「武力の行使」を行うことはできない。
よって、憲法解釈において、9条の有する制約の趣旨が生かされ、9条が政府の行為を制約しようとする趣旨を満たし、9条の規範性が保たれていることを示すための基準となるものが「他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分にあると考えることはできない。
そのような考えは、9条解釈として成り立たない。
「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ日本国の政府は「武力の行使」を行ってはならないのであり、当然、日本国の政府が「武力の行使」を行うか否かについての自由裁量の余地が生まれることにはならず、「武力の行使」を行うか否かについて政策判断(政治判断)として決することができるというものではない。
このことから、「存立危機事態」の要件は、9条に抵触する「武力の行使」と、9条に抵触しない「武力の行使」を区別する基準となるものを、実質的には「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を満たすか否かによって決することを意図して作られていると考えられる。
〇 「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」
◇ 意図・目的
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という意図・目的をもって「武力の行使」を行うことは、侵略の意図・目的が排除されていないことから、9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
◇ 「受動性」「客観性」「明確性」の要素
・受動性
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、自国の状態について説明するものであって、外国が我が国に対して行っている具体的な行為を示すものではないことから、「受動性」を満たすとはいえない。
・客観性
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、具体的にどのような状態であるのか明確な指標が存在しておらず、誰であっても事実認定が同じになるというような「客観性」を満たすとはいえない。
・明確性
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、具体的場合にこれを適用できるか否かを識別するための基準を示すものがなく、「明確性」を満たすものではない。
具体的にどのような状態を指しているのか曖昧不明確な内容であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にこれ(その条文)を適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。
これは、具体的にどのような場合(状態)であればこれに該当するといえるのかを判定することができるような明確な一線となるものを有しておらず、この部分に該当するか否かを法的な理解に基づいて判断することができない。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」というだけでは、未だ「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを排除できていないことになる。
つまり、9条が政府の自国都合による「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たす規範となるものを有していない。
・この部分には、9条の制約の趣旨を満たし、9条の規範性を保つための基準となるものは存在しない。
・この部分には、9条の規範性を保つための基準となるものを通過することを示すような要素は存在しない。
・これを満たすというだけでは、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過したと通過したことにはならない。 (見なすことができるわけではない。)
よって、この部分は9条の規範性を維持するための要素を満たすものではなく、これに基づいて「武力の行使」を行うことは、9条に抵触して違憲となる。
もしこのような基準に基づいて「武力の行使」を発動することができるとするのであれば、結局、「武力の行使」が可能であるか否かの基準そのものが、政府がその事態(自国の状態)をどのように認定するかという価値判断に委ねられることになる。
これに該当するか否かの判断は、それを認定する政府の主観的な判断に託すものとなる。
そうなれば当然、政府が「自国民の利益」を実現することや、その時々の政治的な都合、国際関係における他国からの圧力などを勘案することによって、これに該当すると認定し、「武力の行使」に踏み切ったのか、そうでないのかを客観的に識別するための基準となるものがないことを意味する。
つまり、政府の自国都合の動機によって「武力の行使」に踏み切ることが排除されていないこととなる。
もし「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を満たすことだけを理由として「武力の行使」を行ったならば、9条に抵触して違憲である。
実は立法者である政府自身も、立法者である政府自身も、下記のように述べており、これを認めている答弁がある。
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○横畠政府特別補佐人 お示しの図のとおり、個別的自衛権の、着手というか、我が国に対する武力攻撃の発生という上の線を超えたときには個別的自衛権で対処するということで、論理的には、存立危機事態というのはそれよりも下のところに線が引かれるというのは御指摘のとおりでございます。
また、それぞれ、その認定の幅というものがあって、余り細い線では引けないということもあろうかと思います。
ただ、その前提といたしまして、我が国に対する、先ほどのパネルかもしれませんけれども、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態というもの、それ自体を要件として、それ自体を要件として我が国の武力行使の可否というものを決めていく、仮にそういうことといたしますと、非常に不安定というか、まさに我が国の判断で、我が国の思いだけで武力の行使に及んでしまうというおそれというものがむしろ大きくなるのではないか。
むしろ、国際法上の縛りというのがきっちりありますので、やはり、我が国に対する武力攻撃が発生した場合の個別的自衛権の要件というものがあり、それを満たすときには個別的自衛権で行います。
それから、集団的自衛権の行使の場合には、被害国の要請、同意みたいなものも要件とされていますので、そういうものも当然加えた上で、集団的自衛権を満たす場合という国際法上の縛りもしっかり踏まえた上での、かつ、憲法上の縛りでありますところの我が国自衛というか、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという明白な危険がある、それもやはり要件として加えた場合に限って武力の行使ができる、そういうことの方が規範性が高いというか、不用意な武力の行使に及ぶ危険性が低い制度ではないかと思います。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第15号 平成27年6月29日
【動画】横畠裕介vs「何も説明されてない」長妻昭6/29 2015/06
(31:21)
「存立危機事態ですね、これは非常にその、武力攻撃そのものではなくて、どういう場合に生命、自由、幸福追求の権利が侵害される危険が生じたかというのが、分かりにくいと。例えば、ホルムズ海峡で機雷が敷設されたということが、存立危機事態になるのか。そうだという人と、そうでないという人がいると。同じ政府答弁の中でも、未知だと。従ってその、武力行使、具体的な日本の国土、領海に対する武力行使という物理的な事実による基準ではなくて、社会的な価値基準によって認定されるということになる、その存立危機事態というのは、非常にあの、判断自体が不確実であるし、結果発生も不確実だと。」
【動画】[zoom29] 安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XIV 2022/12/03
〇 「これにより」
上記の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分と、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「これにより」という文言で繋いだとしても(繋ぎ合わせたとしても)、もともとどちらの部分も9条の規範性を保つための基準となるものを有しておらず、9条の制約を通過していないのであるから、これらを「これにより」の文言で繋いだところで、やはり9条の規範性を保つための基準となるもの有したことにはならず、9条の制約を通過したことにはならない。
もしこのような9条の規範性を保つための基準となるものを有しない事態を繋ぎ合わせることによって9条の規範性を保つための基準となるものを有することになるのであれば、「武力の行使」の発動要件の中に9条の規範性を保つための基準となるものを有しない様々な事態を組み込むことで、9条の規範性を保つための基準となるもの有する9条の制約を通過するものに変わると主張することが可能となってしまう。
例えば、「9条の規範性を保つための基準となるものを有しない様々な事態」としては、下記が考えられる。
・他国に対する武力攻撃
・その後72時間経過
・別の他国に対する武力攻撃
・他国からの参戦要求
・三か国以上の支持
これらを繋ぎ合わせたとしても、「9条の規範性を保つための基準となるもの」を有する要件に変わるわけではない。
それにより、両者を「これにより」の文言で繋いだとしても、この要件は9条の制約を通過する規範に変わるわけではない。
結論
「存立危機事態」の要件は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した時点で、政府が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を満たすか否かを判断するものとなっている。
しかし、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した段階では、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過しているわけではない。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分についても、9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする趣旨の規定であることから、これだけでは政府の恣意性を排除する基準となるものを有しておらず、9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならない。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分にも、9条の規範性を保つための基準となるものを使うするための要素はない。
これら、9条の規範性を保つための基準となるものを有しない「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」と「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「これにより」の文言で繋いだとしても、その要件が9条の規範性を保つための基準となるもの持つものに変わるわけではない。
「存立危機事態」の要件は、9条解釈において求められる9条の規範性が保たれていることを示す基準となるものを有していない。
また、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、具体的にどのような状態を指しているのか曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において、これを適用できる場合とできない場合を識別するための基準を示すところがない。
そのため、これを満たすか否かを判断するとしても、政府がこれを「満たす」と言えば満たし、「満たさない」と言えば「満たさない」こととなってしまう。
これでは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した時点で、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過していないにもかかわらず、実質的には政府の裁量判断によって「武力の行使」を行うことができてしまうこととなる。
このような要件に基づいて「武力の行使」を行うことができるであれば、9条が存在し、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過していないにもかかわらず、その「武力の行使」を法律論としての「合法・違法」の問題として法的な審査に服させるのではなく、政治的な判断としての「当・不当」(当否)の問題として扱おうとするものということになる。
そうなると、政府の恣意性を排除することのできる基準となるものを有していないことから、「武力の行使」が行われた場合に、政府の判断に恣意性があったかなかったかを客観的に識別することができない。
これは、9条の法規範として政府の行為を制約しようとしている趣旨を満たしていないことを意味する。
また、9条の規範性を保つための基準となるものを有しておらず、9条の規範性を損なうものということができる。
政府が「自国民の利益」を追及したり、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを排除するための基準となるものが存在しないということができる。
よって、このような要件に基づいて「武力の行使」を発動できるとすることは、9条を規範性を有した法規範として意味を為さないものとしてしまい、9条が存在する意義を失わせるものとなる。
これにより、この要件に基づいて「武力の行使」を行った場合に、9条に抵触することを回避することができるとする根拠は存在しない。
よって、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ9条の規範性を通過した(規範性が緩められた)と考えることができないし、そんな中で「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由に「武力の行使」ができるとするのであれば、それは結局、9条の規範性を通過していない何らかの事態が生じているというだけの中で、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由に「武力の行使」に踏み切ることを可能としようとしているだけである。
そのため、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない中で「武力の行使」を行うものであることから、9条に抵触して違憲となる。
■ 「存立危機事態」の要件の全体
「存立危機事態」の要件を全体として見ても、基準が明確でなく、曖昧不明確な内容となっている。
これでは、実質的に9条に抵触する「武力の行使」であるか否かを識別するための基準となるものは存在しないことを意味する。
具体的に政府が「武力の行使」を行うことができる場合とできない場合とを識別するための明確な基準となるものは存在しないこととなる。
どの段階で政府が「武力の行使」を行うことが可能となるかを識別できないということである。
■ 明確な基準がなく歯止めがない(政府の恣意性を制約する基準を示すところがない)
・「武力の行使」が極めて限定された範囲に留まることを示すための明確な基準となるものが存在していない。
・「武力の行使」の限度を画することのできる明確な基準となるものが設定されていない。
・「武力の行使」の限界を画する(限界づける)ことができていない。
そのため、政府の恣意的な行為となることを防ぐための歯止めとなる基準が存在するとはいえない。
これにより、9条に抵触しない範囲の「武力の行使」であることを示すための明確な基準となるものを有しておらず、「武力の行使」が9条に抵触しないことを示すことができていないこととなる。
このような要件を設定することは、9条が有する政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを制約しようとする趣旨を満たす形であるとはいえず、9条の規定が存在する意義そのものを喪失させることとなるから、9条の規範性を損なっていることになる。
よって、「存立危機事態」の要件は、9条の規範性を損なうものとして、9条に抵触して違憲となる。
同時に、「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行った場合についても、9条に抵触して違憲となる。
「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、そのことが必然的に我が国に対して影響を及ぼすというわけではない。
これは、たとえその「他国」の範囲を「我が国と密接な関係にある他国」に限定した場合でも、結論は変わらない。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、そのことが必然的に我が国に対して影響を及ぼすというわけではない。
よって、「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分には、9条の規範性を保つための基準となるものは存在していない。(9条の規範性を保つための基準となるものを通過する要素がもともと存在していない。)
「他国に対する武力攻撃」(我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃)が発生したことによって、日本国と何らかの関係がある場合や、日本国に何らかの影響が感じられる場合、日本国に対する何らかの影響がある場合があったとしても、前文の「平和主義」の理念に裏付けられた9条が、それによって直ちに日本国の統治権の『権限』による「武力の行使」を行うことを許容しているとは考えられない。
よって、これらの両部分には、9条が政府の行為を制約しようとする趣旨を満たすものではない。
そのため、これらの部分に該当することを理由として「武力の行使」を行うことは、9条に抵触して違憲となる。
それにもかかわらず、「存立危機事態」の要件は、「他国に対する武力攻撃」が発生した時点で9条の規範性を保つための基準となるものを通過したと見なすか、あるいは、9条の規範性が緩められたと考えて、その後は、自国の状態である「これにより」と「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を満たすか否かを政府が主観的に判断し、満たすと認定した場合には「武力の行使」を発動できるとするものとなっている。
文言の分析
「存立危機事態」の要件を、いくつかのパーツに分解し、内容を詳しく分析する。
我が国と密接な関係にある他国
具体的にどの国のことを指しているのか特定されておらず、これに該当する国と該当しない国を判定するための明確な基準となるものは存在していない。
これに該当するか否かは、曖昧で不明確な内容となっており、過度の広範性を有している。
そのため、これに該当する国であるか否かは、政府の裁量となっており、その時々の政治的な判断によって決することが前提となっている。
そうなると、ある特定の国について、政府がこれに「該当する」と言えば該当し、「該当しない」と言えば該当しないとすることができてしまうことから、その時々の国際情勢や国際関係、国内の政治的な都合によって「我が国と密接な関係にある他国」に該当する国を自由裁量で認定できることとなる。
その時々の政治判断によって「我が国と密接な関係にある他国」に該当するの範囲を拡大させることができるということは、結局いずれの国に対するものであったとしても、世界のどこかで武力攻撃が発生したならば、その時点でその武力攻撃を受けた国を「我が国と密接な関係にある他国」と認定するだけで「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に該当させることが可能ということである。
これは、「我が国と密接な関係にある他国」の要件に該当するか否かの判断を行政権に対して白紙委任したことを意味し、実質的に適用範囲を政治判断によって自在に変更することができてしまう点で、その範囲は無限定であり、制限的な意味は乏しい。
この部分に政府の行為を制約する趣旨が含まれているとは考えることができない。
(どの国のことを指しているのか特定されているとしても、それをもって合憲となるわけではないことに注意。)
このような文言は、あまりにも広範であり、過度の広範性ゆえに、法律の内容の実体の適性が確保されておらず、31条の「適正手続きの保障」の趣旨から違憲となると考えられる。
【参考】密接な関係にある他国について 平成27年7月1日 (P20)
【参考】専修大学法科大学院教授・石村修氏 憲法学者アンケート調査
【参考】台湾は集団的自衛権の対象になるのか~政府の答弁書について~ 2015年07月22日
【参考】【重要解説】誰でもなれる「我が国と密接な関係にある他国」 PDF
(【重要解説】誰でもなれる「我が国と密接な関係にある他国」 PDF)
【動画】UPLAN 安保法制違憲訴訟 東京差止め控訴審 第4回口頭弁論&報告集会 2022/05/20
政府も下記のように述べている。
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Q:関連で、新三要件のこの密接な関係のある他国、これをどのように定義しているのかについてお願いします。
A:いかなる国が、存立危機事態の定義にいう我が国と密接な関係にある他国に該当するかについてはですね、個別具体的な状況に即して判断されるものであって、一概にお答えすることは困難であります。
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防衛大臣記者会見 防衛省・自衛隊 令和5年9月8日
イギリス、オーストラリア…日本の「準同盟国」は集団的自衛権の対象? 安保法成立8年で高まるリスクは 2023年9月20日
⇒ 政治判断
他国に対する武力攻撃が発生
ある出来事が「他国に対する武力攻撃が発生」に該当するか否か、特に「武力攻撃」であるか否かの判断は、外国(第三国)の行った「他国」に対する行為を、その「他国」が独自の判断として認定するものである。
なぜならば、その外国(第三国)が行った「武力攻撃」に見える出来事が発生したとしても、その「他国」が「同意」している場合など、「武力攻撃」に該当しない場合もあり得るからである。
このことから、この部分の「武力攻撃」に該当するか否かについては、その「他国」の判断に頼ることになる。
「存立危機事態」は、日本国の憲法によって正当化される日本国の統治権の『権限』の発動の可否を判断するための基準として設けられた要件であるにもかかわらず、実質的にはその「他国に対する武力攻撃」の部分に該当するか否かの判断は、日本国の政府が主体的(独自)に判断して認定することができないのである。
しかし、その「他国」が独自の判断として「武力攻撃」であると判断したとしても、その認定を理由として、日本国政府が「存立危機事態」の要件の「他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に該当すると認定することは妥当であるだろうか。
また、それができるとしても、このような「他国」で発生した出来事を日本国の政府が認定するという行為自体が、自国の憲法上で日本国の統治権の『権限』に対して制約を課している9条の有する規範性を通過するか否かを判定するための判断基準の一つとして用いることに因果関係があるのか、また、判断基準の一つとして扱うことが相応しいものであるだろうか。
もし国際法上の違法性阻却事由である「集団的自衛権」を得るために必要となる『他国からの要請』を得られたことを理由に「他国に対する武力攻撃」の部分を満たすと考えるのであれば、それは『他国防衛』のための「武力の行使」を発動するものに他ならない。
その『他国防衛』のための「武力の行使」を実施する実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」ではないものと説明することはできず、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
また、他国同士の間で発生した武力紛争に対して武力介入するものであるから、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
もう一つ、もし、他国の認定や『要請』にかかわらず、日本国が独自に「他国に対する武力攻撃」の部分に該当するか否かを認定することができるとしても、「他国に対する武力攻撃」が発生しただけでは、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過したと考えることはできない。
「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、それだけでは単に他国同士の間で「武力紛争」が生じているだけである。
そのため、「他国に対する武力攻撃」が発生したことをもって、既に9条の規範性を保つための基準となるものを通過した(あるいは規範性が緩められた)と考えることはできない。
もしこの段階で政府が「武力の行使」に踏み切ったならば、未だ9条の規範性を保つための基準となるもの通過したと見なすことができない中で「武力の行使」を行ったことになるから、9条に抵触して違憲となる。
具体的には、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を行う組織の実態についても、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
「他国に対する武力攻撃が発生」の部分に該当するか否かは、ある出来事があったかなかったかという事態の『性質』面を判断するものであり、事態の『数量』的な判断によるものではない。しかし、それは他国の出来事である。
⇒ [事態の性質](客観的事実による基準。しかし、他国のことである。)
これにより
具体的に相当因果関係が認められるか否かについては、政府の裁量になっており、その時々の政治的な判断によって決するものとなっている。このような内容は明確な基準となるものがなく、曖昧である。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことと、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」との間には、切り離すことのできない直接的な因果関係が存在するわけではない。
なぜならば、「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、13条の「国民の権利」の適用が及ぶ我が国の領域に対する侵害とは直接的に関係がないからである。
「他国に対する武力攻撃」が発生しただけで「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」の危機を理由として「武力の行使」を発動できるとすることは、実質的には自国都合によって「武力の行使」を行うことを可能とすることになる。
このことは、9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たしておらず、9条に抵触して違憲となる。
⇒ 因果関係は政治判断
我が国の存立が脅かされ
この部分は具体的にどのような状態を指しているのか意味を読み取ることができず、明確な基準となるものがなく、曖昧である。(一体どのような状態を指しているのか分からない。)
もしこれが通用することとなれば、これに該当するか否かという判断そのものを、政府の自由裁量の判断に委ねることとなるから、その時々の政治的な判断によって決するということになる。
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「我が国の存立が脅かされた場合」という言葉は、きわめて抽象的で、何が「存立事態」に当たるのかが、この言葉からは全くわからない。法律の文言が抽象的だという場合、それを誰が判断し決定するのかという問題と結びついてくるが、その判断者は政府ということになるので、内閣が「存立が脅かされた」と判断した場合に、無限定に集団的自衛権を行使してもよいということになる。
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専修大学法学部教授・内藤光博氏 憲法学者アンケート調査
【参考】検証『検証・安保法案』(3)―青井未帆「『日本の平和と安全』に関する法制を中心に」 2015-09-04
⇒ 曖昧不明確・漠然不明確・意味不明確:政治判断 [事態の数量]
国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される
この部分は具体的にどのような状態を指しているのか意味を読み取ることができず、明確な基準となるものがなく、曖昧である。(一体どのような状態を指しているのか分からない。)
もしこれが通用することとなれば、これに該当するか否かという判断そのものを、政府の自由裁量の判断に委ねることとなるから、その時々の政治的な判断によって決するということになる。
「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」という文言自体は、13条の「国民の権利」の趣旨そのものには該当する。
しかし、9条の下では、13条の「国民の権利」の実現を目的とするだけで「武力の行使」を正当化することができるわけではない。
なぜならば、13条の「国民の権利」を根拠とするだけで9条の制約を無視することができることになれば、政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ったり、無制限の「侵略戦争」を始めて「自国民の利益」を追求し始める道を開くことが可能となってしまうからである。13条の「国民の権利」が存在することを理由として、あたかも9条が存在しない場合と同じ結論に至ることが可能となるわけではないのである。
そのため、たとえ解釈の過程で13条の「国民の権利」の趣旨を読み解き、それを根拠として「武力の行使」を発動できる場合を見出すとしても、9条の規定が存在する以上は、9条の趣旨を満たす形で解釈しなければならず、9条が政府の行為を制約しようとする趣旨を損なわせる形となってはならない。
よって、9条の下では「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」を根拠とするだけで「武力の行使」を発動できるということにはならない。
そのことから、「存立危機事態」の要件の中に「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」の文言があるとしても、それだけを理由として「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を9条に抵触しないと説明することができることにはならない。
また、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」の文言があるとしても、この文言が存在しているだけでは具体的にどのような状況を指しているのか特定することができる要素となるものはなく、「武力の行使」の例外性を法規範として限界づけ、範囲を画することはできない。
そのため、「武力の行使」が9条に抵触しないことを示すための基準となるものは存在しない。
これにより、このような要件に従って「武力の行使」を発動できるとすることは、9条が「武力の行使」が発動される場合をより少ない範囲に留めようとしている趣旨を満たすものとは言えない。
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武力行使の新たな要件である「存立危機事態」は、我が国の領域への侵攻や攻撃といったような人身的、物理的な損害が発生するような事態のみならず、幸福追求権への危険性をも含めた概念となっている。具体的に何が幸福追求権に含まれるのかは、最高裁はおろか政府もこれまでその全容を明らかにしたことはない。「存立危機事態」という名称自体誤動的であり、「幸福危機事態」等の名称変更が必要であろう。
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神戸大学准教授・木下昌彦氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
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質問3については、今回の安保法制に盛り込まれた武力行使の新要件は、国民にとって有効な限定とはいえません。それは、存立危機事態や重要影響事態を認定する要件の中に「幸福追求権」が含まれ、その実質的内容の説明の中に経済的利益が含まれているからです。
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「幸福追求権」は、「幸福」の内容は各自さまざまであって、国家によって統制されない、ということを本質とする個人の権利ですから、国家が国民全体の「幸福」を一方的に想定して、これを武力行使や軍事支援の理由とすることは、論理として容認されないと考えています。さらに「幸福追求権」というものは、憲法上「包括的基本権」という性質を持ち、解釈によって新たな権利を生み出す基盤とされている権利なので、これを根拠にするということは、政府が「国民の権利を守るため」という名目を解釈によって創作することができる、ということにつながります。これでは限定の要をなしません。したがって、今回の法案は、憲法上容認されうる限定をおこなっていないと考えます。
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武蔵野美術大学造形学部教授・志田陽子氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
【参考】日本大学法学部教授・玉蟲由樹氏 憲法学者アンケート調査
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法案の正当性を裏付けるものとして憲法13条が援用されることにも違和感を覚えます。憲法13条はむしろ、国民が安保法制によって負担を強いられることへの保障として機能するものだからです。憲法の人権規定は国家権力の過剰な行使に対する歯止めであるという立憲主義の本質をふまえれば、国家の存立の直接の根拠として、個人の人権を保障するための規定が何の媒介もなく用いられるのは疑問です。
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北海学園大学法学部教授・館田晶子氏 憲法学者アンケート調査
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政府案は,憲法13条を根拠にして,国民の生命の保護の必要性から「集団的自衛権」を導いたが,13条は,まず「個人の尊重」が保護利益としてある。個人の尊重と戦闘行為は本質的に結び付くものではないが,ここで13条を個人の「平和的生存」ではなく,国家の戦闘行為に結び付けるセンスの無さに驚くばかりであり,13条の原意を外す「政治的解釈」が展開されたと考えざるをえない。
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政府の憲法解釈 専修大学リポジトリ (P149)
憲法学者「青井未帆」の講演から、9条は国民の利益のために政府が「武力の行使」に踏み切ることを禁じる規定として解釈する必要があり、13条の拡大解釈を許すことはできず、9条の規定としての規範性の基準を保つ必要があることについて検討する。
【動画】青井美帆講演 くまもと九条の会(あだち安人) 2015/12/05 (1:10:12頃より)
【参考】(a)
「生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」の答弁・説明拒否 PDF
【動画】小西ひろゆきメンバーシップ配信00 2024年9月3日
⇒ 曖昧不明確・漠然不明確・意味不明確:政治判断 [事態の数量]
明白な危険がある
「危険」とは、害悪が発生する可能性を意味する言葉である。
この「危険」という言葉に対して「明白」という文言を付け加えたとしても、結局は「可能性が明白」という意味でしかないものである。
つまり、害悪が発生することが「明白」であるというわけではなく、害悪が発生する「可能性が明白」ということである。
しかし、「可能性が明白」に該当するか否かということでは、結局は条文を適用する者の主観的な感覚に基づくことになるのであって、実質的には条文を適用する者がどう感じるかに委ねるものとなるのであり、曖昧である。
このような内容は、客観的な基準となるものは何ら存在しておらず、何らかの限定性を示すものではない。
このような文言では、適用する者の主観的な判断にならざるを得ないのであって、政治的な都合によって「武力の行使」が行われてしまうことを排除することができない。
むしろ政治判断としての主観的な感覚によって「武力の行使」を可能とすることを示す文言となっており、9条の規範性を損なうものである。
このような要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
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しかし、(1)①(a)で論じたようにこの「明白な危険」は個別的自衛権の場合ですら武力行使が認められていない状況であり、その時点で集団的自衛権として武力行使を可能とすることは、結局は「実質的な条件のない明確性に欠ける基準」と言わざるを得ず、そうした基準のもとでは「明白な危険がある」とする政府の主張に対し、国民・国会が有効な反証を行うことは非常に困難であると解される。
つまりは、政府による非常に大きな濫用の危険が排除できない基準であると考えられる。
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集団的自衛権行使を容認する閣議決定の違憲・違法性について ―閣議決定は無効であり憲法9条の法規範性は不変である― 参議院議員 小西洋之 2014年6月27日 PDF (P17)
(集団的自衛権行使を容認する閣議決定の違憲・違法性について ―閣議決定は無効であり憲法9条の法規範性は不変である― 参議院議員 小西洋之 2014年6月27日 PDF)
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○高辻政府委員 大体いままで申し上げたことでもう尽きておると思うのでありますが、要するに武力攻撃が発生したときということでありますから、まず武力攻撃のおそれがあると推量される時期ではない。そういう場合に攻撃することを通常先制攻撃というと思いますが、まずそういう場合ではない。……(略)……
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第63回国会 衆議院 予算委員会 第15号 昭和45年3月18日
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○高辻政府委員 ……(略)……一番大事なことは、先ほども申し上げましたように、その武力攻撃が発生した場合、つまり始まった場合、これをいうので、現実の侵害が発生した後でなければならぬということもないし、武力攻撃のおそれがある場合であるというわけでもない。武力攻撃が始まったとき、これが一番大事なところでございます。
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第63回国会 衆議院 予算委員会 第15号 昭和45年3月18日
【動画】「集団的自衛権 許容できる余地はない」大森政輔・元内閣法制局長官【全】9/8参考人 2015/09/08
⇒ 「明白な+危険」という、主観的感覚による基準
「存立危機事態」の要件は、「他国に対する武力攻撃」が発生したと思われる時点で、政府がこれらを判断をすることが前提となっている。
そして、「存立危機事態」に該当するか否かは、その時々の政府(内閣+国会=政治部門)がこれらの事情を総合的に考慮(勘案)することによって、独自に判断するというのである。
そうなると、世界のどこかで「武力攻撃」が発生したと思われる時点で、
◇ 外国が他国に対して行った行為が「武力攻撃」に該当するか否か
◇ 「武力攻撃」を受けた「他国」が「我が国と密接な関係にある他国」に該当するか否か
を自由裁量としての政治判断によって認定したならば、途端に
◇ 状況の程度等が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」に該当するか否か
◇ 「これにより」に該当するか否か、つまり、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことが影響を与えることによって「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が引き起こされたといえるか否かの因果関係の存否
を自由裁量としての政治判断によって認定することで、「武力の行使」を行うことが可能となってしまう。
曖昧不明確であること
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法案への賛成者ですら、「条文が明確だ」と説明するのではなく、「曖昧だが仕方がない」と開き直らざるを得ないという事実は大問題だ。この条文を放置すれば、どのような武力行使が許されるかが曖昧になり、政府や現場の暴走に歯止めが利かなくなる危険がある。
曖昧不明確な法律は、法律によって権力を統制するという「法の支配」の原則に反する。そんな法律はまともな「立法」とは言えず、憲法41条に違反する。これは法律学の基本中の基本だ。つまり、存立危機事態条項は、憲法9条適合性を問題とする以前に、文言として曖昧不明確ゆえに違憲無効ではないかとの疑いも強い。
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気鋭の憲法学者・木村草太が説く「安保法制にこれから歯止めをかける方法」 2016.1.14 (下線・太字は筆者)
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(木村草太)
さらに、こうした曖昧な説明しかしないのであれば、条文自体が曖昧不明確ゆえに無効と判断されても仕方ないと思います。曖昧な条文は、政府が法律を運用する際に、きちんと法律に則っているかどうか、国会も国民も判断できません。これでは法の支配の基礎が崩れますから、憲法が禁止する軍事権の行使か否かという以前に、曖昧不明確であることそれ自体が違憲の理由になります。
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検証・安保法案 -- どこが憲法違反か
単行本(ソフトカバー) 2015/8/22 (P18)
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そもそも、他国への武力攻撃によって「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」とは、はたしていかなる場合であるか想定できない。逆にいうと、このような曖昧な要件ゆえに、先の岸田発言のように米軍への攻撃であれば存立危機事態に該当するという拡大解釈を生むのである。この要件は、権力行使を抑制する機能を欠いている。控訴人はこのような存立危機事態における防衛出動命令に従うことを同意しておらず、控訴人の意に反してこれに服従させることは、憲法18条に反するといわざるを得ない。
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自衛官による「平和安全法制整備法」違憲訴訟 新・判例解説 Watch 龍谷大学 奥野恒久 2018年5月25日 PDF (P4) (下線・太字は筆者)
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さて上記のうち①に言う、「我が国の存立が脅かされ」と「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」とは、 国家安全保障局が作成した「自衛権などに関する政府見解の想定問答集」によると、「国家と国民は表裏一体のものであり、我が国の存立が脅かされるということの実質を、国民に着目して記述したもの(加重要件ではない)
」とされている。そうすると結局①は、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる明白な危険がある場合」ということになり、生身の国民を離れた抽象的、観念的な概念となる。そこで思い出されたい。日米同盟は、わが国の安全保障の機軸、わが国の存立の基盤と安倍政権は説明しているではないか。そこで、米国が、戦争を開始したら、わが国もともに戦わないことは日米同盟を危殆に陥しいれ、わが国の存立を脅かすことになる。従って、当然に、わが国も「武力行使3要件」に基づき参戦を余儀なくされることにある。勿論、地理的限界はないし、他国領域(領海)を除外する理屈を見出すことはできない。
そもそも「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」というのは、一義的明確性を欠き、政府の判断を限定することはできないし、また政府が特定秘密保護法施行により安全保障に関する重要な情報を独占する法体制の下で、誰からも検証・批判を受けないことになる。
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「集団的自衛権の行使を容認する閣議決定」を読み解く 深草徹 (P9) (下線・太字は筆者)
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(3)「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」という文言は憲法13条の規定を踏まえたものだが、特に、「我が国に対する武力攻撃が発生していない状況における、包括的人権規定といわれる国民の幸福追求権が根底から覆される事態」というのは基準としてその内容を画することは不可能なものであり(曖昧模糊そのもの) 、だからこそ、集団的自衛権行使の要件とするのに好都合であった。なお、この結果、新三要件は基準として成り立ちえない歯止め無き・無限定なものとなっている。
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【補足説明】「昭和47年政府見解の読み替え」問題のより深い理解等のために PDF (P222) (下線・太字は筆者)
(【補足説明】「昭和47年政府見解の読み替え」問題のより深い理解等のために PDF)
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(ア) 「存立危機事態」のあいまいな要件の判断権が首相に委ねられていること
集団的自衛権行使の「存立危機事態」の判断の基準である「わが国と密接な関係にある他国」「わが国の存立が脅かされ」「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」等の要件自体が極めてあいまいであり、またこれらの要件を満たしているかどうかの判断権者についても、政府は「最終的には総理大臣が自らの責任のもとで総合的に判断して決める」と説明しており、これでは例外を認める基準としてはあまりにも不明確・無限定であるといわざるを得ない。
その結果、憲法9条が厳格に武力行使を禁じているにもかかわらず、その例外がなし崩し的に広く認められる恐れがあり、この意味においても、この規定は同条の趣旨に反し、違憲である。
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第3 安全保障関連法に関する問題 PDF (下線・太字は筆者)
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しかし、我が国に対する武力攻撃が行われていないにもかかわらず「我が国の存立が脅かされる明白な危険がある場合」という事態は如何なる事態なのか、内容の説明は全くなされていないに等しい。また、「わが国に対する武力攻撃があったか否か」という客観的な要件とは異なり、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から脅かされる明白な危険の有無」なる要件には主観的な要素が入り込むため、政府の裁量的判断に委ねられる部分が大きい。
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集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回及び関連法の改正等の中止を求める決議 2014(平成26)年10月17日 (下線は筆者)
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ウ 集団的自衛権行使の問題点
(略)
そして、現に我が国に対する武力攻撃が行われていないにもかかわらず、「我が国と密接な関係がある他国」「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」といった不明確な概念で武力の行使を容認することは明らかに「自衛のための必要最小限度の実力」の範囲を逸脱するものであり、海外での武力行使について憲法上の歯止めが効かなくなるおそれがある。
事実、政府は「我が国と密接な関係がある他国」の判断基準について、「個別具体的な状況に即して総合的に判断」としているのみであり(政府想定問答の問3)、基準は極めて不明確であると言わざるを得ない。
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憲法違反である「平和安全法制整備法案」及び「国際平和支援法案」
の国会提出に抗議し、その廃案を求める決議 東北弁護士連合会 2015年7月3日 (下線は筆者)
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「存立危機事態」に際しての自衛隊の武力行使については、「存立危機事態」の要件も、そこでの武力発動の要件もきわめて不明確であり、政府側による国会答弁においても全く明確にされていない。これでは歯止めなき集団的自衛権の行使を招きかねない。
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獨協大学法科大学院教授・右崎正博氏 憲法学者アンケート調査 (下線・太字は筆者)
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「存立危機事態」に際しての自衛隊の武力行使については、「存立危機事態」の要件も、そこでの武力発動の要件もきわめて不明確であり、政府側による国会答弁においても全く明確にされていない。これでは歯止めなき集団的自衛権の行使を招きかねない。
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右崎正博(独協大学法科大学院)安保法案学者アンケート 2015年7月17日
□「あまりにも漠然としており、『存立危機事態』への対処を口実として、『武力の行使』が切れ目なく拡大していく危険性がある。」
國學院大學法学部教授・植村勝慶氏 憲法学者アンケート調査
□「日本に対する武力攻撃の有無は、法的には0か1かで判断しうるのに対して、存立危機の有無は、明確な判断基準となりえない。」
上智大学法学部准教授・小島慎司氏 憲法学者アンケート調査
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文言が曖昧で際限ない拡大解釈が懸念される部分も散見されます。この曖昧さは法の支配や法治主義の観点から致命的であると考えます。
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北海学園大学法学部教授・館田晶子氏 憲法学者アンケート調査
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集団的自衛権行使にしろ、他国の武力行使との一体化にしろ、憲法のテクストとその解釈実践から導かれてきたコンヴェンショナルな共通了解に拠れば違憲性は明白であり、曖昧な基準の下でそこに踏み込む高度な蓋然性が認められる今般の法整備は、憲法解釈上、到底容認できるものではない。
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成城大学法学部教授・松田浩氏 憲法学者アンケート調査
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民主制の下における「権力」の「行使」は、それを「信託」する「国民」によって正統化されなければならないと同時に(日本国憲法前文)、憲法を含む「法」の枠内に収まることによって正当なものとされる。統治者が、必要があれば法に縛られることなく自由に行動できる体制は、たとえそれが「啓蒙的」な善政であったとしても、「人の支配」なのであり、「法の支配」ではなく、学問の上では「法治国家」の対義語である「警察国家」と呼ばれる。「法」が存在しても、政府がそれをどのようにでも解釈できるというのであれば、あるいは、安全保障関連法案のいくつかの内容のように、それが政府の権限行使を十分に縛るものでなければ、それは「法」の名に値しない。
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高田篤(大阪大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日 (下線は筆者)
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集団的自衛権行使を容認する安倍内閣の「武力行使の新3要件」、とりわけ第1要件は、自衛隊の海外派兵と武力行使について、きわめてあいまいかつ恣意的な判断を許す内容となっています。
(1)「存立危機事態」の不明確性
第1要件では、日本への武力攻撃だけではなく、「我が国と密接な関係にある」他国が攻撃を受けた場合にも「我が国の存立が脅かされた場合」(存立危機事態)は、日本は武力攻撃ができるとされていますが、「存立危機事態」という言葉は、極めて漠然としておりその範囲が不明確であり、自衛隊の海外派兵と武力行使を、①「無限定に」②「地理的範囲に関係なく」また③「時間的制約を超えて」可能にします。「存立危機事態」を認定することは、「国権の発動たる戦争」を容認し、歯止めのない武力行使につながりかねず、また安保関連法案を制定することは、他国(とくに近隣アジア諸国)に対する「武力による威嚇」を与えることになり、憲法9条1項に違反すると思います。
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内藤光博(専修大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
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「存立危機事態」における自衛隊の武力行使の「要件」は漠然としており、制限規定となっていない。歯止めなき集団的自衛権行使は、明らかに憲法9条に反する。
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若尾典子(仏教大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
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「存立危機事態」に限っての集団的自衛権の行使といっても、一体それがどのような「事態」なのか全く定かではない。
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日本が直接攻撃されていないものの、日本国民の人権が根底から覆され日本国の存立が脅かされる「事態」などあり得ず、むしろこれを口実に、日本が自国防衛と関係なく、外国防衛のために武力を行使する可能性(危険性)を認めたものといわざるを得ない。
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山崎友也(金沢大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
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言いかえれば、安保法制については、自衛隊はもとより国会や内閣も含めた指導部の判断をどれだけ十分にコントロールできるかが求められるところ、そのようなコントロールは結局、想定される事態を十分に踏まえたうえで、それに対応しうるだけの詳細さと緻密さを備えた法律によるのでなければならないということです。そして、この点からみると、現在審議中の法案についてはなお不十分な部分があり、自衛隊の活動や国会・内閣の判断を十分にコントロールできるほどの規律ではないと考えています。かりにわざと不十分な部分を残すということであれば、恣意的な自衛隊の運用を許容しようという意図が存在すると判断されてもやむをえないでしょう。
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片桐直人(大阪大学大学院) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
【参考】大阪大学高等司法研究科准教授・片桐直人氏 憲法学者アンケート調査
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しかし、集団的自衛権の行使について、法案は武力行使の新3要件を示しているが、そのような限定が曖昧な「存立危機事態」なる概念によって裏付けられるものとは言いがたく、集団的自衛権の行使が時の政権担当者の判断で変わりうる。これでは、集団的自衛権をそもそも限定するものになっていない。政府の恣意的な権力行使を抑制するという立憲主義からすれば、このような政府の恣意性の余地があることは許されるべきではない。
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専修大学法学部教授・榎透氏 憲法学者アンケート調査
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……(略)……この「存立危機事態」 は、厳格性を要求されるべき武力行使の要件であるにもかかわらず、極
めて曖昧であることから、政府は、容易に「存立危機事態」を認定することができることになる。しかし、これでは、事実上、武力行使に歯止めがないのと同じであって、国家の行為の授権の範囲を基礎づけているということはできない。すなわち、本法案は、「法律の明確性」という憲法上の要請に反し、日本国憲法における集団的自衛権の行使の可否を論ずるまでもなく、違憲の評価を免れない。
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安全保障関連法案に反対し、その廃案を求める会長声明 平成27年8月21日
□「憲法9条の規範的意義をほとんど無に帰すものであり、実力行使に歯止めがなくなる」
(長谷部恭男『憲法 第6版』60頁)
自衛隊は憲法学者が9条違反だと主張するから憲法改正すべきなのか? 2017-10-20
□「明確な限定が存在しないことは明らかであります。」(長谷部恭男)
【動画】小林節 慶応大学名誉教授、長谷部恭男 早稲田大学法学学術院教授 「憲法と安保法制」① 2015.6.15
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そして,第3は,いわゆる「存立危機事態」などの概念がきわめてあいまいであるために混乱を招き,憲法9条の求めているものに反することである。「存立危機事態」は,前出の改正自衛隊法76条2号が定めるところであるが,安保法制の国会論議の中で,政府側からは,ホルムズ海峡問題で世界的に石油が供給不足となって,経済的影響がわが国に及ぶ事態も「存立危機事態」であると説明され,また,およそ米軍に対する攻撃があった場合にはこの事態に当たると答弁されてきた。これは,この概念の無限定性を示すもので,こうした基準の致命的な不明確性は,かえってわが国の存立を脅かす事態を招き入れることになる。……(略)……
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安保法制違憲訴訟7地裁判決における平和的生存権判断のあり方 小林武 2021-07-30 愛知大学リポジトリ
(P152~153) (宮崎礼壹証言について)
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—存立危機事態の問題点は。
「わが国の存立に関わる危機という概念が曖昧で、何が要件か分からないまま、適用の判断を政府に委ねていることだ。事態認定では米国から提供された情報を基にするはずで、日本政府が果たして妥当な判断をできるのか。自衛隊と米軍の一体化が進む中、日本が米国に『ノー』と言えるのか懸念される」
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「集団的自衛権」が実行可能段階に 安保法成立7年 米軍と初の実動訓練、識者は「権力の暴走」を懸念 2022年9月19日 (下線は筆者)
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XIV 2022/12/03
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XIX 2023/05/07
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元外交官で平和外交研究所の美根慶樹代表は「他国による英国軍や豪州軍への攻撃が日本の存立を脅かす状況になる事態は現実的には想定しづらい」と指摘。むしろ、集団的自衛権が行使される基準が不明確なまま8年を迎えたことを問題視し「現行憲法下で集団的自衛権を容認した安保法は違憲であり、直ちに見直すべきだ」と強調する。
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イギリス、オーストラリア…日本の「準同盟国」は集団的自衛権の対象? 安保法成立8年で高まるリスクは 2023年9月20日 (下線は筆者)
〇 政府の説明
存立危機事態「一概に言えず」 台湾有事の認定めぐり―加藤官房長官 2021年07月06日
岸防衛相「集団的自衛権の行使は個別具体的状況で判断」 2021年7月6日
この記事のように、「武力の行使」に踏み切ることができるか否かの判断基準が曖昧不明確となっていること自体が、政府の恣意的な判断となることを排除することができておらず、9条に抵触して違憲となる。
漠然不明確・過度の広範性の判断
「存立危機事態」の要件の内容が、「曖昧不明確」、「漠然不明確」、「過度の広範性」の観点から違憲となるかどうかを検討する。
徳島市公安条例事件(昭和50年9月10日)
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刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである。
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刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反し無効であるとされるのは、その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して、禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく、そのため、その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず、また、その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずるからであると考えられる。
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「あいまい不明確ゆえに無効」や「過度の広範性ゆえに無効」については、31条だけでなく、41条違反説も存在している。
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P10
例えばグイド・カラブレイジによると、憲法上の一定の重要な権利(fundamental
rights)を制約する法令に漠然不明確な文言が用いられるのは、当該文言の射程につき十分に審議する時間が無かったり、単なる不注意による場合もあろうし、また被治者の権利が、彼らが思いもよらぬケースに至るまで制限されることになるという事実を故意に隠しつつ法律を成立させるため、あいまいな文言が選好されるという悪質な場合すら、想定されないわけではない。しかし、いずれにしても、これらのようなケースでは、議員は有権者に対し民主的な説明責任を果たしておらず、ひいては法律の内容が真に民意に基づいて決定されたことにはならないという瑕疵が認められる。そこでこうしたケースにおいては、当該立法の規範的内容に着目した違憲判断ではなく、当該立法が真に民意に基
づくものとはいえないという手続的瑕疵を理由とする違憲判断を行うべきである。
P12
ドイツ流に「法律の留保」と呼ぼうと、またアメリカ流に立法権の「委任禁止」と呼ぼうと、また当代日本の憲法学に広まっている表現で「国会中心立法の原則」と呼ぼうと、被治者の権利を制約する一般的規範を含む一定範囲の規範(「実質的意味の法律」)の制定改廃は国会の専権事項であるとの要請が、憲法41条に含意されていることについては、争いは無いと言ってよかろう(争われているとすれば、被治者の権利を制約する一般的規範以外に、「実質的意味の法律」にはどのようなものが含まれるか、であるが、それは本稿の関心対象ではない。)。漠然不明確な権利制約立法は、その適用に当たる裁判所に実質的に立法権を委任するに等しいがゆえ、憲法41条の趣旨に照らして問題であると考えられる。
P16
これに対し過度の広範性問題もまた、不明確な法令の場合と同様
に、法適用機関に対する実質的な立法権委任問題として把握して良いものであろうか。少なくとも広島市暴走族追放条例事件において現れた過度の広範性問題もまた、同様に考えて良いと思われる。というのは、規定の射程は明確だが過度に広範とは言っても、規定の文言のみからは規制対象範囲の本当の境目が判然とせず、最高裁が施した合憲限定解釈を通じそれが明らかにされる点、また過度の広範性ゆえ本来合憲的に規制対象にはできないはずの人々に対して萎縮的効果をもたらす点において、漠然不明確な規定の場合と変わりはないからである
16)。
P17~18
まず同判決は、「条例19条が処罰の対象としているの[が]、同17条の市長
の中止・退去命令に違反する行為に限られる」ことを、過度に広範ではない理由の一つとしているが、これについてはまず、本件では条例の各規定が憲法31条のみならず憲法21条1項に違反しないかも問題となっていたはずであるから、「処罰の対象」が憲法31条に照らして十分絞られているかどうかとは別途、不利益処分(中止・退去命令)の根拠法規としての過度の広範性が憲法21条1項に照らして問題とされなくてはならなかったはずである。また中止・退去命令に違反する行為に限って処罰対象とすることは、刑罰の適用対象の決定権を市長に「委任」していることになるから、本来、憲法上の疑義を払拭するための理由とはなし難いものではないか。
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論説 法令の「漠然不明確」・「過度の広範」性が《形式的》正当化の問題であるということの意味 ――「罪刑法定主義」・「法律による行政の原理」の民主主義的側面のゆくえ―― 大石和彦 PDF
上記の考え方を参考とすれば、「存立危機事態」の要件の「漠然不明確な文言」は、「思いもよらぬケースに至るまで制限されることになるという事実を故意に隠しつつ法律を成立させるため、あいまいな文言が選好されるという悪質な場合」にあたるため、「手続き的瑕疵を理由とする違憲判断を行うべき」と考えられる。
漠然不明確な権利制約立法(存立危機事態による武力の行使の侵害)は、「その適用にあたる裁判所に実質的に立法権を委任するに等しいがゆえ」、「国会の専権事項であるとの要請」である「法律の留保」や「立法権の『委任禁止』」、「国会中心立法の原則」の趣旨を含意する41条の趣旨に照らして違憲判断になると考えられる。
「存立危機事態」の要件の問題は、31条のみならず、9条に違反しないかも問題となっている事例であるから、対象となる事柄が「憲法31条に照らして十分絞られているかどうかとは別途」、「武力の行使」の根拠法規としての過度の広範性が憲法9条に照らして違憲かどうかが問題とされなくてはならないはずである。
しかし、「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国」の範囲や、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」に該当するかどうか、また、その他国に対する武力攻撃の発生が我が国の事態に影響を与えているか否かの因果関係の判断を行う決定権を内閣に「委任」しているものである。
これは、41条の「法律の留保」「立法権の委任」「国会中心立法」について定めた趣旨に関して、憲法上の疑義を払拭するに足りるものではない。
このことから、裁判所は「内閣が決定した事態が、存立危機事態である」との理由によって「合憲部分の範囲を相当程度に限定した解釈が可能」と見なす論理をとることは妥当でないことから、合憲限定解釈を採用することはできない。
よって、「存立危機事態」の要件は、31条の適正手続きの保障の観点から漠然不明確(あいまい不明確)および過度の広範性が認められ違憲となる。
漠然不明確や過度の広範性が認められることから、結果として9条にも抵触するため違憲となる。
明確性の原則
明確性の原則 Wikipedia
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(4)明確性の原則違反
前述の通り、新安保法制においては、「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、①我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、③必要最小限度の実力の行使をすること」という新3要件を前提に、新安保法制法による改正自衛隊法76条1項及び事態対処法2条4号等に、上記新3要件に基づく「防衛出動」との位置づけにより、この集団的自衛権の行使の内容、手続が定められた。
しかしながら、第1要件についていえば、他国に対する武力攻撃が「我が国の存立を脅かす」かどうか、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」かどうか、「明白な危険」が生じるかどうかは、全て評価概念であり、法文自体抽象的で漠然としていて不明確である。また、第2要件(他に適当な手段がないこと)及び第3要件(必要最小限度の実力の行使)も、前提となる第1要件があいまいになれば、第2要件、第3要件も必然的にあいまいなものになる。
上記要件のもと、集団的自衛権の行使として、自衛隊は防衛出動を行い他国の領土等で武力行使を行うことになるが、これにより特に自衛隊員は、自らの生命を奪われあるいは他国の軍人や住民の命を奪う具体的危険性が生じ、思想・良心の自由や表現の自由等を初めとする精神的自由権などの人権が侵害されることになる。
精神的自由を規制する立法は明確でなければならず(明確性の原則)、この明確性の原則に反する立法は法規それ自体が違憲無効(文面上無効)となる。
したがって、新安保法制法は、明確性の原則に反し、違憲無効である。
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原告提出主張書面 訴状 (安保法制違憲訴訟 訴状.pdf) 信州安保法制違憲訴訟の会 (下線は筆者)
精神的自由権でさえ、「明確性の原則」が求められるにもかかわらず、生命権の侵害に関わる法令の内容が不明確であることは、当然に違憲となるという考え方である。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、一体どのような状態を指しているのか曖昧不明確である。
これについては、31条の「適正手続きの保障」の趣旨や、41条の「立法権」の趣旨からも違憲となると考えられる。
「法の支配」、「立憲主義」、「法治主義」の理念や、「法律留保の原則」、「法律による行政の原理」の趣旨、条理などにも反し、違法となる。
このような「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みと(最大判昭和50年9月10日)」れない文言は、曖昧不明確ゆえに31条の「適正手続きの保障」の趣旨や、41条の「立法権」の趣旨より違憲となると考えられる。
<理解の補強>
「法の支配に対する挑戦が行われている」――気鋭の若手憲法学者が安保法制を進める政府・与党の「無法者」ぶりに警鐘を鳴らす!~岩上安身による首都大学東京准教授・木村草太氏インタビュー 2015.6.16
安倍首相が驚きの答弁。「米艦への攻撃の危険があれば、それだけで日本は存立危機状態になり、参戦できる」 2015年07月11日
「存立危機事態」なんてフリーハンドで捏造できるし、そもそも新3要件自体が論理的矛盾を内包していているデタラメなものです 2015年07月06日
木村草太氏が語る「存立危機事態条項」に多く含まれる曖昧さ、不明確さ、違憲性 2015/07/15
<第2回>ただの妄想の法案化 “存立危機事態”に立法事実なし 2015年8月12日
40.「存立危機事態」とは何でしょうか。 2015年8月15日
軍事権を日本国政府に付与するか否かは、国民が憲法を通じて決める 木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』から 2015.08.26
[2]大日本帝国憲法にさかのぼってみる 2015年11月17日
「存立危機事態」は存在するか 安保法制の根幹をめぐるガチ論 中谷元・前防衛相VS木村草太・首都大学東京教授 2016年11月21日
(社説)「安保法」訴訟 あぜんとする国の主張 2018年2月3日
枠組みの描き方
〇 9条の規範性を保つための基準
単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを主張するだけでは、それを認定する者の主観的判断に流れることを抑止できないか、あるいは主観的判断に流れているのか否かを判別できないものとするのであり、およそ法規範とは呼ぶことができず、9条の制約の趣旨を満たすものとは言えない。
実際に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状況を防ぐ必要があるとしても、9条の下では政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを排除するための規範が求められる。
法の支配、立憲主義、法治主義において、特に刑事法の分野においては、当事者がどのような思想を抱いていようとも、また権力を行使することによってある行為を取り締まる立場の者がどのような思想を抱いていたとしても、あらかじめ国民主権を背景とした国民の合意によって法の規範を定め、対象となる行為の外形を客観的に判断することによって規定の適用の可否を決することにより、当事者に一定の行為を抑制させ、また同時に権力の不当な行使を制約しようとすることとなる。
同様に、9条の規範は国民主権に基づく憲法規定であり、統治権を行使する者がどのような思想を抱いていようとも、あらかじめ合意された規範に従って権力を行使することを求めるものであり、その者の主観的判断によって恣意的な権力行使が行われることを制約しようとするものである。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」であるか否かを枠づける客観的な規範を設けることなく、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ということそのものを理由として憲法に違反しないとの主張は、憲法規定との矛盾抵触の限界を枠づけない主張であり、憲法規定の規範性を損なうために違憲となる。
刑法上において「保護法益」を守るために行為の外形を構成要件として定めるのであり、「保護法益」の侵害やその危険そのものがあることを理由にして構成要件が定められていない中で取り締まりを行うことができるのであれば、それは権力者の恣意によって自由に対象者の罪を作出することができることとなり、法の支配や法治主義の理念そのものが損なわれる事態となる。
同様に、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを名乗るだけでその行為の外形の枠組みを示さないのであれば、権力者の恣意によって自由に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由としていつでも「武力の行使」に踏み切ることができることとなるのであり、それらを制約しようとした9条の規定の背景にある法の支配や立憲主義、法治主義の理念そのものが損なわれることとなる。
このことから、たとえ「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由としても、その「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」かないかの外形を客観的に判断できる基準となるものが求められる。
そのため、「武力の行使」の発動要件を設定する場合には、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状況がどのような出来事によって引き起こされているのかを識別するための出来事の外形を描き出した具体的で明確な基準となるものが求められる。
それは9条の規範性を保つための基準となるものを有していることが求められることから、下記の要素が必要となる。
・ 政府が意図して作出することのできない「受動性」があること
・ 誰であっても事実認定が同じになるような「客観性」があること
・ 基準に該当するか否かを誰もが識別することができる「明確性」があること
もし「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由として、その外苑を「受動性」や「客観性」、「明確性」のある枠組みを設定して限界を画することをしないのであれば、それは結局9条が存在しない場合において政府が「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」に踏み切ることができる状態と変わりなく、9条が政府の行為を制約しようとする規範性を有した法規範として扱わないものであり、妥当でない。
このような主張は、法解釈として成り立たない。
そのため、9条の下では、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という理由に基づいて「武力の行使」を行うことができるとする要件を定めることはできない。
〇 (作成中)
日本国とは何らの関係もない出来事が発生したこと、あるいは、日本国に対する影響のない出来事が発生したことを理由として日本国の政府が「武力の行使」を行った場合、それが9条に抵触して違憲となることは明らかである。
かといって、これを反対から見て、日本国と何らかの関係がある出来事が発生したことや、日本国に対する影響のある出来事が発生したことを理由として日本国の政府が「武力の行使」を行うというのであれば、直ちに9条に抵触することがなくなり、合憲となるというわけではない。
政府が「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)を理由として自国都合の「武力の行使」に踏み切ったことは歴史上幾度も経験するところであり、9条はそのような「武力の行使」を制約するために設けられた規定だからである。
9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するための規範である。
そのことから、9条の下では「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」を行うことはできない。
9条の下でもなお「武力の行使」を行うことができるとする余地を見出すとしても、政府の恣意的な動機に基づいて「武力の行使」が行われることを排除することが必要となる。
そのため、「自国の存立」や「国民の権利」の危機が具体的にどのような状況であるのか、その外形を政府の恣意性が入り込む余地のない規範によって描き出すことが求められる。
単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状況を理由として「武力の行使」を行う場合について検討する。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、抽象的な危機感に過ぎず、具体的にどのような状態であるのか特定されていない。
この部分を満たすと判断することにって「武力の行使」を行うことができるとすれば、政府が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を満たすと述べるだけで、「武力の行使」を行うことができることとなる。
こうなると、実質的には政府の行為の限界を客観的な基準によって画するものは存在しないのであり、「武力の行使」が9条に抵触して違憲となるか否かの基準そのものを、政府の自由な判断に任せるものとなっていることを意味する。
つまり、「武力の行使」に踏み切ることができるか否かの基準そのものを、その法を適用する者の主観的な判断に委ねるものということである。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という抽象的な危機感を理由として「武力の行使」を行うことは、政府の恣意性を排除するための基準を有しない中で「武力の行使」を行うことになる。
9条は、まさにこのような政府の自国都合による「武力の行使」となることを禁ずる趣旨の規定である。
9条が政府の行為を法規範によって制約しようとした趣旨が生かされず、9条の規範性が損なわれたこととなり、9条に抵触して違憲となる。
それは9条の趣旨を満たしていない中での「武力の行使」となるから、9条に抵触して違憲である>
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分には、9条の規範性を保つための基準となるものを通過する要素がもともと存在していない。
そのため、それだけで9条の規範性を保つための基準となるものを通過して「武力の行使」が可能となるわけではない。
よって、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由として政府が「武力の行使」を行うことはできない。
(「我が国の存立が脅かされ、」というだけで「武力の行使」を行うことができることにはならない。)
「存立危機事態」の要件が設定された場合
「存立危機事態」の要件は、「武力の行使」の発動要件として定められたものである。
そのため、政府の立場としては、この「存立危機事態」の要件を満たした中での「武力の行使」については、9条に抵触しないことを前提としている。
しかし、上記に挙げたように、「存立危機事態」の要件は曖昧不明確な内容であり、実質的に「武力の行使」を行うことができる場合とできない場合を識別するための基準となるものを有していない。
〇 「存立危機事態」に該当するか否か
このような要件が通用することになるとすれば、政府が「存立危機事態」の要件に「該当する」と言えば該当し、「該当しない」と言えば該当しないことになるということである。
つまり、政府が「他国に対する武力攻撃」が発生した段階で、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分に「当てはまる」と言えば当てはまることになり、「当てはまらない」と言えばと当てはまらないこととなってしまう。
このことは、実質的に「存立危機事態」の要件に該当するか否かを認定する基準そのものをその時々の政治的な判断に委ねることになる。
これは、「存立危機事態」の要件に該当するのか否かを事態の『数量』面に依存する形で設定したこととなる。
政府が事態を『数量』的に判断することによって「存立危機事態」に該当すると認定することが可能となってしまうということである。
〇 「武力の行使」の可否の基準そのもの
つまり、「武力の行使」の発動要件を満たすか否かそのものを政治的な判断に委ねようとするものということである。
政府が「武力の行使」を発動できる場合であるか否かを決するための基準そのものを政府自身がその時々の政策判断によって自由に変化させることができる(変更できてしまう)ことを意味する。
〇 9条に抵触する「武力の行使」であるか否かの基準そのもの
すると、政府の立場としては「存立危機事態」の要件を満たした中での「武力の行使」については、9条に抵触しないことを前提としていることから、この要件に該当するか否かを政府が自由に判断することができてしまうということは、実質的には、9条に抵触しない範囲の「武力の行使」と、9条に抵触する範囲の「武力の行使」を切り分ける境界線となる基準そのものを政府自身がその時々の政策的な判断によって自由に変化させることができてしまう(変更できてしまう)ことを意味する。
そのため、政府が「武力の行使」を行った場合に、その「武力の行使」が9条に抵触せずに合憲となるか、9条に抵触して違憲となるかの基準そのものを政府自身がその時々の政策判断によって自由に変化させることができる(変更できてしまう)ものとなっているということである。
これは、法を運用し、適用する者が「武力の行使」を発動した場合に、その「武力の行使」が9条に抵触して違憲となるか否かという基準そのものを自由に変化させることができるということである。
9条の制約の内容そのものを政府が自由裁量として判断できてしまうのである。
政府が「存立危機事態」の要件に「当てはまる」と述べるだけで「武力の行使」が9条に抵触しないことになり、「武力の行使」を行うことが可能となっているということである。
つまり、「他国に対する武力攻撃」が発生した段階(時点)で、実質的に、「これにより」と「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「満たさない」と言えば満たさないことになって「武力の行使」が9条に抵触して違憲となり、「満たす」と言えば満たすことになって「武力の行使」が9条に抵触せず合憲となるとすることができるということである。
これでは、政府がその時々に事態を『数量』的に判断することによって、9条に抵触するか否かという基準、つまり、「武力の行使」が合憲となるか、違憲となるかを決するための基準を自由に変更できることになる。
◇ 「武力の行使」の可否の基準そのもの
↓ ↓ ↓
◇ 違憲となるか合憲となるかの基準そのもの
↓ ↓ ↓
◇ 9条に抵触するか否かの基準そのもの
〇 自由裁量となる
このような要件が通用するのであれば、実質的に「武力の行使」を行うことができる場合とできない場合の基準そのものを政府の自由裁量として設定することができるかのように考えようとするものである。
実質的に「武力の行使」の可否を決するための基準を、政府の自由裁量としての政治判断に託すこととなることを意味する。
実質的には政府の自由裁量としてその時々の政治的な判断によって「武力の行使」を行うことが可能ということである。
政府が独自に「武力の行使」の可否を判断して決することができるということである。
これは、9条に抵触する「武力の行使」であるか否かそのものをその時々の政治判断に任せる形となっている。
これは、「武力の行使」を
・ 政府の認定する「総合的な判断」に委ねていることになる。
・ 政府が事態(自国の状態)を『数量』的に勘案することによって(頼って)決めることができることとなる。
・ 政府が事態の『数量』面に着目して自由に判断できるということになる。
・ 政府の主観的な判断に任せることに等しい要件となっている。
・ 政府自身の主観的な判断に委ねるものとなってしまう。
これは、9条が政府の恣意的な判断による「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たす基準から導き出された規範に適合しているか否かのみを判断する形の羈束裁量によるものではない。
〇 恣意性を識別できない
もし、政府がこのような性質を持つ「存立危機事態」の要件に「該当する」と認定したことを理由として「武力の行使」が9条に抵触しないと説明することが可能となり、「武力の行使」を行うことができることになれば、結局、政府が「武力の行使」に踏み切った場合に、その判断に恣意性があったにせよ、なかったにせよ、恣意性があるか否かを判別することができないこととなる。
政府が「存立危機事態」の要件の「これにより」や「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「満たす」と説明した場合においても、それが「自国民の利益」を実現することを目的として「武力の行使」を行おうとする動機によって「満たす」と説明している可能性を排除することができない。
それについて、政府が「自国の存立」や「国民の権利」の危機にあたると説明しているとしても、その実質が不明であることは変わらない。
〇 その弊害
そうなると、国際情勢や国際関係上の圧力、その時々の政治的な判断、政府の恣意的な動機などに基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ったものであるか否かを識別することができないということである。
つまり、政府(内閣)や国会が、その時々の国際関係や国際情勢、国内の政治状況や政治的な都合を『数量』的に勘案し、政治的な意図や自国都合の恣意的な動機に基づいて「武力の行使」を行っていたとしても、それを違法と判断することができないこととなる。(違法化できなくなる。)
〇 恣意性を排除できない
これでは、政府の恣意性の入る余地のない規範となるものが存在しておらず、政府の恣意に流れることを防ぐことができない。
これにより、
・政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを排除することができない。
・実質的にはその時々の国際情勢や国際関係、国内の政治的な事情や政府の都合などを勘案した政治判断によって「武力の行使」が行われることを排除することができない。
政府が自国都合など恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切ることが可能となってしまう。
実質的には、「他国に対する武力攻撃」が発生した時点で、その「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由として(起因して)、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として示しながら、政府の自由な判断によって「自国民の利益」の実現を追求することを意図した恣意的な動機による自国都合の政策判断としての「武力の行使」に踏み切ることが可能となってしまう 。
これでは、その運用がこれを適用する機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずることが考えられる。(恐れがある。)
〇 9条の趣旨との整合性(9条が政府の行為を制約しようとする趣旨を満たすか)
このような要件は、9条が有している政府が恣意的な動機によって自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする趣旨
・ が生かされていない。
・ を満たしていない。
・ に反する。
・ そのものを損なうものである。
9条が「自国民の利益」の実現や、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の対外的な「武力の行使」に踏み切ることを禁じる趣旨に反する。
「存立危機事態」の要件を「武力の行使」の発動要件として設定したこと自体が、9条の趣旨をくみ取って解釈できる範囲を超えるものである。
これは、9条1項が「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を制約する趣旨を逸脱する。
9条1項が「自国民の利益」やその時々の政治的都合による利益を追求することによって政府が「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に踏み切ることを禁じた趣旨に反する。
〇 結論
このことから、「武力の行使」の発動要件として「存立危機事態」の要件を設定したことや、実際に「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行うことは、行政権や立法権に与えられた裁量権の範囲を逸脱するものであり、9条に抵触すると考えなければならないものとなる。
よって、「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行うことは、9条に抵触して違憲となる。
◇ 「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
◇ 9条1項に抵触する「武力の行使」を実施する実力組織は、9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
「存立危機事態」の要件に「武力の行使」の限度を画する基準が存在しないということは、同様に、その「武力の行使」を実行するための実力組織を保持する際にも、その規模や装備の内容、程度等についても限度を画する基準が存在しないことを意味する。
この観点からも、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を実施するための実力組織は、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
◇ 9条1項に抵触する「武力の行使」を実施する『権限』を「交戦権」に抵触しないということもできず、9条2項後段の「交戦権」に抵触して違憲となる。
【努力義務ではない】
9条は法規範として存在しており、法的効果を持ち、規範性を有している。
もし「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」が9条に抵触しないと考える場合、これは政府が理由を述べるだけで憲法上の制約を退け、違憲性を免れることができるかのように考えるものとなってしまう。
これは、9条の規定が法規範として定められており、規範性を有するはずであるにもかかわらず、「武力の行使」を行うことができる場合であるか否かを識別するための基準は法的な規範に基づくものではなく、政府の政治的な判断によって決定することを前提とするものである。
もし「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行うことができることになれば、それは「武力の行使」を行うことができる場合であるか否かを識別するための基準そのものをその時々の政治的な判断に託すことになってしまうことを意味する。
「武力の行使」が発動された場合、その「武力の行使」が9条に抵触して違憲となるか否かの問題ではなく、政策的に妥当か否かの問題に変えようとするものである。
法律論上の「合法・違法」
政策論上の「当・不当」
これは、その判断が適切であるか否かは政治的な批判を受けるか否かに過ぎないものとし、9条が法規範として適法・違法の基準によって政府の行為を制約しようとした趣旨を損なうこととなる。
(そこで行われた「武力の行使」については、政治な責任に限られ、法的な責任は負わないものとしようとするものである。)
政府が国際関係やその時々の政治的な事情などを勘案して自国都合の恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切ることを制約することのできる基準となるものを持っていない。
このように考えることは、9条を規範性を有する法規範として扱わず、9条の対象としている国家作用があたかも明確には存在していないか、あたかもそこに法規範としての超えてはならない明確な一線がもともと存在していない「努力義務」を示したに過ぎない規定であるかのように扱おうとするものである。
9条が政府の行為を統制しようとする趣旨から求められる法規範としての歯止めとなる一定の線引き(ライン)を損なわせるものとなっている。
9条が規定としての効力を保つために求められる法規範としての限界となる一線を超え、9条の規範性を維持するための一線、9条が法規範として存在している意義を保つための一線を損なわせるものとなっている。
9条が有する政府の恣意性のある「武力の行使」を排除する統制機能を失わせるものとなっている。
「存立危機事態」の要件は、
・ 9条が法規範によって政府の行為を統制しようとする趣旨を満たしていない。
・ 9条が政府の恣意性を排除するために政府の自由な行為を法規範によって制約しようとした意味を踏み越えるものである。
・ 9条が政府の行為を統制する規制規範として存在している事実そのものを無視し、意味を為さないものとし、その意味を失わせ、規範の内容を骨抜きとするものである。
このような要件を定めることができるかのように考えることは、9条の文言には含まれていない意味を勝手に読み込もうとするものであるから、法解釈として妥当でない。
〇
9条の規範性が保たれるためには、単に「武力の行使」の発動要件が厳格なものであり、その発動要件が政府を制約していると主張するだけでは足りない。
先ほど挙げたような事情を、憲法上の規範である9条の規定そのものが制約している趣旨が保たれるものとなっていることが必要である。
つまり、先ほど挙げたような事情を動機として、政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するだけの歯止めとなる規範性を、9条の規定の中に見出すことが求められる。
そうでなければ、9条の意味を離れて「武力の行使」の発動要件を定めたことになり、9条の存在意義が損なわれ、9条の解釈として妥当性を失うからである。
「存立危機事態」の要件が厳格な内容となっているために、「存立危機事態」での「武力の行使」は9条に抵触しないと主張する者がいる。
しかし、たとえ「存立危機事態」の要件が厳格な内容であるとしても、9条の規定そのものによってこれらの事情によって「武力の行使」が行われることを制約することができていないのであれば、その要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
分かりやすく言えば、9条に抵触する「武力の行使」を行うこととなる要件が厳格なものであるとしても、それが9条に抵触して違憲である事実は変わらないということである。
例えば、要件が厳格であると主張しても、その要件に基づく「武力の行使」が実質的に「先に攻撃(先制攻撃)」や「侵略戦争」を行うものとなっていた場合、その要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
同じように、たとえその要件が厳格であるとしても、9条が政府の恣意的な動機によって自国都合の「武力の行使」が行われることを制約しようとしている趣旨を満たしておらず、9条の規範性を損なう要件となっているのであれば、その要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる事実は変わらないのである。
◇ 「『武力の行使』の発動要件は厳格で、政府の行為を制約している」とだけ主張するもの
↓ ↓ ↓ ↓
9条の意味を離れた「武力の行使」の発動要件 ⇒ 9条に抵触して違憲
◇ 9条の規定そのものが政府の行為を制約している趣旨が保たれているもの
↓ ↓ ↓ ↓
9条の趣旨が満たされた「武力の行使」の発動要件 ⇒ 9条に抵触しない
「武力の行使」の要件が厳格で、政府の行為を制約していると評価できるだけでは足りず、9条の規定が政府の行為を制約する趣旨が保たれていることが求められる。
相当因果関係はあるか(作成中)
【因果関係の存否が政治判断となることからの違憲】
◇ 影響の有無を考慮できるのか
「存立危機事態」の要件には、「これにより」の文言がある。
この文言は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことが原因となって、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が生じたという繋がりを持たせることを意図したものと考えられる。
そうなると、この両部分の間に必然的な因果関係や切り離すことのできない結合関係が存在すれば、この両部分を組み合わせた場合に、9条に抵触しない規範に生まれ変わるのではないかとの主張が考えられる。
そこで、この「存立危機事態」の要件の前半の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことの部分と、後半の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分との間に相当因果関係が存在するかを検討する。
まず、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したとしても、これは単に他国同士の間で武力紛争が発生しただけである。
そのため、我が国に何らの影響も起きない場合も当然に想定することができ、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生しないことも考えられる。
このことから、たとえ
・ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したとしても、それだけでは通常「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態は起きない。
・ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことによって、直ちに「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態に至るとは限らない。
・ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したとしても、必ずしも「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が引き起こされるわけではない。
そうなると、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力に対する武力攻撃が発生」したことと、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態にあることとの間には、必然的な相当因果関係や切り離すことのできない結合関係を認めることは困難である。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分と、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「これにより」の文言で結んでいるが、この両者の間には必然的な因果関係や切り離すことのできない結合関係が存在するわけではない。
このことから、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことによって、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が引き起こされるという事例があり得るのか疑問である。
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8/3 2015/08/03
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そうなると、この両者の間に必然的な因果関係や切り離すことのできない結合関係がないのであれば、結局、この両者を組み合わせたところで、9条に抵触しない規範に生まれ変わる可能性は存在しないことを意味する。
◇
この両者の間には、必然的な相当因果関係や切り離すことのできない結合関係を認めることができない。
また、この両者の間を「これにより」の文言で繋いでいるとしても、この文言だけでは、客観的に明白な因果関係の連続性を示す具体的な基準となるものは存在していない。
そうなると、
・ 「これにより」の部分を満たすか否かについての基準
・ 「これにより」その状態が発生したか否かという因果関係を認定する基準
・ 「これにより」その状態が引き起こされたのか否かという因果関係の有無をどのように認定するかという問題
は、曖昧不明確ということになる。
これでは、両部分の連続性を示す「これにより」に該当するか否かという因果関係の有無の判定(認定)そのものを、実質的には政府の自由裁量(広範な裁量)に委ねることになる。
基本的に行政権を持つ内閣のその時々の政治判断に一任することとなる。
これでは、政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」となることを制約することはできないのであり、9条の趣旨に反する。
よって、「存立危機事態」の要件は、9条に抵触して違憲となる。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその条文を適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。
これは、
そうなると、
それは結局、
・ 「他国に対する武力攻撃」が発生した時点で、その影響によって「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態にあるか否かを政治判断によって認定するだけで、「武力の行使」が可能となることを意味する。
・ 実質的に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」の発生が確認された時点で、政府が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分に当てはまるか否かのみを判定するだけで、「武力の行使」が可能となるとするものということになる。
・ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」の部分を満たした時点で、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過していないにもかかわらず、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことのみを理由として「武力の行使」に踏み切ることを可能とする基準を定めたものということができる。
・ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことを契機とすることで、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由とする「武力の行使」が可能であると考えようとするものということになる。
・ 実質的には「他国に対する武力攻撃」が発生したことをきっかけとして政府が「自国の利益」を追求するための「武力の行使」を行うことが可能となるか、あるいは「自国の利益」を追求するためであるか否かを判別できない中で「武力の行使」を行うことが可能となるものである。
「これにより」の文言に、政府が自国都合の恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切ることを排除することのできる要素は存在しないということである。
「武力の行使」の要件を曖昧な表現とすることは、「武力の行使」を発動するか否かの判断を政府に対して広範囲な裁量を与えることとなる。
これでは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」と、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態の間に相当因果関係が十分に認められないにもかかわらず、政府が恣意的な動機に基づいて「これにより」の文言にあたる場合であると認定し、自国都合の「武力の行使」に踏み切ることが起こり得る。
これでは、政府が自国都合の恣意的な動機によって「これにより」の部分を満たすと主張して「武力の行使」に踏み切ろうとすることを制約することができていない。
これでは結局、その実態は「自国民の利益」の実現を追求したり、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切る場合と何ら判別できないものとなる。
そうなると、「存立危機事態」の要件は政府の行為を限界づけようとする規範としては意味を成していないことになる。
「存立危機事態」の要件は、9条の有する政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする趣旨を満たしていないこととなる。
前文の「平和主義」の理念に裏付けられた9条の規定の精神を解釈する際に求められる政府の行為を制約する趣旨に沿うものでなく、9条の規範性を損なうこととなる。
政府の行う「武力の行使」が9条に抵触しない旨を示すものとはなっておらず、9条の規範性を損なうこととなる。
そのことから、9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない中で、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことのみを理由として「武力の行使」を行うことは9条の趣旨に反して違憲となる。
このような要件に基づいて「武力の行使」を発動できるとすることは、「自国民の権利」の実現や「自国の利益」を追求、政治的な都合などによって「武力の行使」に踏み切ることを禁じた9条の趣旨に違反する。
このような政府の恣意があるかないかを判別することができない中で行われる「武力の行使」は、まさに9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
よって、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲である。
具体的には、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
また、それらを実施する実力組織についても、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
さらに、それを行使する『権限』についても、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
「他国に対する武力攻撃」が「自国に影響を与える」という理由で「武力の行使」を可能とすることは、前文の「平和主義」の理念にも馴染まないものである。
【動画】安倍晋三・横畠裕介・中谷元:安保法制 6/26大串博志 2015/06
◇
もし何らかの因果関係が存在し、引き起こされる事態が「あり得る」と考えるとしても、それはそもそも「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」との内容が曖昧不明確であり、具体的にどのような状態を指しているか分からない(特定できない)ものとなっていることから、「あり得る」と判断されているものと考えられる。
また、「明白な危険がある」という内容は適用者の主観的判断に委ねるものとなっており、実質的に適用者の恣意を排除することのできる法規範としての機能を有しないものとなっていることから、「あり得る」と判断されているものと考えられる。
このような事情に基づいて「あり得る」としているのでは、結局、「これにより」という因果関係を認定する基準は政府の主観的な判断となっていることを意味する。
このような要件は、9条が政府の恣意的な判断によって「武力の行使」が行われることを制約する趣旨を満たし、9条の規範性を保つための基準となるものを有しているということはできない。
もし、このような要件の内容が曖昧不明確であるという不備を利用して「武力の行使」に踏み切ることを可能としようとするものであるならば、それは既に9条の規範性を損なった要件であるということができ、9条に抵触して違憲となる。
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政府は、「他国への攻撃によって国家の存立を脅かされた実例はあるか」と聞かれても答えることが出来ない。立法事実自体が認められないのである。安倍首相は、さかんに日本の輸入原油を運ぶタンカーの八割が通過するホルムズ海峡が機雷封鎖された事態を挙げるが、このような地理的に離れた事態までもが対象となりうるということ自体、行使の要件が漠然かつ不明確で広範であることを意味する。
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安保関連法案の問題点を衡く 平成27年6月
◇ 相当因果関係の不存在
「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃・自国に対する直接の武力攻撃)」の着手がない段階で、「他国に対する武力攻撃」に起因して「武力の行使」を行うものである。
(目的手段審査)
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態を回避するという目的が重要なものであるとしても、その目的を達成する手段として「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したことに起因する形で「武力の行使」を行うことは、
◇ 直接的な相当因果関係や実質的な合理的関連性を見い出すことができない。目的を達成するために採用する措置は、必要最小限度の手段とは言えない。
◇ 憲法の「平和主義」の観点から求められる「目的達成のために取り得るより侵害の程度の少ない他の手段が存在しない」とまでは言うことができない(LRAの基準:より制限的でない他の選びうる手段の基準)。
このような形で「武力の行使」を行うことは、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
行政事件で「相当因果関係」の文言が使われている事例がある。
個室付浴場民事事件(昭和53年5月26日)
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原審の認定した右事実関係のもとにおいては、本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によつて被上告人が被つた損害との間には相当因果関係があると解するのが相当であるから、被上告人の本訴損害賠償請求はこれを認容すべきである。
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憲法の前文には「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と書かれている。この趣旨から、たとえ他国の国民に対して行われる行為であっても、人権を侵害する行為や、人権を制約する影響の大きい行為については、行政法学における「法律による行政の原理」の「法律留保の原則」の侵害留保説を採用する必要があると考えることが妥当である。他国民であることを理由として、人権の適用が全く及ばないかのように扱うことはできない。
そのため、ある出来事が発生した場合に、「これにより」の部分を満たすか否かの因果関係の認定をどのような基準によって判断するかをすべて内閣に白紙委任をしていること自体が、手続きの適正を欠いており31条の「適正手続きの保障」の観点から違憲となると考えられる。
<理解の補強>
相当因果関係 コトバンク
因果関係(法学) Wikipedia
自由裁量処分 Wikipedia
公権力 Wikipedia
要件該当性の作出行為が可能
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」した際に、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分に該当するか否かという認定は、政治判断となる。
通常であれば、他国の間で武力紛争が発生したとしても、政府は自国に対して重大な影響が及ぶことがないように日頃から政策的に対応しておくべきものである。
そのため、政府は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したとしても、それによって攻撃国と我が国との間に武力紛争が発生することがないように、また、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態に至ってしまうことがないように、日ごろから政策的な努力が求められるはずである。
しかし、「存立危機事態」の要件の「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、日本国が政治政策において他国の間で発生した武力紛争(戦闘行為)による影響を受けやすい状態を自国の内部に意図的につくり出し、この要件に該当するような状態をつくり出すことが可能である。
「これにより」発生したか否かというのは、影響を受けやすい(脆弱性のある)状態を政策的に意図して生み出すことによって、この部分に該当させることが可能となる。
「存立危機事態」の要件は「武力の行使」に踏み切ることを可能とする場合のラインを設定するものであるから、このような敢えて不作為によって自国の脆弱性をつくり出すことによって「武力の行使」が可能となるような基準が設定されていることは、政府の自国都合の恣意的な動機による「武力の行使」を生み出す蓋然性の高い状態に置くこととなるのであり、9条が政府の恣意的な動機によって自国都合の「武力の行使」が行われることを禁じようとしている趣旨に反する。
そのため、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
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今回の安保法制案に盛り込まれた武力行使の新要件は、国民にとって有効な限定とはいえません。それは、存立危機事態や重要影響事態を認定する要件の中に「幸福追求権」が含まれ、その説明の中に経済的利益が含まれているからです。
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さらに「幸福追求権」というものは、憲法上「包括的基本権」という性質を持ち、解釈によって新たな権利を生み出す基盤とされている権利なので、これを根拠にするということは、政府が軍事行動を起こす理由を恣意的に創作する可能性に道を開いてしまいます。
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志田陽子(武蔵野美術大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日 (下線は筆者)
「他国防衛」や「自国都合」が排除されていないこと
9条に抵触しないことを示すためには、政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを排除することが必要となる。
よって、政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを排除できていない中での「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となると考える必要がある。
◇ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」
たとえ「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ他国同士の間で武力紛争が発生しただけである。
そのため、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たしただけでは、未だ『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」となることを排除することはできていない。
このような『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」を実施する実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものであると説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
また、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たすというだけでは、政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」が行われることを排除することができていない。
このような、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ることが排除されていない中での「武力の行使」については、9条に抵触して違憲となる。
これらのことから、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したことに起因して「武力の行使」を行った場合、9条に抵触して違憲となる。
このことは、「密接な関係にある他国」であっても、「密接な関係にない他国」であっても同様である。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に9条の規範性を保つための何らかの基準となるものが設定されているのではないかと考えるとしても、これを満たしただけでは未だ『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」となることを排除できていない。
そのため、その要件に基づいて行われる「武力の行使」は、『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」ということになる。
『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を実施する実力組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
このことから、9条の規範性を通過する基準となるものは、「存立危機事態」の要件の別の部分に求めなければならないこととなる。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことに9条の規範性を保つための基準を設定したと考えることは、『他国防衛』の意図や目的を含む「武力の行使」が行われることを排除できないのであって、それを実施する実力組織の実態は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
◇ 「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」
9条は「自国民の利益」の実現を追求したり、その時々の政治的な事情、「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)などを理由として、政府が自国都合の恣意的な判断によって「武力の行使」に踏み切ることを制約する趣旨で設けられた規定である。
そのため、「自国の存立」や「国民の権利」の危機などを理由として政府が自国都合による「武力の行使」に踏み切ることを排除するために必要となる基準を満たさない中において、「武力の行使」を行うことができるとすることは、政府の恣意性が入り込む余地が排除できない中における「武力の行使」となり、9条に抵触すると考えなければならないものである。
そう考えなければ、9条が存在する意義そのものが失われることとなり、規定の存在を前提としてその趣旨を生かして整合的に解釈を行おうとする法解釈という営みそのものが成り立たなくなるからである。
単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が発生したというだけでは、未だ自国都合の「武力の行使」となることを排除することかできていない。
自国都合の「武力の行使」となることが排除できていない中で「武力の行使」を行うことは、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段の禁じる「交戦権」の行使に抵触して違憲となる。それを実施するための実力組織についても、9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
また、9条の下では、もともと『自国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」でさえも、必ずしも許容しているわけではない。
単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ことを理由として「武力の行使」を行うことは、この9条の趣旨を満たさないことから、9条に抵触して違憲となる。
そのため、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生していることを理由として「武力の行使」を行うことは、9条に抵触して違憲となる。
◇ 「これにより」
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ『他国防衛』のための「武力の行使」となることを排除できていない。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分についても、政府が恣意的な動機に基づいて「武力の行使」を行うことを排除することができていない。
そうなれば、これらの両部分を「これにより」と繋いだとしても、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」となることと、自国都合の「武力の行使」となることが併存しているだけである。
結局、自国都合の「武力の行使」となることを排除することができないことから、9条に抵触して違憲となる。
【まとめ】
「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、単に「他国に対する武力攻撃」が発生したことを契機とする「武力の行使」であるということができる。
『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」を実施するための実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものであると説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
このような「他国に対する武力攻撃」が発生したことを契機とする「武力の行使」であり、『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」となることを排除することはできていないにもかかわらず、それを『自国防衛』のための「武力の行使」であると述べることは、論理的に成り立たない。
相当因果関係や合理的関連性を認めることができない意味の通らない説明である。
これは、「考慮するべきでないことを考慮したもの(他事考慮)」であり、手続きの適性が確保されていないために31条の「適正手続きの保障」の観点から違憲・違法となる。
9条の下では、『他国防衛』のための「武力の行使」は違憲であることは当然であるが、『自国防衛』と称しても必ずしも「武力の行使」が正当化されるというわけではない。
「武力の行使」を行う場合には、9条の規範性を保つための基準となるものを通過することが必要となる。
9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない段階では、たとえ『自国防衛』のための「武力の行使」であるとしても、9条に抵触することは変わらない。
〇 『他国防衛』のための「武力の行使」であること
「存立危機事態」の要件は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したのであれば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が発生していることを理由として「武力の行使」を行うことが可能となるかのように考えようとするものである。
しかし、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たしただけでは、未だ『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」となることを排除することができない。
それにもかかわらず、それを満たしたのであれば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態であることを理由として「武力の行使」に踏み切ることを可能とするものとなっている。
これは、「他国に対する武力攻撃」が発生したことに起因する「武力の行使」であり、『他国防衛』のための「武力の行使」である。
閣僚の「麻生太郎」も『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」であることを認めている。
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麻生氏は「(台湾で)大きな問題が起きると、存立危機事態に関係してきても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」と述べた。
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台湾有事で集団的自衛権行使も 麻生氏 2021年07月05日 (下線は筆者)
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そのうえで「台湾で大きな問題が起きると、間違いなく『存立危機事態』に関係してくると言っても全くおかしくない。日米で一緒に台湾を防衛しなければならない」と述べ、中国が台湾に侵攻した場合「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。
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“台湾有事は「存立危機事態」にあたる可能性” 麻生副総理 2021年7月6日 (下線は筆者)
『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行う実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」は、9条の制約の下でも13条の「国民の権利」(自国民)を保障する趣旨を根拠として、その目的達成の限りで例外的に「武力の行使」を可能とする解釈の枠組みからは導くことができない。
なぜならば、13条の「国民の権利」の規定が適用されるのは基本的に日本国の領域内にいる日本国民(性質上可能な限り外国人にも及ぶ)に限られ、他国の領域や他国の国民には及ばないからである。
この13条の「国民の権利」の保障の趣旨を拡大適用することで、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」にまで可能としようとすることは、9条の趣旨に明らかに反する。
そのため、この『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」は、9条の制約の下での例外性を基礎づける根拠となるものはなく、9条に抵触して違憲となる。
〇 『自国防衛』と称する「武力の行使」であること
これに対し、政府は「存立危機事態」を適用する「武力の行使」について、「他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するため」の「武力の行使」であると主張している。
政府がこの主張をしている背景には、『他国防衛』のための「武力の行使」は9条に抵触して違憲となるが、『自国防衛』のための「武力の行使」であれば、9条への抵触を回避することができるのではないか、という期待があると思われる。
➀ 政府は、「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合であれば、それによって9条の規範性を通過した(あるいは9条の規範性が緩められた)と考えて、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ということを理由として「武力の行使」を行うことが可能となるのではないか、との期待があるものと思われる。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」 (⇒これで9条の規範性を通過したと考える)
↓ ↓ ↓ ↓
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」
② 政府には、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が発生しているだけでは「武力の行使」が禁じられるが、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したことによって引き起こされたと判断したならば「武力の行使」が可能となるのではないか、との期待があるものと思われる。
これは、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分には9条の規範性を保つための基準となるものを通過するための要素は存在していないことを前提とし、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に9条の規範性を保つための基準となるものを通過するための要素を見出そうとする考え方である。
しかし、これは単に『他国防衛』の意図・目的となることが排除されていない中で、『自国防衛』を称して「武力の行使」を行うものに過ぎない。
『他国防衛』と『自国防衛』の意図・目的が併存した形で「武力の行使」を行っているだけである。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したことに起因する形で「武力の行使」を行うにもかかわらず、その「他国を防衛する」という意図・目的を有しておらず、「わが国を防衛する」ことのみを目的とした「武力の行使」であるという説明は、論理的に矛盾した意味の通らない説明である。
未だ『他国防衛』の意図・目的となることが排除されていないにもかかわらず、そこに『他国防衛』の意図・目的が含まれていないかのように主張することは論理的に成り立たない。
これにより、「存立危機事態」の要件は、単に「他国に対する武力攻撃」が発生した場合であれば、『自国防衛』を称して「武力の行使」を行うことが可能であるかのような前提に立つものとなっている。
「存立危機事態」の要件は、「他国に対する武力攻撃」が発生した段階で、『自国防衛』と称する「武力の行使」を可能としようとするものとなっている。
つまり、「存立危機事態」の要件は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たした時点で、実質的には政府の恣意性の入る余地のある(政府の恣意的な動機に基づく)「武力の行使」が行われることを許容するものとなっているのである。
これでは、政府が「自国民の権利・利益」の実現を追及したり、自国の主張を通すことを意図して「武力の行使」に踏み切ることが可能となってしまう。(選択できるものとなっているのである。)
9条は「自国民の利益」の実現を追求したり、その時々の政治的な事情、「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)などを理由として、政府が自国都合の恣意的な判断によって「武力の行使」に踏み切ることを制約する趣旨で設けられた規定である。
そのため、「我が国を防衛するため」との理由や、『自国防衛』を称したとしても、それだけでは9条の制約の下で例外的に「武力の行使」を行うことができるとする根拠を示したことにはならない。
(例外性を基礎づけることはできていない。)
(13条の「国民の権利」の保障の趣旨を汲み取るとしても、同様である。)
このような形で「武力の行使」を行うことができることを前提とする要件を設定することは、9条が政府の恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約する趣旨を満たすものではない。
これにより、『自国防衛』のための「武力の行使」であると主張しても、政府の恣意性を排除できていない中での「武力の行使」であるから、自国都合の「武力の行使」となり、9条に抵触して違憲となる。
「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。それを実施する実力組織についても、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
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〇 『他国防衛』を目的とする「武力の行使」
⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲
〇 「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由とする『自国防衛』のみを目的とする「武力の行使」
⇒ 9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲
⇒ 9条1項の禁じる「武力の行使」を実施する実力組織は、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲
⇒ 9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲
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要件の性質
〇 「他国に対する武力攻撃」は必要なのか
①
下記の二つは、別の要件として設けられている。
◇ 新三要件の第一要件前段の「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」
(自衛隊法76条1項1号・武力攻撃事態法2条2号の『武力攻撃事態』の前段に対応するもの)
◇ 新三要件の第一要件後段の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」
(自衛隊法76条1項2号・武力攻撃事態法2条4号の『存立危機事態』に対応するもの)
もし新三要件の第一要件前段の「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」という事態と、新三要件の第一要件後段(存立危機事態)の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分の事態が完全に重なっているのであれば、新三要件の第一要件の前段(武力攻撃事態に対応するもの)と後段(存立危機事態)を分けて設けている意味はない。
このことは、新三要件の第一要件の後段(存立危機事態)の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分に該当する事態のすべてが、新三要件の第一要件の前段の「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」(武力攻撃事態に対応するもの)を満たす事態であること(に含まれること)を前提としていない。
これにより、新三要件の第一要件の前段の「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」(武力攻撃事態に対応するもの)と、後段(存立危機事態)の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、異なるものであり、事態は重なっていないことになる。
つまり、新三要件の第一要件の前段の「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」(武力攻撃事態に対応するもの)と、後段(存立危機事態)を別の要件として設けているということは、立法者自身が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」を意味するわけではないということを認めているということになる。
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⇒ 我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
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という事態が発生しても、この部分は「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」を満たすわけではない。これだけで「武力の行使」を発動することはできない。
②
「存立危機事態」の要件の中には、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分が存在する。
このことから、たとえ「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生たとしても、これを満たしただけでは「武力の行使」は不可能であることを意味する。
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我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
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という事態が起きても、
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我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、
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を満たしていなければ、「武力の行使」は不可能。
このように、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」というだけでは足りず、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たしていなければ「武力の行使」は可能とならないとするものである。
①と②から導き出されることは、「存立危機事態」を適用して行う「武力の行使」とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したのであれば、未だ「我が国に対する武力攻撃」が発生しているわけではないにもかかわらず「武力の行使」を行うものであるということである。
〇 「密接な関係にない国」はどうなのか
「存立危機事態」の要件の問題点を考える上で参考になるのは、下記の場合に「武力の行使」が可能となるか否かを分けて考えることである。
「存立危機事態」の要件は、下記の違いによって、「武力の行使」を行うことができるか否かに違いが出てくることを前提とするものとなっている。
➀ 何ら「武力攻撃」が発生していない中で、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生している場合
② 「我が国と密接な関係にない他国」に対する武力攻撃が発生したことによって、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」が引き起こされた場合
③ 「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生したことによって、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」が引き起こされた場合
大前提として、➀と②の場合には、「武力の行使」を踏みとどまらなければならない。
➀
つまり、
たとえ単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生たとしても、それだけでは「武力の行使」を行ってはならない。
②
また、
「『我が国と密接な関係にない他国』に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」には、「武力の行使」を行うことができない。
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「我が国と密接な関係にない他国」に対する武力攻撃が発生
⇒ 我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
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✕ 「武力の行使」が不可能
これは、いくら「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が引き起こされていても、「我が国と密接な関係にない他国」に対する武力攻撃によって引き起こされたものであれば、「武力の行使」は踏み留まる必要があることを意味する。
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⇒ 我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
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という事態が引き起こされても、
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「我が国と密接な関係にない他国」に対する武力攻撃が発生
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によって引き起こされたものであれば、「武力の行使」は不可能。
このことから分かることは、「我が国と密接な関係にある他国」という文言を入れているということは、「我が国と密接な関係にない他国」に対する武力攻撃が発生し、これにより「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が発生したとしても、それだけで「武力の行使」を行ったならば、その実態が9条の禁じる「先に攻撃(先制攻撃)」に抵触して違憲となってしまうことを、この「存立危機事態」の要件をつくった立法者自身が認めているということである。
また、この状況下での「武力の行使」は、9条の制約の下でも13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として例外的な「武力の行使」を可能とする枠を超え、違憲となることを立法者自身も理解していると考えられる。
③
それにもかかわらず、「存立危機事態」の要件は、
「『我が国と密接な関係にある他国』に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」には、「武力の行使」を行うことができるとするものとなっている。
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「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生
⇒ 我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
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〇 「武力の行使」が可能
〔『他国防衛』からの違憲〕 『他国防衛』の意図・目的を有していないか
「存立危機事態」の要件は、下記を前提とするものである。
◇ 単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態になっただけでは「武力の行使」を行ってはならない。
◇ 「我が国と密接な関係にない他国」に対する武力攻撃が発生した場合に、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態になったとしても、「武力の行使」は行うことはできない。
しかし、
◇ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合に、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態になったと認定したならば「武力の行使」を行うことが可能となるとするものである。
たとえ「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生していても、それだけでは「武力の行使」を行ってはならないが、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たした場合には、「武力の行使」を行うことが許されることを前提とした要件であるということは、この「存立危機事態」の要件を適用して行う「武力の行使」は「我が国と密接な関係にある他国」を防衛する意図・目的を含む「武力の行使」しか存在しないはずである。
なぜならば、もし「我が国と密接な関係にある他国」を防衛する意図・目的を含まず、『自国防衛』の意図・目的しか有しない「武力の行使」であるならば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生しているだけで「武力の行使」を可能としなければならないのであって、要件の中に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を含ませる必要がないからである。
同様に、「『我が国と密接な関係にない他国』に対する武力攻撃が発生」し、これにより「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生した場合についても、「武力の行使」を行うことが可能となるとしていなければおかしいからである。
そのため、
・ 「『我が国と密接な関係にある他国』に対する武力攻撃が発生し、」を満たすか否かによって「武力の行使」の可否が決せられる形の要件となっていること
・ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したことを契機として「武力の行使」を行うことが可能となるとするものとなっているということ
は、その「我が国と密接な関係にある他国」を防衛する意図・目的を含む「武力の行使」となることを意味する。)
このことから、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うものであると言うことができる。
この『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を実施する実力組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
9条の規範性を保つための基準となるものはどこにあるのか
政府はどこに9条の規範性を保つための基準となるものがあると考えているのかを検討する。
◇ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に9条の規範性を通過する基準となるものがあるか
「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たしただけでは、未だ他国同士の間で武力紛争が発生しただけである。
それだけでは、9条の規範性を保つための基準となるものを通過したと見なすことができるわけではない。
政府も「自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したことというだけでは大変広過ぎる」と答弁しており、政府の立場としても「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に9条の制約の趣旨を満たし、9条の規範性を保つための基準となるものが存在しないことは認めている。
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○横畠政府特別補佐人
(略)
今回は、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使ということでございますので、単に国際法上の要件となっています自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したことというだけでは大変広過ぎるということでございまして、昭和四十七年見解の基本論理に適合する範囲に限定するというために、このたびの新三要件におきましては、他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合という形に限定したものでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第10号 平成27年6月15日
(この答弁は、1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分に新三要件の「存立危機事態」の要件が当てはまるかのように説明しているが、論理的に当てはまらないため誤りである。)
このように、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」を満たしただけでは、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならず、9条が政府の行為を制約する趣旨を通過したと解することはできないことは認めている。
そのため、9条の解釈において求められる9条の趣旨による制約の基準を確定する規範となるものが「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分に設定されていると考えることはできない。
これより、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を満たすだけでは、9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならない。
この部分を満たすことを理由とするだけで、日本国の統治権の『権限』が「武力の行使」を行った場合、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
このことから、9条の規範性を通過する基準となるものは、「存立危機事態」の要件の別の部分に求めなければならないこととなる。
◇ 「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分に9条の規範性を通過する基準となるものがあるか
次に、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分が、9条の制約の趣旨を満たすものとなっているか否か、これを満たした場合に9条の規範性を通過したと見なすことが可能か否かを検討する。
もし「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分に9条の規範性を通過する何らかの基準を設定したと考えているのであれば、もともと要件の中に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分は必要ないはずである。
なぜならば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分に9条の規範性を通過する何らかの基準があると考えるのであれば、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生していても、発生していなくても、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生していれば「武力の行使」が可能となるはずだからである。
つまり、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が発生すれば、9条の規範性を通過したと考えて、「武力の行使」が可能とならなければおかしいのであり、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分を設けている意味がないということである。
これについて、立法者自身も「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分だけでは一体どのような状態を指しているのか曖昧不明確であり、政府が自国都合の恣意的な判断によって「武力の行使」に踏み切ることを制約する基準となるもの有しておらず、9条の制約の下ではこれを満たすことのみによって「武力の行使」を行うことが可能となるとすることは、9条の規範性を損なうものであり、許されないということを理解していると思われる。
下記の答弁で、「我が国の判断で、我が国の思いだけで武力の行使に及んでしまうというおそれというものがむしろ大きくなる」と述べている通りである。
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○横畠政府特別補佐人 お示しの図のとおり、個別的自衛権の、着手というか、我が国に対する武力攻撃の発生という上の線を超えたときには個別的自衛権で対処するということで、論理的には、存立危機事態というのはそれよりも下のところに線が引かれるというのは御指摘のとおりでございます。
また、それぞれ、その認定の幅というものがあって、余り細い線では引けないということもあろうかと思います。
ただ、その前提といたしまして、我が国に対する、先ほどのパネルかもしれませんけれども、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態というもの、それ自体を要件として、それ自体を要件として我が国の武力行使の可否というものを決めていく、仮にそういうことといたしますと、非常に不安定というか、まさに我が国の判断で、我が国の思いだけで武力の行使に及んでしまうというおそれというものがむしろ大きくなるのではないか。
むしろ、国際法上の縛りというのがきっちりありますので、やはり、我が国に対する武力攻撃が発生した場合の個別的自衛権の要件というものがあり、それを満たすときには個別的自衛権で行います。
それから、集団的自衛権の行使の場合には、被害国の要請、同意みたいなものも要件とされていますので、そういうものも当然加えた上で、集団的自衛権を満たす場合という国際法上の縛りもしっかり踏まえた上での、かつ、憲法上の縛りでありますところの我が国自衛というか、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという明白な危険がある、それもやはり要件として加えた場合に限って武力の行使ができる、そういうことの方が規範性が高いというか、不用意な武力の行使に及ぶ危険性が低い制度ではないかと思います。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第15号 平成27年6月29日
【動画】横畠裕介vs「何も説明されてない」長妻昭6/29 2015/06
だからこそ、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の文言を加え、これによってあたかも9条の規範性を通過するための何らかの基準を有する要件となったかのように言い張ろうと試み、9条の規範性を通過する何らかの基準があるかのように見せかけようとしているものと思われる。
実際、政府は「いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、」「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合において、」「総合的に考慮し、」「客観的、合理的に判断する」と説明し、この「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」の部分が存在することによって、「存立危機事態」の要件に9条の規範性を通過する何らかの基準があるかのように考えている主張が見受けられる。
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いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、実際に我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合において、事態の個別具体的な状況に即して、主に、攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、事態の規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性等から客観的、合理的に判断することになるため、限られた与件のみをもって一概に述べることは困難である。
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【資料】衆議院及び参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」に提出された政府統一見解等 PDF (P116)
ただ、先ほども指摘したように、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」を満たしただけでは、9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならないのであり、それを満たしただけでは、9条の制約の趣旨を満たしているとは言えない。
◇ 「これにより」の部分に9条の規範性を通過する基準となるものがあるか
残るのは、両者を結ぶ「これにより」の文言が存在することで9条の規範性を満たすかどうかである。
しかし、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分と、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「これにより」の文言で繋いだとしても、もともとどちらの部分も9条の規範性を保つための基準となるものを通過していないのであるから、これらを「これにより」の文言で繋いだところで、9条の制約を通過する規範に変わるわけではない。
そのため、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条の規範性を保つための基準となるものを通過していない中で「武力の行使」を行うものであることから、9条に抵触して違憲となる。
〇 政府の説明の整合性の乱れ
政府は下記のように説明している。
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○横畠政府特別補佐人 個別的自衛権の前提となります我が国に対する武力攻撃が発生した場合、それは言わずもがな、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態に対処する場合であるということで、これまでもそこのところは書いていなかったわけでございます。
今回は、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使ということでございますので、単に国際法上の要件となっています自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したことというだけでは大変広過ぎるということでございまして、昭和四十七年見解の基本論理に適合する範囲に限定するというために、このたびの新三要件におきましては、他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合という形に限定したものでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第10号 平成27年6月15日
政府は「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態」であるか否かを判定する基準として「我が国に対する武力攻撃が発生した場合」という基準を用いていることを述べている。
その後、政府答弁でも「自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したことというだけでは大変広過ぎる」と述べている。
これは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、それだけでは未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならないことを述べるものである。
次に、政府は下記のように述べている。
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○横畠政府特別補佐人 お示しの図のとおり、個別的自衛権の、着手というか、我が国に対する武力攻撃の発生という上の線を超えたときには個別的自衛権で対処するということで、論理的には、存立危機事態というのはそれよりも下のところに線が引かれるというのは御指摘のとおりでございます。
また、それぞれ、その認定の幅というものがあって、余り細い線では引けないということもあろうかと思います。
ただ、その前提といたしまして、我が国に対する、先ほどのパネルかもしれませんけれども、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態というもの、それ自体を要件として、それ自体を要件として我が国の武力行使の可否というものを決めていく、仮にそういうことといたしますと、非常に不安定というか、まさに我が国の判断で、我が国の思いだけで武力の行使に及んでしまうというおそれというものがむしろ大きくなるのではないか。
むしろ、国際法上の縛りというのがきっちりありますので、やはり、我が国に対する武力攻撃が発生した場合の個別的自衛権の要件というものがあり、それを満たすときには個別的自衛権で行います。
それから、集団的自衛権の行使の場合には、被害国の要請、同意みたいなものも要件とされていますので、そういうものも当然加えた上で、集団的自衛権を満たす場合という国際法上の縛りもしっかり踏まえた上での、かつ、憲法上の縛りでありますところの我が国自衛というか、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという明白な危険がある、それもやはり要件として加えた場合に限って武力の行使ができる、そういうことの方が規範性が高いというか、不用意な武力の行使に及ぶ危険性が低い制度ではないかと思います。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第15号 平成27年6月29日
【動画】横畠裕介vs「何も説明されてない」長妻昭6/29 2015/06
「国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態というもの、それ自体を要件として、それ自体を要件として我が国の武力行使の可否というものを決めていく、仮にそういうことといたしますと、非常に不安定というか、まさに我が国の判断で、我が国の思いだけで武力の行使に及んでしまうというおそれというものがむしろ大きくなる」と述べている。
このため、「存立危機事態」の要件を生み出した立法者も、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」というだけで「武力の行使」を発動すれば違憲となることは理解していると考えられる。
上記の二つの答弁から、政府自身も、下記の二つを認めていることになる。
◇ 「自国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したことというだけでは大変広過ぎる」ことから、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分は、9条の趣旨を満たすものではなく、9条の規範性を保つための基準となるものが存在するわけではない。
◇ 「国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態というもの、それ自体を要件として、それ自体を要件として我が国の武力行使の可否というものを決めていく、仮にそういうことといたしますと、非常に不安定というか、まさに我が国の判断で、我が国の思いだけで武力の行使に及んでしまうというおそれというものがむしろ大きくなる」ことから、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、9条の趣旨を満たすものではなく、9条の規範性を保つための基準となるものが存在するわけではない。
これら9条の趣旨を満たさず、9条の規範性を保つための基準となるものを有しない部分を繋げたところで、9条の趣旨を満たすものになるわけではなく、9条の規範性を保つための基準となるものに変わるわけでもない。
そうなると、「存立危機事態」の要件は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」という、9条の規範性を保つための基準となるものを未だ通過していない中で「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が発生していると認定することで「武力の行使」を行うことができるとするものとなっていることを意味する。
これは結局、9条の規範性を保つための基準となるものをを未だ通過していないのであるから、単に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」というだけをもって「武力の行使」に踏み切ろうとしていることと何ら異ならないものである。
相手国との関係においては、「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)を理由として「武力の行使」に踏み切るものであり、「先に攻撃」を行うものである。
このような「武力の行使」は、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分と、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を「これにより」の文言で繋いでいることを理由として、9条の規範性を保つための基準を通過する要件に変わるのではないかとの主張が考えられる。
これを意図して、立法者は要件の中に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」と「これにより」の文言を入れているものと思われる。
しかし、9条の規範性を保つための基準を通過していない出来事を示した要件をいくら並べても、9条の規範性を通過していないという事実は変わらない。
もしこのような主張が通用するとすれば、「武力の行使」の発動要件として「他国に対する『武力による威嚇』が発生し、さらに『他国に対する武力攻撃』が発生し、その武力攻撃が72時間が経過しても止まない事態」など、9条の規範性を保つための基準を通過しない出来事を様々に繋げることで、「9条の規範性を保つための基準を通過する」と主張することが可能となってしまうこととなる。
このような主張は法解釈として成り立たず、妥当でない。
それにもかかわらず、「存立危機事態」の要件は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状況の外苑を画しておらず、それ自体で「武力の行使」に踏み切ろうとするものとなっている。
9条の制約の下では、このような要件を「武力の行使」の発動要件として設定することを正当化することはできない。
これにより、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
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このことに関して伊藤氏は、「自国が攻撃を受けた場合」という明確な線引きがなくなることで、武力行使の問題が「程度の問題」となってしまうと指摘。「明白な危険」であるかどうかが、時の政府の判断に委ねられることは、明らかに立憲主義に反すると強調した。
「他国が攻撃を受けた場合に、それが日本にどう影響を与えるのかの判断をしなければなりませんが、それを誰が行うのか。時々の政府が、勝手に解釈し、判断することになります。これは憲法による縛りがなくなったのと同じことです」。
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「7・1閣議決定は違憲 法的な効力はない」 〜岩上安身によるインタビュー 第435回 ゲスト
伊藤真弁護士 2014.7.5
【動画】安倍政権の悲願? 安保法制の焦点とは 2015/05/19
【動画】どうなる“安保法制”の国会審議 2015/06/19
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○国務大臣(岸信介君) それは私は日本の国力とかだけからではなくして、いろいろな観点から、日本の自衛のために必要な最小限度の力というものは考えていかなければならぬ。むしろ自衛力の増強につきましても、量よりも質に重きを置いてわれわれは研究開発していくというようなことも方針に掲げておりますから、数学的に日本の持っておる力と米軍の力を加えたものが、この自衛のための最小限度だというふうな方式には私ならぬように思います。また、今おあげになりましたように、なるほど、極東における安全が保持されるということ、またそれが脅かされるということは、日本の安全にも波及し、これに影響を持つということは、これは当然でありますけれども、日本が持つところの、自衛権を裏づける必要最小限度のものは、将来はひいて日本に影響を持つというような事態をも、われわれは武力でもってこれを防ぐというような意味はないことは、しばしば、われわれの自衛というものは、緊急不正な侵害があった場合に、他の方法で排除できない場合に、万やむを得ずしてその実力によって排除する、こういう非常に限定された意味からも当然御了解いただけることだと思います。
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「規範性を有する」としている
下記の政府解釈から、「規範性」について検討する。
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(明確性について)
4 憲法の解釈が明確でなければならないことは当然である。もっとも、新三要件においては、国際情勢の変化等によって将来実際に何が起こるかを具体的に予測することが一層困難となってい る中で、憲法の平和主義や第9条の規範性を損なうことなく、いかなる事態においても、我が国と国民を守ることができるように備えておくとの要請に応えるという事柄の性質上、ある程度抽象的な表現が用いられることは避けられないところである。
その上で、第一要件においては、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、 これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」とし、他国に対する武力攻撃が発生したということだけではなく、そのままでは、すなわち、その状況の下、武力を用いた対処をしなければ、国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかであるということが必要であることを明らかにするとともに、第二要件においては、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」とし、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする「武力の行使」についても、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られ、当該他国に対する武力攻撃の排除それ自体を目的とするものでないことを明らかにし、第三要件に おいては、これまで通り、我が国を防衛するための「必要最小限度の実力の行使にとどまるべきこと」としている。
このように、新三要件は、憲法第9条の下で許される「武力の行使」について、国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力の行使それ自体ではなく、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置に限られることを明らかにしており、憲法の解釈として規範性を有する十分に明確なものである。
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新三要件の従前の憲法解釈との論理的整合性等について 平成27年6月9日 PDF (P3~4)
(この『新三要件の従前の憲法解釈との論理的整合性等について』の内容の論拠の不備については、当サイト「集団的自衛権の合憲性の誤解 4』のページで詳しく解説している。)
下線部で「憲法の平和主義や第9条の規範性を損なうことなく」と述べられている。
まず、「武力の行使」の発動要件とは、この要件を満たした場合には9条に抵触しないことを明らかにする意味がある。そのため、「武力の行使」の発動要件を設定する場合には、その内容が9条の規範性を損なうものとなってはならない。
このことから、もし「武力の行使」の発動要件が曖昧不明確な内容となっていた場合、その要件に基づいて行われた「武力の行使」は、政府の恣意的な動機によって行われたのか否かを識別することができなくなる。これは、9条が政府の恣意的な動機による自国都合の「武力の行使」が行われることを排除しようとした趣旨を満たさないため、9条の規範性を損ない、9条に抵触して違憲となる。
「存立危機事態」の要件であるが、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、具体的にどのような場合を指しているのか曖昧不明確な内容であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において具体的場合にこれを適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。
この要件に基づいて「武力の行使」が行われた場合に、政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われたのか否かを識別することができない。
これでは、政府の恣意的な動機による自国都合の「武力の行使」を排除することができず、9条が政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを制約しようとした趣旨を満たさないこととなる。
これにより、9条の規範性は損なわれているということができる。
「存立危機事態」の要件は、政府自身が設定している「9条の規範性を損なってはならない」という前提条件を満たしていないということになる。
これにより、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
下線部で「憲法の解釈として規範性を有する十分に明確なものである」と述べられている。
しかし、その理由として挙げられている「あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置に限られることを明らかにしており」と述べている部分が十分な内容であるか検討する。
まず、「我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度」との部分であるが、「必要最小限度」の意味を特定する必要がある。
◇ 「必要最小限度」の部分が、従来より政府は「自衛のための必要最小限度(我が国を防衛するため必要最小限度)」と呼んでいるものであれば、三要件(旧)の基準をすべて満たすことを意味する。そのため、この意味の「必要最小限度」を指しているのであれば、三要件(旧)の第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たさない中での「武力の行使」はすべて違憲となる。
「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」については、これを満たさない中で「武力の行使」を行うものであるから、「自衛のための必要最小限度(我が国を防衛するため必要最小限度)」の範囲を超えており、9条に抵触して違憲となる。
9条に抵触するということは、9条の規範性を損なっていることを意味し、「憲法の解釈として規範性を有する十分に明確なものである」との結論を導き出すことはできない。
◇ 「必要最小限度」の部分が、三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべこと」という「武力の行使」の程度・態様を表す意味であれば、「我が国を防衛するため」と「やむを得ない」の部分が「武力の行使」の発動要件であると考えられる。
しかし、9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)などを理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するために設けられた規定である。このことから、9条の下では「我が国を防衛するため」であるからといって、必ずしも「武力の行使」が許容されるわけではない。
そのため、「我が国を防衛するため」と述べたとしても、これを理由として「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。
そのため、これを理由として、「憲法の解釈として規範性を有する十分に明確なものである」との結論を導き出すことはできない。
政府の説明には理由がないということになる。
次に、「自衛の措置に限られることを明らかにしており」との部分を検討する。
「新三要件は、憲法第9条の下で許される『武力の行使』について、」と述べられているとおり、この話題は「武力の行使」について述べられているものである。
また、「集団的自衛権」とは、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に対する国連憲章51条に示された違法性阻却事由の『権利』の概念である。そのため、これを行使するということは、実質的には国家の統治権の『権限』によって「武力の行使」が行われている状態を指す。
このように、「武力の行使」を行う場合について述べられているにもかかわらず、「自衛の措置」という文言を使えばあたかも9条に抵触しないかのような認識に基づいて「自衛の措置に限られる」という言葉が使われているように思われるが、正当化根拠にはならない。
「新三要件は、憲法第9条の下で許される『武力の行使』について、……の自衛の措置に限られる」という文にも問題がある。
まず押さえる必要があるのは、「武力の行使」とは「自衛の措置」の選択肢の一つである。
「自衛の措置」の中身(選択肢)
◇ 「国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等」 (砂川判決)
◇ 「他国に安全保障を求めること」 (砂川判決)
◇ 日本国の統治権の『権限』による「武力の行使」 (政府独自の解釈)
この文は、冒頭で既に「武力の行使」と述べて、より狭い範囲について話し始めているにもかかわらず、文尾では「自衛の措置」というより大きな概念を用いて説明している点で、論理的な正確さを有していない。
「自衛の措置」と述べれば9条に抵触しないかのような認識があるようにも思われるが、1972年(昭和47年)政府見解で「平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されない」と述べられている通り、「自衛の措置」と称したからといって無制限に認められるわけではなく、9条に抵触する場合がある。そのため、「自衛の措置」と述べたからといって、9条に抵触しないことにはならない。
① 「武力の行使」の旧三要件については、「武力の行使」の発動要件として「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」という基準を設定していた。
これは、客観的に明確な基準であり、事態の『性質』面を判断するものである。
② 「武力の行使」の新三要件の「存立危機事態」については、「武力の行使」の発動要件として「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、 これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される 明白な危険があること」という基準を設定している。
しかし、「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ9条の規範性を保つための基準となるものを通過したことにはならず、その中での「武力の行使」を行うことは9条に抵触して違憲となる。
また、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分についても、具体的にどのような状態を指しているのか曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解においてこれを適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。
そのため、実質的には政府がこれに「該当する」と言えば該当することになって「武力の行使」が9条の制約を回避して合憲となり、「該当しない」と言えば該当しないことになって「武力の行使」が9条に抵触して違憲となるとすることができることとなる。
これでは、未だ「我が国に対する武力攻撃」が発生していないにもかかわらず、「他国に対する武力攻撃」の発生が確認された時点で、政府の行う「総合的な判断」に委ねることとなり、実質的にはその時々の政治判断(裁量判断)となる。
これは、9条に抵触するか否かに関する基準を不明確としており、客観性や明確性を損なっており、事態の『数量』面を判断することで「武力の行使」を可能とすることとなる。
このような要件を設定することは、9条が法規範として政府の行為を制約しようとした趣旨を満たしておらず、9条の規範性を失わせることとなる。
このような要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
このため、「憲法の解釈として規範性を有する十分に明確なものである」との結論を導き出すことはできない。
これらにより、「存立危機事態」の要件は、「憲法の平和主義や第9条の規範性を損なうもの」、「憲法解釈として規範性を有しない不十分なもの」と言わざるを得ず、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲となる。
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日本国憲法とは別次元のアプローチ、すなわち国家主権という観点から、集団自衛権を国家が有すること、そして、その集団的自衛権「行使」の合法的要件と「存立危機事態」なる概念を抽象的に定めるという手法は、要件の制限規範性を弱体化しており、政府の裁量権が幅広くなりすぎている。
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日笠完治(駒沢大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
「憲法の規範力をないがしろにしている点が問題」
近畿大学大学院法務研究科教授・上田健介氏 憲法学者アンケート調査
「存立危機事態」での「武力の行使」の要件は、9条解釈において求められる政府の行為を制約しようとする意図を満たしておらず、9条の規範性を損なっていると考えられる。具体的にどのように損なわれているのか検討する。
まず、「存立危機事態」の要件は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した時点で、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態であるか否かを政治的に判断することによって「武力の行使」を行うことが可能となる要件となっている。
このような、自国の状態を政治判断することが要素となっている点で、下記のような状態となる。
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◇ 日本国政府の恣意的な動機に基づいて自国都合によって「戦争」を始めたり、「武力の行使」に踏み切ったりさせないこと
⇒ 日本政府の恣意的な動機に基づいて自国都合によって「武力の行使」を行うことが可能となっており、この意図は損なわれている。
◇ 日本国内の政治的な都合や政争における利害関係によって「戦争」を始めたり、「武力の行使」に踏み切ったりさせないこと
⇒ 日本国内の政治的な都合や政争における利害関係によって「武力の行使」を行うことが可能となっており、この意図は損なわれている。
◇ 日本国政府が「これは勝てる」との自信を得たとしても、他国の国民を犠牲にするような発想で「戦争」を始めたり、「武力の行使」を踏み切ったりすることがないようにすること
⇒ 日本国の政府が「これは勝てる」との確信を得た場合に、「武力の行使」を抑止する力とはなりえず、他国の国民を犠牲にするような発想で「武力の行使」を行うことがないようにする意図を損なわせている(前文の全世界の国民の平和的生存権につながる)。
◇ 国際関係上の圧力に屈して、日本国政府が「戦争」や「武力の行使」に参加することがないようにすること
⇒ たとえ「日本国に対する武力攻撃」が発生していなくても、他国からの圧力や外交関係や経済的利害関係を勘案し、政策判断として「武力の行使」に踏み切る道を開くものであることから、この意図は損なわれている。
◇ 不安に煽られた国民世論に押されても、日本国政府が時期を見計らって他国を制圧することを意図したり、計画したり、実行したりさせないこと
⇒ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した時点で、自国の利益のために数量的評価による政策判断によって「武力の行使」に踏み切ることが可能であることから、政治判断を不安に煽られた国民世論に押されやすい状態に置くこととなることから、この意図は損なわれている。
◇ 日本国からは決して攻撃しないこと
⇒ 「日本国に対する武力攻撃」が発生するまでは決して日本国から「武力の行使」を行わないという抑制的な意図は損なわれている。
◇ 日本国政府に対して極限まで外交努力をさせること
⇒ 9条の政府に対して極限まで外交努力を行わせようとする意図は損なわれている。
◇ 他国を犠牲にして自国の存立を成り立たせようとする「力による支配」の姿勢を奪うこと
⇒ 「自国に対する武力攻撃」が発生していないにもかかわらず、他国を力で制圧できる可能性を感じた際に、政策判断として「武力の行使」に踏み切ることを抑止することができないことから、この意図は損なわれている。
◇ 他国を犠牲にして自国の存立を成り立たせようとする政治政策や主義主張の広まりを防ぐ
◇ 日本国内の軍需産業の肥大化を押さえ、国内の戦争機運の高まりを抑えること
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【参考】アベノミクスは失敗だ…と考える思考が実はとても危険な理由 2019.07.19
「全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」としている
政府は、「存立危機事態」に該当するか否かについて、「政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」と説明としている。
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P83
1 いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、事態の個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断することとなるため、一概に述べることは困難であるが、実際に我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合において、事態の個別具体的な状況に即して、主に、攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、事態の規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断することとなる。
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P86 P88
1 いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、事態の個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断することとなるため、一概に述べることは困難であるが、よりわかりやすく説明を行うとの観点から、存立危機事態に当たり得る具体的なケー
スの一つとして、米国の艦艇が武力攻撃を受ける事例を挙げて説明している。
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P116
いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、実際に我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合において、事態の個別具体的な状況に即して、主に、攻撃国の 意思、能力、事態の発生場所、事態の規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性等から客観的、合理的に判断することになるため、限られた与件のみをもって一概に述べることは困難である。
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【資料】衆議院及び参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」に提出された政府統一見解等 PDF
(立法と調査 事項別索引 外交・防衛 ~外交・国際関係、防衛~ 参議院)
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○横畠政府特別補佐人 どのような事態がこの新三要件、特にその第一要件にございます、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があることに該当するかは、個別の具体的な状況に即して、主に攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民がこうむることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断することとなるというふうにこれまでも御説明しているところでございます。
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第189回国会 衆議院 予算委員会 第13号 平成27年3月3日
結局、政府が「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」というのである。
しかし、「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」するという文言には注意する必要がある。
それは、従来の旧三要件の第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」に該当するか否かを「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」することと、新三要件の第一要件の「存立危機事態」の要件に該当するか否かを「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」することとでは意味が異なるからである。
従来
従来から、9条に抵触しない範囲の「武力の行使」であることを示すための基準として「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」という規範を設定していた。
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【旧三要件】
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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そして、この要件に該当するか否かを政府が「客観的、合理的に判断」していた。
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○高辻政府委員 大体いままで申し上げたことでもう尽きておると思うのでありますが、要するに武力攻撃が発生したときということでありますから、まず武力攻撃のおそれがあると推量される時期ではない。そういう場合に攻撃することを通常先制攻撃というと思いますが、まずそういう場合ではない。次にまた武力攻撃による現実の侵害があってから後ではない。武力攻撃が始まったときである。こういうことをいっておるわけです。始まったときがいつであるかというのは、諸般の事情による認定の問題になるわけです。認定はいろいろ場合によって、その場合がこれに当たるかどうかということでありまして、何といいますか、ごく大ざっぱな言い方でこの場合が当たるとか当たらぬとかいうことを軽々に申し上げるのはいかがかということで、政府はその点の認定を軽々しくやらないという態度でいるわけです。そういう認定のもとになる考え方の基本、これがきわめて大事なことであろうと思いますが、その基本はいままでに申し上げたとおりであります。
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第63回国会 衆議院 予算委員会 第15号 昭和45年3月18日
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なお、現実の事態において我が国に対する急迫不正の侵害が発生したか否かは、その時の国際情勢、相手国の明示された意図、攻撃の手段、態様等々により判断されるものであり、限られた与件のみ仮設して論ずべきではないと考える。
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憲法第九条の解釈に関する質問に対する答弁書 昭和60年9月27日
この要件に該当するか否かの判断は「覊束裁量」である。
この基準により、政府の恣意的な動機による「武力の行使」を制約することができていた。
これについて、敢えて「存立危機事態」の要件の文言を使うのであれば、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態であるか否かを判別する基準として「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」という規範を設定しているということである。
◇ 従来
「我が国に対する急迫不正の侵害があること」
⇒ これを満たしたならば、9条に抵触しない。9条に抵触する否かの基準は、これが規範である。
⇒ この要件に該当するか否かを政府が「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」する。
2014年7月1日閣議決定以降
2014年7月1日閣議決定によって、新三要件の「存立危機事態」が加えられた。
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【新三要件】の〔存立危機事態〕
〇 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
〇 これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
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いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断することとなる
◇ 実際に我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合において、
◇ 我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があることに該当するかは、
事態の個別具体的な状況に即して、(個別の具体的な状況に即して、)
◆ 攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、事態の規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮する
◆ 我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断する
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「存立危機事態」の要件は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した段階で、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分を満たすか否かを判断することになり、これを満たすと判断した場合には「武力の行使」を行うことができるとするものである。
しかし、この要件には9条が政府の自国都合による「武力の行使」が行われることを制約する趣旨を満たす要素が存在しない。
まず、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した段階では、未だ他国の間で武力紛争が発生しただけであり、この中で日本国の統治権の『権限』が「武力の行使」を実施したのであれば、国際紛争に対して武力介入したことになることから、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
そのため、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生しただけでは、未だ9条の規範性を保つための基準となるもの通過したと見なすことはできない。
次に、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分について検討する。
9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約する規定である。そのことから、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分を満たすことのみを理由として「武力の行使」に踏み切ることは、政府が「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」に踏み切る可能性を排除できない中で「武力の行使」を行うこととなるから、9条に抵触して違憲となる。
そのため、この「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態を防ぐために「武力の行使」を行うことができるか否かを識別するために、政府の恣意的な都合によって「武力の行使」が行われることを排除することのできる明確な基準を設定することで、政府の恣意的な動機によって行われる「武力の行使」を制約し、9条に抵触しない旨を示す必要がある。
その基準は、政府が要件に該当する事態を意図して作出することができない受動性や、ある出来事が発生したか否かを誰もが容易に識別できる客観性を備えていることが求められる。
しかし、「存立危機事態」の要件の中には、他には「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の文言と、「これにより」の文言しか存在しない。
先ほども述べた通り、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」だけでは、9条が政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを制約し、9条の規範性を保つための基準となるものを有していない。
「これにより」に関しても、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」と「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の間には必然的な因果関係や切り離すことのできない結合関係があるわけではなく、また、「これにより」を満たすか否かの判断も自由裁量としての政治的な判断となってしまうことから、ここに9条が政府の恣意的な判断となることを排除しようとする趣旨を満たし、同時に、9条の規範性を保つための基準となるものを見出すことはできない。
「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分は、通常の判断能力を有する一般人の理解の理解においてこれを適用できるか否かを識別するための基準を示すところがなく、具体的にどのような状態を指しているのか曖昧不明確である。そのため、それに該当するのか否かを明確に判別することができないものとなっている。
このことから、「存立危機事態」の要件は、政府が「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として自国都合の恣意的な動機に基づく「武力の行使」に踏み切ることを排除するために必要となる受動性や客観性を有した明確な基準(政府が作出することのできない受動性や、ある出来事があったかなかったかを識別しやすい客観性を備えた、政府の恣意的な都合によって『武力の行使』が行われることを排除することのできる明確な基準)となるものが設定されていないこととなる。
こうなると、結局、政府は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」を満たすか否かを「政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」と説明しているのであるから、政府がこれに「該当する」と言えば該当し、「該当しない」と言えば該当しないこととなる。
これに該当するか否かを「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」したとしても、政府が「該当する」と言えば該当し、「該当しない」と言えば該当しないとすることができることとなってしまう。
すると、これに該当すると判断した場合には「武力の行使」が可能となることを前提とする要件となっていることから、政府の行う「武力の行使」が合憲となるか違憲となるかを、政府自身がその時々の事情に合わせて自由に決することができることとなる。
もし9条の下でこのような形で「武力の行使」の発動要件を設定することが許容されるのであれば、政府がこれに「該当する」と言えば「武力の行使」が9条の範囲内として合憲となり、「該当しない」と言えば「武力の行使」が9条に抵触して違憲となるとすることができることとなってしまう。
すると、政府が「存立危機事態」に該当すると評価するだけで「武力の行使」を行うことに対する違憲性を回避し、合憲とすることができることを意味することから、実質的には「武力の行使」が9条に抵触して違憲となるか否か、9条に抵触する「武力の行使」であるか否かを識別するための基準それ自体を、政府に白紙委任し、その時々の政治判断に任せるものなる。
これは「武力の行使」が9条に抵触しないために示されるべき規範となる基準そのもの、9条に抵触するか否かという基準そのものを政府に白紙委任し、その時々の政府の政治的な判断に託すものとなっている。
これにより、「武力の行使」を行うことができる場合であるか否かを識別するための基準そのものを失わせていることとなり、実質的には政府は自由裁量判断として「武力の行使」を発動できるかのように扱うものとなっている。
その時々の政治判断として「政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断する」、「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」するというだけで、「存立危機事態」に該当し、9条の制約を回避して「武力の行使」が可能となるのである。
このように、「存立危機事態」の要件は、政府の恣意性を排除することのできる明確な基準となるものが設定されておらず、実質的に政府が恣意的な動機によって「武力の行使」に踏み切っていたとしても、それを判別することができないものとなっている。
これにより、「存立危機事態」の要件は、9条が政府の恣意的な動機に基づく「武力の行使」を排除しようとする趣旨を満たしておらず、9条の規範性を損なうものとなっており、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
◇ 「存立危機事態」
「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」
⇒ 曖昧不明確な内容があり、9条に抵触しないことを示す基準となるものを有していない。
⇒ この要件に該当するか否かを政府が「総合的に考慮」し、「客観的、合理的に判断」するということは、9条に抵触するか否かの基準そのものをその時々の政治判断に任せるものとなる。
⇒ 要件の中の「危険」という文言は、政府の主観的判断に頼るものとなっているが、そう判断すれば9条の制約から逃れられるかのように考えるものとなっている。
9条が憲法規定として設けられている理由は、国権(統治権)の範囲を制限することによって、「自国民の利益」の実現を追求することや、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の恣意的な動機に基づいて「武力の行使」に踏み切ることを禁じることにある。
しかし、「存立危機事態」の要件は、法規範として客観的に明確な基準を有さず、「武力の行使」が可能となる範囲をその時々の政治事情や政府の都合によって拡大させることができる状態となっていることから、9条が政府の自国都合による「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさないものとなっている。
このような要件では9条が憲法規定として存在し、政府の行為を制約する趣旨が生かされないのであって、9条の規定の趣旨に反し、憲法解釈の限界を超え、9条の規範性が損なわれていることを意味する。
これにより、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
【動画】【ハイライト】岩上安身による水島朝穂・早稲田大学法学学術院教授インタビュー 2015/07/12
〇 「総合的に考慮」の意味
政府の使う「総合的に考慮」とはどのような意味であるかを明らかにするために、政府答弁で「総合的に考慮」という文言が使われた他の事例を確認する。
黒川氏処分 森法相「総合的に考慮」を連発 根拠示さず 2020年6月11日
【動画】小西洋之VS安倍晋三&森まさこ 黒川氏の処分では懲戒処分の加重要件を当てはめていないが現時点では「当てはまる」と答弁。現時点で該当するものをなぜ処分で使わなかったのか?と質問され答弁不能で委員会中断! 2020/06/10
政府会見で「総合的・俯瞰的観点」という言葉が使われた事例を確認する。
加藤官房長官、学術会議の任命拒否理由を問われ“不明瞭な”答弁(会見詳報) 2020.8.02
【動画】学術会議 委縮につながらず/加藤官房長官 定例会見【2020年10月2日午前】
学問の自由と全く関係ない=学術会議の新会員任命見送りで菅首相 2020年10月5日
任命除外は「総合的・俯瞰的観点」 加藤長官、3回連発 2020年10月6日
政府、10回以上「総合的・俯瞰的」 学術会議の答弁 2020年10月7日
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まして、ある事態が新三要件に該当するか否かの判断基準は、「主に、攻撃国の意思・能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、我が国に戦禍が及ぶ蓋然性、国民が被ることとなる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断する必要がある」というだけでは、政府の判断の客観性、合理性をまったく認めることはできない。
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稲正樹(国際基督教大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
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政府は,存立危機事態の認定には,「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」という厳格な歯止めがかかっており,しかも国会による承認という民主的コントロールも受けると説明するが,今般の国会における審議で明らかとなったことは,「明白な危険」の有無は時の政府が総合的に判断するということだけであった。しかも,国会による承認も過半数で足りるとするならば,「明白性」という文言が付されていたとしても,必ずしも十分な歯止めにはなり得ないことは論理上明らかである。したがって,具体的な立法事実が認められない中で,このような曖昧な基準で存立危機事態の認定が可能となる法律の制定を到底容認することはできない。
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安全保障関連2法の制定に抗議する会長声明 金沢弁護士会 2015年9月24日 (下線は筆者)
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さらに、「存立危機事態」の具体的場面の明言を避けたうえで「総合的に判断する」などという衆議院での審議における政府の答弁は、白紙委任を求めているも同然であって、不明確な法律を認めることは政府の恣意的な運用を許すことになる。
すなわち、政府が思い通りに憲法解釈を変更することや、「存立危機事態」を恣意的に認定することによって武力を行使することを認めてしまえば、我が国が「人の支配」に成り下がることになる。これは、まさ しく、「法の支配」の危機であって、断じて許されない。
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安全保障関連法案に反対し、その廃案を求める会長声明 平成27年8月21日 (下線は筆者)
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つまり「存立の危機状態」自体が曖昧な概念であり、どのような場合を想定しているのか国会審議でも政府答弁こそ具体性がなく、その判断は政府が第一義的には行うのですから違憲の出動命令が出される可能性は十分にあるわけです。
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自衛官の安保出動拒否、審理差し戻し、「司法の黙認が許されないことを示した」猪野弁護士が指摘 2018年02月04日 (下線は筆者)
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従前の政府解釈における武力行使の要件は,〈日本国に対する急迫不正の侵害の発生〉=〈日本国の領域に対する武力攻撃の発生〉であった。日本国への武力攻撃の発生は,国民の幸福追求権が根底から覆される事態といえるから,必要な実力行使が許される,という論理である。それに対して,新三要件は,日本国への武力攻撃の発生という限定を外している。「武力攻撃の発生」は客観的に確定できるが,「明白な危険」の有無は政府の評価に依存している。集団的自衛権の行使は「限定的」であるといっても,〈数量〉の問題として捉えたうえで「全面的には行使しない」としているだけであって,許容される限度は不分明である。「必要最小限度の範囲」の量的把握に基づく新三要件の下では,「自衛の措置」が合憲とされる範囲の判定は,個々の場合の政府の裁量的判断に大幅に委ねられることになる。それでは,政府の政策判断との区別が不明確となりかねない58。
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集団的自衛権と憲法9条解釈のスタンス 齊藤正彰 北星学園大学 2016-03 (P9) (下線は筆者)
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まず外形的な面で両者は本質的に異なる。日本による武力の行使が許される、従来の個別的自衛の場合は、日本に対する「武力攻撃の発生」という現に起きた事実関係を要件としている。他方、存立危機事態における「限定的集団的自衛」においては、前段として日本と「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」するという事実関係を要するものの、日本が武力行使をするか否かの最終判断は、その他国に対する武力攻撃の発生を、日本が手をこまねいて放置すれば日本が「武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が(日本に)及ぶことが明らか」か否かという、予測をもとになされるわけである。従来の個別的自衛が事実関係という外形的に明瞭な客観条件に拠っているのに対し、存立危機事態における集団的自衛は予測という外形的に不分明な主観条件に拠っている点において、両者の性質は相違しているのである。
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「平和安全法制」(安保法制あるいは「戦争法」)の是非を考察するための総論的枠組み -詐欺的手法で立憲主義を破壊し日本の安全は確保できるのか- 饗場和彦 徳島大学リポジトリ 2016/12/28 (P13) (下線は筆者)
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相矛盾する2つの主張が示すもの
存立危機事態は、安保関連法の必要性を基礎づける事実(立法事実)として主張されていたのであるから、それが現実に想定しうるものではないのであれば、安保関連法のうち少なくとも事態対処法の改正部分は不要ということになる。速やかに同法を廃止すべきだろう。
また仮に、現実に想定しうるのに、有利な判決を得るために虚偽の主張をしていたというのであれば、司法に対する冒涜であり、許されない。
いずれにしても、政府が相矛盾する2つの主張を場面ごとに都合良く使い分けていた事実が示すのは、存立危機事態にあたるかどうかは政府の意向次第でいかようにでも決められるということである。つまり、この要件は、政府の判断を縛る歯止めとしての機能を果たしうるものではないということだ。
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つれづれ語り(「安保法裁判」で明らかになったこと) 2018年2月21日 (下線は筆者)
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集団的自衛権を認めることは、自衛の名のもとで武力行使を行う危険がある。
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小松浩(立命館大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
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以上に加えて、2013(平成25)年12月に制定された特定秘密保護法により、防衛、外交、スパイ、テロ等の安全保障に関する情報が、政府の判断によって国民に対して秘匿される場合、「外国に対する武力攻撃」の有無・内容、その日本及び国民への影響、その切迫性等を判断する偏りのない十分な資料を得ることすらできず、政府の「総合的判断」の是非をチェックすることができない。
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安保法制違憲訴訟 大分では2017年1月10日提訴 2017年1月10日
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「切れ目のない」安全保障とは、言い換えるならば、自衛隊の活動の是非・範囲を、時の政権・与党の主観的、政策的判断に委ねようとするものであり、それは、安全保障政策を時の政権の判断に委ねず、一定のルールの下に置いて統制しようとする日本国憲法の根本的思想、パラダイムと全く相容れないものだ。憲法の理想が現実との妥協を余儀なくされるものであるとしても、時の政権の判断によって歴史的、国際的に非難の対象となる武力の行使をおこなってしまうという事態を回避するため、最低限の歯止めを設ける。それは憲法9条の核心的要請であり、今回の安保法制は、その核心的要請と抵触するが故に違憲であると考える。
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神戸大学准教授・木下昌彦氏 憲法学者アンケート調査
<理解の補強>
「自衛隊員の尊厳を守っているのはむしろ #9条 なのです」 Twitter
準備書面(22) 宮崎礼壹元内閣法制局長官の陳述書の内容説明 PDF
準備書面(22) 宮崎礼壹元内閣法制局長官の陳述書の内容説明の口頭弁論要旨 PDF
(新安法制違憲訴訟国家賠償請求事件 安保法制違憲訴訟の会ながさき)
宮﨑礼壹元内閣法制局長官 (主尋問は60分 反対尋問なし) PDF
第12回口頭弁論(差止) 報告集会 2019年10月30日 PDF
━ ニュース ━
「安保法は違憲」 元長官の宮崎氏 前橋地裁で全国初の証人尋問 2019/06/14
「安保法明白に9条違反」 宮崎元法制局長官が証言 2019年6月14日
「安保法は違憲」証言 元内閣法制局長官の宮崎礼壹氏 前橋地裁で全国初の証人尋問 2019/6/14
安保関連法訴訟、10月に証人尋問 横浜地裁、全国2例目 2019.6.29
「憲法と両立し得ず」 元法制局長官、安保法訴訟で証言 2019年11月01日
元法制局長官が「武力介入で違憲」 安保法訴訟、証人尋問 2019.11.8
新三要件は何を「排除」するのか
新三要件の「存立危機事態(第一要件)」の場合に、何を「排除(第二要件)」するのかが問題となる。第二要件には「これを排除し、」とあるが、この「これ」の指す意味が明確でないからである。
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「武力の行使」の新三要件〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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下記の①であるのか、②であるのか、あるいはその両方であるのかを明らかにする必要がある。
① 「他国に対する武力攻撃」を「排除」するのか
② 「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」を「排除」するのか
①の場合には、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するのであるから、どう考えても「陸海空軍その他の戦力」とは異なるものとは説明できず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
また、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「他国に対する武力攻撃」が「排除」されるまで「武力の行使」を行い続けることができるものとなっており、9条が国権を制約しようとする趣旨を満たさず違憲となる。
②の場合には、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」を「排除」することになるが、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」に踏み切るものであるから、「先に攻撃(先制攻撃)」を行うものである。9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府の自国都合による「武力の行使」が行われることを制約するために設けられた規定であり、このような「武力の行使」は9条の趣旨を満たさないため、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。また、「先に攻撃(先制攻撃)」を行うにもかかわらず、それを「交戦権」の行使でないと考えることもできず、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
また、「他国に対する武力攻撃」を契機とするが、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」が「排除」されるまで「武力の行使」を行い続けることができるものとなっている。しかし、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」の部分はもともと曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解においてこれを適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。そのため、この曖昧不明確な状態を「排除」するとしても、その状態が具体的にどのような状況を指すかという内容は、これを適用するものの主観的判断に委ねられることとなってしまう。これでは9条が政府の恣意的な判断によって「武力の行使」が行われることを制約しようとした趣旨を満たさず、9条に抵触して違憲となる。
さらに、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」を「排除」するために「武力の行使」を行うことは、「国家が自己を防衛するために行う戦争」となるから、「自衛戦争」に該当する。よって、「自衛戦争」を行うことは、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
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○政府委員(秋山收君)
(略)
まず第一に戦争という言葉でございますが、これは一般に国際紛争を解決する最後の手段として国家の間で対等の立場で国権の発動として武力を行使し合うものを指すものと考えられております。国際法上特に制限された手段以外の自由な害敵手段を用いて相手国を屈服させるまで行うものであるというふうに考えております。
自衛戦争というのは、国際法上確立した概念があるものではございませんが、したがいまして、法的な概念ではなく、一般的な概念として、国家が自己を防衛するために行う戦争を指すものと考えております。
それで、このような戦争一般でございますが、交戦権を当然に伴うものであるとされておりますが、ここに言う交戦権、あるいはこれは憲法九条の交戦権も同じでございますが、単に戦いを交える権利という意味ではございませんで、伝統的な戦時国際法における交戦国が国際法上有する種々の権利の総称でありまして、相手国兵力の殺傷及び破壊、相手国の領土の占領、そこにおける占領行政、それから中立国船舶の臨検、敵性船舶の拿捕などを行うことを含むものを指すものというふうに従来からお答えしてきているところでございます。
自衛戦争の際の交戦権というのも、自衛戦争におけるこのような意味の交戦権というふうに考えています。このような交戦権は、憲法九条二項で認めないものと書かれているところでございます。
(略)
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第145回国会 参議院 外交・防衛委員会 第5号 平成11年3月15日
①と②の両方である場合でも、やはり9条1項、2項前段、2項後段のすべてに抵触して違憲となる。
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山口二郎(法政大学・政治学)
(略)
しかし集団的自衛権の場合は、それとはまったく、その構成が違う訳でありまして、その下に書いてありますように、直接武力攻撃を受けていないのに、放置すると我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるか、ないか、という不明確な基準によって、その時々の政府が実力行使の判断をするという問題点。そして、「自国の安全への危害の可能性を未然に防ぐこと」と、「緊密な関係を有する他国を防衛すること」という二つの異なる集団的自衛権行使の目的が存在するなかで、自衛隊の任務が何で、その達成のための必要最小限度の実力行使とは何かを、政府がどのように判断するのか、明確な基準が存在していない訳であります。
さらには、攻撃を受けた密接な関係を有する他国からの要請を受けて、集団的自衛権を行使し、自衛隊が、他国軍と協力して敵国に対して実力行使をしている事態になって、「必要最小限度を超えた」という理由で日本政府が単独で戦争から「早期退出」を判断できるというのは、これは非現実的極まりない話であります。ということで、集団的自衛権というのは、いったん行使をすれば、歯止めがない。軍事力の行使は無制限のものになるという事は、明らかであります。
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2014年6月9日立憲デモクラシーの会緊急記者会見 (下線は筆者)
中谷元防衛大臣の答弁から、「存立危機事態(第一要件)」を「排除(第二要件)」する「武力の行使」であることを確認する。ここで第三要件の「必要最小限度」が持ち出されるとしても、もともと「存立危機事態」を「排除」する「武力の行使」を行うこと自体が9条に抵触するため、その「武力の行使」の程度・態様が「必要最小限度」であるとしても、9条に抵触して違憲であることは変わらない。
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○中谷国務大臣 法文では、存立危機事態においては、存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない、ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなさなければならない。つまり、必要最小限度というのは常にかかっておりまして、こういった排除をするまで必要最小限度はかかり続けるということでございます。(発言する者あり)
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○中谷国務大臣 こう言った意味は、第一要件のを排除するために武力行使を行っておりますけれども、常にこれは必要最小限であるべきであって、その目的は、第一要件の事態を排除するということが目的でもあるし、また必要最小限であるということでございます。
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○中谷国務大臣 それは当然、今まで個別的自衛権でもそうでありましたが、憲法上の範囲でありまして、必要最小限度ということでございます。(発言する者あり)
【筆者】
論者は「憲法上の範囲」との文言を用いているが、従来その「憲法上の範囲」を決めているのは「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)を全てであった。しかし、論者が質問の流れによって答弁している「必要最小限度」の意味は三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の意味である。
論者はこの異なる次元で用いられている「必要最小限度」の意味を区別できていないため、混乱した答弁となっている。
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○中谷国務大臣 もう一度申し上げますが、新三要件の第三要件、この必要最小限度とは、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される原因をつくり出している我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るための必要最小限度を意味します。
この判断は武力攻撃の規模、態様を初めとする具体的な状況に応じて行うこととなりますが、排除するために認められているというのは必要最小限度でありまして、必要な武力行使は認められますが、必要最小限度の範囲を超えてはならないということでございます。
【筆者】
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を排除」するための「武力の行使」を行う組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項の「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
「我が国の存立を全うし、国民を守るための必要最小限度」の部分であるが、9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するために設けられた規定であり、「我が国の存立を全うし、国民を守るため」を理由とするだけで「武力の行使」に踏み切れば9条に抵触して違憲である。また、その「武力の行使」の程度・態様が「必要最小限度(第三要件)」であったとしても、9条に抵触して違憲であることは変わらない。
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○中谷国務大臣 そのとおりでございます。第一要件をつくり出している武力攻撃を排除して、我が国の存立を全うして、国民を守るための必要最小限ということを意味しているわけでございます。
【筆者】
「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を実施するための組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲である。
9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するための規定であることから、「我が国の存立を全うして、国民を守るため」を理由としても、それだけで「武力の行使」を行うことは9条に抵触して違憲となる。そのため、「我が国の存立を全うして、国民を守るため」という意図・目的によって「武力の行使」を行うこと自体が違憲であることから、その程度・態様を「必要最小限度」の範囲に限ったところで、9条に抵触して違憲であることに変わりはない。
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○横畠政府特別補佐人 お尋ねは、存立危機事態を排除するということの意味内容だと思いますけれども、先ほど申し上げたように、完全に、二度とそういうことが起こらないようにたたき潰す的なことを言われているのであれば、そこまではできないことは当然あります。
機雷の例で申し上げれば、まさに我が国の国民の生命、生存に深刻、重大な影響を現に与えている元凶でありますその機雷というものを処理するということ、その限りでは第二要件、第三要件を満たすことがあるのだろうということをお答えしているわけでございまして、その意味で、存立危機事態を排除するということの意味内容でございますけれども、まさに必要最小限度の範囲におきまして存立危機事態を排除することはできるということでございます。
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第189回国会 衆議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第18号 平成27年7月8日
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「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しした「武力の行使」の三要件(以下「新三要件」という。)に該当する場合の自衛の措置としての「武力の行使」で、国際法上の根拠が集団的自衛権となるものについての「必要最小限度」とは、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される原因を作り出している、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るための必要最小限度を意味する。
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集団的自衛権における「必要最小限度の実力行使」に関する質問に対する答弁書 平成27年6月16日
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃を排除し、」との記載があることから、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」である。これを実施する組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
<理解の補強>
((2)恣意的な運用にならざるを得ない第二要件 PDF)
新三要件の第二要件について
「武力の行使」の三要件は、2014年7月1日閣議決定によって、従来の三要件(旧)から新三要件に変更された。
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「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
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「武力の行使」の新三要件
◯ わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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新三要件の第二要件は「これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」である。
この第二要件は、第一要件で新しく追加された「存立危機事態」の「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」の部分だけに掛かっているわけではない。従来の「我が国に対する急迫不正の侵害があること」を引き継ぐ「わが国に対する武力攻撃が発生したこと」の「武力攻撃事態」にも同様に掛かっている要件である。
分かりやすくまとめると、新三要件の適用されるに形には二種類のパターンがあるということである。
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「武力の行使」の新三要件 〔武力攻撃事態〕
◯ わが国に対する武力攻撃が発生したこと
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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「武力の行使」の新三要件 〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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ここで注目したいのは、「武力攻撃事態」における第二要件の「わが国の存立を全うし、国民を守るため」の部分の適用方法である。
旧三要件での第二要件の役割は、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除するために他の適当な手段がないこと(第二要件)」を意味していた。
これにより、「我が国に対する急迫不正の侵害」を「排除するために他に適当な手段がない」場合には、「武力の行使」が可能だったのである。
しかし、新三要件の「武力攻撃事態」の場合においては、たとえ「我が国に対する武力攻撃が発生(第一要件)」しても、「これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと(第二要件)」を満たさなければ「武力の行使」をすることができないのである。
つまり、無人島などが「武力攻撃」を受けても、「我が国の存立」が全うできないとは考えられず、「国民を守る」ことができないとも考えられないことから、「武力の行使」を行ってその「我が国に対する武力攻撃」を排除することができないのである。
「存立」とは、「存在して成り立っていくこと」を意味するから、無人島が「武力攻撃」を受けたところで、日本国の存立が全うできないとは考えることができず、これに当てはまらないのである。極論で言えば、国家の「存立」の形にはバチカン市国のようなミニ国家のようなものもある。もし日本国領土の大半を侵略されても、存立を全うできている部分がわずかでも残されているならば、この「わが国の存立を全うし、」には適合せず、「武力の行使」を行うことができないということになるのである。
もし、無人島などが「武力攻撃」を受けた場合でも「わが国の存立を全う」できない事態であると認定して「武力の行使」に踏み切ることを前提としているのであれば、同様の文言が使われている「存立危機事態」の要件の「わが国の存立が脅かされ」の部分は、何ら法的な歯止めを有しない規定であると立法者自身が認めていることになる。
つまり、「存立危機事態」の要件は、「他国に対する武力攻撃」が発生した段階で、何ら法的な歯止めなく「わが国の存立が脅かされ、」に該当するとして「武力の行使」を行うことができるとしていることを立法者自身が認めていることとなるのである。
まとめると、下記のようになる。
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「武力の行使」の新三要件〔武力攻撃事態〕
◯ わが国に対する武力攻撃が発生したこと ← (9条の規範性を保つための基準となるものと考える)
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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・第一要件を9条の制約から求められる9条の規範性を保つための基準となるものと考える。
・「わが国」の無人島に対する「武力攻撃」が発生した場合、第二要件の「わが国の存立を全う」できないとは考えられず、「武力の行使」を行うことができない。
・もしこの三要件で「わが国」の無人島に対する「武力攻撃」が発生した場合でも「武力の行使」を行うことが可能であると考えるならば、第二要件の「わが国の存立を全うし、」の部分には何ら規範的な意味は存在しないこととなる。
すると、同様の文言を持つ「存立危機事態」の要件の「わが国の存立が脅かされ、」の部分は、何ら規範的な意味を有しないことを立法者が認めていることとなる。
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「武力の行使」の新三要件〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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そうなると、新三要件の「存立危機事態」の場合には、未だ「我が国に対する武力攻撃」は発生しておらず、「他国に対する武力攻撃」が発生した段階に留まるにもかかわらず、このような「わが国の存立が脅かされ、」という抽象的な危険を理由として「武力の行使」を行うことができるとする要件を定めていることとなる。
これは、9条の規範性を損なっており、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。また、その「武力の行使」を実施する実力組織の実態についても、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
「存立危機事態」の要件の「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」の部分のみを9条の制約から求められる9条の規範性を保つための基準となるものが設定された部分であると考えるとしても、「他国に対する武力攻撃」のすべてが「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態を引き起こすわけではない。そのため、この両者の間には必然的な因果関係や切り離すことのできない結合関係が存在するわけでもない。
このことから、9条に抵触しないことを示し、9条の規範性を保つための基準となるものを「他国に対する武力攻撃」の部分に設定していると考えるのであれば、その要件に基づく「武力の行使」の実質は、『他国防衛』のための「武力の行使」ということができる。『他国防衛』のための「武力の行使」を行う組織の実態を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
もし『他国防衛』の意図・目的のない「武力の行使」であり、あくまで『自国防衛』のための「武力の行使」であると考えるとしても、9条に抵触しないことを示し、9条の規範性を保つための基準となるものを「他国に対する武力攻撃」の部分に設定していると考えるのであれば、結局「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由として突然『自国防衛』のための「武力の行使」を正当化し得ると主張していることとなる。
しかし、これでは「自国民の利益」の実現を追及したり、「自国の主張」を押し通す意図をもって「武力の行使」を行うことができると考えようとするものであり、このような「武力の行使」は、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
もし、第二要件の「わが国の存立を全うし、」の部分を「我が国に対する武力攻撃」(第一要件の武力攻撃事態)」が発生しているために「わが国の存立を全う」できない状態であると限定して解しているとするのであれば、「存立危機事態」の「わが国の存立が脅かされ、」の部分についても「我が国に対する武力攻撃」が発生していることを意味することとなってしまう。すると、結局「存立危機事態」の要件が「武力攻撃事態」に該当するものとなるのであり、「存立危機事態」の要件を「武力攻撃事態」の要件とは別に設けている意味がなくなってしまう。
このように、新三要件の第二要件の「わが国の存立を全うし、」の部分は、第一要件の「存立危機事態」の「わが国の存立が脅かされ、」の部分に何ら規範的な意味が存在しておらず、「存立危機事態」での「武力の行使」が9条に抵触して違憲となることを明らかにするか、あるいは、「存立危機事態」の要件が「武力攻撃事態」と重なってしまうことによって「存立危機事態」を新たな区分として設けたことと論理矛盾するかのいずれかの結論しか導かないのである。
これにより、「我が国に対する武力攻撃」が発生していないにもかかわらず、「存立危機事態」を認定して「武力の行使」を行うことは、9条に抵触して違憲となる。
「我が国の無人島に対する武力攻撃」が発生 (第一要件の『武力攻撃事態』の部分は満たしている) |
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新三要件の第二要件 | わが国の存立を全うし、 | この文言に「該当する」と考える場合 | この文言に「該当しない」と考える場合 | |
「武力の行使」が可能 | 「武力の行使」は不可能 | |||
この文言に規範的な意味はない。 | この文言に規範的な意味はある? | |||
第二要件の「わが国の存立を全うし、」だけでは、どのような状態を指しているのか分からず、政府の恣意性を排除することができる規範となるものを認めることができない。 |
第二要件の「わが国の存立を全う」できない状態を「我が国に対する武力攻撃」が発生している場合のこととして限定することで規範的な意味を見出す。 |
|||
↓ | ↓ | |||
存立危機事態 | わが国の存立が脅かされ、 | 同様に規範的な意味はない | 同様に規範的な意味はある? | |
「他国に対する武力攻撃」の発生に起因する「武力の行使」であり、実質的に『他国防衛』のための「武力の行使」となる。 |
同様に、「存立危機事態」の「わが国の存立が脅かされ、」だけでは、どのような状態を指しているのか分からず、政府の恣意性を排除することができる規範となるものを認めることができない。 |
同様に、「わが国の存立が脅かされ、」ている状態を「我が国に対する武力攻撃」が発生している場合のこととして限定することで規範的な意味を見出そうとすると、「武力攻撃事態」を指すこととなり、「存立危機事態」を分けて設けている意味がなくなる。 |
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違憲 | 違憲 | 論理矛盾 |
この議論は、何も「無人島」に限る話ではない。
たとえば、日本国内の「米軍基地」が武力攻撃を受けた場合、以前は旧三要件の第一要件と第二要件を満たし、「武力の行使」が可能であると判断できていた。
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「武力の行使」の旧三要件
〇 我が国に対する急迫不正の侵害があること ←(満たす)
〇 これを排除するために他の適当な手段がないこと ←(満たす)
〇 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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しかし、新三要件の「武力攻撃事態」においては、第一要件は満たすが、第二要件の「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない」の部分を満たさないのである。
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「武力の行使」の新三要件〔武力攻撃事態〕
◯ わが国に対する武力攻撃が発生したこと ←(満たす)
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと ←(満たさない)
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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新三要件の「存立危機事態」においては、第一要件の「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」の部分は満たすが、上記と同様に、後半の「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は満たさないのである。
第二要件ついては、新三要件の「武力攻撃事態」と同様に、第二要件の「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない」の部分を満たさないのである。
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「武力の行使」の新三要件〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること ←(満たさない)
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと ←(満たさない)
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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このように、日本国内の「米軍基地」に対する武力攻撃が、新三要件の「武力攻撃事態」の第二要件を満たすというのであれば、それは、新三要件の「存立危機事態」の第一要件の「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は何ら規範的な意味を有しないのであって、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生しただけで後は政策判断として「武力の行使」を可能とする要件であるということになるのである。
「他国に対する武力攻撃」に起因して「武力の行使」を行うということは、『他国防衛』のための「武力の行使」であり、それを実施するための実力組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
また、「他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、未だ政府の行為を制約しようとする9条の規範性を保つための基準となるものを通過したわけではないのであるから、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生しただけで後は政策判断として「武力の行使」を可能とする要件であるということは、結局自国の主張を通すために政策判断として「武力の行使」に踏み切ることを可能としていることになる。このような要件は、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項後段が禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
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どういうことかと申しますと、例えば尖閣諸島が日本の領土であるにもかかわらず、どこかほかの国がやってきて不法に占拠したとします。そのときに、あそこを占拠されると日本の存立は脅かされますか? 尖閣諸島が占拠されたら、日本国民の生命、自由、および、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険が存在することになるでしょうか。
例えば竹島、あるいは北方領土。政府の説明ですと、あれは日本の領土であるにもかかわらず、外国が不法に占拠している。その結果、どうでしょう、日本の存立は脅かされたでしょうか。日本国民の生命、自由、および、幸福追求の権利は根底から覆されそうになっているんだろうか。どうもそれではなさそうです。
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[2]大日本帝国憲法にさかのぼってみる 長谷部恭男 2015年11月17日
新三要件の第三要件
「武力の行使」の程度・態様は、第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」という基準である。この第三要件の文言自体は、2014年7月1日閣議決定の前後の旧三要件と新三要件との間で同じ文言を用いており変更はない。
しかし、「武力の行使」の発動要件である第一要件と第二要件が変更されていることから、その影響で「武力の行使」の程度・態様を統制しようとする第三要件の「必要最小限度」の意味が変化しており、統制方法も変容している。
具体的には、新三要件の内容は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃(第一要件・存立危機事態)」を「排除する(第二要件)」ための「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと(第三要件)」の意味となっている。
この要件に基づく「武力の行使」は、下記の理由で9条に抵触して違憲となる。
〇 「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を行うことは、他国の間で発生した紛争に武力介入することになるから、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
〇 「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を実施する実力組織を「陸海空軍その他の戦力」とは異なるものと説明することはできず、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
〇 「他国に対する武力攻撃」が発生した段階で「武力の行使」を行うことは、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。そのことから、「他国に対する武力攻撃」が発生した段階では、未だ9条の規範性を保つための基準を通過したことにはならない。また、9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)などを理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するための規定であることから、たとえ「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態を政府が主張したとしても、それだけで「武力の行使」を行うことは9条に抵触して違憲となる。しかし、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」とは、「他国に対する武力攻撃」が発生したことを契機として、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態であるか否かを判断し、これに該当すると認定された場合には「武力の行使」を行うことができるとするものとなっている。これは、「他国に対する武力攻撃」が発生したことを契機として「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」行うことができるとするものとなっている。結局「他国に対する武力攻撃」という9条の規範性を保つための基準となるものを未だ通過していない事態であり、未だ「我が国に対する武力攻撃」は発生していないにもかかわらず、それに起因して「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」を行っても構わないと考えるものとなっている。これは、9条の制約が生かされていることを示すために必要となる9条の規範性を保つための基準となるものを通過しない段階で、「武力の行使」に踏み切るものであり、我が国の意思を通すために「武力の行使」という手段を用いるものであるから、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。また、同様の理由で9条2項後段の禁じる「交戦権」にも抵触して違憲となる。
〇 三要件(旧)の基準とは、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除(第二要件)したならば、それ以上は「武力の行使」を行ってはならないとするものであり、その「武力の行使」の程度・態様についても、「必要最小限度(第三要件)」の範囲に留まらなければならないとするものである。
これについては、日本国の地理的条件や、憲法前文の「平和主義」の理念の下にある日本国の政府が外国との間で武力紛争が発生しないように行う日頃からの外交努力、国際関係、政治的な事情、日本国に対して抱く他国民の国民感情に配慮することによって他国の政府が抱く「日本国に対して『武力の行使』を行おうとする意思」を最小限にとどめようと努めることで、日本国が「武力の行使」を行わなければならない事態を我が国の意思で回避したり、極限まで減らすことが可能となる。
そのため、それを実施するために備えなければならない実力組織の規模を「必要最小限度」の範囲にとどめようとすることが可能であり、 三要件(旧)の基準の範囲内の「武力の行使」を実施するための実力組織については、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触しないと解する余地がある。
しかし、上記の「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃)」を「排除するため」の「武力の行使」を行う場合に比べ、他国の間で発生する紛争によって引き起こされた「武力攻撃」に対応するための、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」の範囲は、「他国に対する武力攻撃(新第一要件後段・存立危機事態)」を「排除(新第二要件)」するための「武力の行使」となることから、下記の点が異なる。
◇ 攻撃国と被攻撃国との間の地理的条件
◇ 攻撃国と被攻撃国との間の外交関係
◇ 攻撃国と被攻撃国との間の政治的な事情
◇ 攻撃国と被攻撃国の双方の国民感情
など
これらは、日本国の意思によってコントロールすることができない。
そのため、その「武力の行使」の程度・態様が、第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」とされているとしても、その限度を画することができない。
これにより、新三要件の「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を実施するための実力組織を整備することが前提となるが、その規模や量的な範囲は無限定となる。
そうなると、その実力組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものということはできず、「陸海空軍その他の戦力」に抵触しない範囲として許されている範囲を大幅に超え、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
さらに、第一要件後段の「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国」に該当する他国の範囲は無限定であり、一か国とは限らない。そうなると、複数国に対して行われた武力攻撃のそれぞれに対応するだけの「武力の行使」を行うことも考えられ、それを実施するための実力組織を保持することになるが、これでは「陸海空軍その他の戦力」に該当しないと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
第一要件の「存立危機事態」に基づいて「武力の行使」を発動することが既に違憲であることから、第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」の範囲にとどまるか否かを問う前に既に違憲なものではあるが、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を「必要最小限度」の範囲にとどめるとしても、実質的にその「武力の行使」やそれを実施するための実力組織の限度は無限定となっている。これにより、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」や9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
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9条1項 「戦争」「武力の行使」「武力による威嚇」
「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は曖昧不明確である。
このような要件に基づけば、政府がこれに「当てはまる」と言えば当てはまり、「当てはまらない」と言えば当てはまらないこととなってしまう。
すると、「武力の行使」を発動した場合に9条に抵触して違憲となるか否かという基準そのものを政府が事態を『数量』的に判断して決することができてしまうこととなり、9条が政府の恣意的な都合によって「武力の行使」が行われることを制約しようとした趣旨を満たさない。
これにより、9条の規範性を損なうこととなり、9条に抵触して違憲である。
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「武力の行使」の新三要件〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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「存立危機事態」での「武力の行使」は、「他国に対する武力攻撃」を「排除」する「武力の行使」である。
政府は2014年7月1日閣議決定以降、「存立危機事態」での「武力の行使」について『他国防衛』を目的とするものではないとの主張しているが、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」であるにもかかわらず、それが『他国防衛』を目的とするものではないとの主張は、論理的に成り立たない。
また、「他国に対する武力攻撃」を「排除」する「武力の行使」であるにもかかわらず、『他国防衛』を目的とするものではないと主張するのであれば、それは自国都合によって「武力の行使」に踏み切るものに他ならない。
このような「武力の行使」は、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
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「武力の行使」の新三要件〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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「武力の行使」の程度・態様は、三要件の第三要件の「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」で統制されることとなっている。
しかし、新三要件の「存立危機事態(第一要件)」を「排除(第二要件)」するための「必要最小限度(第三要件)」とは、第一要件の「存立危機事態」が数量的な評価概念を含むものとなっており、限度を画することのできない要件となっていることから、第三要件の程度・態様も限度を画することができない。
結局ここでも「存立危機事態(第一要件)」の違憲性の影響を受けることにより、「武力の行使」の程度・態様を画する限度を持たないことから、9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」となってしまうことを防ぐことができず、9条1項に抵触して違憲となる。
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「武力の行使」の新三要件〔存立危機事態〕
◯ わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
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9条2項前段 「陸海空軍その他の戦力」
〇 従来より、政府は「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)を実施するための実力組織であれば、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触せず合憲であると説明していた。
新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」を実施するための実力組織は、この「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲を超える形で「武力の行使」を行う実力組織である。
これにより、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
〇 第一要件の「存立危機事態」は、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、」という部分があるものの、結局「これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という部分に該当するか否かを基準とするものとなっている。
しかし、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は、一体何を指しているのか曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその条文を適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。
しかし、このような要件に適合するか否かが基準となっているということは、政府がこれに「該当する」と言えば該当し、「該当しない」と言えば該当しないとすることができてしまい、9条が政府の恣意的な都合によって「武力の行使」が行われることを制約しようとした趣旨を満たさない。
また、政府の主観的な判断が入り込む余地のある要件、あるいは政府の主観的な判断が入り込んでいるのか否かを判断できない要件によって「武力の行使」を行うことができるとすることとなるから、その運用がこれを適用する機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等、重大な弊害を生ずることが考えられる。
「武力の行使」の発動要件となる基準が曖昧不明確であり、それに該当するか否かの適否を明確に確定できないものとなっていることは、それを行使する実力組織が「陸海空軍その他の戦力」に該当しないと説明する明確な基準となるものも有しないことを意味する。
これにより、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を実施する実力組織は、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
〇 第二要件であるが、「これを排除し」の文言がある。
これは、第一要件の「存立危機事態」の要件の前半の「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を行うことを意味する。また、第一要件の「存立危機事態」の要件の後半の「これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態を「排除」するために「武力の行使」を行うことを意味する。
しかし、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」を行う実力組織は、「陸海空軍その他の戦力」に該当しないものと説明することはどう考えても不可能である。
また、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態が「排除」されない限りは「武力の行使」を続けることができる規範となっているが、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態とは、政府が自国の状態について「これに該当する」と言えば該当し、「これに該当しない」と言えば該当しないとすることができるものとなってしまい、政府の主観的な判断に頼るものとなっている。
従来の旧三要件のように「我が国に対する急迫不正の侵害」が「排除」されたならば、それ以上の「武力の行使」を行ってはならないとする受動性や客観性、明確性のある基準によって「武力の行使」を止めなければならない場合の規範が画されるものとはなっていないのである。
9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国の利益や政治的な都合によって自国都合の恣意的な「武力の行使」に踏み切ることを制約する趣旨の規定である。
しかし、「武力の行使」の発動要件が「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という基準とすることは、自国の状態を作出することで要件に該当させることが可能となる能動性(自動性)があり、政府の主観的な判断に頼ることとなる主観性が含まれており、要件そのものも曖昧不明確である。
このような「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態を「排除」するための「武力の行使」を行う実力組織については、抽象的な危機感という主観的な感覚を排除することを目的とする実力組織ということになるから、その実態は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」であることから『他国防衛』の意図・目的を有しており、それを実施する組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
『他国防衛』を目的とするものではないと主張しても、「存立危機事態」の要件は「我が国に対する武力攻撃」が発生していない段階で「武力の行使」を可能とするものであるため、「先に攻撃」を行うものである。これは、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切る意図を排除しきることができていないため、その性質は侵略的意味を持ち、それを行使する実力組織は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行う組織は、9条の制約の下で13条の「国民の権利」によっては例外性を根拠付けることができない。そのため、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
自国都合の「武力の行使」を行うことや、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うことは、国内での行政活動(防衛行政)の範囲を越えることから憲法上の根拠が存在せず違憲となる。
新三要件の「存立危機事態」は「他国に対する武力攻撃」を「排除」しきるまで「武力の行使」を行い続けることができ、その限度を画することができないことから、それを実施する組織は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
〇 第三要件の「必要最小限度」についても、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃(第一要件・存立危機事態・前半)」を「排除(第二要件)」するための「必要最小限度(第三要件)」や、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(第一要件・存立危機事態・後半)」状態が「排除」されない限りは「武力の行使」を止める必要がないという中での「必要最小限度(第三要件)」である。
しかし、「自国の存立」や「国民の権利」の危険を排除するための「必要最小限度」というものは、政府の主観的な判断に委ねられてしまうものであり、その「必要最小限度」性を客観的に確定することはできない。
旧三要件においては、「武力の行使」が発動されても「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」が「排除(第二要件)」されたならば、それ以上は「必要最小限度(第三要件)」を超えると判定することができた。
しかし、新三要件では「他国に対する武力攻撃」という攻撃国の我が国に対する攻撃意思によるものではない武力攻撃を「排除」することを必要とするのであり、その「必要最小限度」というものは、結局、「他国に対する武力攻撃」が止まない限りは限度を画することができないものである。また、一度「武力の行使」に踏み切ったならば、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態という「自国の存立」や「国民の権利」の危険という政府の抱く主観的な感覚が「排除」されることが「必要最小限度」の範囲を決する基準となるのであるから、結局「必要最小限度」性を明確に判定できないこととなり、政府の意思次第でいつまでも「武力の行使」を続けることができることとなる。
さらに、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態という「自国の存立」や「国民の権利」の危険という主観的な感覚が「排除」されるという安心感が得られるまで「他国に対する武力攻撃」に対して「武力の行使」を行うことになるが、その攻撃国の行う「他国に対する武力攻撃」の規模や態様は、我が国に対して行われる「武力攻撃」とは地理的にも、戦略的にも、攻撃国内部の国民感情による政治的な意思においても性質が異なるものである。このことは、我が国の平和主義の精神によって培われる日頃からの外交努力等によって、「武力攻撃」が引き起こされる事態を防ごうとすることで、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に至らない範囲の実力組織(自衛のための必要最小限度の実力〔自衛力〕)にとどめようとする努力や、「我が国に対する急迫不正の侵害が発生」した場合に行う「武力の行使」であっても、その程度・態様を「必要最小限度」にとどめようとする意思とは関係のない「攻撃国」と「他国」の関係によって引き起こされる「武力攻撃」の規模や態様に合わせた実力(軍事力)を備えることを必要とすることになるのである。
このような「武力の行使」を行う組織は、政府解釈として正当化根拠となっていた実力組織の範囲が9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に該当しないもの(自衛のための必要最小限度の実力〔自衛力〕)とする範囲を画することができておらず、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
9条2項後段 「交戦権」
〇 従来より、政府は「自衛のための必要最小限度(我が国を防衛するため必要最小限度)」という三要件(旧)の範囲であれば「自衛行動権」に基づく自衛行動であり、9条2項後段の「交戦権」とは異なるものであり、違憲とはならないと説明していた。
しかし、「存立危機事態」での「武力の行使」については、「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲を超えるものであるため、「自衛行動権」の範囲を超えており、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分は一体何を指しているのか曖昧不明確であり、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその条文を適用できるか否かを識別するための基準を示すところがない。
このような要件に適合するか否かが基準となっているということは、政府がこれに「該当する」と言えば該当し、「該当しない」と言えば該当しないとすることができてしまい、9条に抵触しない範囲の「武力の行使」であるか否かという基準そのものを政府がその時々に事態を『数量』的に判断することによって決することが可能なものとなっている。
このような要件に基づいて「武力の行使」を発動できるとすることは、その限度を画することができない基準となっていることから、「自衛行動権」の範囲であるか否かを統制する基準となるものが存在しないこととなる。
これは「自衛行動権」の範囲を超え、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
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○下田政府委員 かりに、安保条約のように消極的な軍事義務を負うにとどまる条約から飛躍いたしまして、攻守同盟条約というような軍事同盟まで発展するということを考えますと、同盟条約では、交戦権の発動を来すような原因が起りますと、日本はただちに交戦権をフルに行使した戦争に巷き込まれることになるわけであります。交戦権の行使を認めておりません現憲法のもとでは、私はかかる軍事的な攻守同盟というようなことは、とうてい考えられないことであると存じます。
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第19回国会 衆議院 外務委員会 第18号 昭和29年3月16日
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新三要件の第一要件の「存立危機事態」での「武力の行使」については、第一要件の「存立危機事態」の限度が明確でないことによって、それを「排除(第二要件)」するための第三要件の「必要最小限度」の範囲を画することもできなくなり、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」や、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」、9条2項後段が禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
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7)
新・旧の「三要件」を対比すると、新三要件は、その第一要件に、「集団的自衛権の限定行使」の要件が「付加」されているだけで、第二と第三の要件に変更はないようにみえる(第二要件はいずれも、「武力行使」は最後の手段という意味であろう)。しかし、第一要件に、「個別的自衛権の行使」と「集団的自衛権の限定行使」という異なる性質の発動要件を並列に並べておいて、それを受ける第二,第三要件が「おなじもの」というのはいかなることを意味するのであろうか?筆者は、後述するように、従前(旧)の三要件は、「個別的自衛権の限定行使」を意味するものとしてそれなりに一貫性がある解釈であると理解していただけに「困惑」した。そして、新三要件における第二、第三要件が集権的自衛権に相当する武力行使において、いかなる内実もつか、そこに限界はあるのかということについては、今なお「迷宮」であるということを、あらかじめ告白しておく必要があるかもしれない。
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政府解釈における「武力の行使」の系譜 :「現点」の確認(スケッチ)と分析視角 森山弘二 2019-03 (P80~81の注)
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もう一つ憲法上の大きな問題があります。集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行った場合は、自衛隊の武力行使が際限なく拡大してしまうのです。
個別的自衛権の場合は、武力行使の要件である「必要最小限度の実力行使」の定義は明瞭です。日本を侵略している他国の軍隊を日本の領土、領海、領空の外に排除する―、そのために必要な最小限度と定義できます。
ところが、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行った場合、必要最小限度の実力行使をどう定義するのか。岸田文雄首相は「個別具体的に判断する」というだけで、必要最小限にとどまる保証がどこにあるのかを言えませんでした。
つまり、米軍が勝つまで自衛隊が一体となって戦争をどこまでも続け、武力行使が際限なく拡大してしまうのが集団的自衛権のもとでの敵基地攻撃です。これは憲法違反であることが明瞭です。
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これで語ろう 敵基地攻撃能力と大軍拡 「戦争国家」づくりそのもの 2023年3月26日
<理解の補強>
安全保障法制改定法案に対する意見書 日本弁護士連合会 2015年6月18日 PDF
(新三要件について『(4)集団的自衛権行使容認の違憲性』の項目が詳しい)
平和的生存権等侵害損害賠償請求事件 訴状 大阪 2016年6月8日 PDF
(安保法制違憲訴訟 大分では2017年1月10日提訴 2017年1月10日)
(新三要件について、P67の『(ウ)新安保法制法の危険性』からが詳しい)
新安保法制違憲国家賠償請求事件 準備書面 PDF 2017年7月5日 PDF
(新三要件についてP38からが詳しい)
※公表用訴状 2017年1月30日 PDF
(裁判資料 安保法制違憲訴訟北海道)
(下記資料のP12~20が『存立危機事態』を含む新3要件について詳しい)
2018年5月14日 第6回口頭弁論期日 原告準備書面(14)-違憲論・各論ー 2018年5月8日 PDF
(裁判資料 安保法制違憲訴訟の会ながさき)
(新三要件について『⑷ 集団的自衛権行使容認の違憲性』の項目が詳しい)
安保法制違憲国家賠償請求 訴状 名古屋 2018年8月2日 PDF
原告提出主張書面
準備書面(11)違憲論.pdf 2019年1月31日 (新三要件についてP41~42が詳しい)
準備書面(12)違憲論各論.pdf 2019年1月31日 (新三要件についてP27~36が極めて詳しい)
(信州安保法制違憲訴訟の会) ダウンロード
安保準備書面14(新安保法制法の違憲性・各論).pdf 2019年5月20日 (新3要件についてP27~35が極めて詳しい)
(『存立危機事態』の要件についてP48からが詳しい)
控訴理由書 2019年6月25日 PDF
自衛隊「合憲」論さえ破綻する 2015年8月2日
日本の平和安全法制の問題点 大阪経済法科大学 矢野哲也 PDF (P1~17の『Ⅲ.出口戦略の有無』)
(新三要件について詳しい)
控訴審・第1回弁論準備手続期日 控訴人準備書面(31) 2022年2月3日
「他国からの要請」が必要という論理矛盾(作成中)
【9条の下で『他国防衛』のための「武力の行使」は可能か】
〇 9条との関係
9条の下で、『他国防衛』のための「武力の行使」を行うことができるか否かを検討する。
『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うことは、日本国が他国の間で発生した武力紛争に対して武力介入することを意味する。
これは、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
また、これは「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃)」が発生していないにもかかわらず、他国の間で発生した武力紛争に対して、日本国が武力紛争の当事者のどちらかの側に立ち、その相手国となる外国に向かって自らの意思で統治権の『権限』を発動し、「武力の行使」に踏み切るものである。
これは、9条2項後段の禁じる「交戦権」の行使に抵触して違憲となる。
さらに、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」を行うことや、9条2項後段が禁じる「交戦権」を行使することは、同時に、それを実施する実力組織の実態が9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
他にも、「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」や、『他国防衛』のための「武力の行使」を実施する実力組織を「陸海空軍その他の戦力」とは異なるものであると説明することはできず、それらを実施する実力組織の実態は、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
この『他国防衛』のための「武力の行使」を実施する実力組織を「陸海空軍その他の戦力」と異なるものと説明することはできず、9条2項前段が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
9条の制約の下でも、13条の「国民の権利」を保障する趣旨を達成することを根拠として例外的な形で「武力の行使」を行うことが許容されるとする解釈方法がある。
しかし、13条の「国民の権利」の規定が適用されるのは基本的に日本国の主権が及ぶ日本国の領域内に限られており、日本国の領域内にいない他国民を保護する趣旨を含まない。
そのため、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うことや、「他国民の権利」を保障するために「武力の行使」を行うことは、この解釈方法のいう13条の「国民の権利」には適合しない。
13条の「国民の権利」によって正当化することができる範囲を超える形で「武力の行使」を行うことは、13条の「国民の権利」を保障する目的を達成する限りで許容される行政権(防衛行政)としての「武力の行使」として正当化できる範囲を超えることを意味し、9条の制約の例外性を根拠付けることができず、9条に抵触して違憲となる。
〇 前文「平和主義」の理念との関係
『他国防衛』のための「武力の行使」を行うことは、他国の間で発生した武力紛争に対して、日本国がその他国のどちらかの側に立ち、未だ「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃)」が発生していないにもかかわらず、日本国の政府が自らの意思で統治権の『権限』を行使してその相手国となる外国に向かって「武力の行使」に踏み切ることになる。
これは、前文の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」ている趣旨を満たさない。
また、このような「武力の行使」は、外国の国民の「平和的生存権」を脅かしたり、侵害したり、奪うこととなる。
これは、前文が全世界の国民の「平和的生存権」を有していることを確認する趣旨を満たさない。
〇 結論
このように、『他国防衛』のための「武力の行使」や、それを実施するための実力組織を保持することは、前文の「平和主義」の理念に反することは当然、その理念を具体化する9条の規定にも抵触している。
前文の「平和主義」の理念を実現するための手段として、9条2項前段が「陸海空軍その他の戦力」を保持しないとしている立場と相いれない。
そのため、憲法全体の体系的な整合性を保つことができる合理的な解釈が成立する範囲内においては、『他国防衛』のための「武力の行使」を実施する実力組織を9条2項が禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触しないと説明することはできない。
これにより、『他国防衛』のための「武力の行使」を実施するための実力組織は、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
日本国の統治権の『権限』によって『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うことや、それを実施するための実力組織を保持することはできない。
【「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」の性質】(作成中)
国連憲章2条4項では「武力不行使の原則」(武力行使禁止原則)が定められていることから、国際法上の主体(法主体)である加盟国が「武力の行使」を行うことは原則として違法である。
つまり、加盟国が「武力の行使」を行った場合には、通常これに抵触して違法となる。
しかし、国連憲章51条には違法性阻却事由の『権利』として「個別的自衛権」と「集団的自衛権」が定められている。
これは、加盟国が「武力の行使」を行った場合には、通常であれば2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法性を問われるところを、この「個別的自衛権」か「集団的自衛権」かのいずれかの区分に該当した場合には、加盟国はその「武力の行使」に対して問われる違法性を阻却することができ、「武力の行使」の正当性を主張することができるとするものである。
逆に、もし加盟国が「個別的自衛権」や「集団的自衛権」の区分に該当しない形で「武力の行使」を行った場合には、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法となる。
未だ「自国に対する武力攻撃」が発生していないにもかかわらず、「武力の行使」を行った場合には、「個別的自衛権」の区分には該当しない。
そのため、未だ「自国に対する武力攻撃」が発生していない段階で、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法とならない形で「武力の行使」を行おうとするのであれば、「集団的自衛権」の区分に該当させることが必要となる。
「武力の行使」をその「集団的自衛権」の区分に該当する形とするためには、『武力攻撃を受けた他国からの要請』が必要となる。
つまり、「武力の行使」に対して問われる違法性を阻却することができる地位は、『他国からの要請』を得ることによって初めて得ることができるということである。
そのため、加盟国が「集団的自衛権の行使」の区分に当てはめる形で「武力の行使」を行おうとする場合には、『他国からの要請』が不可欠である。
もしこれを得られなかった場合、その「武力の行使」は「集団的自衛権」の区分に該当せず、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法となる。
「集団的自衛権」が『他国からの要請』を得ることによって初めて取得できる地位である以上、「集団的自衛権」の性質は、「集団的"自衛権"」と言いながらも、本質的には「他国」や「他国民」を防衛するための『権利』である。つまり、『他国防衛』のための「他衛権」ということができる。
国際法上、 『他国からの要請』の有無によって「武力の行使」が適法となるか違法となるかが決せられることから、その『他国からの要請』を得ることによって初めて適法に行うことができる「武力の行使」は、実質的に『要請』を求めた『他国』を防衛する意図・目的を有する「武力の行使」となる。
このことから、「集団的自衛権の行使」として「武力の行使」が発動されている場合、必然的に『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」が行われていることとなる。
【参考】[4]自衛権か、他衛権・先制攻撃権か? 2014年06月17日
『他国からの要請』の有無に頼って国際法上の違法性阻却事由を得られるか否かが決せられるということは、必然的に「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」を行うことができる場合とは、『他国からの要請』に従うものとなる。
そのため、「集団的自衛権の行使」として「武力の行使」を行うことは、実質的に『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」ということになる。
【「存立危機事態」での「武力の行使」の性質】
自衛隊法によれば、76条1項2号の「存立危機事態」によって防衛出動を命ぜられた自衛隊は、同88条1項によって「武力の行使」を行うことができるとしている。
ただ、自衛隊法76条1項2号の「存立危機事態」に同88条1項による「武力の行使」を実施する場合、同88条2項で「国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守」することを求めている。
自衛隊法
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第六章 自衛隊の行動
(防衛出動)
第76条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
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第七章 自衛隊の権限
(防衛出動時の武力行使)
第88条 第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。
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(なぜ76条1項柱書は「我が国」と漢字で書き、88条1項は「わが国」とひらがなで書いているのかは不明。)
これにより、日本国の統治権の『権限』が「武力の行使」を行う場合、自衛隊法88条2項が「国際の法規及び慣例」も遵守しなければならない。
そのことから、「国際の法規及び慣例」に該当する国連憲章を遵守する必要がある。(憲法98条2項にもその旨の規定がある。)
国連憲章2条4項には「武力不行使の原則」が定められている。加盟国が「武力の行使」を行った場合、通常はこの「武力不行使の原則」に抵触して国際法上違法性を問われることとなる。
この「武力不行使の原則」に違反しない形で「武力の行使」を行うためには、これに対する違法性阻却事由の『権利(right)』である国連憲章51条の「個別的自衛権」または「集団的自衛権」の区分のいずれかに該当する形をとる必要がある。
国連憲章
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第2条
4.すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
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第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
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「個別的自衛権」による違法性阻却事由の『権利』を得るためには、「自国に対する武力攻撃」が発生していることが必要となる。
しかし、自衛隊法76条1項2号の「存立危機事態」については、「自国に対する武力攻撃」が発生していない段階で「武力の行使」を行おうとするものであり、「個別的自衛権」の区分には該当しない。
そのため、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を行う場合、自国が直接武力攻撃を受けていない段階、つまり「自国に対する武力攻撃」が発生していない中で、「他国に対する武力攻撃」が発生している場合にも「武力の行使」を行うことができるとする「集団的自衛権」の区分に該当させることが必要となる。
しかし、「集団的自衛権」という違法性阻却事由の『権利』を得るためには、「他国に対する武力攻撃」が発生していること以外にも、その『武力攻撃を受けた他国からの要請』が必要となる。
『他国からの要請』がない段階で「武力の行使」を行った場合、「集団的自衛権」の適用を受けることができず、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法となる。
そのため、「集団的自衛権」に該当させるためには『他国からの要請』が不可欠である。
もし『他国からの要請』を得られていないのであれば、たとえ政府が自衛隊法76条1項2号の「存立危機事態」に該当すると認定したとしても、国際法上「集団的自衛権」という違法性阻却事由を得られていないことにより、国際法上で違法との評価を免れることはできず、同88条2項の「国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守」の規定に従い、「武力の行使」を踏みとどまらなければならないこととなる。
つまり、たとえ自衛隊法76条1項2号の「存立危機事態」に該当しているとしても、実際には同88条2項の「国際法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し」の規定によって、国連憲章51条の「集団的自衛権」にあてはめること必要があり、そのためには「我が国と密接な関係にある他国」からの『援助要請(集団的自衛権行使の要請)』が求められるのである。
自衛隊法76条1項柱書に記載された「我が国を防衛するため」や同88条1項の「わが国を防衛するため」であるからといって、必ずしも「武力の行使」を行うことができるという性質のものではないのである。
この『他国からの要請』に応じて発動する「武力の行使」は、実質的に『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」となることを意味する。
【結論】
このように、国際法上の「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」は、『他国からの要請』を得ることで初めて国際法上の違法性を阻却することが可能となる形で「武力の行使」を行うものであるから、実質的に『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うものである。
また、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」を実施する実力組織の実態は、『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」を行う実力組織となる。
そして、憲法9条は日本国の統治権の『権限』によって『他国防衛』を意図・目的を有する「武力の行使」が行われることを禁じている。
よって、日本国の統治権の『権限』によって「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」を行うことはできない。
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ただ、それにしても集団的自衛権の行使であることに変わりはありません。武力攻撃事態法案の文言による限定にもかかわらず、「他衛」という集団的自衛権の性質が変わるわけではなく、憲法上容認される余地はないと私は考えます。
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国連憲章上の集団的自衛権の行使は、その性質上「他衛」です(国際司法裁判所の1986年のニカラグア事件判決もそう評価しています)。これは、従前の個別的自衛権の行使容認の延長線上で説明しようとするのは無理です。
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龍谷大学法科大学院教授・石埼学氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
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憲法の解釈には解釈者の価値判断が入り込む余地があるが、“理論的な枠”があるから憲法の解釈は、その“枠”内でしかできない。これは政治を暴走に歯止めをかける立憲主義からの当然の要請である。憲法第9条が戦争等を放棄し交戦権を否認している以上、日本国憲法は戦争を許容した他国の憲法とは本質的に異なる。日本国が他国から武力攻撃を受けてもいないのに、他衛権(集団的自衛権)の行使を憲法が許容していると「解釈」することは、平和憲法のもとでは無理であり、解釈としての”理論的な枠”を超えるもので、そもそも解釈とは言えない。解釈としての”理論的な枠”を超えるものを「政府の裁量」として認めることは、そもそもできない。
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神戸学院大学法学部教授・上脇博之氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
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今回の安保法制は、単に自衛隊の活動の範囲を拡大するというのみならず、武力行使の憲法的統制という日本国憲法の平和主義の基本理念を空文化するものであり、「量的」というよりもむしろ「質的」に違憲であると考える。自国に対する武力攻撃がなければ、武力の行使をしてはならない。従来、政府が採用してきた集団的自衛権行使禁止原則は、客観的で、政権を担う人間の判断を越えた拘束力をもっていた。しかし、今回の安保法制改正により、そのルールは極めて漠然で拡大解釈可能なものへと変貌することになる。
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神戸大学准教授・木下昌彦氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
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個別的自衛権と集団的自衛権は、前者が自国への攻撃を前提とするものであるのに対して、後者がそれを前提とせず、他国への攻撃に対しても武力行使を可能にする点で、同じ自衛権でも質を異にすると考えるべきである。政府の憲法解釈の変更は、たとえ「限定的な」ものであれ、集団的自衛権の行使を容認するものであり、そうである以上は現在の9条の下では許されず、そうした集団的自衛権の行使を認めさせようとするのであれば正々堂々と正面から9条改正を主張すべきである。
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一橋大学大学院法学研究科教授・阪口正二郎氏 憲法学者アンケート調査 (下線は筆者)
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このような集団的自衛権の行使や海外での武力の行使を容認することになれば,自衛隊はもはや憲法第9条第2項が禁じている「戦力」であることを否定することはできず,その武力の行使は同項が否認している「交戦権」の行使となる。これは,戦争の違法化を推し進めて,戦争の放棄のみならず,戦力の不保持と交戦権の否認を規定した同項の意義を完全に否定するものである。そして,同時に,これら武力の行使は,自衛隊員はもとより,自国・他国の国民を殺傷する現実をもたらし,諸国民の平和的生存権を保障する憲法前文にも違反するものである。
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安全保障法制改定法案に対する意見書 日本弁護士連合会 2015年6月18日 PDF
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また、政府は、③の要件の自衛権による実力行使の「必要最小限度」については、それが外部からの武力攻撃を日本の領域から排除することを目的とすることから、日本の領域内での行使を中心とし、必要な限度において日本の周辺の公海・公空における対処も許されるが、反面、武力行使の目的をもって自衛隊を他国の領土・領海・領空に派遣する、いわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないとしてきた。
すなわち、政府は、自衛隊による実力の行使は、日本の領域への侵害の排除に限定して始めて憲法9条の下でも許され、その限りで自衛隊は「戦力」に該当せず、「交戦権」を行使するものでもないと解してきたが、それ故にまた、他国に対する武力攻撃を実力で阻止するものとしての集団的自衛権の行使は、これを超えるものとして憲法9条に反して許されないとしてきたのである。
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安保法制違憲訴訟 大分では2017年1月10日提訴 2017年1月10日 (下線は筆者)
【「我が国を防衛するため」の論理矛盾】(作成中)
政府は「存立危機事態」での「武力の行使」について、下記のように「他国を防衛すること自体を目的とするものではない」や「他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するため」などと説明している。
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P61
2 一方、パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしてもその目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。新三要件は、こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、このような昭和47
年の政府見解の(1)及び(2)の基本的な論理を維持し、この考え方を前提として、これに当てはまる例外的な場合として、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとしてきたこれまでの認識を改め、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合もこれに当てはまるとしたものである。すなわち、国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力の行使それ自体を認めるものではなく、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部、限定された場合において他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力の行使を認めるにとどまるものである。したがって、これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性及び法的安定性は保たれている。
3 新三要件の下で認められる武力の行使のうち、国際法上は集団的自衛権として違法性が阻却されるものは、他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまるものである。
(明確性について)
4 憲法の解釈が明確でなければならないことは当然である。もっとも、新三要件においては、国際情勢の変化等によって将来実際に何が起こるかを具体的に予測することが一層困難となっている中で、憲法の平和主義や第9条の規範性を損なうことなく、いかなる事態においても、我が国と国民を守ることができるように備えておくとの要請に応えるという事柄の性質上、ある程度抽象的な表現が用いられることは避けられないところである。
その上で、第一要件においては、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」とし、他国に対する武力攻撃が発生したということだけではなく、そのままでは、すなわち、その状況の下、武力を用いた対処をしなければ、国民に我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかであるということが必要であることを明らかにするとともに、第二要件においては、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」とし、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする「武力の行使」についても、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られ、当該他国に対する武力攻撃の排除それ自体を目的とするものでないことを明らかにし、第三要件においては、これまで通り、我が国を防衛するための「必要最小限度の実力の行使にとどまるべきこと」としている。
このように、新三要件は、憲法第9条の下で許される「武力の行使」について、国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力の行使それ自体ではなく、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置に限られることを明らかにしており、憲法の解釈として規範性を有する十分に明確なものである。
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P80
5.いずれにせよ、「Defense of Japan 2014」においても、憲法第9条の下で許容される「武力の行使」は、あくまでも新三要件に該当する場合の自衛の措置としての「武力の行使」に限られており、我が国又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の発生が前提であり、また、他国を防衛すること自体を目的とするものではない。このように専守防衛は、引き続き、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものであり、我が国防衛の基本的な方針として維持することに、いささかの変更もない。
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P105
2.「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成 26
年7月1日閣議決定)においても、憲法第9条の下で許容される「武力の行使」は、あくまでも、同閣議決定でお示しした「新三要件」に該当する場合の自衛の措置としての「武力の行使」に限られており、我が国又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の発生が前提であり、また、他国を防衛すること自体を目的とするものではない。
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【資料】衆議院及び参議院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」に提出された政府統一見解等 PDF
(立法と調査 事項別索引 外交・防衛 ~外交・国際関係、防衛~ 参議院)
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新三要件の下で認められる武力の行使のうち、国際法上は集団的自衛権として違法性が阻却されるものは、他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまるものである。
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「砂川判決」と集団的自衛権についての政府見解に関する質問に対する答弁書 平成27年6月19日
また、自衛隊法76条1項2号に「存立危機事態」の要件を規定している同76条1項柱書でも「我が国を防衛するため」、88条1項でも「わが国を防衛するため」と記載されている。
自衛隊法
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第六章 自衛隊の行動
(防衛出動)
第76条 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
2 内閣総理大臣は、出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
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第七章 自衛隊の権限
(防衛出動時の武力行使)
第88条 第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
2 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。
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(なぜ76条1項柱書は「我が国」と漢字で書き、88条1項は「わが国」とひらがなで書いているのかは不明。)
政府は「存立危機事態」に該当すると認定できたとしても、自衛隊法88条2項の「国際の法規及び慣例」の遵守を求める規定に従う必要があり、『他国からの要請』のない段階で「武力の行使」を実施することは国連憲章51条の「集団的自衛権」の違法性阻却事由を得ることができず同2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法となるため、「武力の行使」を実施しないとしている。
元防衛大臣の「中谷元」も下記のように述べている。
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外国からの要請がないと集団的自衛権は使えない
木村 あと二つ確認させてください。存立危機事態条項を使う場合、集団的自衛権ということになりますので、外国からの要請がないと国際法上、集団的自衛権は使えないわけですね?
中谷 はい。
木村 よく指摘されることですが、日本が存立危機という非常に危険な状況であるにもかかわらず、相手国からの要請がないと対応ができないというのはおかしいのではないかというご意見もありますけれども。
中谷 これは国際法上、集団的自衛権を行使する際には、相手国からの要請が必要となります。これも国会で議論になりました。当該要件は、明確には法定されてはおりませんが、自衛隊法第88条第2項で、「武力の行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守」とあります。
そして、存立危機事態であることの認定と、当該認定の前提となった事実を対処基本方針に定めることが法定されておりますので、「他国からの要請」についても、そこに書き込まれるということで、その前提として、相手国からの要請があることは当然となります。これについても、国会審議の中でていねいに説明させていただきました。
木村 仮に要請もないのに武力行使をする場合には、法律違反にもなるということですね?
中谷 はい。それはあり得ないということです。
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「存立危機事態」は存在するか 安保法制の根幹をめぐるガチ論 中谷元・前防衛相VS木村草太・首都大学東京教授 2016年11月21日 (下線は筆者)
『他国からの要請』がないと行使できない「武力の行使」であり、それを「我が国を防衛するため」と説明することには論理的整合性がない。結局ここでも『他国からの要請』が必要であると示しただけで、『他国からの要請』がないと行使できない「武力の行使」を「我が国を防衛するため」と説明することの矛盾については答えていない。
逆に、『他国からの要請』を得られた場合には、国連憲章51条の「集団的自衛権」に該当させて国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」によって問われる違法性を阻却することができるために「武力の行使」を実施することができるとしている。
しかし、これは論理的整合性が成り立たない。
まず、自衛隊法88条2項が「国際法規及び慣例」の遵守を求めていることから、国連憲章の規定に則って「武力の行使」の発動の可否を判断しようとしていることになる。
つまり、実際に「集団的自衛権」という違法性阻却事由の『権利』を得るためには『他国からの要請』が必要となり、この『要請』を得られたことによって初めて「武力の行使」を発動することが可能となるとする形で基準を設定しているということである。
この『要請』の有無に頼って、「武力の行使」の可否が決定されるということは、その『要請』という要件充足の有無にかかる実質的な意味は、その「他国」の防衛や「他国民」を保護するための『他国防衛』の意図・目的を含む形での「武力の行使」しか存在しないはずである。
それにもかかわらず、その『要請』を受けて発動する「武力の行使」を、「他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するため」であると説明することは、論理的に成り立たない。
これを国内法上は「他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するため」の「武力行使」であると説明することは虚偽説明である。
つまり、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を、自衛隊法88条2項に則って「国際法規及び慣例」を遵守した形で行うことは、実質的に76条1項柱書の「我が国を防衛するため」や88条1項の「わが国を防衛するため」の文言と矛盾するということである。
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武力攻撃事態の場合と同様に、存立危機事態においても自衛隊に防衛出動命令が発令される(自衛隊法76条の改正)。国会の事前承認が原則であるが、緊急の場合は事後承認で足りるとされることは、武力攻撃事態と同様である。
防衛出動命令を受けた自衛隊は、武力を行使することができる(自衛隊法88条)。 法文上は「わが国を防衛するため」のままであるが、実際にはアメリカの武力攻撃を排除するために「米国の敵」と交戦する。
自衛隊の任務に関しても、「直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務」とするという規定から、「直接侵略及び間接侵略に対し」が削除される。 基本的な防衛政策としての「専守防衛」の放棄を意味するものである。
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「戦争法制」の内容分析 稲正樹 国際基督教大学リポジトリ 2015-09-30 (P72) (下線は筆者)
また、9条の下では、「我が国を防衛するため」であることを理由としても、必ずしも「武力の行使」が正当化されるわけではない。
「自国の存立」や「国民の権利」の危機(自存自衛)を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることは歴史上幾度も経験するところであり、9条はそのような「武力の行使」を制約するために設けられた規定(制約する趣旨の規定)である。
そのため、9条の下では『自国防衛』のための「武力の行使」についても、必ずしも許容しているわけではないのである。
「我が国を防衛するため」を理由としたならば「武力の行使」が可能であると考える場合、「我が国を防衛するため」を理由として際限なく「武力の行使」が可能となってしまうのであり、法規範によって政府の行為を制約することを目的として9条が定められている意味そのものを失うことになる。
そのことから、「我が国を防衛するため」の「武力の行使」であるとしても、9条の下ではそれだけで直ちに「武力の行使」を行うことが許されるというわけではないのである。
9条の下で「武力の行使」を行うことができる場合を見出すとしても、9条の制約の趣旨を損なわせることがないように、政府の恣意性を排除することのできる一定の要件を定め、それを満たすことによって初めて「武力の行使」を行うことが許容されると解釈することが妥当である。
また、実際に「武力の行使」を行うとしても、それは9条の規範性を保つための基準となるものを通過した上で、日本国政府自身の意思によって決せられるものである必要がある。
この観点から、『自国防衛』のための「武力の行使」であるとしても、三要件(旧)のように、「我が国に対する急迫不正の侵害(第一要件)」を「排除するため(第二要件)」という意図・目的の限りで「必要最小限度(第三要件)」の範囲にとどまる「武力の行使」を行うことについては、「我が国に対する急迫不正の侵害があること(第一要件)」という受動性・客観性・明確性を備えた要件を満たすことを求めるものであることから、政府の恣意性を排除することが可能であり、9条の制約の趣旨が生かされ、9条の規範性を保つことが可能であると考えられる。
この範囲であれば、日本国の領域(日本国の主権が及ぶ範囲)に対する侵害を排除するための活動であるから、国内における行政権の行使として説明することができ、9条の禁じる軍事権の行使ではないと考えることが可能である。
そして、その範囲の限りで活動する実力組織を保持することについては、法規範として明確な線引きが存在することから、9条が政府の恣意的な動機に基づく自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を損なうことはなく、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触しないと解釈することが可能であると考えられる。
他にも、この範囲であれば、前文の「平和主義」の理念である「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」の部分や、全世界の国民の「平和的生存権」を侵害しないとする趣旨、「国際協調主義」の精神とも整合性を保つことができる。
しかし、「存立危機事態」を適用して「武力の行使」を行う場合については、『他国からの要請』の有無によって、「武力の行使」が発動できるか否かが決せられることになる基準が含まれているのであり、これは結局、「武力の行使」を発動することができない状況下にあることが前提であるにもかかわらず、『他国からの要請』を得られた場合には「自国の利益」を勘案して「武力の行使」を行うことを可能とするものである。
これは、「我が国を防衛するため」の「武力の行使」であると称しようとも、その内容は「我が国を防衛するため」を理由としながらも、実質的には『他国防衛』のための「武力の行使」を行ったり、相手国に対して「武力の行使」を用いて自国の主張を通そうとする意図・目的を有する「武力の行使」が行われることを排除できていないものである。
「他国に対する武力攻撃」を「排除」するための「武力の行使」や、「他国」や「他国民の権利」を保障するための『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」については、他国の間で発生した武力紛争に対して武力介入することになることから、9条1項が禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
また、それらの「武力の行使」は日本国の領域(主権の及ぶ範囲)に対する侵害を排除するための活動ではないことから、国内行政の範囲とはいうことができず、9条の禁じる軍事権の行使に抵触して違憲となる。
また、「自国の利益」のために「武力の行使」となっていることは、まさに9条が厳しく禁じる対象であり、9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲である。
本来「我が国を防衛するため」という理由のみであれば、踏みとどまらなればならない「武力の行使」を、『他国からの要請』を得た段階で行うことが可能となるとすることは、「自国の利益」のために「武力の行使」を行うものであるから9条2項後段の禁じる「交戦権」にも抵触して違憲となる。
さらに、「他国に対する武力攻撃」に起因する形で「武力の行使」を行うにもかかわらず、「我が国を防衛するため」との理由付けで「武力の行使」を行うことの間には、相当因果関係を認めることができない。
これは結局、「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由として、政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを可能とするものということができ、9条に抵触して違憲となる。
このような措置は、裁量論からも他事考慮であり、憲法31条の「適正手続きの保障」の観点から法内容の実体の適正が確保されていないため違憲・違法となる。
(下記の「現行の自衛隊法」とは、改正前であることに注意。)
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現行の自衛隊法76条1項は「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。」として、自衛隊が防衛出動できる場合を、「武力攻撃発生事態」と「武力攻撃切迫事態」としている。そして、自衛隊の防衛出動時の武力行使については、自衛隊法88条1項が「第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。」と規定している。「武力攻撃切迫事態」では、「我が国に対する武力攻撃の発生」がないので、いわゆる「おそれ出動」として防衛出動はできるが、武力の行使はできない。自衛隊法88条1項の文言上は「武力攻撃切迫事態」でも武力行使ができそうに読めるが、「おそれ出動」では個別的自衛権行使の第一要件である「我が国への武力攻撃の発生」を満たしていないから武力行使はできないというのが確定した政府解釈である。もし「我が国に対する武力攻撃の発生」がないのに武力を行使したら、国際法違反に問われるだろう。
「7・1閣議決定」を受けて、改正案では、自衛隊法76条により防衛出動ができる場合として、「存立危機事態」すなわち「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」を加えた。政府は、個別的自衛権の第一要件である「我が国への武力攻撃の発生」を欠く「武力攻撃切迫事態」でも「武力攻撃予測事態」でも、同時に「存立危機事態」に該当することがあるとしている。つまり、「我が国への武力攻撃の発生」がなくても、自衛隊法76条により自衛隊に防衛出動が下令されれば、自衛隊法88条により武力行使ができるという形にしたわけである。これを正当化する論理は集団的自衛権の行使しかない。
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緊急直言 集団的自衛権行使の条文化――徹底分析!「平和安全法制整備法案」(その2) 2015年6月2日
【参考】「7.1閣議決定」をめぐる楽観論、過小評価論の危うさ 2014年8月4日
<理解の補強>
存立危機事態 事態認定は他国次第? 2015年8月26日
(5)「限定的な集団的自衛権行使」なるものの不存在(国際法違反かつ憲法違反) PDF
((5)「限定的な集団的自衛権行使」なるものの不存在(国際法違反かつ憲法違反) PDF)
【「国民の権利」の趣旨は正当化根拠になるか】
「存立危機事態」の要件には、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」という文言が含まれている。国政において、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」を実現することは重要なことである。
この「国民の権利」の趣旨は、9条の制約の下においても、13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」の趣旨を根拠として、例外的に「自衛の措置」を取り得る場合があると考え、その「自衛の措置」の選択肢として「武力の行使」を行うことを許容し、それを実施するための実力組織(自衛隊など)を保持できるとの解釈を導く場合の根拠ともなっている。
しかし、「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」を実現するという目的を有しているとしても、その「武力の行使」が9条に抵触して違憲となる場合が存在する。
一つ目に、① 「我が国」や「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃の発生していない段階での「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」の実現を目的として「武力の行使」を行うことは、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲である。
国際法上も、不戦条約や国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」の下では「先制攻撃」となるため、違法である。
ただ、「存立危機事態」については、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したこと要件としているため、この事例には該当しない。
二つ目に、② 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合でも、その他国からの「集団的自衛権」を発動するよう求める『要請』がない段階で「武力の行使」を行うことは、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
たとえ、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態であるとしても、「我が国に対する急迫不正があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たさない段階で、『他国からの要請』がないにもかかわらず「武力の行使」を行うことは、完全な自国都合によって「武力の行使」に踏み切ったこととなり、9条の趣旨に抵触するからである。9条はまさにこのような「武力の行使」を禁じた規定である。
国際法上も「集団的自衛権」の区分に該当しない「武力の行使」であるため、「先制攻撃」となり、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法である。
三つ目に、③ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合で、その他国からの「集団的自衛権」を発動する『要請』があった場合での「武力の行使」を行うことは、その他国民を防衛することを目的として「武力の行使」を行うものということになる。
これは、9条の制約の下例外的に「自衛の措置」としての「武力の行使」を導き出す際の正当化根拠となっている13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障する趣旨という枠組みの「国民の権利」の範囲を超えている。そのため、このような「武力の行使」は13条の「国民の権利」の範囲では正当化することができず、9条に抵触して違憲となる。また、そのような13条の「国民の権利」を保障する趣旨を超える「武力の行使」を実施する実力組織についても、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
他にも、9条の規定は憲法規定であり、国際法とは法体系が異なるのであるから、たとえ『他国からの要請』があったとしても、憲法上の規定の規範性が変化するわけではない。このことから考えると、たとえ『他国からの要請』があった場合であっても、憲法上の規定の規範性は変化することはないのであるから、「武力の行使」を発動できるか否かを決する基準となるものは、「二つ目」に示している『他国からの要請』がない場合と何ら異ならない。そのため、結局は「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たさない中での「武力の行使」は9条に抵触して違憲である。
基本的には上記①②③に該当する事例しか存在しないはずである。
もし、④ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生した場合で、その他国からの「集団的自衛権」を発動する『要請』があった場合で、その『要請』によって初めて許容される「武力の行使」であることが前提であるにもかかわらず、その他国民を防衛するという理由が存在せず、自国民の「生命、自由及び幸福追求の権利」の実現のために「武力の行使」を行う場合が存在するとしても、このような措置はやはり9条の制約に抵触して違憲となる。
なぜならば、9条の制約の下で13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」の趣旨を根拠として「自衛の措置」としての「武力の行使」ができる場合を見出すとしても、それは9条の趣旨を損なわせることのないように、13条の趣旨を極めて限定的に限度を枠づけた形で狭く解する必要があるからである。もし13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を保障する趣旨を拡大して適用することができるとするのであれば、それは結局、『自国防衛』などと称して政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約することができなくなり、9条の規定が存在している趣旨を損なわせることになるからである。
また、この事例は、「他国に対する主権侵害」を「自国の主権侵害(自国民の生命、自由及び幸福追求の権利の侵害)」と見なそうとしている点で十分な因果関係を見いだすことができないものであり、このような因果関係を見出すことのできない中で「武力の行使」を行うことを許容することは、政府の行為を制約するための歯止めとなる一線が存在せず、9条の規範性を損なわせることになるからである。
このような措置は、本来的に「自国民の利益」を実現することなどを目的として政府が「武力の行使」に踏み切ることを禁じた、9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
同時に、このような「武力の行使」を行う実力組織の実態も、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
さらに、「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由として「武力の行使」を行うにもかかわらず、その他国民を防衛するという目的がなく、自国民の「生命、自由及び幸福追求の権利」の実現を目的とすることは、相当因果関係を見出すことができない。そのような「武力の行使」を実施することは、9条2項後段の禁じる「交戦権」にも抵触して違憲となる。
これらのことから、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は9条に抵触して違憲である。
また、このような因果関係の不明確な規定は、内閣が自由裁量として「武力の行使」に踏み切る可能性を開くものとなってしまう。これは、憲法の中に9条の規定が存在している事実から求められる規範的な枠組みの制限(歯止め)を保つことができていないものとなっている。「武力の行使」を発動できるか否かの基準を曖昧なものとすることは、「武力の行使」を発動できるか否かを決する基準そのものを行政権を持つ内閣に対して白紙委任することを意味し、法律の内容の「実体の適正」が確保されていないため、憲法31条の「適正手続きの保障」の観点から許容できるものではなく、違憲となる。
加えて、法の支配、立憲主義、法治主義に反し、「法律による行政の原理」や「法律留保の原則」の趣旨を逸脱し、違法である。
前文の「平和主義」との整合性
【「我が国と密接な関係にある他国」が行った威嚇行為に起因して発生した「武力攻撃」に対して行う「武力の行使」が平和主義に反すること】
「我が国と密接な関係にある他国」が武力を背景として特定の国に対して挑発や威嚇行為をし、それによってその特定国が「我が国と密接な関係にある他国」に対して武力攻撃を行うことが考えられる。
この場合、その「我が国と密接な関係にある他国」は、国際法上の「個別的自衛権の行使」として「武力の行使」を発動することが考えられる。
この事態に対して、日本国は「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」に該当するとして「存立危機事態」を適用し、「武力の行使」に踏み切ることが考えられる。
しかし、そもそも日本国憲法では9条で「武力による威嚇又は武力の行使」を禁じていることから、「武力による威嚇」によって戦争が誘発されてしまうような事態に起因して行われる「武力の行使」を禁じているはずである。
この事例での「武力による威嚇」や「武力を背景とした挑発行為や威嚇行為」は、他国の統治権や政治が行っているものであるため、9条のいう日本国の「国権の発動」としての「武力による威嚇」にはあたらないとする考え方があるかもしれない。
しかし、9条が「戦争」や「武力による威嚇又は武力の行使」を禁じる趣旨は、政治的な事情や自国の独善主義によって政府がが「戦争」や「武力による威嚇又は武力の行使」に踏み切ることを防ぐことにある。このことは、前文の「平和主義」の理念によっても裏付けることができる。
それにもかかわらず、「我が国と密接な関係にある他国」が行った武力を背景とした挑発行為や威嚇行為に起因して発生した「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃に対して、その影響によって「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」が発生したなどとする要件によって日本国の統治権の『権限』が「武力の行使」を行うことができるとすることは、結局、「我が国と密接な関係にある他国」が特定国に対して行った武力を背景とした挑発行為や威嚇行為に加担することを許すものである。
たとえ、武力を背景とした挑発行為や威嚇行為を行った主体が、日本国の統治権の『権限』によるものでなかったとしても、その行為に加担する意味で「武力の行使」が行われる可能性を有する規定を設けることは、前文の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という「平和主義」の理念を背景とする9条の規定からは到底導かれない。
これにより、「存立危機事態」の要件が、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことに起因して、その影響が我が国の存立や国民の権利に対する危険があることを理由として「武力の行使」を行うことができるとしていることは、「我が国と密接な関係にある他国」が特定の国に対して武力を背景とした挑発行為や威嚇行為を含む「武力による威嚇」を行ったことにより発生した「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃の影響で我が国の存立や国民の権利に対する危険が発生した場合にも我が国の統治権の『権限』による「武力の行使」を許容しようとするものであることから、前文の平和主義の理念を背景とした9条の禁ずる「武力による威嚇又は武力の行使」に該当し、違憲となる。
他国の「先制攻撃」に加担することが可能
「我が国と密接な関係にある他国」が第三国に対して「先制攻撃」を行った場合、その第三国(被攻撃国)が国際法上の「自衛権」を行使して「武力の行使」を発動することが考えられる。
この場合、その第三国による反撃は、「存立危機事態」の要件である「『我が国と密接な関係にある他国』に対する武力攻撃が発生」に該当することとなる。その影響によって、日本国の政府が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」に該当すると認定した場合、「我が国と密接な関係にある他国」が行った不正な「先制攻撃」に加担する形で日本国の統治権の『権限』が「武力の行使」を発動することが可能となっている。
このような、「我が国と密接な関係にある他国」の行った不正な「武力の行使(武力攻撃)」に起因する、被攻撃国の「自衛権行使」による「我が国と密接な関係にある他国」に対する「武力の行使」を、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」と見なすことによって、日本国が「武力の行使」に踏み切ることが可能な要件となっていることは、前文「平和主義」を具体化した規定である9条の趣旨に反する。
これにより、9条1項の禁ずる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲となる。
また、そのような「武力の行使」を行う組織の実態も、9条2項の禁ずる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
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(6) 先制攻撃をした国のための集団的自衛権行使の問題
先制攻撃は国際法上違法な武力行使であり,その国が先制攻撃をした結果相手国から武力攻撃を受けた場合に,新3要件を充たすとして先制攻撃国のために我が国が集団的自衛権を行使して反撃をすることは,違法な武力行使に加担するものとして,同じく国際法上違法となる。政府はこのような集団的自衛権の行使を否定しているが(2015年5月27日衆議院平和安全法制特別委員会における岸田外務大臣答弁),米国のイラク戦争を我が国政府が直ちに支持した例に照らせば,改正法案のこのような国際法に反した適用,運用も危惧される。
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安全保障法制改定法案に対する意見書 日本弁護士連合会 2015年6月18日 PDF
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また、日本の集団的自衛権行使には、ある日突然米国が一方的に攻撃を受けることが想定されているが、米国の侵略的な武力攻撃から戦争が始まることもあるり、「米国が間違った戦争をやるはずがない」、「米国が常に正しい」という想定でいいのかという点の疑問もある(なお、戦後、日本政府は米国の戦争・武力行使を一度も非難したことがないという世界でも稀な状況下にある)47。
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安倍政権の憲法政策と平和 広島市立大学広島平和研究所准教授 河上暁弘 2014年6月20日 PDF
【動画】憲法学者 長谷部恭男教授の証人尋問後の衆議院院内集会の様子 2023/04/10
9条の制約を13条が例外化する解釈からのアプローチ
この9条の制約の範囲について、下記の解釈がある。
① 1項全面放棄説
9条1項は「武力の行使」を全面的に禁じていると考える。
② 1項限定放棄説+2項全面放棄説
9条1項は「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」のみを禁じているが、「国際紛争を解決する手段として」ではない「武力の行使」は禁じられていない。しかし、9条2項前段で「陸海空軍その他の戦力」、9条2項後段で「交戦権」を禁じているため、結局すべての「武力の行使」が禁じられると考える。
①や②のように、9条は一般に「武力の行使」を禁じているように見える形をとっている。
しかし、憲法中にこの9条の制約を解除する意味を持つ規定を見つけることができるのであれば、その規定の趣旨に沿う形で例外的に「武力の行使」を行うことが可能となると考える。
その9条の制約を解除する規定として、13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利について」「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」との趣旨を根拠とし、この「国民の権利」を守るために例外的な形で「武力の行使」を行うことが可能となると考える。
この範囲の「武力の行使」については合憲と考える。
これは、9条が一見すべての「武力の行使」を禁じたように見える中で、憲法上のその制約を解除する例外となる規定が憲法上存在するか否かによって、日本国の統治権の『権限』による「武力の行使」を違憲審査する方法である。
ただ、この解釈を採用する場合にも、下記の点に注意が必要がある。
9条は「自国民の利益」の実現を追及したり、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するために設けられた規定である。
そのため、9条が存在する限りは9条の趣旨を生かした解釈が求められる。
この9条の制約の下において、13条の「国民の権利」を保障するを根拠として例外的に「自衛の措置」としての「武力の行使」をとりうる場合を見出す解釈を採用するとしても、13条の「国民の権利」の趣旨を基にして無制約に「武力の行使」を行うことが許されるというわけではない。
この13条の「国民の権利」の趣旨についても、前文の「平和主義」の理念や9条の規定の有する制約が、政府に対して無防備・無抵抗を強いるものではないことを裏付けるための根拠となる条文として取り上げられているものに過ぎないのである。
そのことから、この13条の「国民の権利」を保障することを目的とするのであれば、9条の制約の下でもあらゆる「武力の行使」を正当化することができるという性質のものではない。
9条の制約の下で13条の「国民の権利」を保障する趣旨を根拠として極めて限定された状況下における例外的な「武力の行使」を正当化できる場合を見出す解釈を採用するとしても、「武力の行使」の発動要件を設定する場合には、下記を満たす規範を設定することが求められる。
◇ 9条が「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合による「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする趣旨を満たすこと
◇ 9条の政府の行為を制約しようとする意図が生かされる合理的な基準を設定し、政府の恣意性を排除すること
◇ 9条の趣旨を損なわせることがない形で、極めて限定された範囲であることが明確に示され、例外性の限定された範囲は、限度の範囲が画される(枠づけられていることを示す)明確に確定できる基準を設定すること
なぜならば、もし9条の規定が存在するにもかかわらず、政府の行為を制約しようとする趣旨を満たさない形で「武力の行使」の発動要件を設定できることとなってしまうと、9条が政府の行為を制約しようとする意図が満たされていないこととなり、9条が存在する意味そのものを失わせるからである。
「武力の行使」の発動要件を設定する際には、9条が政府の恣意的な判断を制約しようとする趣旨を損なわせることがない形となっていることで初めて、9条の規範性が保たれ、9条が存在する意義を失わせないものとなるのである。
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(青井未帆)
前述のとおり、軍事に関わる国の権限が「無」であることを述べた憲法九条の下で、政府解釈は例外としてて自国防衛のためには実力を持ちうるし、また自国防衛のために武力行使しうるとするのであった。このような原則・例外関係が成立するといえるためには特に、例外について外延がきちんと確定できなければならない。もし例外が限定的に括り出せないなら、もはやそれは例外とはいえず、憲法上、軍事に関わる権限が「無」であるということの意味がなくなる。
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検証・安保法案 -- どこが憲法違反か 2015/8/22 (P18) (下線は筆者)
もし「武力の行使」の発動要件が設定される際に、9条を政府の行為を制約しようとする意図の実効性が保たれる形で一定の規範を導くことをせず、9条の趣旨が生かされない形であったならば、それは9条の趣旨を逸脱し、9条の規範性を損なわせ、9条に抵触するものとして扱う必要がある。
そうでなければ、9条の規定が憲法中に存在している事実を無視することとなり、論理的整合性や体系的整合性を損ない、憲法解釈の妥当性を喪失させることとなり、法解釈として成り立たなくなるからである。
9条の存在意義を保つための歯止めとなるものは、この9条に示されている文言に頼るしか他にないのである。
そのため、「武力の行使」を発動できる場合であるか否かを識別するための明確な基準を定め、その限界を画する必要がある。
三要件(旧)の基準
まず、「武力の行使」を発動できる場合であるか否かを識別するための基準として、三要件(旧)の第一要件の「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たすか否かに設定した場合について考える。
この要件は、我が国に対して行われた他国の行為を基準とするものであり、日本国の政府が意図して作出することができない。そのため、「受動性」を認めることができる。
また、ある出来事の有無を基準としており、誰でも判別することが可能と考えられる。そのため、「客観性」を有していると見ることができる。
このことから、この要件は9条の規定が政府の恣意的な都合によって「武力の行使」が行われることを排除しようとする趣旨を満たすと考えられる。
この基準は、9条が政府の恣意性を排除しようとする趣旨を生かすことのできる解釈の枠組みが保たれており、9条と13条の両規定の趣旨を没却させるものではない。
そのため、9条の制約の趣旨と13条の「国民の権利」を保障する趣旨を整合的に読み解くことが可能となっており、法解釈として成り立つと考えられる。
この要件を満たす中における「武力の行使」であれば、9条に抵触しない合憲のものと見る余地がある。
新三要件の「存立危機事態」(作成中)
これに対して、「武力の行使」を発動できるか否かを識別するための基準として新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」が設定された場合を考える。
「存立危機事態」の部分とは、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」である。
この新三要件の「存立危機事態」に基づく「武力の行使」の内容は、下記の特徴がある。
◇ 未だ「我が国に対する急迫不正の侵害(我が国に対する武力攻撃)」が発生していない中で、日本国の統治権の『権限』が「武力の行使」を行うものである。
◇ 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したことに起因して「武力の行使」を行うものである。そのことから、「我が国と密接な関係にある他国」を守るための「武力の行使」ということができる。もしこれを否定する場合、単なる自国都合の「武力の行使」でしかないからである。(攻撃国との間では、日本国が『先に攻撃』を発動するものであるという事実は変わらない。)
◇ 「我が国と密接な関係に対する他国に対する武力攻撃(第一要件・存立危機事態)」を「排除(第二要件)」するために「武力の行使」を行うものである。このことから、『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」となる。
◇ 国連憲章51条の「集団的自衛権」の区分に該当させることを前提として行われる「武力の行使」である。しかし、「集団的自衛権」という違法性阻却事由の『権利』の区分に該当させるためには『他国からの要請』が不可欠の条件となっている。これを得られない中で「武力の行使」を行った場合、国連憲章2条4項の「武力不行使の原則」に抵触して違法となる。このことから、「集団的自衛権の行使」という『他国からの要請』を得ることによって初めて発動される「武力の行使」とは、実質的にその「他国」を守るための「武力の行使」となる。
これらの理由により、新三要件の「存立危機事態」での「武力の行使」は、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」ということができる。
しかし、このような『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」を行うことは、9条の制約の下で13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として例外的な形で「武力の行使」を行うことができるとする解釈の枠組みによっては正当化することができない。
その理由は、下記の通りである。
◇ 13条の「国民の権利」の趣旨が適用される範囲は日本国の主権が及ぶ日本国の領域内に限られている。そのため、未だ「我が国に対する武力攻撃」(我が国の領域に対する侵害)が発生していないにもかかわらず「武力の行使」を行うことは、13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として正当化することができない。
◇ 13条の「国民の権利」の中に、外国の領域内にいる「外国の国民」が含まれているとは考えられない。「他国」に住む「他国民」を保護するための「武力の行使」を行うことは、13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として正当化することができない。
◇ 13条の「国民の権利」の対象範囲である日本国の領域内にいる「日本国民」の『権利』を追求することを目的として、日本国の統治権の『権限』によって『他国防衛』のための「武力の行使」を行うことを、13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として正当化できるか否かであるが、9条は「自国民の利益」を実現することや、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するために設けられた規定であることから、13条の「国民の権利」を実現することのみによって9条の趣旨を無効化することができるかのような解釈は成り立たない。
そのため、9条の制約の下でも13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として例外的に「武力の行使」を正当化することができると考える解釈の枠組みの中では、このような「他国」や「他国民」を保護するために行われる『他国防衛』のための「武力の行使」は正当化することはできない。
これにより、その枠の中で解釈できる範囲を超え、その枠を逸脱し、9条に抵触して違憲となる。
13条で正当化できる範囲
9条の制約の下で13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として例外的に「武力の行使」を行うことができるとする場合を見出すとしても、その13条の趣旨によって正当化することができる範囲は、「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たす中での「武力の行使」だけである。
なぜならば、13条の規定が適用される範囲は、基本的に日本国の領域の範囲内に限られるからである。
「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たす中での「武力の行使」は、13条の「国民の権利」の規定の適用範囲である日本国の主権の及ぶ日本国の領域に対して行われた他国による侵害行為を基準とするものである。ここには、我が国の領域に対する侵害が発生しているか否かという明確な基準が存在する。
これは、9条の政府が恣意的な動機に基づいて自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを防ごうとする趣旨が保たれており、9条の規範性を没却させるものではないと考えることができる。
これを満たす中での「武力の行使」については、9条の趣旨を損なうことはなく、9条の制約の下でも正当化することができると考えられる。
【9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」への抵触】
実力組織であれば、すべて9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に該当するため一般に保持は許されないが、13条の「国民の権利」を保障する趣旨より、その目的に沿う範囲で例外的に実力組織の保持が許されると考える解釈を採る場合について考える。
13条の「国民の権利」の趣旨によって正当化できる範囲は、「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たす場合の「武力の行使」や、それを実施するための実力組織に限られる。
新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」に基づく「武力の行使」は、「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たさない中で「武力の行使」を行うものである。
これにより、 新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」を実施するための実力組織について、13条の「国民の権利」の趣旨によって正当化することができる範囲を超えており、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
また、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、『他国防衛』の意図・目的を含む「武力の行使」である。
しかし、13条の「国民の権利」の趣旨によって『他国防衛』のための「武力の行使」を正当化することはできない。
9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」とは、まさにそのような『他国防衛』を行うような国内行政から明らかに逸脱する軍事的な『権限』や組織を禁ずることを目的として存在する規定と考えられる。
これにより、9条2項前段の「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。
(注意したいのは、9条はたとえ目的が『自国防衛』であっても軍事的な『権限』の行使や積極的な軍事組織を創設することは許容していないことである。政府解釈においても、13条の「国民の権利」の趣旨を背景としたとしても、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」にあたらない、「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲に留まる「武力の行使」を実施するための「自衛のための必要最小限度の実力(組織)〔自衛力〕」を保持することまでしか許していない。)
【9条2項後段の禁じる「交戦権」への抵触】
同様に、13条の「国民の権利」の趣旨によって正当化することができない範囲の「武力の行使」を行う『権限』については、9条2項後段の禁じる「交戦権」に抵触して違憲となる。
【「存立危機事態」の要件が「我が国に対する武力攻撃」を満たす場合】
「存立危機事態」の要件には、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分がある。
これが「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たす場合のことを意味しているのであれば、それを「排除」するための「武力の行使」は9条の制約の下でも正当化することができ、合憲と解する余地がある。
(ただ、それ以前に『我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある』とは一体どのような状態を指しているのか曖昧不明確である。そのため、一体どのような状態を指しているのか曖昧不明確であるということ自体で、9条が政府の恣意的な動機によって『武力の行使』が行われることを制約しようとする趣旨を満たしておらず、9条のの規範性を損なうことになるから、9条に抵触して違憲となるという論点もある。また、このような曖昧不明確な法律が定められることは、31条の『適正手続きの保障』の趣旨や、41条の立法権の趣旨からも違憲であり、『法律による行政の原理』の趣旨、『法律留保の原則』の趣旨、法の支配・立憲主義・法治主義の精神に反し、違法となるとする考え方もある。)
しかし、新三要件の第一要件後段や自衛隊法76条1項2号の「存立危機事態」の要件は、新三要件の第一要件前段の「我が国に対する武力攻撃が発生したこと」の部分や、自衛隊法76条1項1号の「武力攻撃事態」の要件とは別に設けられている。
また、政府答弁においても、「我が国に対する武力攻撃」を満たさない中での「他国に対する武力攻撃」に起因して行われる「武力の行使」である旨が繰り返し答弁されている。
そのため、「存立危機事態」の要件は「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たさない要件であると考えることが妥当である。
これにより、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、13条の「国民の権利」の趣旨によって正当化することのできない形で「武力の行使」を行うものということになる。
これは、行政権を目的の範囲外で使用するものであり、行政権の行使として正当化できる範囲を逸脱し、9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」という軍事権限に該当して違憲となる。
【『自国防衛』や「我が国を防衛するため」と13条の趣旨】
2014年7月1日閣議決定以降、政府は下記のように説明し、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」の正当化を試みている。
① 「他国に対する武力攻撃」に起因する「武力の行使」であるが、『他国防衛』を目的とするものではなく、あくまで『自国防衛』のための「武力の行使」であると説明している。
「他国に対する武力攻撃が発生した場合」を契機としているが、その他国を防衛する意図はなく、あくまで『自国防衛』のための「武力の行使」であると説明している。
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一方、パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしてもその目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。新三要件は、こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、このような昭和四十七年の政府見解の(一)及び(二)の基本的な論理を維持し、この考え方を前提として、これに当てはまる例外的な場合として、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとしてきたこれまでの認識を改め、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合もこれに当てはまるとしたものである。すなわち、国際法上集団的自衛権の行使として認められる他国を防衛するための武力の行使それ自体を認めるものではなく、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部、限定された場合において他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力の行使を認めるにとどまるものである。したがって、これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性及び法的安定性は保たれている。
新三要件の下で認められる武力の行使のうち、国際法上は集団的自衛権として違法性が阻却されるものは、他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまるものである。
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「砂川判決」と集団的自衛権についての政府見解に関する質問に対する答弁書 平成27年6月19日 (下線・太字・色は筆者)
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「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成二十六年七月一日閣議決定)でお示しし、平成二十七年九月十九日に成立した我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第七十六号。以下「改正法」という。)による改正後の自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十六条第一項及び第八十八条並びに改正法による改正後の武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号及び第四号、第三条第三項及び第四項並びに第九条第二項第一号ロに明記されている「武力の行使」の三要件の下で認められる武力の行使のうち、国際法上は集団的自衛権として違法性が阻却されるものは、他国を防衛するための武力の行使ではなく、あくまでも我が国を防衛するためのやむを得ない必要最小限度の自衛の措置にとどまるものであるから、従来のいわゆる自衛権発動の三要件の下で認められる武力の行使と同様、憲法第九条の禁ずる武力の行使に当たるものではない。
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憲法第九条の定める国際紛争を解決する手段としての武力行使等の放棄と集団的自衛権行使の矛盾に関する質問に対する答弁書 平成27年10月6日 (リンクは筆者)
この説明には、下記の2つのことが含まれている。
◇ 『他国防衛』のための「武力の行使」ではないこと
◇ 『自国防衛』のための「武力の行使」であること
これにより、あたかも9条に抵触する違憲性を回避できるかのように論じようと試みている。
② 自衛隊法76条に「我が国を防衛するため」の文言が存在することから「我が国を防衛するため」の「武力の行使」であると説明されることが考えられる。
これを理由として9条に抵触しない「武力の行使」であると論じようとすることが考えられる。
しかし、これら①②の理由では、「存立危機事態」での「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならず、「武力の行使」を正当化できる根拠にはならない。
まず、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」に基づく「武力の行使」とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃(第一要件)」を「排除(第二要件)」するために「武力の行使」を行うこととなる。これについて、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」でないと説明することはできない。
そのため、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」でないとの主張をもって、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。
また、『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」ではないことを強調したところで、9条の下では『他国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」が許されないことは当然であるが、たとえ『自国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」であったとしても、必ずしも許されているわけではない。
なぜならば、歴史上「自国民の利益」を実現しようとして政府が対外的に「武力の行使」を行ったことや、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ったことは幾度も経験するところであり、9条はそのような「武力の行使」を禁じるために設けられた(禁じる趣旨の)規定だからである。
9条は政府が「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として「武力の行使」に踏み切ることや、『自国防衛』を称して「武力の行使」に踏み切ることを防ぐところに意図があるのである。
そのため、9条の下では『自国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」であることを強調したとしても、それだけでは必ずしも「武力の行使」を行うことが許されるわけではない。
『自国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」であることや、「我が国を防衛するため」の「武力の行使」であることを理由としても、それだけでは9条が政府が恣意的な動機をもって「武力の行使」に踏み切ることを排除しようとした趣旨を満たす基準となるものを有しないのである。
そのことから、『自国防衛』の意図・目的を有する「武力の行使」であることや、自衛隊法76条に「我が国を防衛するため」の文言が存在することを理由としても、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。
【13条の「国民の権利」の趣旨】 (作成中)
9条の制約の下でも13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として「自衛の措置」をとることができるとする解釈枠組みを採用する場合に、その解釈の過程では、13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」の文言が用いられている。
これに対して、「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」の部分の「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」の文言が、この13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」をなぞるものであり、これが9条の制約を回避するための根拠として働くと考えて、その解釈の枠組みの中に「存立危機事態」での「武力の行使」が収まると主張されることが考えられる。
これによって正当化することができるかを考える。
まず、9条は「自国民の利益」の実現を追及したり、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由とする恣意的な動機によって政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする趣旨で設けられた規定である。
そのため、9条の制約の下において、13条の「国民の権利」を保障する趣旨から「自衛の措置」をとりうる場合を見出す解釈を採用するとしても、「13条の『国民の権利』を保障することを目的とするのであれば、9条の下においてもあらゆる『武力の行使』を正当化することができる」という性質のものではない。
もし13条の「国民の権利」が危機にあるか否かを基準とするだけで「武力の行使」を行うことが可能となるのであれば、下記のような問題が起きてしまう。
◇ 9条が「自国民の利益」の実現や、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとした趣旨を満たさない。
◇ 政府の恣意的な動機によって「武力の行使」が行われることを排除するための基準として十分なものではなく、その例外性の限度を画することのできる明確な規範とはならなくなってしまう。(として機能しなくなる。)
このように、もし9条の規定が存在するにもかかわらず、政府の行為を制約しようとする趣旨を満たさない形で「武力の行使」の発動要件を設定できることになってしまうと、9条が政府の行為を制約しようとする意図が満たされていないこととなり、9条が存在する意味そのものを失わせ、9条の規定を無意味なものとしてしまうことになる。
そのため、たとえ9条の制約の下で13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として例外的な「武力の行使」を発動できる場合を見出すとしても、単に「国民の権利」が危険であるか否かなどという抽象的な危機感を基準とすることはできない。(それを理由として「武力の行使」を発動することはできない。)
この13条の「国民の権利」の趣旨についても、憲法の前文の「平和主義」の理念や9条の規定が政府に対して無防備・無抵抗を強いるものでないことを裏付けるための根拠となる条文として取り上げられているものに過ぎないのである。
そのため、13条の「国民の権利」を保障する趣旨を根拠として例外的な「武力の行使」を正当化できる場合を見出す解釈を採用するとしても、「武力の行使」の発動要件を設定する場合には、それが極めて限定された状況下であることを示すために、下記を満たすことが求められる。
◇ 9条が「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合による「武力の行使」に踏み切ることを制約しようとする趣旨を満たすこと
◇ 9条の政府の行為を制約しようとする意図が生かされる合理的な基準を設定し、政府の恣意性を排除すること
◇ 9条の趣旨を損なわせることがない形で、極めて限定された範囲であることが明確に示され、例外性の限定された範囲は、限度の範囲が画される(枠づけられていることを示す)明確に確定できる基準を設定すること
「武力の行使」の発動要件を設定する際には、9条が政府の恣意的な判断を制約しようとする趣旨を損なわせることがない形となっていることで初めて、9条の規範性が保たれ、9条が存在する意義を失わせないものとなるのである。
もし「武力の行使」の発動要件が設定される際に、9条を政府の行為を制約しようとする意図の実効性が保たれる形で一定の規範を導くことをせず、9条の趣旨が生かされない形であったならば、それは9条の趣旨を逸脱し、9条の規範性を損なわせ、9条に抵触するものとして扱う必要がある。
そうでなければ、9条の規定が憲法中に存在している事実を無視することとなり、論理的整合性や体系的整合性を損ない、憲法解釈の妥当性を喪失させることとなり、法解釈として成り立たなくなるからである。
9条の存在意義を保つための歯止めとなるものは、この9条に示されている文言に頼るしか他にないのである。
このため、「武力の行使」の発動要件の中に13条の「国民の権利」の保障を実現する趣旨が含まれているだけでは、未だ政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ることを制約することのできる基準となるものは存在しないのであり、その発動要件に基づく「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。
これだけで「武力の行使」を行うことができるのであれば、9条の趣旨を没却することとなるため、法解釈として妥当でない。
もしそう考えなければ、結局、政府は「自国民の利益」を実現(追求)する意図・目的をもって(含んで)「武力の行使」に踏み切ることが可能となってしまうのであり、9条が存在するにもかかわらず、それらの行為を制約することができないこととなり、法解釈として妥当でなくなるからである。
そのため、13条の「国民の権利」を保障する趣旨を根拠とする場合においても、13条の規定の適用が及ぶ範囲である日本国の領域に対する侵害があるか否か(日本国の領域に対する侵害の有無)を基準とする形で明確な範囲を確定する必要がある。
つまり、「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たす場合に限られる。
「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、これを満たさない中での「武力の行使」を許容しようとするものであるから、13条の「国民の権利」の趣旨によって正当化できる範囲を超え、9条に抵触して違憲となる。
「我が国に対する急迫不正の侵害があること(我が国に対する武力攻撃が発生したこと)」を満たさない段階で「武力の行使」を行うことができるとの考え方は、13条の「国民の権利」の趣旨を拡大適用しようとするものであり、9条が存在する意義を損なうこととなる。
これは、13条の「国民の権利」の趣旨によって例外的に「武力の行使」を許容する解釈の枠組みの範囲では正当化することができない。
そのため、「存立危機事態」の要件が13条の「国民の権利」を保障する趣旨を取り入れたものであるとしても、これを理由とするだけでは「武力の行使」が9条に抵触しないことを示したことにはならない。
「存立危機事態」の要件に、9条が政府の恣意的な「武力の行使」を排除しようとする趣旨を満たし、9条の規範性を維持することのできる基準となるものが存在しない以上、「存立危機事態」の要件は9条の規範性を損なうものとなる。
そのため、9条の下で「武力の行使」の発動の可否を決するための基準として「存立危機事態」の要件を設定することが法的に正当化される余地はない。
新三要件の「存立危機事態」に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲となる。
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先ほど見た憲法13条は、国民の生命・自由・幸福追求の権利を保護していますが、それらの権利が侵害される具体的危険がない段階、すなわち抽象的危険しかない段階で、それを除去してもらう安心感を保障しているわけではありません。したがって、「自衛目的の先制攻撃」を憲法9条の例外として認めることはできません。
「自衛のための必要最小限度の武力行使」と認められるのは、「個別的自衛権の行使」に限られるでしょう。
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軍事権を日本国政府に付与するか否かは、国民が憲法を通じて決める 木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』から 2015.08.26
<理解の補強>
第1章 平和安全法制における法的事態とその認定について PDF
〇
13条の「国民の権利」の趣旨を用いることによって、あたかも「自国の存立」や「国民の権利」の危機という抽象的な危機感を理由とした「武力の行使」を発動する余地が生まれるかのような考えは、9条が政府の恣意的な動機によって自国都合の「武力の行使」が行われることを禁じる趣旨を満たさない。
このような考え方は、9条を政府の行為を制約しようとする規範として意味を為さないものとしてしまうこととなり、法解釈として成り立たない。
そのため、「存立危機事態」での「武力の行使」は、9条の制約の下でも13条の「国民の権利」の趣旨によって例外的に「武力の行使」を正当化できるとする範囲を超えており、9条に抵触して違憲である。
【『他国防衛』を13条の「国民の権利」の趣旨によって正当化できるか】
9条の制約の下でも13条の「国民の権利」を保障するという目的を達成することに限った形で例外的な「武力の行使」は可能であると考える場合、「他国」や「他国民の権利」を保護することを意図した『他国防衛』のための「武力の行使」が、結果として、13条の「(自)国民の権利」の実現に資することになるという主張が考えられる。
しかし、9条は「自国民の利益」の実現を追求することや、「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の恣意的な判断によって「武力の行使」に踏み切ることを制約するために設けられた規定であり、13条の「国民の権利」の実現に資するというだけでは、必ずしも「武力の行使」を許しているわけではない。
そのため、『他国防衛』や「他国民の権利」を守ることが13条の「国民の権利」に資することを理由として「武力の行使」を可能とする考えは、9条が「自国民の利益」の実現を追求したり、「自国の存立」や「自国民の権利」の危機などを理由として政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ることを防ごうとする趣旨を満たさない。
このような13条の「国民の権利」の趣旨を拡大適用する考え方に基づく解釈は、9条の規範性を損なうこととなり、9条の規定が存在する意義そのものを失わせることになる。
このことから、「他国」や「他国民の権利」を保護することを意図した『他国防衛』のための「武力の行使」を行うことを、13条の「国民の権利」の趣旨を根拠として正当化することはできない。
そのような主張は、法解釈としての妥当でない。
加えて、下記のような論点もある。
前文で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」するなど「平和主義」の理念を示し、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」している。
そのことから、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切ろうとする意図が入り込む余地のある要件や、政府が自国都合によって「武力の行使」に踏み切っているのか否かを判定できないような基準を定めることは、9条の規範性を損なうだけでなく、前文の「平和主義」の理念からも導かれない。
(メモ)
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生したとしても、日本国の領域に対する侵害が発生した場合とは異なるため、13条の「国民の権利」の規定の趣旨が及ぶ範囲(領域)とも何ら関係がない。
未だに「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを排除できておらず、9条の趣旨を満たさない。(政府の恣意性を排除したことにはならない。)
合憲限定解釈は可能か
「存立危機事態」の要件について「合憲限定解釈」が可能であるかを検討する。
「合憲限定解釈」とは、問題となっている法文を司法府が独自に「違憲となる部分」と「合憲的に解釈できる部分」とに切り分け、法文の意味を合憲的に読み解くことのできる範囲に限定することで法文を救済しようとする解釈方法のことである。
【動画】予備試験・司法試験で求められる「憲法のセンス」 2022/09/30 ①
【動画】予備試験・司法試験で求められる「憲法のセンス」 2022/09/30 ②
「存立危機事態」での「武力の行使」を定めた自衛隊法76条1項2号と同88条の規定について、「立法府の作成した法律である」という民主的な正当性が存在することを理由として、司法府で「合憲限定解釈」を行う必要性があるか否かが検討される可能性がある。
この場合、9条の制約と13条の「国民の権利」の趣旨を整合的に読み解く解釈の枠組みから見ても、「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という状態が、例えば「我が国に対する武力攻撃」が発生したことによって生じた場合のことを指していると限定して考えるなど、合憲的に解釈することができる部分を見いだせるのではないかとの主張が考えられる。
(ただ、2014年7月1日閣議決定が旧三要件とは異なるものとして『存立危機事態』を含む新三要件を定めようととしている点や、自衛隊法76条1項2号の『存立危機事態』の要件は同76条1項1号の『武力攻撃事態』の要件とは別に設けているという立法趣旨、政府答弁などから考えても、『存立危機事態』の要件の『我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある』の部分が『我が国に対する急迫不正の侵害があること〔我が国に対する武力攻撃が発生したこと〕』を満たす場合を指しているとは考えることができない。もしそのように考えるのであれば、『存立危機事態』の要件を『武力攻撃事態』にあたる要件と別に設けている意味がなくなるのであり、法を体系的整合性を保つように読み取ろうとする観点から法解釈として妥当ではなくなる。また、政府答弁でも『存立危機事態』とは『我が国に対する急迫不正の侵害があること〔我が国に対する武力攻撃が発生したこと〕を満たさない場合であることが述べられているため、『我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある』の部分が『我が国に対する急迫不正の侵害があること〔我が国に対する武力攻撃が発生したこと〕』を満たす場合であるとの前提は存在していない。)
【9条の規範性】
しかし、9条は「自国の存立」や「国民の権利」の危機を理由として政府が自国都合の「武力の行使」に踏み切ることを制約するための規定である。
その9条の下でなお「武力の行使」を行うことができる場合を見出すとしても、9条の規定が存在する限りは、「武力の行使」の発動要件には9条の規範性を損なうことのない客観的に明確な基準を設定することが求められる。
なぜならば、もしその要件の内容が漠然不明確であるにもかかわらず、「漠然不明確であるが故に違憲の法理」を採用してその要件を無効としなかった場合、9条には規範性を有する法的な制約が存在しないこととなり、9条の規定が存在している意味自体を失わせてしまうことになるからである。
9条の下で曖昧不明確(漠然不明確)な要件に基づいて「武力の行使」を行うことができるとする考えは、法の支配や立憲主義、法治主義を達成するために行われる法解釈という営みそのものの妥当性を損なう結果を生むことになるため、妥当でない。
【憲法が前提としている人権の性質】
また、憲法は前文で「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と示し、97条では「基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて」と表現している。
そのため、憲法は人権概念を人類的視野に立った前国家的な自然権としての普遍的価値を有する性質のものとして扱っている。
他にも、憲法は「国際協調主義」を採用しており、自国の独善主義を排している。
これらの前提を踏まえると、たとえ日本国の統治権の『権力・権限・権能』によって行われる措置の内容が「他国」に対するものであったり、その措置によって被害を被る対象が「自国民」ではなく「他国民」であったとしても、人権の制約や侵害の可能性や、それによる犠牲の程度が大きい措置を定める場合には、政府の恣意的な動機によって人権侵害が行われることを防ぐことが求められてている。
そのことから、その措置を行う場合に関する法文が複数の解釈を許すような表現となっていること自体が、憲法的価値に反すると考えられる。
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しかし,単なる行政と差別化された執行権であったとしても,その権限行使が優位に立つとして,憲法の有権解釈を独善的に行使できるとする訳ではない。とくに,「外交・防衛・公安警察」の側面で,かつての全体主義国家のような権限行使が,執行権者にすべて委ねられるとする理解は誤っている。政府の各機関の権力決定に,特別のルールの承認を認めること19,最近の憲法訴訟論の用語でいえば,「統治行為,合憲限定解釈」を導くようなルールを認めることの誤りは,国民に不利益となって帰ってくることになる。あたかも政府の長である内閣総理大臣(首相)が,国家の利益をすべて代表して,国民の代表であるような振る舞いを行使することは,重大な問題事例でありうる。つまり,司法権と同様に政府が行う有権解釈への制約は,課せられて当然のことである。
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政府の憲法解釈 専修大学名誉教授 石村修 PDF (P141) (下線は筆者)
【「合憲限定解釈」の当否】
この事例の「存立危機事態」の要件は「武力の行使」を発動する措置に関するものであり、その措置のもたらす効果は人の人権を奪うこともある極めて侵害的な性質を有しており、極めて抑制的に行使されることが求められている。
もしその措置が誤って行使された場合や、政府の恣意的な動機によって行使された場合には、取り返しのつかない甚大な被害を生じさせることとなる。
このことから、「立法府の作成した法律である」という民主的正当性のために司法府で「合憲限定解釈」の手法を採用して法文を救済する必要性に比べて、立法府が「武力の行使」を可能とする基準として曖昧不明確(漠然不明確)な要件を設定する形で法文を作成し、法的な制限として設けられている9条の規範性を損なったこと自体の強い不当性が勝ると考えられる。
これにより、この事例に対して「合憲限定解釈」の手法を使って法文を救済しようとすることは、9条の趣旨に反するし、憲法価値にも反することになるため妥当でない。
そのため、「存立危機事態」の要件に基づく「武力の行使」は、9条に抵触して違憲・無効と判断することが妥当である。
また、「存立危機事態」の要件は、規定の文言が抽象的であったり漠然不明確なものであることそれ自体について「漠然・不明確故に無効の法理(過度の広汎性故に無効の法理)」または「明確性の原則」(31条の趣旨)の観点からも違憲・無効とすることが妥当であると考えられる。
【立法権の趣旨】
さらに、「存立危機事態」の要件の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」の部分について、「我が国に対する武力攻撃」が発生した場合のことを指すものであると意味を限定して法文を救済しようとする「合憲限定解釈」を行うことを検討するとしても、それは実質的に裁判所に立法権を委ねるものである。
これは、41条の立法権の趣旨に反して違憲となると考えられる。
法文上の曖昧不明確な文言について「合憲限定解釈」の手法がなされる場合、裁判所が立法権を行使することになるのではないかとの懸念について参考。
【参考】「打倒 芦部憲法学」弟子の長谷部恭男早大教授が語る 2020年03月15日
【参考】過度に広汎性ゆえ無効の法理 君塚正臣 横浜国立大学リポジトリ
【回帰できるベースラインの存在】
「存立危機事態」での「武力の行使」を違憲・無効とした場合にも、従来の旧三要件に基づく「武力の行使」に回帰することができ、ベースラインが存在している。
これにより、法文を違憲・無効とした場合においても、法の整合性の観点から回帰することが不可能な混乱が生じることはない。
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安保法制のうち、集団的自衛権の行使を許容する部分が違憲と判断されれば、本来のベースラインである個別的自衛権の行使のみが許容される法状態に回帰すべきこととなる[意味の一部の違憲]。
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【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XX 2023/06/02
(事情判決を出す必要はない。)
(裁判所が『存立危機事態』での『武力の行使』を違憲・無効と判断したとしても、旧三要件に基づく『武力の行使』やそれを実施するための実力組織が違憲であるか否かに対してまで法的判断を行う必要のない事例である。)
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XIX 2023/05/07
統治行為論を採用するべきか
裁判所が司法権を行使して法的な判断を行う場合に、「統治行為論」を採用して憲法判断(法的判断)を回避するべきであるかについて検討する。
【動画】憲法学者 長谷部恭男教授の証人尋問後の衆議院院内集会の様子 2023/04/10
「統治行為論」を採用して憲法判断(法的判断)を回避するべきであるか否かが問われる対象として、下記を挙げることができる。
〇 2014年7月1日閣議決定の解釈の過程
2014年7月1日閣議決定が9条を解釈する過程で示している論理展開について、裁判所が「裁量統制」を行い、行政権による解釈権の行使に逸脱・濫用が存在するか否かを審査し、「適正手続きの保障」の趣旨に反するような不正・違法な部分を発見した場合に、それを是正するべきか否かの問題である。(閣議決定の解釈過程の違法)
具体的な内容は、当サイト「集団的自衛権行使の違憲審査」のページで解説している。
(裁判所が内閣の2014年7月1日閣議決定の解釈過程の論理に不正・違法な内容が含まれていると宣言して是正を促したとしても、解釈手続きのやり直しのみを命じればよいのであって、そこからさらに『存立危機事態』の要件が9条に抵触して違憲となるか否かについてまでは判断を行わないという方法も考えられる。)
もし裁判所が「統治行為論」を採用して法的判断を行わなかった場合には、政府の行う解釈手続きそのものが超法規的なものとなってしまう。
〇 「存立危機事態」に基づく「武力の行使」
「存立危機事態」の要件に基づいて「武力の行使」を行うことが、9条に抵触して違憲となるか否かの論点について、裁判所が司法権を行使して憲法判断を行うべきであるか否かの問題である。(閣議決定の解釈の結論の違憲+法令違憲)
これは、このページの上記で解説している内容である。
もし裁判所が「統治行為論」を採用して法的判断を行わなかった場合、政府は9条の下にありながらも自由裁量によって「武力の行使」を行うことができることとなり、実質的に「武力の行使」は無制約となる。
国会が「侵略戦争の実施に関する法律」を立法したり、内閣が法的に正当化できる根拠を持たない中で「武力の行使」を行っても、それらの行為に対して司法判断が及ばないことになってしまう。
〇 具体的な事例を「存立危機事態」に当てはめたこと
「存立危機事態」の要件の曖昧不明確な部分について「合憲限定解釈」が可能であると考える場合に、行政権を有する政府が具体的な事例に対して「存立危機事態」の要件を当てはめて適用し「武力の行使」を行ったことについて、裁判所が「裁量統制」を行って逸脱・濫用が存在するか否かを審査し、不正・違法な部分を発見した場合に是正するべきか否かの問題である。(適用違憲)
具体的には、
① 「我が国と密接な関係にある他国」に該当するか否か
② 「他国に対する武力攻撃」の発生の有無の判断は妥当であるか
③ 「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」に該当するか否か
⇒ ただ、この部分は曖昧不明確な内容であり、この部分の意味がどのような状態を指すものであるかを裁判所が「合憲限定解釈」の手法によって具体的に指針を示すということは、それまで明らかになっていなかった内容を裁判所が事後的に立法することになる。
このことは、41条に示された「唯一の立法機関」である国会の立法権を侵し得ることとなる。
また、そもそも9条が政府の行為を制約する趣旨を有しているにもかかわらず国会が敢えて漠然不明確な要件を立法することによって容易に「武力の行使」に踏み切ることができるようにしていることの強い不当性が勝ると考えられる。
そのことから、このような性質を有する要件に対して「合憲限定解釈」の手法を採用して法文を救済しようとすることは相当でなく、「漠然不明確ゆえに無効の法理」や「明確性の原則」によって法文そのものを違憲(法令違憲)と判断するべきものと考えられる。
【動画】九大法学部・憲法2(人権論)第10回〜「公務員の政治的行為の自由」・2021年度後期 2021/11/13
④ 「これにより」の前後の要件の発生に相当因果関係があったか否かの「裁量統制」
もし裁判所が「統治行為論」を採用して法的判断を行わなかった場合、政府は9条の下にありながらも自由裁量によって「武力の行使」を行うことができることとなり、実質的に「武力の行使」は無制約となる。
内閣が法的に正当化できる根拠を持たない中で「武力の行使」を行っても、その行為に対して司法判断が及ばないこになってしまう。
【動画】予備試験・司法試験で求められる「憲法のセンス」 2022/09/30 ①
【動画】予備試験・司法試験で求められる「憲法のセンス」 2022/09/30 ②
「統治行為論」を採用して憲法判断を回避するべきかどうかについては、下記の「砂川判決に論拠はあるか」のページの「砂川判決の統治行為論のベクトル」の項目で解説した。
<理解の補強>
違憲 Wikipedia
合憲 Wikipedia
憲法訴訟 Wikipedia
違憲判決 Wikipedia
違憲審査制 Wikipedia
違憲審査基準 Wikipedia
統治行為論 Wikipedia
憲法裁判所 Wikipedia
司法積極主義 Wikipedia
憲法訴訟に関連する用語等の解説 衆議院憲法調査会事務局 平成12年5月 PDF
その14 適切な距離のとり方について 2018/5/13
国際法との対応関係
政府は、日本国の統治権の『権限(power)』によって「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲で「武力の行使」を行うことを、国際法上の違法性阻却事由の『権利(right)』の区分から見た評価として「自衛権の行使」と表現している場合がある。
ただ、日本国は「自衛権」を行使するという形で「武力の行使」を行う際にも、その発動要件や程度・態様は「自衛のための必要最小限度」という三要件(旧)の範囲に限られるため、他国の行使し得る「自衛権」の区分に該当する「武力の行使」の幅よりも狭い範囲に限られることとなる。
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〇 集団的自衛権の行使【国際法】 〔他国からの要請が必要〕
「他国に対する武力攻撃」を起因とした「他国の国民」を保護するための「武力の行使」(他国防衛)
(限定的な集団的自衛権の行使)【←国際法上は存在しない概念】 〔他国からの要請が必要〕
「他国に対する武力攻撃」を起因とした「自国の国民」を保護するためと称する「武力の行使」
(『存立危機事態』での『武力の行使』)(自国防衛・自国利益)
〇 個別的自衛権の行使【国際法】
「自国に対する武力攻撃」を起因とした「自国の国民」を保護するための「武力の行使」(自国防衛)
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国際法 | 国内法 | ||||
国連憲章51条 (違法性阻却事由) |
他国から の要請 |
閣議決定 法律 |
目的 | 憲法審査 | |
集団的自衛権の行使 (他国に対する武力攻撃) |
必要 |
〇 9条1項が不戦条約と同趣旨であることから、「他国に対する武力攻撃」の発生に起因する「武力の行使」は認められておらず違憲 〇 1972年(昭和47年)政府見解(その『基本的な論理』と称している部分も同様)に適合せず違憲 |
|||
限定的な集団的自衛権の行使 |
必要 88条2項)
|
存立危機事態
閣議決定 「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」
76条1項2号 |
自国防衛 |
〇 9条1項が不戦条約と同趣旨であることから、「他国に対する武力攻撃」の発生に起因する「武力の行使」は認められておらず違憲 〇 1972年(昭和47年)政府見解(その『基本的な論理』と称している部分も同様)に適合せず違憲
〇 「存立危機事態」の要件は曖昧不明確であり、政府のその時々の政治判断となってしまうから、9条の規範性を損なっており違憲 |
|
個別的自衛権の行使 (自国に対する武力攻撃) |
不要 |
|
〇 政府解釈によれば「武力の行使」の三要件(旧)を超えるものについては違憲 | ||
(日本国の行使する個別的自衛権の範囲) |
不要 |
①従来からの 政府見解 「我が国に対する急迫不正の侵害があること」 (わが国に対する武力攻撃が発生したこと)
|
自国防衛 | 〇 1972年(昭和47年)政府見解(その『基本的な論理』と称している部分も同様)に適合する部分は合憲 |
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○政府委員(真田秀夫君)
(略)
それから韓国についての、韓国条項についての御質問でございますが、これはわが国の自衛権行使の三要件とは関係がございませんで、いま申しましたように、わが国に対する武力攻撃があった場合に日本の個別的自衛権は限定された態様で発動できるというだけのことでございますから、韓国に対する脅威が、危害がありましても、これは直ちにわが国の自衛権が発動することになるとは毛頭考えておりません。
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第68回国会 参議院 内閣委員会 第11号 昭和47年5月12日
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○角田(禮)
(略)
ところが、個別的自衛権についても、その行使の態様については、わが国におきましては、たとえば海外派兵はできないとか、それからその行使に当たっても必要最小限度というように、一般的に世界で認められているような、ほかの国が認めているような個別的自衛権の行使の態様よりもずっと狭い範囲に限られておるわけです。そういう意味では、個別的自衛権は持っているけれども、しかし、実際にそれを行使するに当たっては、非常に幅が狭いということを御了解願えると思います。
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第94回国会 衆議院 法務委員会 第18号 昭和56年6月3日
「存立危機事態」とその他の事例 | 他国からの要請 | 目的 |
制度上の「武力の行使」の可否 その「武力の行使」の憲法適合性 |
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他国に対する武力攻撃が発生 | ━ | なし | 自国都合 |
✕ 不可 9条1項が「不戦条約」と同趣旨であることから違憲
9条1項「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」で違憲 9条2項後段「交戦権」で違憲 国際法上は【先制攻撃】で違法 |
|||
あり | 他国防衛 |
✕ 不可 9条1項が「不戦条約」と同趣旨であることから違憲
他国の間の紛争に武力介入することとなり、9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触して違憲 9条2項後段「交戦権」と異なる「自衛行動権」で説明できないため違憲 国際法上は【集団的自衛権の行使】 |
|||||
我が国と密接な関係にない他国 |
に対する武力攻撃が発生
|
これにより
|
我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある
|
なし | 自国都合 |
✕ 不可 9条2項後段「交戦権」で違憲 国際法上は【先制攻撃】で違法 |
|
あり ※ |
他国防衛 |
✕ 不可 9条2項前段「陸海空その他の戦力」で違憲 『他国防衛』は9条の制約の下で13条により例外を根拠付けることのできる範囲を超え違憲 国際法上は【集団的自衛権の行使】 |
|||||
自国防衛 (自国都合) |
✕ 不可 事態の『数量』に要件を設定することは9条に抵触しない範囲を13条の拡大適用することで生み出そうとするものであるから、自国の主張を通すための自国都合の「武力の行使」を可能とするため9条に抵触して違憲
9条1項「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」で違憲 9条2項後段「交戦権」で違憲 |
||||||
我が国と密接な関係にある他国 | なし | 自国都合 |
✕ 不可 9条2項「交戦権」で違憲 国際法上は【先制攻撃】で違法 |
||||
あり ※ |
他国防衛 |
✕ 不可 9条2項「陸海空その他の戦力」で違憲 『他国防衛』は9条の制約の下で13条により例外を根拠付けることのできる範囲を超え違憲 国際法上は【集団的自衛権の行使】 |
|||||
他国と自国の防衛 | |||||||
自国防衛 (自国都合) |
〇 2014年7月1日閣議決定以降、可能としようとしている部分 「他国に対する武力攻撃」と『他国からの要請』が必要であるにもかかわらず、『自国防衛』と称することは因果関係がない。 目的に他意を含んでおり、他事考慮である。 31条の「適正手続きの保障」の趣旨より違憲。 曖昧不明確な要件であり、13条の趣旨を拡大適用することで事態を『数量』的に判断し、9条に抵触しない範囲を生み出そうとするものとなっている。 9条が自国の主張を通すための自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない。
9条1項「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」で違憲 9条2項「交戦権」で違憲 国際法上は【集団的自衛権の行使】 |
||||||
(武力攻撃は不発生) |
━ | 自国都合 |
✕ 不可 曖昧不明確な要件であり、13条の趣旨を拡大適用することで事態を『数量』的に判断し、9条に抵触しない範囲を生み出そうとするものとなっている。 9条が自国の主張を通すための自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない。
9条1項「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」で違憲 9条2項「交戦権」で違憲 国際法上は【先制攻撃】で違法 |
||||
(13条『生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利』の保障) | ━ | 自国都合 | |||||
我が国 | に対する武力攻撃が発生 | ━ | ━ | 自国防衛 |
〇 可能 「自衛のための必要最小限度(旧三要件)」のための「実力組織」であれば合憲 国際法上は【個別的自衛権の行使】 |
〔存立危機事態について〕
「我が国と密接な関係にある他国」 我が国と密接な関係に「ある」か「ない」かの要件が不存在。その他国からの要請があった時に、「密接な関係にある他国」かどうかを認定することが内閣の政治判断となる。限定性はなく、「武力の行使」の発動要件として曖昧で明確性もない。13条の「国民の権利」を保障する趣旨を拡大適用させる恐れがある。行政権に一任している旨が31条で違憲。
「これにより」 因果関係の認定に、具体的な要件が存在していない。実質的に内閣の政治的な判断に委ねるものとなり、侵害的な行政活動(既に軍事権の範囲という論点もある)であるにも関わらず、行政権に広範な裁量権を与えた旨が31条の「適正手続きの保障」の趣旨に反して違憲となる。
『他国からの要請』※ 『要請』の有無に従って判断が分かれるということは、『要請』があった時の「武力の行使」は「他国や他国民を防衛する」という意味を含むものしか存在しないこととなる。この中での「武力の行使」をする組織を「陸海空軍その他の戦力」でないということはできず、9条2項の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触して違憲となる。また、13条の「国民の権利」の趣旨を根拠とすることができる範囲を超えるため、9条に抵触して違憲となる。
論理構成まとめ
━━━━━━━━ 基礎となる論理構成 ━━━━━━━━
〇 先に攻撃(先制攻撃) ⇒ 9条1項の禁じる「国際紛争を解決する手段として」の「武力の行使」に抵触 ⇒ 違憲
〇 自国都合の「武力の行使」 ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
〇 軍事権の行使
⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 国内活動としての行政権(65条)に含まれない ⇒ 憲法上に明文の根拠なし ⇒ 国家の越権行為 ⇒ 違憲
⇒ 軍事権の行使 ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度(旧三要件)」の枠を越える ⇒ 9条で禁じた部分に該当 ⇒ 違憲
〇 集団的自衛権の行使 ⇒ 集団防衛権ともいわれる『他国防衛』
⇒ それを実施する組織は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 国内活動としての行政権(65条)に含まれない ⇒ 憲法上に明文の根拠なし ⇒ 国家の越権行為 ⇒ 違憲
⇒ 軍事権の行使 ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度(旧三要件)」の「武力の行使」を越える ⇒ 9条で禁じた部分に該当 ⇒ 違憲
〇 『他国防衛』のための「武力の行使」
⇒ それを実施する組織は9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 国内活動としての行政権(65条)に含まれない ⇒ 憲法上に明文の根拠なし ⇒ 国家の越権行為 ⇒ 違憲
⇒ 軍事権の行使 ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度(旧三要件)」の枠を越える ⇒ 9条で禁じた部分に該当 ⇒ 違憲
〇 13条の「国民の権利」の趣旨を拡大適用
⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 日本国領域内の「国民の権利」を最低限保障することを目的とする限度を画する基準を喪失 ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度(旧三要件)」の枠を超える ⇒ 9条で禁じた部分に該当 ⇒ 違憲
〇 曖昧不明確な「武力の行使」の発動要件 ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨に抵触する ⇒ 違憲
━━━━━━━━ 「存立危機事態」の要件へのあてはめ ━━━━━━━━
〇 「我が国と密接な関係にある他国」
⇒ どの国を指しているのか特定されていない ⇒ その時の内閣と国会の政治判断となる ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 要件(法律)の実体の適正が確保されていない ⇒ 行政権や立法権に白紙委任 ⇒ 31条の「適正手続きの保障」の趣旨に反する ⇒ 違憲
〇 「他国に対する武力攻撃」に起因する「武力の行使」
⇒ 13条の拡大適用 ⇒ 自国都合の「武力の行使」を可能とする
⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨に抵触する ⇒ 違憲
⇒ 『他国防衛』 ⇒ 軍事権の行使 ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度」の枠を超える ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
〇 「我が国の存立が脅かされ、国民の生命自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」
⇒ 具体的にどのような状態を意味しているのか識別するための基準を示すところがない ⇒ 曖昧不明確な基準 ⇒ その時の内閣と国会の政治判断となる
⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 13条の拡大適用 ⇒ 自国都合の「武力の行使」を可能とする ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 「武力の行使」の要件を客観的な事実(事態の性質)ではなく、事態の程度(事態の数量)を評価する政治判断が含まれる
⇒ 13条の拡大適用 ⇒ 自国都合の「武力の行使」を可能とする ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度」の枠を超える ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
〇 「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生」したことが、これにより「我が国の存立が脅かされ、国民の生命自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態に結びつくかどうかの基準
⇒ 曖昧不明確な基準 ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 具体性のない基準(曖昧不明確な基準) ⇒ その時の内閣と国会の政治判断となる ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 自国都合の「武力の行使」 ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 相当因果関係の明確でない「武力の行使」を可能とする
⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 要件(法律)の実体の適正が確保されていない ⇒ 行政権や立法権に白紙委任 ⇒ 31条の手続きの適正に反する ⇒ 違憲
〇 「我が国に対する武力攻撃」が発生していないが「我が国の存立が脅かされ、国民の生命自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」状態を認定して「武力の行使」を行う
⇒ 13条の拡大適用 ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
⇒ 「他国に対する武力攻撃」が発生したことを理由として自国都合の「武力の行使」に踏み切ることになる ⇒ 自国都合の「武力の行使」 ⇒ 9条が自国都合の「武力の行使」を制約しようとする趣旨を満たさない ⇒ 違憲
〇 国際法上の『他国からの要請』を必要とする(自衛隊法88条2項)「武力の行使」の形態であること ⇒ 他国防衛
⇒ 軍事権の行使 ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 国内行政権(65条)に含まれない ⇒ 憲法上に明文の根拠なし ⇒ 国家の越権行為
⇒ 軍事権の行使 ⇒ 9条2項前段の禁じる「陸海空軍その他の戦力」に抵触 ⇒ 違憲
⇒ 政府解釈によれば「自衛のための必要最小限度(旧三要件)」の枠を越える ⇒ 9条で禁じた部分に該当 ⇒ 違憲
結論
これら複数の論点によって、「存立危機事態」での「武力の行使」は違憲となると導かれる。
このような、憲法に違反する「法律」や、閣議決定などの「国務に関するその他の行為の全部又は一部」は、すべて無効である。
憲法
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〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕
第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 (略)
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違憲性の是正方法
「存立危機事態」での「武力の行使」という違憲部分を是正する方法について検討する。
① 内閣が解釈変更し、「存立危機事態」での「武力の行使」を廃止する。
② 国会が法律改正し、「存立危機事態」での「武力の行使」を廃止する。
③ 裁判所が違憲判決を出し、「存立危機事態」での「武力の行使」を無効とする。
④ 会計検査院が違憲性を指摘し、政府に是正を促す。(詳しくは、「会計検査院の違憲審査」)
⑤ 憲法改正をし、現在よりもさらに明確な形で「存立危機事態」での「武力の行使」を禁止する。
⑥ 憲法改正をし、9条を削除し、違憲性の指摘が起きない状態とする。
(この方法は、もともと憲法違反を是正しようという動機がないため、法の支配、立憲主義、法治主義の観点から正当なプロセスではない。)
⑦ 内閣が1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している解釈の基準を廃止し、新たな9条解釈を導く。
(政府が1972年〔昭和47年〕政府見解を採用しているのは、他の9条解釈に比べて法の規範的な意味での全体の整合性が高いからである。この見解を排除することは難しい。)
⑧ 革命が起こされ、日本国憲法が廃止される状態となる。
(この方法は、秩序崩壊であり、違憲であるとか、違憲でないとか、そのようなことを議論する前提が失われた異常事態である。)
〇 その他の選択肢としては、日本国が法治主義を止める、などの異常な方法しか残っていない。
「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」は違憲となる。
しかし、これは直ちに自衛隊の存在のすべてが違憲となり、否定されることを意味するわけではない。なぜならば、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」や、それを実施するための実力組織、それを行使するための『権限』は違憲であるが、三要件(旧)の基準の下で行われる「武力の行使」(個別的自衛権の行使にあたるもの)や、それを実施するための実力組織、それを行使するための『権限』については十分に法的な正当性を見出すことができ、違憲とはならないからである。
2014年7月1日閣議決定や「存立危機事態」の要件は、自衛隊の行使する「武力の行使」の範囲や、保持できる実力組織の範囲、それを行使するため『権限』に十分な法的な正当性を与えることができなかったことが問題となってるのであり、自衛隊という組織の存在のすべてが否定されることとは意味が異なる。
それを、あたかも自衛隊が「違憲な存在である」と批判を受けているかのように問題の所在をすり替え、憲法への自衛隊明記による自衛隊の合憲化を図ろうとすることは、自らの望む政策のために自衛隊の存在を政治的に利用しようとするものである。
大切なことは、権限や組織の実態が法の正当性から導き出される状態をつくり出すことである。それを適正な手続きによって行うことができなかった2014年7月1日閣議決定や「存立危機事態」の要件が非難されるべきなのである。
違憲性を是正するにあたって、ここを間違えてはいけない。
<理解の補強>
木村草太の憲法の新手(79)憲法への自衛隊明記 自民党案表現は争点隠し 2018年5月6日
憲法解釈はどこまで変えられるか 橋本 基弘/中央大学法学部教授 2015/10/13
政府答弁ではないが、「阪田雅裕」の説明がある。
法律論と政策論
当サイトは、法学上(法律論上)、新三要件の第一要件後段の「存立危機事態」での「武力の行使」(日本独自に『限定的な集団的自衛権の行使』と称しているもの)は違憲となると導かれると考えています。
しかし、政策上、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や、「存立危機事態」の要件に基づく形で行われる「武力の行使」を実施する必要があるかどうかについては別の問題であると考えます。適正な手続きに則って、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」を行うための『権限』を設けることを否定するものではありません。
なぜならば、適正な手続きに則って『権限』を設けることは、法学上の正当性を有するからです。
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憲法解釈で可能なことと、憲法を離れた、政策上の議論はきちんと分けて議論すべきである。政策上、集団的自衛権を認めた方が得策であるという主張もありうるかもしれないが、それと、憲法解釈上、集団的自衛権が認められるかどうかという議論は区別しなければならない。
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齊藤芳浩(西南学院大学) 安保法案学者アンケート 2015年7月17日
違憲と判断した憲法学者は集団的自衛権に反対しているわけではないという話 2015-07-18
「憲法上(法学上)」の問題と「政策上」の問題の違い
憲法上
|
合憲 | 違憲 | ||
政策上 | 必要 | 不要 | 必要 | 不要 |
当サイトは、あくまで法学上の問題を明らかにすることを目的としているため、憲法上の「合憲」「違憲」のみを論じ、政策上の「必要」「不要」には触れていないつもりである。
「違憲」であるが「必要」と考えるならば、憲法改正の必要がある。
「合憲」であるが「不要」と考えるならば、その旨が分かるように伝えるべきである。
注意したいのは、下記の論者である。
◇ 政策上「必要」と考える論者が「合憲」であると語ろうとすること。
◇ 政策上「不要」と考える論者が「違憲」であると語ろうとすること。
これらの論者が、「憲法上(法学上)」の問題と「政策上」の問題を切り分けて考えているかどうかを注意深く読み解いていく必要がある。
<理解の補強>
国際政治学の貧困と「御用学者」 2019-04-25
責任と賠償
日本国の統治権の『権限』が「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」を行った場合、指揮監督権を有する者は「刑事責任」と「民事責任」の両方が課せられると考えられる。考えられるものをいくつか取り上げる。
【刑法】
刑法
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(内乱)
第77条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。
三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。
(公務員職権濫用)
第193条 公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、二年以下の懲役又は禁錮に処する。
(殺人)
第199条 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
(傷害)
第204条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(傷害致死)
第205条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。
(過失傷害)
第209条 過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(過失致死)
第210条 過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。
(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
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上記の構成要件に該当しても、「正当行為(35条)」によって違法性が阻却される可能性は考えられる。
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(正当行為)
35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
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刑法35条では、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」とされているが、その「法令」の違憲性が裁判所の違憲審査によって確定した場合や、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」の指揮監督権が「正当な業務」に該当しないと裁判所に判断された場合には、違法となる可能性があると考えられる。
行政権の行使についての訴訟であるため、警察や検察が委縮して起訴しない可能性が考えられる。この点、内閣の一員である国家公安委員会委員長の大臣、国家公安委員会と警察庁、一般に捜査権を有する都道府県警察、検察庁の検察官の独立性の確保がどの程度なされているかという部分や、内閣の一員である「法務大臣」と「検事総長」の関係の論点に関わると考えられる。検察審査会の強制起訴もあるかもしれない。
憲法75条も確認しておこう。
憲法
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〔国務大臣訴追の制約〕
第75条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
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<理解の補強>
【動画】木村草太×眞鍋かをり:集団的自衛権行使は現行憲法下では無理がある
(15:13頃より)
ストップ3選の秘策
安倍首相は「内乱罪」で刑事告発される 2018年08月12日
小沢一郎氏の知恵袋が指摘
安倍政権による「内乱」予備罪 2018年7月18日
【動画】安倍晋三氏・内乱予備罪・告発記者説明会 2018/09/07 (動画の説明欄に要旨がある)
辺野古問題も追加で…安倍首相を“内乱予備罪”で年明け告発 2018/12/28
【動画】日吉雄太議員。権力者の犯罪「安倍総理・内乱予備罪」について質疑。 2020/03/09
(第201回国会 衆議院 法務委員会 第2号 令和2年3月10日)
告訴・告発 Wikipedia
怯える安倍首相…再び病院行きで立件逃れ“盤石シフト”崩壊 2020/08/24
【民法】
民法
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(不法行為による損害賠償)
709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
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不法行為 Wikipedia
〔要件〕
〇 加害者の故意・過失
〇 権利侵害
〇 損害の発生
〇 侵害行為と損害発生との間の因果関係
〇 加害者の責任能力
〇 違法性
〔効果〕
〇 賠償する責に任ずる
【国家賠償法】
(国家賠償法は行政法であるが、民法の特別法としての意味を持つ)
この権限の行使によって生じた自衛官等の公務員や民間人への損害については、国家賠償法上の問題も生じ、国が賠償する責に任ずることになるのではないだろうか。
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第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
第2条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。
第3条 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。
第4条 国又は公共団体の損害賠償の責任については、前三条の規定によるの外、民法の規定による。
第5条 国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。
第6条 この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
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国家賠償法 Wikipedia
国家賠償法1条の「要件」「効果」は以下のとおりである。
〔要件〕
〇 国の公権力
〇 行使に当たる公務員
〇 その職務を行うについて
〇 故意または過失によつて
〇 違法に他人に損害を与えた
〔効果〕
〇 賠償する責に任ずる
以上の「要件」に、この事例を具体的に当てはめてみる。
〇 国の公権力
41条の立法権の行使や、65条の行政権の行使によって「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や、「存立危機事態」での「武力の行使」。
〇 行使に当たる公務員
国会議員、自衛隊に対して指揮監督権を有している内閣、最高指揮官である内閣総理大臣、自衛隊の隊務を統括する防衛大臣、副大臣、大臣政務官、その他自衛隊の幹部公務員、解釈を担当した内閣法制局職員などが考えられる。
集団的自衛権行使容認を主導した人たち
(第2次安倍内閣 平成24年12月26日発足 平成26年8月18日現在)
安保法案に同調した議員
防衛省職員 Wikipedia
内閣法制局 Wikipedia
組織・業務概要 内閣法制局
内閣法制局長官と内閣法制局の「第二部」の職員が対象と思われる。(名簿・名簿・平成26年6月23日現在)
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◇第二部
内閣(内閣官房内閣人事局及び内閣府を除く。)、内閣府(公正取引委員会及び金融庁を除く。)、法務省、文部科学省、国土交通省又は防衛省関係
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意見事務・審査事務について 内閣法制局 (太字は筆者) (審査事務について)
⑵ 内閣法制局の任務・組織 PDF
〇 その職務を行うについて
公務中の指揮命令によってなされたことが相当すると考えられる。
〇 故意または過失によつて
「故意または過失」については、違憲の疑いが相当程度に濃厚であるが、何も対策を講じずに放置したことが考えられる。
(他の事例の参考:国会が選挙の投票価値の不平等を合理的理由もなく是正しなかった場合などにも「故意または過失」に相当すると考えられる。)
〇 違法に他人に損害を与えた
「違法に他人に損害を与えた」については、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」を許容する法律が裁判所の違憲審査によって違憲であると認定された場合、同時にその法律は違法となると考えられることから、その措置によって損害を被った者はこの要件に該当するのではないかと思われる。
「集団的自衛権の行使」での「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」に関わる規定に「合憲限定解釈」が可能な部分があった場合、「合憲限定解釈」が可能な部分については合憲・適法であるが、それを越える措置に関しては違憲・違法が認定されると考えられる。
ただ、「合憲限定解釈は可能か」の項目で論じたように、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」については、「合憲限定解釈」を行うことが適切でない、あるいは行うことができない場合であるとも考えられる。
また、「集団的自衛権の行使」としての「武力の行使」や「存立危機事態」での「武力の行使」だけでなく、それを実施するための訓練等や装備の購入、装備の導入、予算の執行についても、適法性を有しないと考えられる。
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○細田国務大臣 お答え申し上げます。
前の委員会において、リムパックについての統一見解を示せという安井先生の御意見でございました。政府部内の関係方面とも十分協議をいたしまして、有権的な解釈というようなものについて申し上げます。
自衛隊が外国との間において訓練を行うことができることの法的な根拠は、防衛庁設置法第五条第二十一号でございます。すなわち、同号は「所掌事務の遂行に必要な教育訓練を行うこと。」と規定しておりまして、この所掌事務の遂行に必要な範囲内のものであれば、外国との間において訓練を行うことが可能であると解しております。
もとより、自衛隊は、憲法及び自衛隊法に従いまして、わが国を防衛することを任務としておるのでありますから、その任務の遂行に必要な範囲を超える訓練まで行うことは、これはできません。たとえばわが国は、憲法上いわゆる集団的自衛権の行使は認められておりませんから、自衛隊がそれを前提として訓練を行うことは許されないところであり、また、自衛のための必要最小限度を超えるものであってはならないわけでありまして、わが国が保有することの許されていない兵器、たとえばICBMあるいは長距離戦略爆撃機、こういった兵器を自衛隊が使用して訓練を行うことも、これは許されないところでございます。
二番目に、自衛隊が外国との間において訓練を行うか否かにつきましては、前に申し上げたような観点から、まずその訓練が所掌事務の遂行に必要な範囲内のものであるかどうかを、当該訓練の目的等から総合的に判断しなければなりませんが、これによって法的に可能であったといたしましても、さらに当該外国との間で訓練を行うことが政策的に妥当であるかどうか、及びもう一つ、その訓練を行うことによる教育訓練上の効果がどの程度であるか、こういうことを慎重に検討した上で、ケース・バイ・ケースで判断する、こういうことでございます。
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第91回国会 衆議院 予算委員会 第20号 昭和55年3月8日
□ジャーナリスト・軍事評論家「前田哲男」
「集団的自衛権の行使が可能になったことを前提に日米共同訓練が行われている。」
新安保法制違憲訴訟で証人尋問 2020年11月24日
海自、存立危機シナリオで初訓練 米海軍主催の演習内 2022年8月8日
海自が「存立危機」想定訓練 米演習で初実施―防衛省 2022年08月08日
自衛隊、リムパックで初の「存立危機事態」想定訓練 2022年8月8日
「存立危機事態」認定する初の実動訓練 リムパック演習 2022/8/8
日本の自衛隊、「存立危機事態」を想定した訓練を初めて実施 2022-08-10
リムパックで「存立危機事態」想定の訓練 2022/8/8
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安全保障関連法が成立して、19日で7年を迎えた。自衛隊は今夏に初めて、米軍などと共同で、他国を武力で守る集団的自衛権を発動する「存立危機事態」想定の実動訓練を行うなど、法制化によって拡大した任務は実際の運用も可能な段階に入った。……(略)……
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実動訓練は、6月から8月までハワイ周辺で行われた米海軍主催の多国間海上訓練「環太平洋合同演習(リムパック)」の一環。他国が攻撃され、日本が「存立危機事態」を認定するというシナリオで、7月29日から6日間にわたって行われた。海上自衛隊は、事実上の空母化を進める「いずも」など護衛艦2隻を派遣した。
政府は訓練の詳細を明らかにしていない。複数の防衛省・自衛隊関係者によると、攻撃目標の探知や、ミサイル発射に際して日米両国で情報共有する手順などについて確認したという。
日本が直接、攻撃を受けていない相手に反撃する集団的自衛権は、憲法9条のもとで許される「必要最小限度の武力行使」の範囲を逸脱し、違憲だとの批判も多い。だが、防衛省関係者は「安保法で付与された任務を遂行するため、訓練するのは当然だ」と強調する。浜田靖一防衛相は、今後も同様の訓練を重ねていく考えを示している。
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「集団的自衛権」が実行可能段階に 安保法成立7年 米軍と初の実動訓練、識者は「権力の暴走」を懸念 2022年9月19日
【動画】小西ひろゆき メンバーシップライブ 02 2024年9月17日
<公務員の職務について>
憲法
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〔公務員の選定罷免権、公務員の本質、普通選挙の保障及び投票秘密の保障〕
第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
〔憲法尊重擁護の義務〕
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
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○政府委員(工藤敦夫君)
(略)
もちろん我が国が何らかの行動をいたします場合に憲法に従わなければならない、これは当然のことと存じます。
(略)
それから、第三点の憲法九十九条の話でございますが、憲法九十九条は、若干前は省略いたしますが、「公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と、こういうことで規定してございます。これは当然のことながら、日本国憲法が最高法規である、こういうことにかんがみまして、公務員は憲法の規定を遵守するとともにその完全な実施に努力しなければならない、かような趣旨であろうと存じます。
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第123回国会 参議院 国際平和協力等に関する特別委員会 第11号 平成4年5月22日
国家公務員倫理法
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(職員が遵守すべき職務に係る倫理原則)
第三条 職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならない。
2 職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならない。
3 職員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならない。
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国家公務員倫理規程
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(倫理行動規準)
第一条 職員(国家公務員倫理法(以下「法」という。)第二条第一項に規定する職員をいう。以下同じ。)は、国家公務員としての誇りを持ち、かつ、その使命を自覚し、第一号から第三号までに掲げる法第三条の倫理原則とともに第四号及び第五号に掲げる事項をその職務に係る倫理の保持を図るために遵守すべき規準として、行動しなければならない。
一 職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について国民の一部に対してのみ有利な取扱いをする等国民に対し不当な差別的取扱いをしてはならず、常に公正な職務の執行に当たらなければならないこと。
二 職員は、常に公私の別を明らかにし、いやしくもその職務や地位を自らや自らの属する組織のための私的利益のために用いてはならないこと。
三 職員は、法律により与えられた権限の行使に当たっては、当該権限の行使の対象となる者からの贈与等を受けること等の国民の疑惑や不信を招くような行為をしてはならないこと。
四 職員は、職務の遂行に当たっては、公共の利益の増進を目指し、全力を挙げてこれに取り組まなければならないこと。
五 職員は、勤務時間外においても、自らの行動が公務の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければならないこと。
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職員の服務の宣誓に関する政令
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宣誓書
私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行に当たることをかたく誓います。
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自衛隊法施行規則(39条『服務の宣誓』)
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宣 誓
私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。
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【参考】自衛隊員の服務の宣誓 PDF
<理解の補強>
立法行為の国家賠償請求訴訟対象性・再論 : 権限規範と行為規範の区別をふまえて 信州大学リポジトリ
〇 命令服従義務不存在確認請求事件
安保法の防衛出動、拒めるか 東京高裁、門前払いの一審取り消し 2018年2月1日
陸上自衛官が提起した「命令服従義務不存在確認請求控訴事件」についての東京高等裁判所(第12民事部)の判決要旨を読む 2018年2月1日
自衛官違憲訴訟―これから改正自衛隊法の本格的な違憲論議が始まることになる。 2018年2月2日
自衛隊法76条1項2号 2018/2/1
陸上自衛官が提起した「命令服従義務不存在確認請求控訴事件」についての東京高等裁判所(第12民事部)の判決要旨を読む 2018-02-01
戦争法批判の現職自衛官訴訟で高裁、門前払いの一審取り消し差し戻し 2018年2月1日
自衛官の安保法違憲訴訟 東京高裁が審理やり直しを命じる 2018年2月2日
自衛官違憲訴訟―これから改正自衛隊法の本格的な違憲論議が始まることになる。 2018年2月3日
自衛官の安保出動拒否、審理差し戻し、「司法の黙認が許されないことを示した」猪野弁護士が指摘 2018年02月04日
素晴らしい! 安保法制訴訟における杉原・東京高裁判決 2018-02-04
古賀茂明「集団的自衛権違憲判決を阻止するための改憲を報じないメディア」 2018.2.5
安保法は「違憲」か「合憲」か!? 初めて司法で争えるチャンス!国が避けてきた議論を司法の場に引きずり出した東京高裁が、現役自衛官の訴えを門前払いした東京地裁に審理の差し戻しを命じる! 2018.2.9
玉木氏、安保法訴訟対応を非難 2018年2月20日
つれづれ語り(「安保法裁判」で明らかになったこと) 2018年2月21日
自衛官の「予防訴訟」を認めた東京高裁(3日の日記) (8) 2018年03月03日
現職自衛官の「安保関連法」違憲訴訟で新展開 国が最高裁へ上告 2018年3月9日
集団的自衛権に対する現役自衛官の2016年3月提訴のこと 2019-02-04
「自衛官の訴え適法」変更か 防衛出動命令巡る安保法違憲訴訟 2019年4月11日
出動命令に従う自衛官の義務 最高裁、判決見直す可能性 2019年4月11日
「適法」を見直しか 集団的自衛権、出動命令訴訟 最高裁 2019年4月12日
安保法違憲訴訟 「訴え適法」見直しか 最高裁で弁論 2019年6月28日
防衛出動命令訴訟で弁論 2019年6月28日
訴えは適法として、「訴えを不適法として却下した原判決」を取り消した事例
東京高等裁判所第12民事部 PDF
自衛官による「平和安全法制整備法」違憲訴訟 新・判例解説 Watch 龍谷大学 奥野恒久 2018年5月25日 PDF
被告の国は「存立危機事態が生じることや防衛出動命令が発令されることがおよそ想定できない」と主張しているようであるが、自衛隊の統合幕僚幹部は想定しているようである。
朝鮮半島有事の対応検討 2019年6月28日
「その際想定したのは、『戦闘地域』でも自衛隊が米軍への兵站ができる『重要影響事態』や、集団的自衛権を行使する『存立危機事態』だとされます。」
ホルムズへ自衛隊派遣、要件満たさず 岩屋氏「ニーズない」 2019.6.14
安倍政権が参院選後にまた手のひら返し! ひた隠しにしてきた“ホルムズ海峡への自衛隊派兵”を事実上決定 2019.07.23
閣僚も想定している。
“台湾有事「存立危機事態」にあたる可能性”麻生副総理 2021年7月6日
台湾情勢で麻生氏「次はとなれば存立危機事態に関係も」 2021年7月5日
台湾有事の集団的自衛権行使に言及 麻生副総理 2021年7月5日
台湾有事で集団的自衛権行使も 麻生氏が見解 2021/7/5
台湾有事で集団的自衛権行使も 麻生氏が見解 2021.7.6
台湾有事で集団的自衛権行使も=麻生氏 2021.07.05
中国が台湾侵攻なら麻生氏「日米で一緒に防衛」…限定的な集団的自衛権に言及 2021/07/05
台湾有事で集団的自衛権行使も 麻生氏 2021年07月05日
麻生氏、台湾有事で自衛権行使も 「日米で防衛しなければ」 2021/7/5
麻生氏、台湾有事で自衛権行使も 「日米で防衛しなければ」 2021年7月5日
台湾有事なら「日米で防衛」、麻生財務相が集団的自衛権に言及-報道 2021年7月6日
安保法制の「本質」 飯島滋明 2022-03-31 名古屋学院大学リポジトリ
台湾有事は「存立危機事態」=自民・麻生氏、米で抑止訴え 2024-01-11
自衛官の”安保法違憲”訴訟 高裁で審理やり直し命じる
最高裁 2019年7月22日
自衛官の提訴、差し戻し=「安保法制」出動拒否-最高裁 2019年07月22日
現役自衛官の安保関連法違憲訴訟 「訴え適法」の2審判決破棄 最高裁 2019.7.22
自衛官の出動命令訴訟、高裁に審理差し戻し 最高裁判決 2019年7月22日
安保関連法訴訟、審理差し戻し 「適法性の検討不十分」 2019/7/22
安保法訴訟、審理差し戻し 「適法性の検討不十分」 2019/7/22
安保法違憲訴訟 最高裁、差し戻し 「出動命令、可能性審理を」 2019年7月23日
【判決】命令服従義務不存在確認請求事件 最高裁判所第一小法廷 令和元年7月22日
「平和安全法制整備法」による命令服従義務不存在確認訴訟上告審における意見書 ─ 本件訴えの緊急性ないし蓋然性の要件充足性 ─ 石崎誠也 PDF
「今後のあり得る展開」 木村草太 Twitter 2019年7月24日
司法の門を狭めた、現役自衛官の戦争法違憲訴訟最高裁判決 2019年7月26日
安保関連法 現職自衛官の訴え退ける
東京高裁 2020年2月13日
安保法めぐり、自衛官が敗訴 2020年2月14日
安保出動拒否、自衛官控訴を棄却 差し戻し審で判決―東京高裁 2020年02月13日
安保法の差し戻し審、自衛官の訴え却下 東京高裁 2020/2/14
「『存立事態は起こらない』と言う断言。」 Twitter
安保違憲訴訟 現職自衛官の敗訴が確定 最高裁 2020年12月11日
「安保関連法は違憲」訴訟、門前払い確定 自衛官敗訴 最高裁 2020年12月11日
安保関連法違憲「訴えは不適法」 最高裁小法廷 2020年12月12日
安保法巡り自衛官敗訴確定 2020年12月12日
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 XXIV ~「今こそ「統治行為論」を消去せよ!」豊 秀一(朝日新聞編集委員) 2023/09/30
〇 その他の訴訟
「安保法は違憲」裁判負けても再審請求…空襲の記憶がある男性が司法に問い続けた理由とは 2022年10月7日
資料
9条 論点マップ
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倉持麟太郎(弁護士):1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分の解釈自体に無理があり、本来採用できないとする考えのようである。しかし、民法の解釈などあらゆる法解釈において、条文に明確に示されていない問題については裁判所が関連する条文の趣旨を読み解いてそこに法の規範を導き出すことは当然に行われている。このような解釈を許容できないとするならば、法律家にリーガルマインドが必要ない状態となると考えられる。条文の趣旨から一定の規範を導き出すことは可能であり、「基本的な論理」と称している部分の解釈には合理的理由があると思われる。
倉持説は、憲法の規範力を高めるための改憲を提案している。「基本的な論理」と称している部分の解釈方法では不足との考え方のようである。
山尾志桜里の政策顧問「倉持麟太郎弁護士」安倍改憲案を批判(1) 2018.01.31
山尾志桜里の政策顧問「倉持麟太郎弁護士」安倍改憲案を批判(1) 2018年01月31日
安保法案の欠陥を衝く 倉持麟太郎弁護士
追記:倉持説について、法への信頼を保つ方法については、確かに考え続けなければならない。
憲法改正論に目を背ける人に伝えたい超基本 変える必要はあるのか、それともないのか 2018年04月18日
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木村草太(憲法学):木村説と書いたが、多くの法律家はこのラインにいると思われる。また、政府解釈の1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分についても、このラインの法解釈である。
安倍政権の解釈改憲の動きは行使容認の立場から見ても危険だ―『Journalism』5月号から― 2014年05月12日
安保法制懇の無責任な報告書は訴訟リスクの塊である (中)――欠ける法的教養 2014年05月22日
【憲法学で読み解く民主主義と立憲主義(1)】――「多矛盾系」としての集団的自衛権 2014年10月23日
【憲法学で読み解く民主主義と立憲主義(2)】――憲法73条から集団的自衛権を考える 2014年10月27日
延長戦に入った集団的自衛権議論 2014年10月27日
【木村草太氏インタビュー】安保法制論議「国民が冷静に監視を」 認められぬ拡大解釈 2015年3月26日
「安保法制関連法案」を徹底検証! 小原凡司×木村草太×荻上チキ 2015.06.12
あらためて「存立危機事態」の解釈を問う~木村草太説と公明党(北側一雄氏)の認識 2015年6月13日
なぜ憲法学者は「集団的自衛権」違憲説で一致するか? 木村草太・憲法学者 2015.06.17
「法の支配に対する挑戦が行われている」――気鋭の若手憲法学者が安保法制を進める政府・与党の「無法者」ぶりに警鐘を鳴らす!~岩上安身による首都大学東京准教授・木村草太氏インタビュー 2015.6.16
【動画】木村草太【反対】戦争法案7/13公聴会 2015/07/12
木村草太氏に聞く 安保法案はなぜ批判されるのか(上) 2015.7.27
木村草太氏に聞く 安保法案はなぜ批判されるのか(下) 2015.7.27
【軽き日本国憲法】(02)集団的自衛権は憲法第73条でも違憲…政策論と憲法論の峻別が必要 2015年7月28日
木村草太氏、安保法制の違憲性を詳説!「政府は軍事権を付与されていない」~集団的自衛権「合憲派」を論破するポイントを伝授 2015.8.15
軍事権を日本国政府に付与するか否かは、国民が憲法を通じて決める 木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』から 2015.08.26
(「憲法無視の政策論は国民無視の政策論」 木村草太・首都大学東京准教授)
木村草太氏がSEALDsサロンに登場!明快に「安保法案=違憲」を説く ~「憲法に書いていないから実行可能、という理屈はぶっ飛んでいる」 2015.9.12
気鋭の憲法学者が問う!憲法を燃やす者たちは、いずれ国をも燃やすだろう 【まえがき公開】木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』 2015.9.14
集団的自衛権はなぜ違憲なのか80年代生まれの憲法学者が徹底批判「現行憲法ではコントロールできない危険な状態」 2015年10月06日
気鋭の憲法学者・木村草太が説く「安保法制にこれから歯止めをかける方法」 2016.1.14
木村草太氏「憲法は、国家権力の失敗を繰り返さないためにある」【講演全文】 2016年4月10日
いまさら聞けない「憲法9条と自衛隊」~本当に「憲法改正」は必要なのか? 2016.7.2
木村草太氏の「テレビが伝えない憲法の話」その1 by 大西誠司 2016年12月01日
木村草太氏の「テレビが伝えない憲法の話」その2 by 大西誠司 2016年12月01日
もし「自衛権」を国民投票にかけたらどうなるか? 集団的自衛権のカギは憲法9条ではなく13条 2017.7.19
もし「自衛権」を国民投票にかけたらどうなるか? 2017.7.19
9条改憲の真の争点 ―インタビュー 首都大学東京教授 木村草太氏― 2018年4月5日
学者・木村草太さんと考えた 日本国憲法 2018年4月29日
首都大学東京教授 木村草太 PDF 2018年5月3日
『自衛隊と憲法9条』 木村草太教授講演会 2020年2月16日
【動画】【木村草太】憲法の正しい知識と「集団的自衛権」の正しい理解! 2014/11/11
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小西洋之(参議院議員):1972年(昭和47年)政府見解の「基本的な論理」と称している部分の解釈を前提として、その「あくまで外国の武力攻撃によつて」との記載されている部分は、「我が国に対する武力攻撃」の意味に限られており、ここに「存立危機事態」の要件の「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」の意味が含まれているはずがないという説である。2014年7月1日閣議決定での解釈変更の不正は、究極的にはここに尽きる問題であり、法解釈として無理があることが明らかであるから、「存立危機事態」の要件は「基本的な論理」と称している部分に当てはまらず、結果として9条に抵触して違憲となるという考え方である。小西説と書いたが、多くの憲法学者や法律家がこの1972年(昭和47年)政府見解の論理との整合性を指摘している。
(下記アドレスのいくつかは『http』版と『https』版の両方ある場合がある。下記では『http』版のアドレスしか記載していない場合もある。)
『私たちの平和憲法と解釈改憲のからくり』 なぜ、安保法制は憲法違反なのか
(『私たちの平和憲法と解釈改憲のからくり』 なぜ、安保法制は憲法違反なのか)
「集団的自衛権の行使」が憲法の解釈変更では不可能である理由 2013/8/8
集団的自衛権行使を容認する閣議決定の違憲・違法性について ―閣議決定は無効であり憲法9条の法規範性は不変である― 2014年6月27日 PDF
(集団的自衛権行使を容認する閣議決定の違憲・違法性について ―閣議決定は無効であり憲法9条の法規範性は不変である― 2014年6月27日 PDF)
【動画】【スクープ!】追加有_「集団的自衛権行使容認の閣議決定」が覆る決定的根拠! 「昭和47年政府見解」の知られざる真実を小西洋之議員が暴露!! 2015/05/21
(解釈変更の合憲の論拠が科学ではないことの証明 PDF)
集団的自衛権行使の解釈変更(7.1 閣議決定)の合憲の根拠が何らかの法論理に基づくものではない非科学の不正行為によるものであること及びそれが故に当該解釈変更を前提とする自衛隊明記の改憲が違憲無効となること等の法理論的分析 小西洋之 2018/05/12 PDF
(集団的自衛権行使の解釈変更(7.1 閣議決定)の合憲の根拠が何らかの法論理に基づくものではない非科学の不正行為によるものであること及びそれが故に当該解釈変更を前提とする自衛隊明記の改憲が違憲無効となること等の法理論的分析 小西洋之 2018/05/12 PDF)
自衛隊明記の改憲は違憲無効であることの証明 集団的自衛権解釈変更という虚偽から紐解く憲法九六条等違反 PDF
(自衛隊明記の改憲は違憲無効であることの証明 集団的自衛権解釈変更という虚偽から紐解く憲法九六条等違反 PDF)
安倍改憲が憲法96条で違憲無効となる証明 ~解釈変更の虚偽による「騙され改憲」~ PDF
(安倍改憲が憲法96条で違憲無効となる証明 ~解釈変更の虚偽による「騙され改憲」~ PDF)
私たちの平和憲法と解釈改憲のからくり 小西洋之 2015/8/18 amazon
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リンク
安保法制の憲法適合性について、法的分析の論拠となりそうなリンクを集める。
憲法学者に聞いた~安保法制に関するアンケート調査の最終結果 報道ステーション
(憲法学者に聞いた~安保法制に関するアンケート調査の最終結果 報道ステーション)
集団的自衛の重要性を周知して改憲すれば良いと思う 2015-07-16
安保法案学者アンケート 朝日新聞 2015年6月30日
浦部法穂
第9回 「集団的自衛権」は「自衛」ではない! 2015年6月1日
第10回 「集団的自衛権」容認で「自衛隊合憲」の論理は吹っ飛んだ 2015年7月6日
第18回 「安倍9条改憲」は「自衛隊合憲」の弁明放棄 2017年11月20日
水島朝穂
「7.1事件」――閣議決定で「憲法介錯」 2014年7月7日
外国領土での抗命の処罰規定を新設――徹底分析!「平和安全法制整備法案」(その1) 2015年6月1日
緊急直言 集団的自衛権行使の条文化――徹底分析!「平和安全法制整備法案」(その2) 2015年6月2日
集団的自衛権は「自然権」ではない――「合憲」学者の謬説 2015年7月13日
「自国が攻められたとき」という自衛権のハードルを下げ、戦争に突入した日本 水島朝穂・早大教授が岩上安身のインタビューで政府案・維新案を「違憲」と徹底批判! 2015.7.12
【動画】【大阪弁護士会】「日本はどこに向かうのか? Part4」 前編 水島朝穂氏 2015.8.8
大石眞 山元一 藤田宙靖
安保法制をめぐる立憲主義や違憲の論議を考える(その1) 2016年05月22日
長谷部恭男
“国民の生死”をこの政権に委ねるのか? 集団的自衛権―憲法解釈変更の問題点 2014年6月23日
集団的自衛権丸ごと違憲 長谷部・早大教授にインタビュー 2015年6月10日
<特別編>憲法 踏み外していないか 憲法学者・長谷部恭男氏 2015年9月18日
[2]大日本帝国憲法にさかのぼってみる 2015年11月17日
[3]日本の憲法原理にとって最悪の敵は安倍政権 2015年11月19日
Ⅰ 安保法制の違憲性 安保法案はなぜ違憲か 長谷部恭男 PDF
長谷部恭男教授に聞く 安保法案は、なぜ違憲なのか ――「切れ目」も「限界」もない武力行使
【動画】安保法制違憲訴訟全国の状況 ~各地からの報告 XXI 2023/07/03
小林節・長谷部恭男
<安保法制>長谷部氏、政府見解を批判 「合憲と説得できず」 2015年6月10日
安保法制に「違憲訴訟を準備」 小林節氏・長谷部恭男氏が安倍政権を批判(会見詳報) 2015年06月15日
【動画】小林節 慶応大学名誉教授、長谷部恭男 早稲田大学法学学術院教授 「憲法と安保法制」① 2015.6.15
長谷部恭男・木村草太・荻上チキ
安保法案は違憲!?――渦中の憲法学者・長谷部恭男教授に訊く 長谷部恭男×木村草太×荻上チキ 2015.06.22
礒崎陽輔 柳澤協二 長谷部恭男 小村田義之
切れ目ない安保法制の整備めざす政権(上) 2015年06月10日
青井未帆
国のあり方を変える「集団的自衛権」とは?(1) 憲法を「解釈」できるのは誰か? 青井未帆 2014/05/23
【動画】「裁判所の果たす役割」 青井未帆 2017/03/10 (憲法訴訟について)
憲法判断をめぐる司法権の役割について :
安保法制違憲国賠訴訟を題材に 青井未帆 学習院大学リポジトリ
宮崎礼壹
【動画】宮崎礼壹・元内閣法制局長官の参考人意見陳述【全】 2015/06/21
【動画】UPLAN 安保法制違憲訴訟 東京差止め控訴審 第4回口頭弁論&報告集会 2022/05/20
第189回国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第17号 平成27年9月8日
集団的自衛権の行使はなぜ許されないのか 阪田雅裕 2007年9月 PDF
内閣法制局と憲法 阪田雅裕 2014年2月15日
【集団的自衛権】 元内閣法制局長官 「解釈改憲なら国民の出番なし」 阪田雅裕 2014年02月20日
阪田雅裕さんに聞いた(その1) 民主主義と立憲主義を破壊する集団的自衛権容認のプロセス 阪田雅裕 2014年2月26日
憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認の暴挙を防ぐ 阪田雅裕 2014年5月16日
憲法解釈の変更による行使容認に反対 行使が不可欠なら憲法改正こそが王道 ――元内閣法制局長・弁護士 阪田雅裕 2014.5.20
安倍政権の憲法政策と平和 河上暁弘 2014年6月20日 PDF
[6]「急迫、不正の事態」でなくとも、自衛権を行使できるのか 2014年06月25日
「集団的自衛権」解釈改憲の現実的な訴訟リスク 2014年06月28日
首相官邸HP・防衛省HPと集団的自衛権
2014年07月06日
安倍内閣の集団的自衛権「閣議決定」をどう見ていますか?弁護士36人に意見を聞いた 2014年07月07日
集団的自衛権についての権力者の"嘘" ~ その13 2014年7月15日
集団的自衛権についての権力者の"嘘" ~ その14 2014年7月17日
集団的自衛権についての権力者の"嘘" 2014年7月アーカイブ
私と憲法159号(2014年7月25日号)
【コラム】集団的自衛権と公明党を問う(2) 反対派は賢明な戦略に立て 2014年7月28日
解釈になっていない閣議決定は0点答案 ──集団的自衛権問題と憲法9条のいま 2014年8月4日
憲法学者160人「集団的自衛権」閣議決定に抗議 「撤回」求める声明を発表(全文) 2014年08月05日
(集団的自衛権行使容認の閣議決定に抗議し、その撤回を求める憲法研究者の声明 PDF)
憲法第73条 2014年08月13日
集団的自衛権の行使容認等に係る閣議決定に対する意見書 日本弁護士連合会 PDF 2014年9月18日
集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める 2014年9月29日 PDF
9月29日・国民安保法制懇・報告書「集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求める」 2014年9月30日
集団的自衛権の容認決定、内閣法制局元長官はどうみる 聞き手=園田耕司 2014年11月7日
集団的自衛権容認の閣議決定の問題 山内敏弘 2015-01-30 PDF
(集団的自衛権容認の閣議決定の問題点 山内敏弘 (「本文・要約」をクリック))
【動画】龍谷大学石埼学教授 日本国憲法講義 ―平和主義と安保法制 2015.5.28
安全保障法制の方向性を読み解く 2015年6月8日
集団的自衛権:政府「行使は限定的」…違憲指摘に反論 2015年06月09日 PDF
集団的自衛権と存立危機事態に関する質問主意書 平成27年6月11日
各社新聞記事 2015年6月12日 PDF
安全保障関連法案の違憲性に関する政府・自民党の恣意的見解を批判し、あらためて同法案の撤回・廃案を求める会長声明 東京弁護士会 2015年06月12日
【動画】20150619 報道するラジオ「憲法と集団的自衛権」 関西大学 高作正博 2015/06/20
【動画】集団的自衛権合憲論の妥当性を問う 2015/06/20
集団的自衛権って本当に合憲?~昭和47年政府見解は根拠になるか 2015年06月23日
集団的自衛権は「違憲」か、それとも「合憲」か・・・弁護士5人に聞いてみました 2015年6月28日
安保関連法案に対する法律専門家の違憲論を尊重し、 法案の撤回を求める立命館大学法学部・法務研究科教員有志の意見 2015年7月1日 PDF
日本が攻撃されてもいないのに、武力行使目的で自衛隊を海外派兵できる法案を「戦争法案」と呼んで何の問題があるのかわからない 2015/7/8
質問主意書 (51) 2015年
憲法違反である「平和安全法制整備法案」及び「国際平和支援法案」 の国会提出に抗議し、その廃案を求める決議 東北弁護士会連合会 2015年7月3日
憲法違反の安保法案の廃案を求める 国民安保法制懇 平成27年7月13日 PDF
安保法制についての憲法学者のコメントまとめ 2015年07月15日
「存立危機事態」と「重要影響事態」に関する致命的な論理矛盾 2015/7/23
集団的自衛権行使の新3要件に国際慣習法上の要件「攻撃を受けた国からの援助要請」がちっとも追加されない理由~本当に行使したいのは「集団的自衛権」ではなく「先制的自衛権」? 2015/07/27
安全保障関連法案の撤回を求める信州大学人の会第一回シンポジウム 新安保法制の違憲性と日本国憲法の規範性 PDF 2015/07/30
何故、個別的自衛権は合憲で、集団的自衛権は違憲なのか? 2015/8/6
幸福追求権、生命権、平和的生存権と安全保障 ――人権論の誤用に歯止めを 志田陽子 2015.08.18
戦争法Q&A -安全保障法制は、この国をどこに導くのか- 2015年8月31日 PDF
「集団的自衛権行使は違憲」 山口繁・元最高裁長官 2015年9月3日 PDF
(「集団的自衛権行使は違憲」山口繁・元最高裁長官 2015年9月3日)
参議院 平和安全法制特別委員会 伊藤真 参考人意見陳述全文 2015.9.8
【緊急アップ!意見陳述全文掲載】「今は亡き内閣法制局」・・・ 元最高裁判事・濱田邦夫氏が痛烈皮肉!
中央公聴会で安保法制の違憲性を指摘 2015.9.15
最高裁は安保法制のオトシマエをつけるか?(つけるのはあなただ) 2015/9/21
「安全保障関連法案」の憲法上の各問題点 憲法問題対策センター委員長代行 伊井和彦 2015/10 PDF (P20~23)
安保法制の廃止、修正のために~「集団的自衛権は何故、違憲なのか」木村草太が語る 2015年10月29日
「安全保障」法制に対する違憲訴訟 ――その能否と可否―― 小林武 2015年11月29日 愛知大学リポジトリ
新安保法制と国際法上の集団的自衛権 2016年1月 PDF
安保法制を機に憲法について考える 2016年01月01日
安保関連法の違憲性と問題性 PDF
(安保関連法の違憲性と問題性 2016.04.27)
憲法成立の原点と安保法制「成立」という現点から考える平和 河上暁弘 2016年7月 PDF
国際法上の集団的自衛権 2016年8月27日
駆けつけ警護がもたらす安保法制の破綻 2016年11月18日
「平和安全法制」(安保法制あるいは「戦争法」)の是非を考察するための総論的枠組み -詐欺的手法で立憲主義を破壊し日本の安全は確保できるのか- 饗場和彦 徳島大学リポジトリ 2016/12/28
安保法制違憲訴訟 大分では2017年1月10日提訴 2017年1月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(21)~東京・差止請求訴訟(第5回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述 2017年11月5日
安保法制違憲訴訟の会 差止請求訴訟
安保法制違憲訴訟の会 国家賠償請求訴訟 (このページの他にも、ページ左側のリンクを辿り『訴状』を探すと論点を確認できる)
集団的自衛権をめぐる新たな対立 根強く存在する違憲論 2018年1月26日
【論説】自衛隊加憲論と政府解釈 浦田一郎 2018.3 PDF
違憲審査制と裁判所の役割 2018年5月22日
【続】危機管理と安全神話 2018-08-31
自衛隊に先制攻撃は認められないと政府が現行憲法を解釈する理由 2019.01.31
集団的自衛権が日本国憲法で違憲と解釈されている理由 2019.02.16
第10回口頭弁論(差止) 報告集会 2019年3月18日月 PDF
安保法制違憲訴訟 国家賠償請求 第 11
回口頭弁論 報告集会 2019年7月25日 PDF
安保法制違憲・差止請求事件 第12回口頭弁論(差止) 報告集会 2019年10月30日 PDF
週のはじめに考える 「知らん顔」の果てに 2021年5月9日
【動画】憲法と国連憲章|憲法ってなに?連続講座|岡山弁護士会 2023/03/07
憲法に違反する敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有に反対する決議 2023年7月11日
「反撃能力」の保有に反対する会長声明 山口県弁護士会 2023/08/08
【動画】安保法制違憲訴訟ふくしま平和訴訟 長谷部恭男氏証人尋問資料➀ 2023/11/19
付随的違憲審査制における憲法判断 ―安保法制違憲訴訟でそれがなされることの不可欠性― 小林武 2023-12-22
「敵基地攻撃能力」または「反撃能力」の保有に反対する会長声明 2024年1月24日
【動画】市民集会「とりもどそう 立憲主義と平和憲法」(修正版) 2024/07/10
立憲民主党の枝野幸男前代表の回答(全文) 2024年9月20日
安保法制案、多様な法案の一括審議を強く批判する 事後的な検証手続きを導入せよ 2015年06月10日
安保法は立憲主義に反し憲法違反です 日本弁護士連合会
「集団的自衛権」を考える書籍や映画
集団的自衛権をめぐる動向 ―政府の憲法解釈とその見直しに向けた課題を中心に― 国立国会図書館 PDF
平和安全法制関連法案の国会審議 ― 4か月にわたった安保法制論議を振り返る ― 参議院 外交防衛委員会調査室 PDF
「存立危機事態」について、P11~14が詳しい。
(2)集団的自衛権の限定行使容認の憲法適合性
(3)集団的自衛権の限定行使と存立危機事態への対処
集団的自衛権の行使容認をめぐる国会論議 ― 憲法解釈の変更と事態対処法制の改正 ― 参議院 外交防衛委員会調査室 PDF
集団的自衛権行使を合憲とする憲法学者はだれ? 2015年6月10日
法律(条文)
e-Govより
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防衛省設置法
自衛隊法
重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律
武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律
国家安全保障会議設置法
国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
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安全保障関連法 条文(要旨) 2015年9月20日
防衛省・自衛隊:所管法令等
「戦争法制」の内容分析 国際基督教大学リポジトリ 2015
「安保法」廃止のために 深草徹 PDF
安全保障法制整備に関する与党協議会資料 情報公開クリアリングハウス 2015年5月30日
〇 廃止・改正の議論
我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律を廃止する法律案 平成28年2月19日
安保法制を実質上廃止へ 平和安全法制整備法・国際平和支援法廃止案を野党共同で提出 2019年04月22日
「領域警備法案」「周辺事態法改正案」「PKO法改正案」の安保法制3法案を提出 2019年04月23日
平和安全法制整備法廃止法案等を国会提出 2019年4月24日
<理解の補強>
Category:防衛法 Wikipedia
武力の行使の「新三要件」 Wikipedia
平和安全法制 Wikipedia
自衛隊の行動 Wikipedia
自衛権 Wikipedia
集団的自衛権 Wikipedia
限定的な集団的自衛権の行使のための法整備 - 事態対処法制の改正 - 外交防衛委員会調査室 PDF
(限定的な集団的自衛権の行使のための法整備 - 事態対処法制の改正 -)
<マップ型>
憲法9条問題 9条の憲法解釈の変更 限定的集団的自衛権の行使は9条に反して違憲か? PDF
2014年7月1日閣議決定や安保法制の「存立危機事態」での「武力の行使」に関して、かなりの論点を取り上げることができたのではないかと思います。
長文、お付き合いいただきまして、大変ありがとうございました。